ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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山鹿市防衛戦

 さて、醤油をぶっかけられまほとあれこれ言い合いをして、おまけに風呂まで頂いたもので。更には帰るための服もなく――と言う訳で、西住家にお泊りすることになってしまった猫宮であった。客間の隅っこに布団を借りて、寝間着も借りて、ぐっすりすやすや眠る。猫宮の家はベッドなので、久々の布団にぐっすり熟睡する猫宮。夜が過ぎていく。

 

「……ね、猫宮さん、起きてください……」 「あ、朝ですよ~……」

 

 まどろみの中、ゆさゆさと揺られる。ふと目を開けると、まほとみほの顔が寝ぼけ眼に映る。

 

「……あ、もう朝……?」

 

 むくりと上半身を起こして、アクビ一つ。どうやらよほどぐっすり眠ってしまったらしい。

 

「ああ、二人共起こしに来てくれたんだ」

 

「あ、ああそれは……」 「母様が起こしてきなさいと……」

 

 それを聞いて、苦笑する猫宮。うーんと起きだして、顔を洗ってくる。匂いにつられて部屋へ入ると、朝食が用意されていた。

 ありがたく、頂く猫宮。ゆったりとした時間が流れる。最もまほは、少し赤かったりするが。ど、どうしようと対処法が思いつかない猫宮。それを、微笑んで見てるしほ。

 

 食べ終わると、猫宮はせめてと食器洗いを手伝う。キュッキュッと洗う猫宮と、同じように隣で洗うしほ。

 

「君も、一人暮らしなのだろう。時々でいいから、訪ねてくるといい。御飯くらいなら、出せます」

 

「あはは、ありがとうございます」

 

 優しげな声色で、猫宮と話すしほ。息子のように思えているのかもしれなかった。

 

 

「じゃあ、どうもありがとうございました!」 『行ってきます』

 

 お礼をいう猫宮。そして今日も黒森峰へ向かうまほみほ。一緒に、家を出る。その様子を、しほは優しい微笑みで見守るのだった。

 

 途中まで、一緒に行き、それぞれの方向へ向かう。

 ……で、尚敬校へつくと、取り囲まれる猫宮。昨日の事を、囃し立てられる。

 

「で、結局どうだったんだよ、猫宮?」 「デェトに行ったのであろう……?」 「良いなぁ、相手が居て……」 「おや、猫宮にも春が来たかい?」

 

 などなどなど……。

 

「え、昨日? 家に呼ばれてね、偉そうなお兄さんおじさん達とたくさん話したよ?」

 

『へっ?』

 

 呆気にとられる殆ど。予想が外れたことに顔を赤くしてあさっての方向を向く芝村。それに笑う若干名などなど……。

 

「そ、それって美人局……」

 

「さ、今日も1日頑張ろうか!」

 

 少し影のある表情を出して空元気を出す(ように見える)猫宮。滝川や、茜から肩を叩かれた。

 

「……で、結局のところどうなんだ?」

 

 猫宮が離れると、後ろで田代が石津に聞く。

 

「……わか……らない……」

 

『わからない?』

 

 その占い結果に首を傾げる一同。

 

「猫宮くんの……運命は……どうやっても……わからない…の……」

 

 不思議そうに、首を傾げる石津。来須とも、また違う運命の見え方だった。

 

 

 

「……201V1、201V1、全兵員は作業を中止――」

 

 と、そこへサイレンが鳴り響く。

 

「うへ~、朝からかよ……よっしゃ、気合入れるか!」 「補給車、トレーラー用意、全機体補給チェック」 「武装用意しろ! 急げ!」

 

 途端に、空気が一変する。全員に緊張が走り、整備班がテキパキと用意をしていく。パイロットは、ウォードレスを装着しに、走っていった。

 

 

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 https://www.google.co.jp/maps/@33.0394447,130.682525,1598m/data=!3m1!1e3!5m1!1e4

 

 熊本県山鹿市杉。ここに、5121と黒森峰は布陣していた。そして、4番機だけは北東に約600メートル離れた、日輪寺の西側の小高い丘の上に居た。森で隠蔽され、傍からは見えない。

 

「ハロハロー、お耳の恋人瀬戸口さんだ。本日も北から中型幻獣80近い数が南下を開始している。」

 

「や、山鹿市の避難はまだ完了していません、何としても時間を稼げとの命令です!」

 

