ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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色々とゴタついて連続更新記録がストップしてしましました……どうも申し訳ございません。
後、ペルソナ5が面白すぎてヤバイです。
で、でも、更新はなるべくできるように頑張ります!


絶望を遠ざけて

 4月23日の朝、猫宮は4番機に乗り込み、土木1号と2号から借りた士魂号用のスコップなどを使い、熊本城に隣接する公園で、土木工事を行っていた。人間のように器用にスコップを使い、すさまじい作業効率で、戦車用の堀を掘ったり、土を盛ったり塹壕を掘ったりと、陣を建設する手伝いをしていた。この人目をつく機体は、近くで作業していた他の兵が作業を何秒か止めるには十分な威容を持っていた。最も、その後すぐにどやされるのだったが。

 

 ここには、5121の整備テント及び、黒森峰・聖グロリアーナの整備・補給拠点が設置される。ある意味で今作戦の、最重要拠点の一つと言っても良い。とにかく、補給ができないなんて事態を避けるために、猫宮はありったけの火器を用意していた。更に、幻獣の蠢いていた地下道は今回予め徹底的に掃除されていた。若宮と来須も、はじめからこの拠点に張り付ける。

 

 

 防衛戦力は、原作より遥かに強力だ。……と言うより、原作があまりに何も対策をしていなかっただけとも言えるが……。用意できた武器は小隊機銃3機、92式自動砲、99式40mm擲弾銃にサブマシンガン多数……しかし、それでも100%大丈夫と言えないのが、戦争の恐ろしいところである。

 

「塹壕掘って、退避壕掘って、土を盛って設置兵器の防御力を高めて……速乾性コンクリートがないのが痛いな……トーチカが作れなかった……」

 

 士魂号の視点から、即席の陣地を見下ろす。学兵にしては、贅沢な陣地といえるだろう。あくまで学兵基準ではあるが。

 左右を見渡せば、この陣地の内外で、仲間たちがそれぞれの時間を過ごしていた。その様子を微笑んで見ていると、通信が入る。

 

「猫宮君、ご苦労様です。君もそろそろ休憩を。――こんな時だからこそ、仲間達と過ごすのもいいでしょう」

 

 穏やかな声色の、善行の声だ。

 

「あっ、はい、了解です! それじゃ、整備テント、入ります」

 

 通信を入れると、整備テントの入口付近から人が退く。その中に、4番機を入れて、コックピットから出る。鉄と土と汗とウォードレスと燃料と……様々な匂いが漂ってくる。戦場の、匂いだ。血と体液と酸と煙の匂いはまだ、無い。その事が、戦闘はまだ起きていないと実感させてくれる。

 

 端末を取り出すと、若宮と来須が既に各地の陣地の添削をしていた。武器の融通は――そもそも何処も余っている所がない。要するに、特にやることがなく休憩しても大丈夫だと言うことだ。

 休むのも仕事の内、それに適度に休まないと石津さんにまた心配されるし――そう思うと、近くの草原に寝っ転がった。

 

 

 

 

 黙々と整備をしていた田辺は、作業が一段落すると整備テントの外へと出た。あんなにのどかだった公園は、すっかり様変わりしていた。あちこちの土は掘り返され、邪魔な樹木は根こそぎ引っこ抜かれ、変わりに地雷と鉄条網が植えられている。それは何だかとても悲しい光景だと、田辺は思った。

 

 足を止めて放心したかのようにその光景を眺めていると、不意に声がかかった。

 

「どうされましたか? 田辺さん?」

 

「あっ、と、遠坂さん」

 

 慌ててペコリと頭を下げる田辺。それに、遠坂は何時ものように爽やかな笑顔で話しかける。

 

「ははは、お邪魔してしまいましたか?」

 

「あ、いえ、そんな事無いです! すみませんすみません!」

 

 思わず勢い良く頭を下げて、メガネを落としてしまう田辺。慌てて拾おうとする動作に先んじて、遠坂が拾う。

 

「あ、ありがとうございます! すみません、こんな事させちゃって……」

 

「そうですね、ではお礼代わりと言っては何ですが……貴女がこの光景を見て何を感じていたかお聞かせ願えませんか?」

 

 拾った眼鏡を田辺に渡し、尋ねる遠坂。それに田辺はまた風景を眺めつつ答えた。

 

「あ、大したことじゃないんです。ただ、あんなにのどかだったのにこんなに変わってしまっていて……」

 

 飾らない、素朴な思いだ。きっと、様々に感情が入り混じっているのだろう。

 

「……そうですね。こんな光景を見ていると、本当に人類は大丈夫なのだろうか、と思うこともよく有ります」

 

