ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
山鹿での防衛戦の後、初めての合同訓練である。黒森峰には、5121小隊だけでなく、更に聖グロリアーナ第1自走砲小隊のメンバーも集まっていた。かつてイギリスと関係が深かった学園だけあり、どこと無く黒森峰のメンバーとは違った優雅さを身に纏っていた。
「今日の合同訓練ですが……各地より、視察が訪れています」
「あら、随分と注目されていますわね」
「ふむ、よほど興味深いのであろうな」
まほ、凛、舞の3名がそれぞれ話す。隣のオペレーションルームでは、何やら上の階級の人間がそれなりに詰めているようだった。お偉いさんの視察に、何名かは緊張している者もいるようだった。
猫宮もガラス越しに見て、目が合うと会釈された。先日、西住家で見た顔もチラホラと有ったのだ。
「――ふむ、猫宮よ。知り合いでもいたか?」
「あはは、まあそんな所」
怪訝そうな芝村に、猫宮が答える。横では、みほやまほもペコリと会釈をしていたりもした。
「それじゃ、まずは自走砲の有効的な活用方法から模索しようか!」
『了解!』
全員が、シミュレーターに乗り込んだ。オペレーションルームでは、来た将校の一同が、注目している。
「滝川、次は北の山へ移動して!」
「了解!」
「全車、2番機からの情報が来るまで射撃継続、その後に観測情報を元に射撃へ移行します」
砲撃は当然、視界が通っていたり観測情報が有ったほうが命中率が高い。しかし、幻獣の浸透戦術を取るという作戦上、中々に何処か孤立した場所へ観測手を送るのにも苦労する。故に、士魂号の踏破性の高さと、小型幻獣への対処能力は、砲撃の観測手とするにピッタリの役割であった。
軽装甲の利点の機動力を生かし、戦場を駆け抜け狙撃及び観測を行う2番機。荒波とはまるで違うが、しかし特化した方向への進化であった。
そしてもう1機、よく高所に陣取ったり、フォローが出来る位置にいる4番機も、観測手の役割を担いやすい。逆に、突撃に特化した1番機や、ミサイルの為に敵陣に突っ込む3番機は、あまりこの役割に向かなかった。
「第2小隊、次は自走砲の援護に向かう」
「1号車3号車、直接照準、目標、3時方向のミノタウロス」
「はーい、4番機、同じく自走砲の援護に向かいます、持ちこたえて!」
自走砲も直射すればそれなりに渡り合えるが、やはり1小隊だけだとそれなりに苦戦する。徹甲弾も無いので、ミノタウロス相手も中々に辛い。それに、孤立していると突然の航空ユニットの空襲が怖かった。なので、フォローできる位置が望ましいが、あまり近くてもまた困る。ここは、柔軟に対応――というしか無かった。
1戦毎に、話し合う3部隊。これまでと同じように少しずつ、練度が上がってきた。自走砲という新たな兵科も加える事で、諸兵科連合として、機能し始めることが出来るようになりつつあった。
一方、興奮しているのは、直接戦闘シミュレーションを目の当たりにしている将校たちである。とても学兵とは思えない戦果、そして練度。報告だけでなく、改めて目の前で見せられて、その有用性に舌を巻く。途中から、我慢しきれなくなったか議論にも交じるようになった。
「ですから、この場合の配置は……」
「ふむ、それよりも、先に1,3番機が突撃し――」
「いえ、隠蔽ならこちらのほうが効率が……」
学兵も、将校も関係なく、どんどんとアイディアを出していく。流石はしほが選んだ俊英達である。きちんと士官学校を出たが故の、戦術の知識の豊富さが戦術を組み立てていくのに役に立つ。
「……やはり、諸兵科連合として動かせたほうが戦果は上がるな……」
「ええ、それぞれの隊毎に動くのは勿体無いですわね」
まほの言葉に、凛も同意する。
「ふむ、ではそう動けるように具申しておこう」
それに、舞が頷いた。芝村の提案ということも有り、将校は少々複雑な表情をしているが、否定はしない。会津、薩摩としても、黒森峰が膨大な戦果を上げている状況は都合が良かったし、それぞれ単独ではやはり戦果も落ちるからだ。更には、生存率も下がるだろう。既にプロパガンダ部隊としてあまりにも有名になった黒森峰のメンバーの戦死も、望むところではなかった。
「その代わり、常に激戦区に送られるだろうけどね」
苦笑する猫宮。実際、4機の士魂号と9輛の戦車、そして3輛の自走砲の集団だ。激戦区で使わなければ、意味は無い。
「望むところだ」「5121も、聖グロリアーナも、頼りにしている」「皆さんと居る方が、きっと生存率は高いですわ」
舞、まほ、凛が頷いた。周りの一同も、覚悟を決めているようだ。その様子に、微笑む猫宮。
「――うん、皆で生き残ろう」
誰も、死なせたくはないな―― 猫宮は、心からそう思うのだった。
訓練終了後、将校たちに呼ばれ一人別室へ行く猫宮。みほも、さあ戻ろうと思った矢先に、突然声が掛かる。