 何時も通り、瀬戸口と武部のオペレーションが始まる。

 

「ふむ、了解した」 「了解」 芝村とまほ、二人が返答する。

 

「それと、本日は珍しい部隊が味方になっているぞ」

 

「珍しい部隊?」

 

 ふむ、と芝村が興味を持ってタクティカルスクリーンを調べる。「……これか」

 

「ああ。士魂号L2型の小隊……聖グロリアーナ女学院第1自走砲小隊だ」

 

 芝村のつぶやきに、瀬戸口が答える。

 士魂号L2型とは、L型の車体に120mm砲ではなく、80式野戦軽砲を搭載した砲撃支援型の車輌だ。しかし、珍しくその数は少ない。

 

「では、そちらとも話を通しておきましょう。こちら黒森峰戦車中隊、西住千翼長です」

 

「ごきげんよう。こちら聖グロリアーナ女学院第1自走砲小隊、田尻百翼長です」

 

 優雅とも言える、女性の声が響く彼女たちは、黒森峰より更に南へと布陣していた。

 

「自走砲の支援付きとは久々だ。頼りにさせて頂く」

 

「こちらこそ、名だたるエース部隊とご一緒できて光栄ですわ」

 

 自走砲からすればエースたちの共闘が、そして通常部隊からすれば自走砲の支援はとても頼もしいものだ。

 

「こちら4番機猫宮。只今山に布陣中。データリンクしますか?」 

 

 と、猫宮の声が響く。

 

「是非お願いしますわ。エースが観測手とは、とても頼もしいですわね」

 

「ははっ、観測手は初めてですけど、全力を尽くしますよ!」

 

 そう言うと、猫宮は田尻の機体と出たリンクを開始する。有視界による、詳細なデータが更新される。

 

 猫宮の位置より、約2.5Km圏内、盆地を歩く的の姿が、映しだされる。

 

「これはまた、詳細なデータですわね……小隊、全車両砲撃開始!」

 

 3輛のL2型からの一斉砲撃。北東の狭い盆地からやってくる幻獣の群れへ、砲撃が吸い込まれていく。

 

「弾着! 小型幻獣多数消失、ミノタウロス、ゴルゴーンにダメージあり!」

 

 有視界故の、正確な損害報告を送る猫宮。

 

「了解ですわ。では――」

 

 その報告を受け、田尻は、次々と砲撃目標を変えていく。幻獣の濃い所へ次々と。損害を受けた中型には程々に撃ちこみ、やがて撃破していく。

 直射ではなく、曲射である。自走砲ならではの戦い方だった。

 

「キメラ1、撃破! ナーガ2、撃破! ミノタウロスも1! ゴルゴーン2体、損傷を認める!」

 

 報告しながら、バズーカを持つ4番機。即座にロック、そして発射。スキュラが1体、炎上して落ちる。その砲声に、幻獣の注意が幾らか向いた。そこへ、更においてあったバズーカを拾い、更に発射。スキュラがまた落ちる。幾らかの幻獣が、方向を変える。猫宮の機体を仕留めようと、登ろうとするが、動きが遅くなり当然幻獣が溜まる。

 

「あらあら、一網打尽ですわね」

 

 そこへ、3発の榴弾が一斉に叩き込まれる。爆発、炎上。猫宮はスキュラのレーザーを避けるために移動しつつ、更にロック。また、スキュラを叩き落とす。

 

「猫宮、そろそろ危ないぞ、無茶をするな!」

 

「はいよ、最後の一発! 滝川、スモークお願い!」

 

「了解、とっとと戻ってこいよ!」

 

 狩屋の改造により、92mmでも撃てるようになったスモークが、猫宮とスキュラを分断する。サーマルモードにして、更に1発。またスキュラが落ちた。打ち終わったバズーカを捨て、足元のジャイアントアサルトを拾い、スモークに紛れて西へ駆け抜けていく猫宮。幻獣は歩き続け、常法寺の西より、次々と姿を見せる。

 

「全車、一斉砲撃!」 「滝川!」 「わかってる!」

 

 そこへ、黒森峰と2・3番機の射撃が、次々と突き刺さる。幻獣の幾らかが、怯んだ。

 

「参ります!」 

 

 1番機が、突撃。まだ、元気に見えるミノタウロスへ近づき、豪剣一閃。倒れ伏す。一斉に、壬生屋へ幻獣の殺意が集まる。そこへ、更に西からも砲撃。

 

