ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
とある日の昼。今日の猫宮は5121で機体の調整をしていた。整備員に混じり、あれやこれやと手伝う。そして、大抵熱中するのだが、やり過ぎかな?と思ったタイミングで石津がちょくちょく覗きに来たりしていた。
「……と、ここのパラメータ設定は……」
「……」 じ~
「ん~、部品の在庫はまだ大丈夫と……」
「…………」 じ~
「各機能チェック……オールグリーン、故障は無し、と」
「………………」 じ~
「あ、あの、石津さん……?」
「働き過ぎは……ダメ……」
「……はい……」
そんな様子を、クスクス見る整備員たち。ぶっ倒れて以来、5121の仲間達はなんのかんのと猫宮の体調を心配していたりする。
「うん、ありがとうね石津さん。何時追いだそうか悩んでいたところなのよ」
笑顔で石津に話しかける原。それに、石津がこくんと頷いた。
「あははははは……」
それに苦笑するしか無い猫宮。伸びをして、深呼吸。思考をリフレッシュる。
「あの、ごめんください」
と、整備テントの入口で声が響いた。なんだなんだとテントの中の視線が声の方へ向く。
「あれ、西住さん?」
見ると、みほが興味深げにテントの中を見ていた。大きいなあ……と4機の士魂号を見上げたりしていたが、猫宮が近づくと寄ってきた。
「どうもこんにちは」
ぺこりとお辞儀するみほ。整備員も、ガヤガヤと集まってくる。
「どうしたの? 黒森峰で何かあった?」
首を傾げる猫宮。それに、いいえと首を振るみほ。周りの視線があるからか言いにくそうに逡巡したが、やがて勇気を出して話しだす。
「あ、あの、猫宮さん、うちに来て頂けませんか!」
『お~!』
一斉に声を上げる野次馬たち。それに、みほは顔を赤くしてわたわたと叫ぶ。
「あ、あの、これはその、違うんです! お、お母さんに少し会って欲しくて……」
『おおお~~~!』
更に盛り上がる野次馬たち。
「あ、あああ、え、えっと、そういう意味じゃなくて、あの、えっと!」
更に顔を赤くして、手を降ってわたわたとするみほ。猫宮は額に手をやりどうして抑えようかと悩んでいるが……
「まあなんてことでしょう奥様」
「ええ、大変ですわね奥様」
「なんてことでしょう、奥様」
いつの間にか現れた善行と若宮が原と奥様戦隊を結成していた。
「……3人共……!?」
くすくす笑う3人、そして周りの整備員たち。
「か~、うらやましかばい」 「おやおやおや……」 「う、うらやましいです……」 「仲イイノ、素敵デス」 だの何だのと、賑やかである。
真っ赤なみほ。
「よし、みほさん戦術的撤退!」
「え、え、えっ!?」
そう言うと、猫宮はみほの手を引っ張って走っていった。それを囃し立てる野次馬たち。
「――で、行かせちゃっていいわけ?」
と、二人が遠くへ行ったところで原が笑いつつ善行に聞く。
「何やら会津と薩摩が動いているようですが……彼ならば大丈夫でしょう」
そう、眼鏡を押し上げながら言う善行。そこには、深い信頼がある。
「まあ、そっちは大丈夫だとは思うんだけどね。気に入られちゃったりしない?」
「…………まあそこは、彼を信じましょう……」
顔を背ける善行。それを、原は呆れて見るのだった。
さて、みほの手を引いて尚敬校から逃げるように駆ける猫宮。
「あれ、猫宮と……西住さん!?」 「ふむ、デェトか、デェトに行くのか?」 「そ、そんな、不潔ですっ!」 「あはは、違うと思うよ、二人共」
……なぜだかパイロット組にも発見されてしまった。校門を出たところで、足を緩める。
「大丈夫、西住さん? ごめんね、皆こういう話題大好きだから」
苦笑する猫宮。
「は……はい、大丈夫です! それに……黒森峰のみなさんも、こんな話題が大好きですから」
それに答えるみほ。
「うん、良かった……。さて、多分ただ会うだけじゃないよね?」
微笑を消して真面目モードな猫宮。それに、みほは頷く。
「はい……あ、あの……家に、何だか軍の偉い人が何人か来ていて……」
ふむふむ、と頷く猫宮。
「なるほど……。西住中将が動かないから……もしくは、自分の人となりを知らないから安心できない――と。そんな所かな」
きまり悪そうに、俯くみほ。それに猫宮が苦笑する。
「これは西住さんのせいじゃないから大丈夫だよ」
「は、はい……」
話題を変えようと何か悩む猫宮。で、結局のところ――
