ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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日常回+αな回です。とりあえず、活動報告に投稿された要望にも少しずつ応えていけるかな……


愛も恋も、人それぞれ。

『滝川の青春』

 

 昼、滝川は新市街を歩いていた。ふと、話し声に耳をやると

 

「ねえ、あれって滝川百翼長じゃない?」 「ああ、ホントだ、ゴールドソードのエース!」 「話しかけちゃおっか?」

 

 なんて声が聞こえてきた。そちらの方を見ると「きゃー!」なんて黄色い声が上がる。ちょっと前までの自分なら、浮かれ上がっていただろう。しかし、今の滝川の胸にあるのは感慨深さだった。

 3月の初めに、第62戦車学校へと入学させられ、僅か2週間と少しで実戦投入。そうして、あれよあれよとより激しい戦区に回され、今では胸に勲章を付けられるようになった。それが誇らしくて、胸にずっと勲章をつけていた。

 

「いつの間にか、俺もきゃーなんて言われるようになってたんだな……」

 

 初陣から、ずっと無我夢中だった。壬生屋も、速水も、芝村も、猫宮も、自分よりずっと才能を持っていた。そして、俺はそれに必死で食いついていって――黒森峰の人たちとも一緒に戦うようになって――気がついたら、こんな勲章を貰っていた。ずっと、支援をし続けてきた立場だ。正直な所、実感というものが殆ど無かった。しかし、年金ももらえるようになり、階級も上がって、好きなロボットのプラモデル何かを買う金が増えたのは、嬉しかった。

 

「でもなあ……」

 

 確かに、女の子にきゃー!と言われるのは嬉しかった。でも、今、気になるのは森の事だった。いつも凛としていて、テキパキと仕事をこなして――とにかく、気になるのだ。でも――

 

「俺だと、なかなか吊り合わない……い、いやいや、そんなことはないはず……」

 

 と、いまいち自信がなさ気だ。少し気分を変えるために、滝川は脳内の地図を開く。その地図には、市内の食い物屋の情報が、ずらりと収められていた。

 

「今日は、奮発してお好み焼きでも行ってみるか――」

 

 と、新市街を歩いると、ドキッとした。森が、一人でシャッターの前で立ち尽くしていた。どうする?どうする……!?と迷う滝川。ふと、胸元に目をやる。そうだ、俺だって、頑張ればここまでやれたんだ――

 

「こ、こんにちは。森さん、どうしたんだ?」

 

「あ、滝川くん――。ここのお店、好きだったんだけど潰れちゃったみたいで……」

 

 少ししょぼんとしている森。普段あまりみない表情に、またドキッとする滝川。

 

「ああ、ここか……ここのたい焼きも中々だったよなぁ……。あ、でも他の店も有りますよ?」

 

「……本当ですか?何処にあります?」

 

 滝川の言葉に、興味をもつ森。

 

「えーと、道は……あ、案内しますよ!」

 

「……良いんですか?」

 

 滝川の誘いに、きょとんとした後に尋ねる森。

 

「お、俺もちょうど行こうとしていたから!」

 

 と、丁度いいタイミングでぐ~と鳴る滝川の腹。

 

(ば、馬鹿野郎、何やってるんだよ俺の腹!?)

 

 思わず自分の腹に罵声を浴びせる滝川。その様子を見て、ぷっと吹き出す森。

 

「ええ、分かりました。じゃあ、行きましょう」

 

(よくやった、よくやったぞ俺の腹!)

