ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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決戦――今ここにいる戦友の為に

 マーフィーの法則によれば、悪くなる可能性のあることは必ず悪化するらしい。それを、善行は今思い出していた。

 

 

「1号車、被弾! 自走不能です!」

 

「搭乗員は!?」

 

「だ、大丈夫です、死者は居ないようです!」 

 

 武部の悲痛な報告が響く。

 戦闘からはや3時間、幾ら何度か休憩を挟んでいるとは言えこの限りない幻獣の群れに、全員が疲弊していた。そして、よりによって自走不能になった車輌は隊長機のものであった。

 

 

「3番機、救助に向かう!」

 

 近場に居た3番機が援護に入ろうと、1号車の側に居たナーガにジャイアントアサルトを撃つ。2射目を撃とうとしていたナーガの体が粉砕され、体液があたりに飛び散った。

 

「1号車、周囲に小型がまだ居る! 掃除してから出てきて!」

 

 そう拡声器で速水が呼びかけると、多目的結晶の短距離通信で『了解!』との返事が来た。どうやら、車輌の無線機もやられたようだ。

 

「奴らは全員車輌の中だな、よし、グレネードで一掃する」

 

 そう言うと芝村はは右腕の40mmグレネードをL型周囲に向けて発射した。被弾箇所の付近は避けたが、それ以外の広範囲を蹂躙する。残った細かいのは、ガトリングの方で片付けた。

 

「周囲のは片付けたよ、急いで!」

 

 速水の声に、了解との返事が帰ると、ハッチが開き中から搭乗員が這い出してきた。ひとり、ふたり……しかし、3人目が遅い。見ると、先に出た一人がハッチの上で、更に下からまほが一人を押し上げていた。もう一人は周囲を警戒している。どうやら、怪我をしたようだ。

 

「一人、足を負傷している!」

 

「くっ、こんな時にか……滝川、運べるか!?」

 

「おわっ!? ま、待ってくれ、今は無理!」

 

 芝村の言葉に滝川はネガティブな返答を返した。3番機が救助に動いた今、滝川は全速力で2番機を動かし、地形を盾にしながら何とか囮役を務めていた。

 

「滝川、変わるから運ぶのをお願い!」 

 

「了解!」

 

 速水が1号車の周囲を警戒しながら言うと、滝川も了承した。

 

 陣地までの距離は約700m、ウォードレスで走れば2分も有ればたどり着ける距離だが、戦場で一人を運びながらではその距離が絶望的に遠い。滝川と交代しようとした時、また予想外の事態が起きた。

 

 まほの指揮の不在と、戦力の低下により1体のミノタウロスを撃ち漏らした第1小隊。1号車と3番機に向け、突進を仕掛けてきた。

 

「っ!」

 

 芝村がジャイアントアサルトを打ち込むが、両手で腹と頭を隠したミノタウロスは止まらない。そう判断した速水は、1号車の前に立つと盾になるべく立ち塞がった。

 振り上げた豪腕を躱しつつ、腹に渾身のパンチを叩き込んだ。

 爆発し、至近距離で強酸性の体液を浴びる3号機。パンチを叩き込んだ右手が吹き飛んでいた。

 

「3番機、右腕消失――大破!」

 

 出た被害報告に、更に衝撃が走った。

 

「おいっ!? 速水っ!? 芝村っ!?」

 

「芝村さんっ、速水さんっ! 無事ですかっ!?」

 

 滝川と壬生屋が叫んだ。

 

 

「くっ……残存部隊は、1号車及び3番機搭乗員の生存を最優先に!」

 

 そう、善行が命令を下す。ここで中核の人員を失うわけには行かなかった。

 

「猫宮君、そちらの状況は!?」

 

「ただいまスキュラの真下で射撃中! 今抜けたらこの陣地落ちます!」

 

「わかりました。なるべく早く戻ってきて下さい」

 

「了解です!」

 

 また熊本大ポイントにやっていた猫宮にも通信を入れたが、そちらも手が放せないようだ。悪いことに悪いことが重なる――戦場で起きる最悪のパターンに、善行の頭脳がフル回転していた。

 