「あ、そういえばこの間の戦区での動きなんだけどあの時……」
「はい、それは……」
こんな風に、色気のない話題になってしまうのだ。これはこれで二人共ひょっとしたら楽しんでいるのかもしれないが。
新市街を、のんびりと通って行く二人。
「おっ、猫宮さんこんにちは」 「猫宮君、頑張ってね」 「猫宮千翼長、休みはきちんととってくださいよ?」 「おや、猫宮中尉。ご苦労様です」「にゃ~」
歩いていると、知り合いの学兵たちや、炊き出しのおばさん、更には憲兵に至るまで挨拶される。それに、笑顔で応える猫宮。
「お知り合いの人、沢山いるんですね」
「あはは、色々とあってね。いつの間にか知り合いが増えちゃって」
みほは何やら感心しているようだ。と、そこへまた学兵から声が掛かる。
「あ、猫宮さん、隣の通りのクレープ屋、割引してるみたいですよ!」
「お、情報ありがと!」
「クレープ……割引……」
乙女の性か、思わずゴクリと喉を鳴らすみほ。
「ちょっと、寄り道しよっか?」
「あ、は、はい!」
その様子を見て、自分から行こうと言い出す猫宮。それに、みほも飛びついた。1本通りを変えると、クレープ屋とそこに並んでいる学兵たちが見えた。その最後尾に二人は並ぶ。
他の学兵たちも和気藹々と、この時を全力で楽しんでいるようだった。しかし、それにしても……
「……あれ?」
前を見る、後ろを見る。やたらと男女のペアが多い。
「え、え、えっと、これって……」
みほも、気がついたようだ。顔が赤くなる。
「はい、いらっしゃいませ! 本日はカップル割引の実施中です! お二人でいいですね?」
「「は、はい」」
否定することも出来ずに、思わず声が合ってしまう二人。それにみほは更に赤くなりつつ、アイスクレープチョコソースマシマシを頼む。猫宮は、デラックスサイズのミッススクリームバナナクレープである。
受け取る二人。そして、近くで足を止める。
「ええっと」 「じゃあ……」 『いただきます』
そうして口をつける二人。もくもくと、クレープを食べていく。
「おおっ、あれは……西住殿と猫宮殿!?」
「ああっ、みぽりん、いいな~、羨ましいな~!」
「みほさんも、クレープが好きなのですね……」
「……カップル割、使った……?」
そしてそんな様子を何故か目撃されてしまう。
「は、はわわ、はわわわわ!?」
真っ赤で慌てるみほ。今日のみほさんはトマトみたいだなと猫宮はまた苦笑すると、手を引っ張って逃げた。それをみて、きゃーきゃー黄色い声を上げる4人。明日どうなるかなあ……と、猫宮は遠い目をするのだった。
さて、そんなこんながあって、西住家にたどり着く二人。立派な、日本家屋である。「わふっ」と、柴犬が二人を尻尾を振って出迎えた。
(おや、チャッピー卿……ここに住まわれているのですか)
(おお、猫宮の戦士よ。左様、儂はこの家に居る。亡き主の代わりに、この家を守っておるのだ)
(なるほど……)
多少の挨拶を交わしていると、先に家に入ったみほから、「猫宮さん、チャッピーが気になるんですか?」 と言われてしまった。
「うん、良い犬だと思ってね」 と、いそいそとみほの後に続く。
(では、チャッピー卿、また後で)
そうして、靴箱を見ると、高級な靴が幾つか置かれていた。
「いらっしゃい、よく来てくれました」
猫宮が靴を脱いでいると、優しい笑顔をしたしほが出迎えてくれた。敬礼しようとする猫宮に手をやって止めるしほ。
「ここは基地ではなく、家です。階級は関係ありません」
「はい、では自然体で行きます」
それに、猫宮もくすりと笑って合わせる。
奥へ、案内される。みほも一緒だ。
「……すまないな、突然呼び出してしまって」
「随分と、興味を持たれてるみたいですね」
「……ああ。膨大な戦果。低すぎる損耗率、そして味方への影響。君たち5121と黒森峰の存在は、あまりにも大きくなったと言っても良い。自衛軍と比べると、ほんの僅かしか訓練をしていない、君たちが上げた戦果だからな」
「その辺りのドクトリンも、ちゃんと書いたと思うんですけどね?」
「だからこそ、だ。君が注目される。それに、教本だけでは部隊は作れないからな」
と、客間へ通された。そこには既に、5名の男が座っていた。が、全員私服だ。あくまでも、私的な集まりと言う事にするのだろう。
猫宮は入るときにペコリとお辞儀をし、中に入る。下座へ座ろうとするが、止められて上座の方へ座らされた。隣には、みほが座る。
「はじめまして、どうもこんにちは」