「はいよっと!」

 

 スモークに紛れて走りぬけ、川を超えて城菅原の東側の山へ登っていた4番機が、またそこで狙撃を開始する。

 

「観測手、復活しましたわね」

 

 猫宮とのデータリンクにより、今度はL2型の砲撃が、後方の幻獣へと広範囲に飛んで行く。まだ、南から見えない幻獣を、4番機が捉えたのだ。

 

 曲射と直射、そして壬生屋の大暴れにより、混乱しているように見える幻獣側。そこへ、2番機の支援を受け、3番機が突撃する。

 

「行くよ、舞!」 「わかっている!」

 

 ジャイアントアサルトを撃ちながら駆け抜ける3番機。邪魔をする幻獣が、2番機、4番機、そして黒森峰の砲撃により、排除される。

 

「よし、発射!」

 

 幻獣の中央に躍り出て、24発のミサイルが、次々と幻獣に突き刺さる。スキュラが、きたかぜゾンビが、ミノタウロスが、ゴルゴーンが、キメラが、ナーガが、小型が、爆風に吹き飛ばされる。

 

「やったね!」 「ああ!」

 

 やはり、3番機のミサイルは、戦局を変えうる威力を持っている。敵幻獣が、3番機を中心とした円形状からごっそりと消え、残った幻獣も傷だらけである。そこを、黒森峰の戦車が狙い撃つ。

 

 

「東からきたかぜゾンビ3、まずい、グロリアーナの方へ向かってるぞ!」

 

 瀬戸口からの慌てた通信が入る。近くにいる士魂号は、2番機だ。

 

「滝川、任せられる!?」

 

「へへっ、任せとけ!いいところ見せてやるよ!」

 

 そう言うと、2番機は凄まじい勢いで、グロリアーナの小隊の方へと向かう。グロリアーナときたかぜゾンビの間に走り、遮蔽へ。そこから、射撃を開始する。

 

「みんな、囮になってるうちに隠れて!」

 

「ありがとうございます!」 「助かりました!」 「かっこいいですよ!」

 

 と、自走砲小隊が、退避する。そして、ジャイアントアサルトを発射する2番機。きたかぜゾンビが、次々と落ちていく。

 

「滝川機、きたかぜゾンビ3撃破! よくやったぞ滝川!」

 

「ざっとこんなもんっす!」

 

「ありがとうございます」

 

「へへっ、どういたしまして」

 

 そう言うと、滝川は今度は東の山の上へ駆ける。猫宮のように、高所からの狙撃をするつもりだった。

 

 

 盆地に集められた幻獣は、東西の山から撃ち下ろされ、集まっているところには砲撃を落とされ、更に1番機、3番機に突撃され分断され、おまけに黒森峰から包囲、殲滅される。耐え切れず、撤退を始める幻獣たち。だが、逃げられるはずもなく、残らず殲滅されていく。

 

 

「ははっ、砲撃助かりました!」

 

 猫宮が、田尻に通信を送る。

 

「こちらこそ、こんなに戦いやすい戦場は初めてでしたわ」

 

「ええ、もし良かったら、今度合同訓練でもしませんか?」

 

「もし、上から許可が下りれば、是非に」

 

「ははっ、了解です!」

 

 会話が弾む2名。

 

「……ふむ、的確な砲撃がここまで戦局を変えるとは……」 「ええ、凄まじい効果です」

 

 芝村と、まほも話し合う。

 

 こうして、山鹿市防衛戦は、幕を下ろす。中型幻獣撃破数92、小型幻獣は数えきれず。

 芝村、速水、銀剣突撃勲章を獲得。壬生屋、滝川。黄金剣突撃勲章を獲得。

 黒森峰戦車中隊1号車、4号車、黄金剣突撃勲章を獲得。

 

 間違いなく、彼らが九州最強の部隊であることを証明した戦いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ダー様が大好きなので田尻凛と言う名前にして登場させてしまいました……
彼女は指揮官としての視野の広さから、自走砲を担当してもらうことになりました。この士魂号L2型は、TRPGからの引用装備です。80式野戦軽砲の射程は約8キロ。これから大活躍してくれそうです。

 
そして、悩むのがアナザープリンセスの扱い……。更にキャラが増えるけど……うーん、扱いきれるかどうか……

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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