ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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活動報告に有る「2」は大体こんな話が増えます。
思いついたので、一気に書き上げてしまいました。



変わる、運命【episode TWO】

「ほらっ! もっと深く、そして土もちゃんと盛れっ! ちょっとしたことで生死を分けるんだからな!」

 

『はいっ!』

 

 朝、玉島聡史は外の兵をこき使いつつ、塹壕を掘らせていた。そしてある程度出来上がったそれを端末で撮ると、その画像を通信ツールを使い、アップロードする。

 

『こちら不知火町戦区塹壕、添削をお願いします』

 

 タイトルをこう付ける。そうして、少しして、メッセージが帰ってきた。

 

『ふむ、まあ悪くないな』 若宮

 

『うん、大丈夫。そして東側にも機銃設置忘れないようにね』 猫宮

 

『不知火町か……迫撃砲2機回せるけど持っていきますか?」 岸上

 

『是非お願いします』 玉島

 

『迫撃砲を使うなら着弾点は橋の前に集中しろ。そこに小型が集まる」 来須

 

『ん、迫撃砲配置するならここかな。守ってね』 猫宮

 

 火力を融通してくれるらしい。そして、配置場所も地図で指定されてきた。本当に、ありがたい。

 

「おい、お前ら、迫撃砲が2機来るぞ! 隠蔽場所も作る、場所はここだ!」

 

『了解です!』

 

 他の学兵を前にして、取り仕切る玉島。

 

「へへっ、俺が、こんな事やってるなんてな……」

 

 

 

 玉島聡史は、取り巻きを引き連れて新市街の路地裏に居た。いわゆる不良だのと呼ばれるたぐいの人間であり、今日もまた、哀れな獲物を取り囲んでいた。

 怯える学兵。そうだ、弱者は食い物にされる……俺達が、国に食い物にされているように。だから、何が悪い。そう思うと、嗜虐心などが湧き上がってくる。

 

「ほら、ちょっとジャンプしてみろよジャンプ」

 

「へへっ、一体幾ら持ってる?」

 

 正直、学兵が持ってる金など大したことがない。だが、こうやって、皆で何かをすることで結束が高まる。そして、心にも暗い歓びが走る。

 怯えて跳ねる学兵、チャリンチャリンと硬貨の音が鳴った。

 

「何だよ、まだ持ってるじゃねえか!」 「てめぇ、舐めてんのか!?」 「ひいっ!?す、すいません、で、でも、これくらいないと、ご飯が……」

 

「うるせえ!とっとと出しやがれ!」 そう、一喝する玉島。こういうのは、リーダーが積極的に決めねばならない。絶望に怯える学兵、その顔を見ると――

 

 

「はいはーい、ストップストップ。まーただよ……」

 

 唐突に拍手の音と気の抜けるような声がした。振り向くと、長髪でメガネを掛けた学兵が、うんざりした顔でこちらを見ていた。

 

「何だテメエは!?」 

 

 玉島が凄む。だが、目の前の学兵は微塵も意に介さない。数にも玉島の威圧にも、まったく怖じてない様子だった。

 

「んー、通りすがりの人助け。で、止める気無い?」

 

「へっ! たった一人で何が出来るってんだよ!」

 

「舐めてんじゃねえぞ! ぁ!?」

 

 3人ほどが、学兵の前へ行く。3方から凄んでいる。

 

「えーと、これで35グループ中35グループが話に応じずと…はぁ……」

 

 わけのわからないことを言う学兵。そして、溜息をつくと、体が、ブレた。

 

「がっ!?」 「げはっ!?」 「ぐあっ!?」

 

「「「なっ!?」」」

 

 何をしたのか見えなかった、だが、一瞬で、3人が倒れ伏した。

 

「て、てめぇ……いてええっ!?」

 

 玉島が懐からナイフを取り出して……、手を抑えてナイフを取り落とした。チャランという金属音と、コツンという石が落ちる音がしたかと思うと、目の前に、学兵が迫っていた。懐にとんでもない衝撃、立っていられなかった。

 

「ぎゃっ!?」 「うわあっ!?」

 

 他、2人も倒れたようだ。玉島のグループは、あっという間に壊滅した。そして、ナイフを拾う学兵。

 

「ねえ、このナイフで何をするつもりだったのかな……。脅し……それとも、殺し?」

 

 心の底から、恐怖した。学兵の目が、表情が恐ろしかった。見下され、ナイフを向けられる。絶対的な『死』が感じられる。と、ナイフを振り下ろしてきた!