 士魂号もL型もそれぞれが囮として入れ替わり、敵の進行を食い止めていた。ただでさえ猛攻を受けているのに、主力がそれぞれ落ちていて、余裕がなかった。他の陣地からの砲撃も、朝から比べて頻度が落ちている。整備陣地から呼ぶにも、車輌がなくて遠い。一体、どうすれば――

 

 そう善行が思考の底に陥ってると、驚いた瀬戸口の声がした。

 

「ばっ!? お、お前ら!? 一体何やってんだ!?」

 

「もちろん、ダチを助けに行くに決まってんだろ!」

 

「危険過ぎるぞ、引き返せ!」

 

 瀬戸口が、珍しく声を荒げて言い合っている。

 

「一体どうしたんですか?」

 

「どうしたもこうしたも、田代や遠坂が軽トラで乗り付けようとしてるんですよ!」

 

「それは……」

 

 思わず問うた善行が、絶句した。こんな戦場に軽トラで乗り付けるなど、正気の沙汰ではない。自衛軍ならば禁固刑すらがありうる。

 

「危険です、今すぐ戻って下さい」 と、善行も瀬戸口に続いて言う。

 

「危険も何も、ここは戦場、何処へ居ても危険でしょう。それに、彼らが戦えなくなればどのみち私達も危なくなります」

 

 そこに、遠坂の柔らかな声も入る。その通信に「おらおらっ!退きやがれ!」という田代の怒鳴り声と銃声がするに、トラックから銃撃しているようだ。

 

「ウチらも、パイロットの皆の役に立ちたいんや!」と、加藤の声までしてきた。

 

 呆気に取られつつも問答しているうちに、軽トラが1号車と3番機の地点までやってきてしまった。まほを含めた搭乗員達も、皆呆気に取られた。

 

「ほらっ! とっとと怪我人乗っけな!」

 

「あ、ああ、分かった、感謝する!」

 

 そう言うと、3人は負傷した一人をトラックの荷台に運び入れた。

 

「ああ、これは痛いやろな……ちょっと待ってや」

 

 と、加藤が運転席から降りて、ポーチからモルヒネを取り出してぶっかけた。

 

「っ~~~~~! あ、ありがとう……」

 

「どういたしまして、や!」

 

 

 一方、田代と遠坂は歪んだコックピットをこじ開けようとしていた。

 

「おい、なんとかなるか……?」

 

「ええ、任せて下さい」

 

 遠坂が整備のスキルとウォードレスの怪力を活かして、外からこじ開けた。開くと、中に居た芝村と速水が驚愕した。

 

「なっ!? そ、そなたらは何をしているのだ!?」

 

「ど、どうしてここに!?」

 

 居るはずのない人間に呆気にとられる二人。その様子に、田代は笑い飛ばして遠坂は微笑んだ。

 

「何をって、ダチを助けに来たに決まってんだろ?」

 

「ええ、お忙しい様なので僭越ながら救助に参りました」

 

 そう言いつつ、芝村と速水を引っ張り出す二人。見下ろすと、吹けば飛ぶような軽トラが見えた。運転席には加藤が、周囲では1号車の搭乗員3人がサブマシンガンを手に警戒していた。時折発砲もしている。

 

 

「……たわけ、たわけめ!」

 

 急いで軽トラに向かいつつ、芝村がそう叫んだ。

 

「ああん? 何がたわけ何だよ?」

 

 それを確認すると周囲を警戒していた3人も荷台へ飛び乗る。

 

「この素人共め……! この行為が、どれほど馬鹿なことだと思っている。こんな、その場の思いつきで、この……!」

 

 田代は助手席に、遠坂は荷台に飛び乗って自分用のライフルを構えて位置につく。

 

「よし、全員乗ったな、発車するで!」 と、加藤がアクセルを吹かした。

 

 砲弾も強酸もハンドアックスもレーザーも飛び交うような戦場で、1台の軽トラが陣地へ向かって走り出す。

 

「5・6号車、軽トラから目をそらすように展開。この車輌は敵前を全速で駆け抜ける」

 

 それに、即座にエリカが援護を入れた。多数の味方に守られ、撤退していく。

 軽トラでは、振動に揺られながら芝村が何か言いたそうな顔をしていた。だが、少しして意を決したように話しだした。

 