 

 自分の腹に賞賛を送る滝川。

 

「じゃ、じゃあ、こっちっす」

 

 滝川の先導に、付いて行く森。ところが、会話があんまりない。滝川が話しかけて、すぐ終わる。森が話しかけて、すぐ終わる。そんな感じに、なんとももどかしい。

 

(ぜ、全然ダメじゃん俺……)と、がっくり来る滝川。その様子を見て、森も表情が曇る。

 

「……良いんですか、私なんかに付き合って?」

 

「へ? ど、どういうことだよ?」

 

 予想外の言葉に、首を傾げる滝川。

 

「だって、だって私、話しても面白くないし、話題もそんな面白い話できませんし……」

 

「あっ、い、いや、俺こそごめん。なんか、女の子が好きな話題見つけてくりゃ良かったかな……」

 

 何やら二人して謝っている。

 

「そ、それに……う、ウチじゃ吊り合わないでしょ?」

 

「へ、な、何で?」

 

 ウチと思わず素が出たことにより、吊り合わないと言われたことにびっくりする。滝川。

 

「だ、だって、ウチ、ただの整備員やし……こんなドン臭い女なんて……とても勲章持ってる滝川くんになんか……」

 

 その言葉に、びっくりする滝川。

 

「そ、そんな事ないだろ!? お、俺の方こそ、他の奴らに比べて才能無いし、あんまり頭も良くないし……」

 

「そ、そんな事無いもん、ウチの方こそ!」 「い、いや、俺の方が!」

 

 

「……何やってるんだあの二人は」 「公衆の面前で凄いねえ……」 「あはは、相性ぴったりじゃない、あの二人?」

 

 その様子を、茜、猫宮、速水の3人が、面白そうに見守るのだった。

 

 

『本日の歩数、200歩』

 

「っ……くっ……」

 

 狩屋が、手すり付きの廊下を、ゆっくりゆっくりと歩いていた。そして、その傍らでは加藤が見守っている。

 あの、猫宮に殴られた日から、狩屋には生きる希望が戻っていた。この、今は不自由な足も苦にならない。なぜなら、そこには治るであろうと言う「希望」があるからだ。

 

「っ……はあ……、はあ……」

 

「お疲れ様、なっちゃん」

 

「ああ、ありがとう」

 

 規定の歩数を歩き終わり、加藤が車椅子に座らせる。狩屋の足が動くようになってからも、加藤は変わらずに献身的な介護を続けていた。今日も、仕事が終わると、バイトの予定を空けてでも、狩屋に付き合いに来たのだ。

 

「……なあ、加藤。……お前も色々と仕事とか、あるだろう? 僕はもう、大丈夫だから……」

 

「そんなことあらへん。病院へ一人で行くだけでも大変やろ?」

 

「……でも、僕は……」

 

 ずっと献身的な看護を受け続けている狩屋。やはり心に浮かぶのは、今まで加藤にひどいことをしてきた、罪悪感である。表情を曇らせる狩屋に、加藤は後ろから優しく抱きついた。

 

「いいんや。うち、なっちゃんが好きやから」

 

「……ありがとう」

 

 無償の、献身的な愛に。狩屋は心からの感謝に、包まれていた。だからこそ、言えない言葉がある。

 

(……それを言うのは……。僕が普通に歩けるようになってから)

 

 その日は、きっと遠くない。

 

 

 

 

 

 

『愛を壊す者』

 

「はあっ、はあっ、はあっ!」

 

 一人の男が、暗くなった女学校から逃げ出そうとしていた。懐に、大事に者を握りしめて。

 

「くっ、何処へ行った!?」 「生徒会連合の名誉にかけても逃がすな!」 「辺りに非常線を張れ!」

 

 響くのは、女性生徒の声。簡単な仕事のはずであった。ただ、ソックスを狩るだけ――それが、何故、バレた……!?

 

 懐からソックスを取り出して、その匂いを嗅ぐ。幸福感が、体中に広まる。そして、男の体は加速した。ソックスハンターならではの、強化方法である。走る速度が強化され、どんどん包囲から抜けていく。と、そこへ発射音。こ、この音は……!

 

「ソックスハンター、そこまでだ。逃げられんぞ……」

 

 闇の中から、トレンチコートを着た男が現れる。手には、2丁の銃が。

 それにしても、逃げられないだと……まさかっ!?