 

「ひっ!?」

 

 顔のすぐ横に、突き刺さる。

 

「これは脅しの道具じゃない。殺しの道具だ……覚えておきな」

 

 そう言って、ナイフを投げ捨て何処かへ連絡する学兵。そして、その学兵に何度も頭を下げてお礼を言っている脅していた奴。

 

 少しすると、憲兵隊が飛んできて、拘束された。学兵が何度も頭を下げているとこを見ると、憲兵の密偵でもやっていたのか、畜生め……。

 そして、連れて行かれる直前、何やらその学兵は、白い猫に餌をやっていた。

 

 

 詰め所で、こってりと絞られる。結局、釈放されたのは翌日の朝だ。6人が、ぞろぞろと出てくる。皆、落ち込んでいた。

 

「やっ、元気?」

 

 昨日の学兵の、声がした。一瞬で恐慌状態に陥る6人。

 

「あー、別に取って喰いはしないよ?」

 

 苦笑する学兵。だが、眼鏡も長い髪も無かった。

 

「な、て、てめえ……」

 

「ああ、この格好? 昨日のは変装」 くすりと笑う。何だか、得体が知れない。

 

「はい、これ」 1枚の地図を渡してくる学兵。地図だ。そして、赤丸が示してある。

 

「な、何だよ、これ……」

 

「明日9時、合同訓練。ま、死にたくないなら来ると良いよ? 生存率は上がることは保証する」

 

 それだけ言って地図を渡すと、その学兵は街の中へと消えていく。赤丸の場所は、訓練場だった。

 

「な、なあ、どうするよ……」

 

「行って……みるか……」

 

 何も、することはなかった。だが、ただ死にたくはなかった。だから、ほんの気まぐれだった。

 

 

 

 朝9時前、指定された場所へ向かうと、学兵でごった返していた。見ると、自分よりガラの悪そうなのや、女子生徒、普通の連中まで、多種多様だ。

 何やら並んで署名しているのが見える。一人の学兵を、呼び止めて聞いてみた。

 

「なあ、あれは何を並んでるんだ……?」

 

「お、お前は初めてか。あそこはな、自分の所属やら階級やら、一緒に来た人数を書くんだ。とりあえず、今からでも書いておけ」

 

「お、おう、サンキュー」

 

「んじゃ、訓練キツイけど頑張れよ!」

 

 そう言って、励まされた。仕方ないので、並ぶ。署名をする前に見ると、雑多なところから集められた、文字通りの寄せ集めといった印象だ。

 

「……ひょっとして、このまま独立混成小隊にでも送られるんじゃ……」 そう、嫌な予感がした。

 

 

 そして、9時、昨日の奴が壇上へと上がる。その横を、2人の兵が固めていた。どちらも、一目見ただけでやばいと思わせる生粋の兵だ。

 

「はい、合同訓練に集まっていただきありがとうございます。教官は引き続き自分、猫宮悠輝と若宮照光十翼長、来須銀河十翼長の3名です! そして、既に経験者の方もいらっしゃると思うので、その方々は是非お手伝いをお願いします。では、本日のプログラムですが……」

 

 聞けば、塹壕のちゃんとした構築方法や幻獣の効率の良い殺し方や対処法を教えてくれるらしい。

 

 

「ふむ、やっぱり新顔も大分見るな……よし、新米はこっちへ来い! まずは基礎の基礎から教えてやる!」

 

