ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
ほんの少しを勝ち取るために
戦闘終了後、猫宮は鉄橋のあった場所の前に居た。見事に、崩れ去っていた。見下ろすと、谷底では瓦礫と残骸と死体がぐちゃぐちゃになり、黒煙があちらこちらから上がっていた。原型を留めてない遺体も、沢山有るだろう。彼らの肉体は、業者が回収に来るまで、野ざらしにされる。
手を合わせ、頭を下げる猫宮。
「祈っていますのね……」
背後から、凛の声が聞こえた。
「……うん。彼らを、助けられなかったから」
「それでも、あなたは沢山の人を助けられましたわ」
「……それも分かってる。でも……」
表情は凛からは見えない。しかし、声色に悲しみが混ざっている。
「…………全てを救わなきゃ、なんて思うのは傲慢では無いかしら……」
あえて、あえてそう言う凛。
「多分、それ位で丁度いいんだ。幾らかを助けられれば、何て思って心が緩むより、全てを救わなきゃと思って、それで足掻き続けるほうが」
目の前の少年の背に、様々な感情が見えた。そして、伸し掛かる様々なものも、少し見えた気がした。
「それで、ずっと後悔し続けるんですの……」
どれだけ助けても、満たされることは無い。凛には、それがとても悲しい存在に思えた。
「でも、私たちはあなたに助けられましたわ。……助けられなかった人たちだけでなく、助けた人たちにも目を向けて下さい」
そう言うと、凛はポーチから消毒薬と包帯を取り出した。
「……そうだね。第1小隊のみんなが無事で……良かった」
少しずつ、微笑していく猫宮の頭に、凛は消毒を施し、包帯を巻くのだった。
翌日、朝、全員が集められる。整備員の幾人かは、ぶっ続けで4番機の修復作業をしたのだろう。多少ふらついていたり、生気がない。なお、手伝おうとした猫宮はテントから叩きだされていた。
善行は疲れている隊員たちを見渡すと、話しだした。
「おはようございます、みなさん。先ほど、九州中部戦域の全軍に指令が下りました。最重要コードです。幻獣の小隊、幻獣のオリジナルが眠る古代遺跡が、熊本城の地下で発見されました」
そう言うと、一斉にざわつく。
「オリジナル?」 「幻獣のオリジナルって……?」 「な、何で熊本城に……」 「遺跡、そんなのあるのかよ……」
「はい、みなさん気持ちはわかりますが静かに。あそこに古代の山城があったか学者先生の謎も解けたそうです。そこで、それを守るため我が小隊も、緊急配備されることになります」
緊張が高まる一同。
「……今回の戦いは、かつて無いほど大変なものになるでしょう。……予測される戦闘開始日時は、明後日。よって、今日、明日は出撃をせず、最小限の仕事に留めてもらって結構です。……では、解散」
善行がそう言うと、ためらいがちに、徐々に解散していく。そこに、猫宮と芝村が近づいてきた。
「幻獣のオリジナル、妄想がはかどりますね」
「ふん、また妙な言葉を創り出したものだ」
二人の言葉に、善行は苦笑するしか無い。眼鏡を押し上げ、話しだす。
「なんとか、我々の働きもあり危うい均衡を保っていますが――戦局はどうなるかはわからない。なので、ここに賭けに出たのですね」
「戦局が有利な時に活躍するのは偽物、不利なときに活躍するのは馬鹿――有能なものは、均衡状態の時に活躍すると」
「ええ、その通りです。流石に分かっていますね」
「茜の言葉ですけどね」
くすりと笑うと、少し面食らった表情をする二人。
「……ともあれ、価値は作られた。城という要塞におびき寄せられ、幻獣との決戦が始まるであろう」