と、次々に挨拶をする男たち。こちらへ対する見下し、学兵への侮り等は一切、感じられない。そういう人材を、しほは選んだのだろう。
「猫宮悠輝です」 猫宮もそれを感じて、穏やかに笑って頭を下げる。
「に、西住みほです」 ぺこりと、慣れない様子でみほもお辞儀をする。
「シルバーとゴールド、2つの勲章を同時に持っているエースに同時に出会えるとは、光栄です」
『あ、いえ、銀剣突撃勲章は猫宮(みほ)さんのお陰です』
二人の声が重なる。それに、思わず笑ってしまう二人以外。かあっと、みほの顔が赤くなる。
「ははは、仲が良いですな。やはり、お二人が一緒に戦うと戦いやすいですか?」
「はい、混戦になればなるほど、みほさんの指揮は本当に光ります」
「猫宮さんは、常に戦場全体を見渡していて、本当に助かるんです」
二人の言葉に、男たちは頷く。資料で見た通りだ。
「相性がとても良いのですね。では、猫宮さん、他の隊と組んでみるとどうなりますか?」
「訓練なしのぶっつけ本番だと、やはり戦果の量が違いますね。みほさんが例外中の例外でしょう。ただ、士魂号が囮になって、その横合いを撃たせるという戦法は、士魂号パイロットの技量によっては、何処とどう組ませても、それなりの戦果はあげられると思います」
「士魂号のパイロットの技量……ですか」
顔が曇る男たち。しほは、黙って見ているようだ。
「ええ、見ての通り士魂号は被弾面積が極端に大きい兵器です。だから、囮になるにはそれなりの技量がやはり必要です」
「……その、パイロットの選出方法などに心当たりは……」
「自分も単に選ばれただけですからね。共通点とか、自分たちをみても特にあるとは思えませんし、そこは本当にわかりません」
猫宮の言葉に、肩を落とす一同。
「……どこかにお願いして、パイロットを融通してもらえないのですか?」
「それは、その……難しく……その、猫宮さんからパイロットに教育をしてもらうのは可能ですか?」
「……必要最低限の適正がなければ、犬に編み物をさせるようなものかと思います」
「……は、犬に、ですか?」
「はい。指がなければ編み物なんて出来ませんよね?」
「ああ……」
それを聞くと、がっくりと肩を落とす一同。既に荒波教官の元へ芝村の力を借りずにパイロットを送り込んでいるが、転んでばかりでろくに動かせないらしい。
と、玄関から戸が開く音が聞こえた。「失礼」と、しほが出て行くと、制服姿のまほを連れてやってきた。彼女も、猫宮の隣に座らせる。微妙に固くなるまほ。
「……ところで、猫宮さんの派閥などについては……」
「徴兵されて放り込まれた所の兵器が、たまたま芝村の兵器だっただけですね」
苦笑する猫宮。そもそも、学兵で士官学校どころかまともな軍学校などにも通ってないのである。流石に派閥も何もなかった。
それに、恥ずかしそうにする数名。彼らも随分と、派閥の考えにどっぷりだったようだ。
「では、他の戦車部隊への教導などは……?」
「少なくとも、自然休戦期が来てから、ですかね。自衛軍はこの休戦期が終わるまで本格的に動かないのでしょう? 他に予定が詰まっていて、片手間で教えられるほど予定は空いてないですね」
苦笑する猫宮。まほとみほも、それに頷いた。
「……他の学兵への訓練などもしているから……ですか」
「ええ」
「何故、そんな事を? 遠坂財閥に取り入り、高価な端末を渡してまで……」
怪訝そうに聞いてくる。それへの答えは、いつだって単純明快だ。
「人が死ぬの、嫌なんですよ。だから、助けるんです。それ以外、理由が必要ですか?」
そう、答える猫宮。虚を突かれたような顔をする5名。
「……単なる人助けのためだけに、そこまで……ですか」
当然、猫宮の活動は上層部も知る所となっている。だが、その真意が読めなかった。長く軍内政治に浸かっている者達の中には、あれこれ邪推する者まで出る始末だ。
「そこまでしないと、助けられないんですよ。……そして、助けきれなかった学兵も大勢いるんです」
声のトーンが下がる猫宮。落ち込んでいるように見える。
「だから、派閥なんて自分は知りません。強くなって生き残れるなら、その戦い方を教えに行くだけです」
それを見て、それぞれが頷く男たち。しほから話を聞いただけでは、合点も行かない部分もあった。だが、今日、目の前で話して、ようやく理解できたと思った。
「わかりました。……では、是非生き残って下さい」
「勿論です。……あ、まあ教導はそこまで出来ませんけど……黒森峰との合同訓練の時には、蝶野中尉以外の方も来ていただければ、その時に質疑応答します」