「あ~、なんだ、そなたらに感謝を」

 

「うん、ありがとう」

 

 芝村に合わせて、速水も礼を言う。

 

「こちらもだ、本当に助かった。ありがとう」

 

 まほも、搭乗員たちもそれに続いた。

 

「何、気にするなって、お前も俺を助けてくれたじゃねえか」

 

「我々は戦友、一蓮托生です」

 

「特急料金で500円や!」

 

 救助に来た3人が、笑いながら言う。

 

「むっ、い、今は持ち合わせが……」

 

「あはは、冗談やで、芝村さん」

 

 生真面目に対応しようとした芝村に、加藤がケラケラと笑う。

 

「むっ、そうか……」

 

 そう言われ、サブマシンガンを手に周囲を見渡す芝村。辺りは瓦礫とかした建物だらけだった。そして、ポツリと呟く。

 

「正直に言えば、敗北感すら抱いた」

 

「敗北感?」

 

 芝村の口からめったに出ない単語に、首をかしげる一同。

 

「こんな、吹けば飛ぶような車輌で戦場の只中に乗り付けるなど……考えられぬたわけだ。……わたしはこの部隊に居てよかった」

 

 どうやら、感動しているらしい。

 

「ははっ、俺もだよ」

 

 そんな芝村に、田代が笑いかけるのだった。

 

 

 

 拠点へ戻ると、すぐさまに代替え機がそれぞれに渡された。1号車の負傷者は治療のために陣地の安全な位置に移され、代わりの人員は整備員の中でも訓練中に優秀な成績を収めていた者が代わりに配置された。

 

 合流のために、やや戦線を下げていた本隊と合流する。4番機も戻り、ようやく本来の体制へと戻れた。

 

 

 

 16時00分、殆どの拠点が傷つき、もはやスキュラにまともに対応できるのはほぼ5121の士魂号だけとなっていた。

 その中でも単独でスキュラを狩れる3・4番機は、地上の中型を殆ど他に任せ徹底的に空の敵を狙っていた。

 スモークも頻繁に使えない以上、スキュラの居る戦域にL型を長居させることは非常に危険だった。そして、他の拠点はスキュラをほぼ素通しさせていた。

 

 

 

 3番機は、瓦礫に隠れていた。その上を、スキュラが通過しようとしていた。規模はスキュラが2、他の中型が10程で、ミサイルを使う程ではない。

 

「ロック、ファイア」

 

 2番目のスキュラが通過したところを、真下から3番機は狙い撃った。弱点を撃たれて、傷つき血を流し、やがて墜落していく。付近の幻獣が、一斉に気がついた。

 

「ははっ、今頃気がついても遅いよ」

 

 速水は瓦礫の影から更に別の影へ移動しつつ、芝村がもう1体のスキュラにジャイアントアサルトを叩き込む。炎上するスキュラを背に、残る幻獣から逃げ出した。

 

「よし、各車輌前進。横合いから叩く。紅陵の為の獲物も残しておけ」

 

「孤立したのなら、行けます!」

 

 そこへ、遠くに隠れていた第1小隊、そして徹底的な隠蔽をしていた紅陵女子αのモコス、自走砲が狙撃、数を減らして撤退を援護する。

 

 あちこちの陣地が破られそうな今、各機各車輌とも、それぞれ細かく別れてあちこちを援護し続けていた。

 もう無理だと判断された陣地には撤退支援に赴き、中型を陣地と連携して狩り続ける。

 

 

 2番機は、また陥落寸前の陣地の前に居た。両手に抱えたバズーカで、まずは1体、ゴルゴーンを狙い狙撃――ほんの少し狙いがずれ、危うく外れるところだった。

 

「っとと……やべぇな……」

 

 首を振って深呼吸し、呼吸を整える滝川。92mmなら兎も角、バズーカを外す訳にはいかない。少しボーっとする頭でそう思うと、もう1発をまたゴルゴーンに叩き込んだ。

 

「うっし、ゴルゴーン撃破です」

 

「了解です。皆さん、それぞれ広がって展開、中型の目をそらして下さい」

 

 滝川の合図に、みほが頷いた。

 