 

「き、貴様がHOSH(ハウンド・オブ・ソックス・ハンター)か!」

 

「如何にも。君のお仲間から、君が今夜ここに来ると教えて貰ってね……」

 

 くくく、と耳障りな嘲りの笑いが響く。

 

「ま、まさか、あいつが……!?」

 

「ああ、『親切にも』教えてもらってね……」

 

 嘘だ。あいつはそんなことをするやつではない。しかし、近頃、転びハンターが増えているとの噂があったが、まさか既に二重スパイが……!?

 

「さあ、ソックスハンター、君ももう終わりだ」

 

「っ! 俺は、ここで負ける訳にはいかない!」

 

 そう言うと、顔にソックスを――

 

「無駄だ」 

 

 トリガーを引く男。飛び出た液体が、ソックスを濡らす。

 

「っ!?、こ、これはっ!?」

 

「そうだ、超強力消臭剤に芳香剤に洗剤、その他色々に水――の混合物だ」

 

 手に持っていたソックスが濡れている。そして、あの芳醇な香りが全て消し飛んでいた。

 

「そんな、そんなっ!?」

 

 慌てて回避運動を取りつつ、更にポケットに手を突っ込むソックスハンター。しかし、そのソックスも、無慈悲な1撃が貫く。

 

「や、やめろっ、やめてくれっ!」

 

「なら、おとなしく捕まると良い」

 

 そう言いつつ、ゆっくりと近づいてくる男。逃げようと、背を向ける。そして、尻ポケットに着弾。入れていた、ソックスが更に濡れる。悪魔だ、あいつは、ソックスハンターを破滅させる悪魔だ――!

 必死に駆ける男。だが、明らかに先ほどより速度が落ちている。当然、HOSHはそれに追い縋る。

 

「遅い、ソックスの力がなくなったハンターなどこんなものか」

 

 足を払われ、仰向けに倒れる。2丁の水鉄砲が突きつけられた。胸ポケット、そして腹――隠し場所2箇所が狙われている。

 

「わ、分かった、降参する。だ、だから、このソックスだけは……!」

 

「私は先ほど捕まるといいといった。だが、君は愚かにも逃げ出してしまった――なら、罰を与えねばなるまい?」

 

「や、やめろ…!」

 

 しかし、無慈悲に2丁のトリガーが引かれる。ソックスハンターの胸ポケットが、腹が、ズボンのポケットが、靴の中が濡れていく。

 

「あ、あああああああああああああああああ!」

 

 この世の終わりに遭遇したような叫び声を上げるソックスハンター。彼の大事な宝が、(ソックス)が、無残にも壊れていく。

 そして、それを追いついてきた風紀委員達が、遠巻きに見守る。放心した男が、縄で縛られる。

 

「じゃあ、後は宜しく頼む――」

 

 そう言って去っていくHOSH。それを、女子生徒達は敬礼して見送った。

 

 

 

 

「……昨夜、またHOSHにハンターが一人やられました」

 

「ま、またか……!」

 

「くっ、なんたることばい……」

 

 また例の3人が、人気の居ない場所で集まって何やら話をしていた。悲痛な評定をする3人。報告書を見れば、彼の持っていたソックスは全てフローラルな香りのする洗いたての靴下になってしまったようだ……。

 

「なんたる、何たる非道な事を――」

 

「奴は、本当に人間かっ!?」

 

「……もはや、座視出来ませんね……」

 

「何か案があるのか、バット」

 

 バトラーとタイガーの視線が、バットへ注ぐ。

 

「――ソックスハンターが転ばされるように、彼もソックスハンターへ転ばせましょう」

 

「なっ――」

 

「一体、どうやって――!?」

 

「ふふふふふ、その方法とは――」

 

 

 こうして、HOSHにしてやられ続けているソックスハンター達も、反撃の機会を伺う。果たして、彼らの運命とは――

 

 

――何で続くんだよ……!――

 

 

 

 

 

 

 

 

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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