 教官のクソッタレな笑顔でいるのは、若宮という奴だ。無性に反発したくなったが、実力差が目に見えている。だから、おとなしく従った。

 

「よし、まずは基本的な配置だが……」

 

 若宮は、端末やボードを使い、塹壕の作り方、設計、等を分かりやすく説明していく。特に、塹壕の作り方は目からうろこが落ちるかのような工夫も多かった。

 

「クソッタレ……」 思わず、言葉が漏れた。

 

「そこっ! 何がクソッタレなんだ言ってみろ!」

 

 怒声が飛んできた。その迫力に、思わずたじろぐ玉島。

 

「は、はっ! このことを知っていれば、死んでいる仲間が少なかったであります!」

 

 思わずの、敬語が漏れた。しかし、魂の叫びだった。

 

「そうだ、ほんの僅かな知識の差が生死を分ける! だから、それをお前たちに教えてやる! どうだ、嬉しいか!」

 

『嬉しいであります!』

 

「よおし! おい、そこの! 今のは見逃してやる! だから、全部覚えていけ!」

 

「はっ! 了解であります!」

 

 敬礼が、敬語が、自然と出た。クソッタレな上官でない、自分たちを心から案じてくれている兵が、目の前に居たのだ。自分よりもガラの悪い奴らが、素直に従っている理由が、玉島には心から理解が出来た。

 

 塹壕を掘らされ、怒声を浴びせられ、手直しをさせられる。だが、誰も不平を言う人間は居なかった。

 

 

 肉体労働で疲れた後は、休憩も兼ねて講義である。そこでは、猫宮が端末やボードを使い、基本的な戦術を教えていた。

 

「と言う訳で、歩兵は打たれ弱い、火力も弱い、足も遅い。だけど、隠れられるし陣を作れると言う事で……」

 

 知らなかったから、死んだ。知っていれば、生き残れるかもしれない。そんな、知識ばかりだった。多分、ここまで本気で勉強に取り組んだことは生まれて初めてだろう。

 

「良いか、小型幻獣とは絶対に広い場所で戦うな。家の中、廊下、路地裏……とにかく攻められる方向を限定しろ」

 

 生き延びてきた兵の、生の経験が、戦訓が、与えられる。ノートを取り、時に質問が飛び、真面目な雰囲気で進んでいく。

 

 

「はーい、皆お待ちかねのお昼です! 炊き出しのご協力は、熊本農協と漁業組合の皆さんの提供です!はい、拍手!」

 

 拍手が漏れる。先程から、いい匂いが漂っていた。行儀よく並び、大盛りの汁物とおかず、そして沢山のジャガイモが盛りつけられる。

 時々ありつける、あの炊き出しの味だ。何度も噛み締め、味わう。いくらでも、入りそうだった。

 

 ふと辺りを見渡すと、皆笑顔で頬張っている。笑顔でないのは……教官3人が相談をしながら食っている程度だろうか。

 

「美味いな……」

 

「ああ、ホント美味い……」

 

 一緒にやってきた不良仲間と、そう言いながら食べる。腹も、心も満たされる。そんな気がした。

 

 

「……白兵戦は最後の手段だ。極力、やるな。だが、どうしてもやる時は……後ろから、背中をバッサリとやれ」

 

 午後、実際の戦闘技術を叩き込まれる。ナイフ、カトラスの振り方、銃の撃ち方などなど……。

 基礎を再び叩き込み、何度でも。何度か通っている奴もまた、時々来須に矯正される。自分も何度か、すさまじい力でフォームを矯正された。

 時々、他の経験者と思われる先輩からも、アドバイスを受けた。嫌では、無かった。

 

 

 そして、最後。ここに来るのが初の連中に何やら、最新型の端末を1グループに1台渡された。高そうな装置に、困惑する一同。

 

「はいはーい、それじゃあ、この端末の使い方を教えます。充電式だから、できるだけ充電していてね!」

 

 そうして、この端末にインストールされた様々な機能を教わる。

 