 憂う表情で言う遠坂。かつて、自分は共生派の集まりに参加していたこともある。こんな世界が醜く見えていた時の事だった。――ひょっとしたら、今も心の何処かに残っているのだろうか……。そう、自問自答をする遠坂。その表情を見た田辺は、遠坂の方へ向き直ると声を上げた。

 

「き、きっと大丈夫ですよ、遠坂さん!」

 

「大丈夫……とは?」

 

 田辺からの、意外な勢いの言葉に、遠坂は少々驚いた。

 

「私、思うんです。明日はきっといい日だって。昨日よりも今日よりも、明日はきっといい日だって。裏づけないけど、そう思うんです。明日は、きっといい日になります。いつも、努力してるじゃないですか。昨日よりも今日よりも、明日は努力した分だけ、きっと前に進んでますよ。努力は報われないときもあるけど、それよりももっともっと努力すれば前に進めます。-1+2なら答えはプラスになるんです。-1億+1億1でも、答えはプラスです。だから、昨日よりも今日よりも、絶対に明日は良くなります。努力する限り。先に寿命が尽きるかもしれないけど、その時は天国で努力すればいいんです」

 

 その時、遠坂には訴えかけてくる青い髪の田辺が、綺麗な青い髪の女神に見えた。

 

「だから、こんな光景が広がっても、また塹壕を埋めて木を植えて、もとに戻していけばいいんです、そうすれば、前よりもいい景色に出来ると思うんです」

 

 そう言う田辺の輝きに、その時きっと遠坂は見惚れていたのだろう。そうして、決意を決めるタイガー。

 

「――そうですね。田辺さん、貴方のお陰で目が覚めました。なので、どうかお願いです。是非、その貴方が今履いているソックスを――」

 

 その結末は、語るまでもないだろう。

 

 

 

 石津は、ヨーコと一緒に5121小隊の備品をチェックしていた。医薬品だけでなく、チョコレートなどの嗜好品から運び込まれた食料、弾薬の数に予備部品と、一つ一つ丹念にチェックをしていく。幸い、エース部隊となった5121の名声、そして猫宮がかき集めた分や、裏マーケットの親父の寄付、派閥争いのために提供された分などで、極端な不足はなかった。

 

「……今のところ……は……大丈夫……」

 

「エエ、これで皆さんが怪我をしても安心デス」

 

 穏やかな表情をしている二人。この小隊の中でも、特に心優しい二人だ。

 

「ご苦労様です。何か不足しているものは有りますか?」

 

 そこへ、隊の様子を見て回っていた善行が二人へ声をかけた。それに、石津はふるふると首を横に振って答える。

 

「そうですか、それは何よりです」

 

 善行には、石津へ少々負い目があった。かつて5121小隊が発足する前、原、森、両名からの虐めに気がつけなかった。一人、雨の中で佇むほどに思い詰めていたらしい。それからは、善行も更に彼女を気にかけるようになった。最も、今の5121でその心配は杞憂だろうが。

 

「……司令……これ……」

 

 そんなことを思っていると、石津から錠剤を幾つか手渡される。

 

「これは?」

 

「……疲れが見える……それに……少し、寝不足気味……かも……」

 

 心配そうにこちらを見てくる石津。

 

「とっておきのコーヒーデス、是非飲んで下さイ」

 

 そして、横から保温ジャーに入れられた温かいコーヒーを差し出すヨーコ。

 

「ありがとうございます」

 

 そんな二人の気遣いに、善行は優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 茜は、猫宮、若宮、来須監修の陣地を見回っていた。コンクリートなどの建築材が足りないのは不満だが、しかし一々理に適っていた。

 ――などとそんな事を思っていても、胸のもやもやは消えなかった。自分以外の全員が定職に就いていた。それに引き換え、自分は指揮車の整備を田代に取られ、一人無職で全員の雑用である。

 自分の長所は、この頭脳なのに――! 実際、戦術の計画案やら戦闘の分析レポートを出すと、善行や猫宮に褒められることもあった。しかし、あくまでも仕事ではなくほとんど趣味のような領域にすぎない。全員が役に立てている中、自分だけが置いて行かれているような気がして、悔しかった。

 

「くそっ、くそっ、くそっ!」

 

 あの、当初は冴えなかった滝川も、さっき会った時には一人前の戦士の顔をしていた。寂しさに、思わず座り込む茜。

 

「……何やってんだ? お前?」

 

 そこに、田代が現れた。ドラムマガジンを装填してあるサブマシンガンを腰に据えていた。

 

「……そっちこそ、何をやってるんだよ?」

 

「あ? 俺か? 俺はこの空気が懐かしくてな。その辺ぶらついてたところだ」

 

 かつてはスカウトだった田代は、整備テントの空気より、こういう雑多な戦場の空気が好きだった。

 