芝村が滔々と分析する。
「数の利は向こうに、地の利はこちらに。……そして、地の利を最も活かせる部隊は――」
「我らだな」
猫宮の言葉に、芝村が続いた。
「……私たちは、最も辛い地区に配置されるでしょう。……ですが私は、あなた達を決して死なせやしません」
険しい顔の善行の決意に、二人は黙って頷いた。
滝川は、ぼんやりと2番機で調整をしていた。幻獣のオリジナルなんて訳のわからないものが発見され、そして訳もわからぬうちに決戦に巻き込まれるらしい。
「なんか、すげー事になったよなぁ……」
2番機に触りつつ、語りかける滝川。この2番機には、意志があると滝川は思っている。だから、何かあるとこうして語りかけるのだ。そうすると、返事が帰ってくる気がする。その様子を、少し離れたところから森が見ていた。
「滝川くん、よく話しかけてますよね」
それとなく、声をかける森。滝川は森に気がつくと、へへっと笑った。
「ああ、なんかこう、2番機が色々と話してくる気がしてさ……って、変かな?」
「……いいえ、変でないと思います」
士魂号の秘密を知っているが故に、そう答える森。それを聞くと、滝川は嬉しそうに笑って、また2番機を撫でた。
「今度の戦いってさ、今までで一番大変になりそうじゃん? でもさ、こいつと居ると……そして、みんなと居ると……大丈夫な気がしてくるんだよな」
そう言って、優しげに笑う滝川。それを見て、森は不思議な気持ちになる。なんなのかしら……?と戸惑っていると、滝川は森の方に、少し顔を赤くしつつ向いた。
「な、なあ、明日も出撃無い……みたいじゃん。森さんは明日……ひ、暇?」
ぶきっちょで、しどろもどろな滝川のお誘いだった。それに、くすりと笑う森。
「ええ、大丈夫、予定、空いてます」
でも、森はそんな滝川が嫌いではなかったのだ。
瀬戸口は、珍しく指揮車の整備を手伝っていた。田代にあれやこれやを指図され、手を動かす。
「…………」 じ~と、その様子を覗き込む壬生屋。
「おーい、2番スパナ、取ってくれ」
「はいよ、これだな」
淡々と作業をする瀬戸口を、まだじ~と見つめる壬生屋。その様子を面白がっている、整備テントのメンバーたち。
どうも、居心地が悪い……。
「……まったく、何か用かい、お嬢さん?」
やれやれと溜息をつくと、壬生屋に話しかける瀬戸口。びくっとする壬生屋。
「あ、あの、その、えっと……」しどろもどろな壬生屋。
「え、そ、の……お、お手伝いいたしますわ!」
微妙な表情をする瀬戸口。そして、真っ赤になって俯く壬生屋。
「んー、じゃ瀬戸口はタイヤの点検壬生屋と頼むわ」
そう言うと、田代は指揮車の中へと潜っていった。壬生屋は、てててと瀬戸口に近づく。
「あー……じゃあ、やるか……」 「はいっ!」
作業を続ける瀬戸口に、教えられながら点検していく壬生屋。その様子を、ニヤニヤと見守る一同。そして、作業中にも、壬生屋の視線はチラチラと、瀬戸口の方を向く。
「……あー、壬生屋、一体どうしたんだ……?」
非常にやりにくい瀬戸口。壬生屋はあちこちに視線を泳がせた後、深呼吸をして、気持ちを整える。
「ね、猫宮さんに言われたんです。明日をもしれない命、悔いは残さないようにって!」
「あ、あんにゃろう……!」 壬生屋を炊きつけやがったか! と憤慨する瀬戸口。
「だ、だから……その……」 顔を赤くして、それでも意を決して叫ぶ。
「わ、わたくし、速水さんと猫宮さんには負けません!」
「………………は?」
何故、そこで他のレディなどではなく、速水と猫宮が?