 写真を撮って送ったり、掲示板のようなところに話題を書いて議論したり、送られた写真を加工してアドバイスをしたり、地図と衛星画像の複合的な組み合わせのツールが有ったり、複数人と同時に通話ができたり……そして、指紋認証やら多目的結晶を使ったセキュリティ。

 

「な、何だこりゃあ……」

 

 明らかに最新型の端末だ。それを、ポンと渡すとは……。しかし、そんな疑問は片隅において、必死で使い方を覚える。これさえあれば、これがもし有ったなら……そんな思いとともに。

 ふと周りを見れば、連中もそう思っているのだろう。鬼気迫るとも言える、そんな表情で学んでいた。

 

「あ、あの、これ、軍の支給品ですか……?」 と、誰かが聞いた。そして、それ皆が気になっていることだった。

 

「いや、遠坂財閥から自分がもらってきたやつ。だから、軍の支給品じゃないね」

 

『っ!?』 一斉に、息を呑む気配がする。

 

「と言う訳で、塹壕の作り方とか、布陣とか、悩んだら相談してね! 教官の誰か教えるから! というわけで、本日はこれにて解散!」

 

 ここにいるのは、皆ここに来たのが初めての連中である。だから、みな困惑していた。どうして、1文にもならないことにここまでしてくれるのかと。

 だから、玉島が聞くのも、必然だった。

 

「な、なあ……どうしてここまでしてくれるんだ……?」

 

 その問に、もう何度も答えてきたとばかりに、笑顔で答える猫宮。

 

「人が人を助けるのに、理由なんて居る?」

 

『っー―!?』

 

 心に、衝撃が走った。

 

「と、言うわけ。だから、これから弱い者いじめとかしちゃダメだよ? じゃ、皆で生き延びよう!」

 

 おー!と、手を伸ばす猫宮。 それに、全員が思わず手を伸ばしていた。 

 人として扱われなかった学兵たちが、人として扱われる。こんなに嬉しい事は、無かったのだ。中には、泣き出す奴も居る。

 それを、猫宮は何処までも優しい笑顔で見守っていた。

 

 

「隊長、近づいてきます!」 

 

 部下の報告で、回想から現世に意識が戻る。

 

「よし、線を超えたら一斉に射撃しろ!機銃手、ぬかるなよ!」

 

『了解!』

 

 小型幻獣が殺到してくる。それを、迎え撃つ塹壕陣地。借りてきたのと合わせて4機の迫撃砲は、既に何度も大量の小型幻獣を消滅させていた。だから、何時もより来る数が少ない。

 それを、多数の小銃と、3丁の小隊機銃が迎え撃っていた。もし、近寄られても、およそ半数の兵がサブマシンガンを持っていた。

 

 安定している戦場、それでも中型が少しずつ迫っていた。

 

「よおしっ! 投擲兵、手榴弾、おもいっきりぶん投げてやれ!」

 

『了解!』

 

 肩のいい兵を選別して、重い手榴弾を投げさせる。弾着、そして大爆発。ミノタウロスの体制が崩れた。

 

「今だ、2番機銃、ミノスケに撃ちこめ!」

 

 機銃の1丁の火線が、ミノタウロスに集中する。単独では10秒以上銃弾を叩き込まんければ効かない12.7mm機銃であるが、大型手榴弾で弱っているなら別である。わずか数秒の射撃でミノタウロスが倒れ伏す。

 

 周囲で歓声が上がった。

 

「まだまだ油断するなよ!」

 

『了解!』 

 

 それを引き締める玉島。戦況は、危なげなく推移して、そのまま幻獣が撤退、他の部隊が追撃していく。

 今日生き延びたことを、抱き合って喜ぶ兵たち。そして、玉島は頼りになる隊長として、讃えられる。こんな日が来るとは、思っても居なかった。でも、充実感を覚えていた。

 何だか、生き延びれそうだ。そう、思った。

 

 史実の不知火塹壕陣地――全滅、生存者無し。

 本日の不知火塹壕陣地――死傷者・0。

 

 

 

 

 

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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