「ありがとうございます。――と、ではこの場で質問は宜しいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
と言うと、猫宮、まほ、みほは3人で、5人の男たちへと答えていくのだった。最前線で戦果を上げ続けて来た3人の、生きた理論である。しほも加わり、検討会は長く長く続いた。ふと気が付くと、とっくに日が傾いているほどに。
「……随分話し込んでしまいましたね」 そうしほがつぶやくと、はっとする男たち。猫宮は笑っている。
「と、こんな感じですけど、如何でしたか?」
「まさしく、新しい戦術ですな……」 「士魂号の兵器としての使える戦術の幅が本当に広いですね……」 「……しかし、その分整備が……」 「予算も……」
と、また話し込み始めようとする男たち。それを、しほは苦笑して止める。
「まあ、ここまでにしましょう」
そう言うと、口を閉じる5人。立ち上がり、一人一人が猫宮と握手をすると、家を出て行く。
「では、自分もこれで……」
「いえ、もう遅いから、せっかくだし夕飯を食べて行かないか?」
帰ろうとする猫宮を、そうしほが引き止める。
「じゃあ、せっかくですし」
猫宮は頷いた。食卓へ通され、一人畳の上であぐらをかいて待つ。台所を見ると、親子3人で料理を作っていた。何やら、まほとみほが張り切ってるように見える。
何となく、手持ち無沙汰な猫宮。基本的に、なにか仕事でもしてないと落ち着かない因果な奴である。
「あ、あの、チャッピーにでもご飯あげてきましょうか!」
「ああ、頼む」
猫宮がそう言うと、ご飯を渡された。外へ出て、チャッピーの元へ持っていく猫宮。
(やっとか、待ちくたびれたぞ猫宮の戦士よ)
(ははっ、今日はお客さんが多かったみたいですしね)
尻尾をブンブンと振って、やってくるチャッピー。コトンと地面に置くと、勢い良く食べ始めた。その様子を見て、撫でる猫宮。
(うむ、美味い) がふがふがふがふ
(それは何よりです)
と、猫宮も少しその様子を見てなでて、戻ろうとする。
(ではな。どうかあの親子を頼むぞ)
(ええ、戦場では、頑張って守ります)
そして、戻る頃にはちゃぶ台の上に、夕餉が並んでいた。季節の野菜と魚、そして白米がたっぷりと盛られている。
「あはは、猫宮さん、チャッピーと仲良くなったんですか?」「む、猫宮さん、もう仲良くなったのか……」
「うん、なかなか馬が合ってね」
みほとまほの言葉に、くすりと笑って、手を洗う。そうして全員が食卓につくと、頂きますで食べ始めた。
5121の仲間と食べる時とは違う、ゆったりとした時間が流れる。女性ばかりの空間は妙に優雅で、何だか癒やされる猫宮。
やがて食べ終わり、みほは食器を洗いに、そしてまほは何処かへと行く。そして、猫宮はこんどこそ帰ろうと立ち上がろうとして――
「おっと」
な・ぜ・だ・か しほが畳に足を滑らせて、醤油を派手に猫宮にぶっかけた。
「うわっぷ!?」
完全に油断していて、おもいっきりひっかぶる猫宮。ベタベタである。
「す、すまない……これは急いで洗うから、すぐに風呂に入ってきてくれ」
「は、はい、お借りします」
風呂場へ、タタタタっと向かい、ガラッと木戸を開ける猫宮。
「へっ?」
下着姿の、まほと目が合う。お互い、現状が認識できない二人。そして、みるみる真っ赤になるまほ。
「き、きゃあああああああああああああっ!?」
「し、失礼しましたあああああああああっ!」
慌てて木戸を締める猫宮。
「も、もうお嫁に行けない……」
「そ、そんな事ないですよ、まほさんなら引く手数多・・…!」
「慰めは良いんです!」
「な、慰めじゃなくて!?」
何やら不毛な言い争いをする二人。なお、この様子をこっそり見ていた人がいることは言うまでもない。
そして更に後日、この日の様々なことで、猫宮は散々にからかわれることとなったのだった。
派閥を超えて味方を作っていく猫宮。お前らは旧軍かっ!?って突っ込みたくなるほど榊ガンパレでは派閥争いやってましたからね……だから融和の布石もしっかりと。
そして、西住家に住まう犬が犬神族のチャッピーとなりました。……いや、そこそこ老齢っぽそうで名前がない柴犬とか条件がぴったりすぎて使うしか……とビビッときまして
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