「……ねえねえみぽりん、猫宮さんとは何処まで行ってるの?」
「ふ、ふええええええええっ!?」
武部の突然の質問に、真っ赤になるみほ。
「わ、私も気になるであります、西住殿!」
「私も気になる」
「こ、この間も二人きりで……」
「え、あの、それは、ただお母さんが偉い人達と話すために、その、家に呼んできなさいって!」
わたわたと弁解するみほ。だが、興味津々な乙女はそれで止まるはずもない。
「でもでも、この間クレープ屋さんで!」
「カップル割引使っていたでありますな!」
「あ、あれはその、猫宮さんのお知り合いにあそこのお店が安いって言われて!」
「……でも、使ったんだろ? 二人共」
「あ、あうあうあうあう……」
顔を真赤にするみほ。周りから、どんどんと囃し立てられる。追求は、止まりそうもなかった。
「おおお、猫宮い~な~」
「滝川こそ、この間森さんと……」
「ゲッ!? 見てたのかよ!?」
「た、滝川さんまで……」
色恋沙汰に、盛り上がる学兵達。死と隣り合わせでも、今を全力で、楽しんでいた。
将校たちとの話が終わると、猫宮は聖グロリアーナのメンバーの方へと向かう。
夕刻、猫宮は、新市街の人通りのない裏道を、猫に先導されて歩いていた。ふと、一つの無人の筈のビルの前で猫が止まる。
「ここか」
何処に居るかと見上げると、1羽のツバメが、窓の外に居た。その高さを確認すると、パイプを掴んで、よじ登った。剥がれた壁やらベランダの手摺、窓枠を掴み、腕の力や腕と足の力で飛び上がり、どんどんとビルを登っていく。やがて、鍵のかかってない窓を開けて、進入する。中には、3人の人間が。ツバメに合図を出し、ガラス窓をつつかせる。
何事かと、一人がおびき寄せられた。音もなく近付き、口をふさぎ首を絞める。あっという間に昏倒する男。
中々戻ってこない男に、不審がる他の二人。猫宮は、ツバメに合図を出すと、ほか二人の近くの窓に回りこませ、またつつかせる。同時に、そちらを見る二人。そこに、猫宮は突撃する。意識が向いていないタイミングで、投げ飛ばし、1発で気絶、それに気がついたもう一人が、ナイフを抜く前に右左ロー投げ飛ばし。CQCであっという間に方を付けた。
気絶しているうちにロープで縛り、轡を噛ませる。周囲を物色すると、クレイモアが幾つも隠されていた。これを、学兵の集まりなどに使うつもりだったのだろう。
「……もしもし、矢作さんですか。共生派3名、確保。回収願います。場所は――」
「了解」
短く返答が来る。少しして、憲兵たちが入ってきた。猫宮に敬礼をし、共生派を回収し、ビルの調査を始める。それを確認すると、猫宮はビルを後にした。
「ご苦労様」
そう言うと、猫とツバメに報酬を渡す猫宮。どちらも器用に敬礼のようなポーズを取り、報酬を食べ始める。
戦争が始まって以来、少しずつ共生派は熊本に浸透していた。後期には、テロも過激化してくる。まかり間違って新市街を散策中の仲間たちが爆弾テロなどで死ぬなど、到底看過できない。なので、猫宮は動物たちから報告が来ると、優先的に共生派を潰して回っていた。他の皆には見せられない、暗部であった。
憲兵達より、的確に共生派を発見しなおかつ生け捕りに出来る猫宮は、現場の憲兵達からは非常に頼りにされていた。彼らにとっては、結果こそが全てである。なので、生意気だの何だのと思うような兵は皆無であった。
「――まだいる? わかった。じゃあ、行こうか――」
また、猫から報告を受けた。夕闇に、動物たちとともに消えていく猫宮。夜は、これからだった。
史実の共生派摘発数:2
本日の共生派摘発数:6
ハンターは、今も蠢いている。
――なお、翌日隈を作ってふらふらな猫宮を、5121のメンバーが揃って整備員詰め所のベッドに叩き込んだことは言うまでもない。
青春を楽しむ他のメンバーを見守りつつ、闇の部分にも関わる猫宮で有りました。共生派のテロ、運が悪いと普通に死んじゃいますからね……
短編が出るとしたらどんな話が良い?
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女の子達とのラブコメが見たいんだ
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男連中とのバカ話が見たいんだ
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九州で出会った学兵たちの話
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大人の兵隊たちとのあれこれ
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5121含んだ善行戦隊の話