「……僕もぶらついていただけだ」

 

「嘘つけ、そんな顔しやがって。何があったんだよ?」

 

 意外にも踏み込んできた田代に、茜は内心少しびっくりするも、つっけんどんに言う。

 

「……関係ないだろ、そんなこと」

 

 田代は、自分から職を奪った相手でもある。あんまり、話す気にもなれなかった。

 

「まあ関係ねーけどよ、お節介ってやつだよお節介」

 

 そう言うと、茜の横にドカリとあぐらをかいて座る田代。身長が高く、座っても自分が見上げる形になる。そして、更に意外なことにどこと無く女性らしい香りが漂ってきた。

 

「……一体どういう風の吹き回しだ?」

 

「なーに、あの猫宮だの芝村の姫様だのにすんげーお節介されてよ……。ま、そんなのも悪くねえなって思っただけさ」

 

 田代にもか……僕にも、あんな……と、暗殺失敗のときのことを思い出して更に体育座りの腕に力を込める茜。その様子を見て、茜の背中を田代はバンっと叩いた。

 

「うわっ!?」

 

「ま、そんな悩んでるならとりあえず話してみろよ。おねーさんが聞いてやってもいいぞ?」

 

 そう言う田代。茜はしばらく迷っていたが、やがてぽつりぽつりと話し出すのだった。

 

 

 

 草原に寝っ転がっている猫宮。周りの風景でなく、空だけを視界に入れても、やはり戦場の音は響いてくるものだ。そして、聞こえてしまうとどうしても、戦争のことに考えが向く。我ながら因果なものだなぁと苦笑していると、突然ぬっと速水が覗き込んできた。

 

「やっ、クッキー焼きすぎちゃったんだ。食べる?」

 

「ん、食べる!」

 

 そう言われると、よいせっと勢い良く上半身を跳ね上げる猫宮。速水はクッキーの包みを広げると、保温ジャーに入れていた紅茶も取り出した。

 

「それじゃ、頂きますっと。うん、相変わらず美味しい」

 

 サクサクとしたクッキーの甘みを、紅茶の味でリフレッシュさせ、またクッキーを齧る。そうしていると、滝川もやってきた。

 

「お、こんなところでもクッキーかよ速水。俺にもくれよ」

 

「うん、食べて食べて」

 

 滝川の分も紅茶を入れると……ひょっこり壬生屋も覗いていた。おいでおいでと手招きする猫宮。すると、恥ずかしそうにおずおずとやってくる。

 

「ふむ、こんなところでパイロットが集まっているとは……戦術会議でもしていたか?」

 

 と、芝村までやってくる。

 

「いや、自分が寝っ転がってたら何かみんな集まっちゃって」

 

 と、猫宮が笑いつつクッキーを齧る。

 

「ふむ、そんなものか」

 

 と、芝村も速水の横にどかっと座り込む。クッキーと紅茶を口に入れ、のんびりする一同。ゆったりとした、パイロットたちだけの時間だった。

 

「なんつーかさ、色々とあったよな~」

 

「あったね、色々と」

 

 滝川の言葉に、速水が頷いた。

 

 第62戦車学校に入学してからは、怒涛のように時間が過ぎていった。訓練訓練また訓練、負けたらすぐにやり返し、シミュレーターに乗ったと思ったらあっという間に実戦で。初陣からあっという間に厳しい戦区にたらい回し。そして、黒森峰と出会ってからは全軍のエース部隊に。グロリアーナと合流してからは更に強化された。胸を見ると、全員が勲章をぶら下げている有様だ。自分の胸にも、黄金の勲章が輝いている。それが、何だか滝川にはおかしかった。

 

「ふむ、滝川らしい表現だな」

 

「何だよ、俺らしいって?」

 

「でも、それ以外、きっと言い様がありませんわ」

 

 芝村が何やら納得して、滝川が口をとがらせ壬生屋がそれを笑う。

 

「これまでも色々とあったけど、きっとこれからも色々とあるんだろうね」

 

 優しい猫宮の声だ。

 

「そうだな」 「そうだね」 「そうですわね」 「そうだよな」

 

 他の4人も、それぞれがそれぞれの言葉で同意する。かつて無い、戦闘の予感がした。きっと、凄まじい激戦になるだろう。しかし、なぜだか絶望とは程遠い気がした。芝村も、計算して出した生存率を、頭から投げ捨てた。この小隊に、そんなものは不要だと、何故か思った。

 

 青い空の下、全員が未来に思いを馳せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久しぶりな5121回。そして、茜と田代の伏線もちょくちょく入れていくスタイル。
そして田辺のあのイベントは特に大好きなイベントです。

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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