「だ、だって、速水さんがバンビちゃん、猫宮さんが2号さんということは、わ、わたくしは3号さん以下ということに…………」
途端に起きる大爆笑。笑い声が、四方八方から瀬戸口に押し寄せる。腹を抱えて笑っている物数名、地面に転がって爆笑している物数名。見ると芝村まで顔を背けて口と腹を抑えている。
今日は、厄日だ。瀬戸口は運命を呪いつつ空を仰いだ。
なお、この後暫く5121小隊の機能が、腹痛により麻痺したことは言うまでもない。
猫宮はまた、大量の荷物を背負い込んで、更には両手にも満載して、えっちらおっちら県道1号を登っていた。ブータも前をのんびりと歩いている。その姿を目ざとく見つけた鳥や動物たちは、楽しみに山へと向かう。中には一緒に歩き出すものも居た。途中で県道を外れて山の中へ。三淵山の山頂まで。
視界がひらけてたどり着くと、そこには大勢の動物たちが集まっていた。荷物をおろし、袋や缶を開ける。そうして、それぞれ置いて行くと、我先にと集まる。ブータは猫宮の隣で高級猫缶を、美味しそうに食べていた。その様子を、微笑んで見ている猫宮。
「若人よ、何をそんなに迷っている?」
ブータが、ふと話しかけてきた。
「あ、いえ……」
「遠慮することはないぞ、人族の戦士よ。我らは盟友なのだ」
そう言われて、猫宮は目を閉じる。
「……これから、あしきゆめだけでなく、あしきゆめに味方する人間も、我々を襲ってくるでしょう……。その時に、どうかお手伝いをお願いしたい」
そう言うと、猫宮は頭を下げた。
頭を下げた猫宮に、テテテテと、駆け寄ってくるリスの近衛隊長。目の前で、片手でナッツを持ちながら、敬礼をする。わふっ、とペスの声が、にゃ~と、みけの声もする。周りの動物たちが、声を上げて猫宮に同意した。我々に、任せろと。
「……驚いたな、これは……」
後ろから、声がした。驚いた顔をしているのは、矢作曹長である。更に、見知った憲兵も何名か居た。驚きつつ、辺りを見渡す。周囲には、雑多な動物が集まっていた。
「……時々、君がこうして大量の食料を買い込み山に登るので気になってみれば……」
本来なら、一緒の場所にいないであろう動物たちが、同居していた。そして、何やら装飾品を身に着けた動物までいる。
「……これが、君の『情報元』、なのか……?」
猫宮が、雑多な動物と居るところは何度も何度も何度も何度も確認されている。というよりも、なにか事件が起きるたびに必ず猫宮は動物に餌を与えていたのだ。そりゃ誰だって疑問に思うだろう。
「ええ、そうです。随分とお高く付きますけど」
猫宮はそう言ってくすりと笑う。
「なるほど、そうだろうな……」
半ば呆れた様子で、憲兵達は頷いた。何やらしゃがみこんで手を伸ばす者もいる。
「まったく、こんな情報源があるなら先に教えて欲しかったのだが」
「だって、いきなり言っても普通誰も信じませんよね? ここまで実績が上がってようやく信じられるようになると」
そう言われ、彼らは苦笑するしか無い。
「……で、彼らは……我々にも協力してもらえるのか?」
憲兵達は、動物たちを見渡して言った。それを聞くと、各々が一斉に自分の食べている物を翼で、前足で、手で指し示す。
「……なるほど、タダ働きはダメだな」 「ナッツにレーションに……猫缶、犬缶、鰹節……味のバリエーションも多いな」
「後、安物でもダメです」
そう言われ、彼はかかる経費をどう捻出するかと頭を捻る。経費の一部として詰問されたら、一体どう答えればいいのやら。
「ああ、それと……」
「それと?」
「彼らは部下でも道具でもない、協力者ですからね?」
「……なるほど」
そう言われて、憲兵たちは納得し頷いた。そして、彼らに向かって頭を下げる。
「食料と引き換えに、どうかご協力をお願いします」『お願いします』
その矢作ら言葉に、動物たちはそれぞれの声で答えるのだった。
熊本城決戦まで後2日。今日と明日で、大掛かりな共生派狩りが、とり行われる。
動物と軍のあからさまな協力は、津軽に攻め込まれた辺りで始まっていましたが、こちらは水面下で憲兵と協力するように。テロリストは徹底的に狩り出します。
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