 歩兵を撤退させるときは、ミノタウロスよりもむしろ広範囲を爆撃できるゴルゴーンが怖い。なので滝川は予めゴルゴーンを撃破し、それからミノタウロスを料理しようとしていた。

 

 鼻先を引っ掻き回され、体を横にしたミノタウロスに、滝川は92mmライフルの弾を叩き込む。

 

「うっし、命中! ほら、そこの陣地のみなさん、とっとと他へ逃げ込んでください!」

 

 拡声器からそう声を出すと、わらわらと撤退していく歩兵達。それに追いすがろうとする小型に、2番機はグレネード弾とガトリング弾を叩き込む。中型は、第3小隊が抑えていた。乱戦の中、何手先を読んだかのような配置をみほが指示し、時々2番機が援護しつつ、次々と敵を屠っていく。

 

「くそっ、狭まってきたな……」

 

 外郭の陣地から、どんどん陥落していく。戦場がだんだんと熊本城に近くなっていくことに、滝川は焦りを感じ始めていた。

 

 

 ある意味、最も多くの敵を相手にしているのは1番機と第2小隊だった。航空ユニットは、周りに散らばっている他の機体が最優先で叩き落としている。なので、必然的に壬生屋は地上ユニットを徹底的に叩いていた。

 

「壬生屋、背後にミノタウロスが3体、射撃体勢に入った」

 

 瀬戸口の声に導かれるままに反応して振り向き、敵に必殺の剣を叩きつける。まるで、すぐ後ろにいて、逐一導かれているような親しさを感じていた。

 

 そして、敵がぼんやりと突っ立っているように見えた。敵がやけに鈍い。右手の敵が120mm砲を3発受け沈黙する。壬生屋は1番機を跳躍させると、敵の背後に降り立ち、2刀の大太刀で一呼吸のもとに屠る。

 

「お見事です」

 

「ああ、見事だ。今更ながら、今日の壬生屋にはゾッとするよ」

 

 エリカと瀬戸口の賞賛に、首をかしげる壬生屋。

 

「ぞっと……ですか?」

 

「剣が冴えている。今のおまえさんには敵がカカシのようにみえるはずだ」

 

 軽口を叩きながら、瀬戸口は壬生屋の疲労度を図っていた。色々と話す限り、相当に疲れているが、感覚だけが研ぎ澄まされている。このギャップが怖かった。

 

「どうだ、疲れてきたか? 本当のことを言ってくれ」

 

「……多少は。けれどあと少しで極意に近づけそうなんです。その……ミノタウロス斬りの。あと30分は大丈夫ですわ」

 

「30分……」

 

 会話により、壬生屋の危うさを感じ取る瀬戸口。

 

「……こちら第2小隊、こちらは弾薬がそろそろ心もとなくなってきました。壬生屋さん、補給の護衛をお願いできますか?」

 

「あっ……は、はい! 了解です!」

 

 心配していた所に、エリカが合わせてくれた。

 

「ああ、そうだな。壬生屋、護衛を頼む。そして、補給中は休憩をすること」

 

「そ、そんなわたくしは!」

 

「たのむ、聞いてくれ」

 

 普段とは違う、瀬戸口の真摯な声に言葉に詰まる壬生屋。

 

「……分かりました」

 

 そう言うと、通信が切れる。瀬戸口は息を吐くと、エリカに通信を入れた。

 

「どうも、感謝します」

 

「いえ、こちらの弾薬と疲労も心配だったのは本当です」

 

 それでも瀬戸口は、この少女の心遣いに感謝した。

 

「ああ、そうだな……各小隊、機体共に疲労が見れる。何とかなってるのは戦い方を合わせている3番機と、相変わらず元気な4番機くらいだ。ひとまず、ゆっくり休んでくれ」

 

「ええ、了解です」

 

 そう言うと、通信が切れる。

 

「やはり、そろそろ限界のようでしたね……エリカさんもよく見てくれています」

 

「本当ですね、とりあえずほんの少しでも休ませないと」

 

 善行の言葉に、瀬戸口は頷いた。パイロットに関しては、指揮官は繊細すぎるほど繊細に扱うべきだと善行は思っていた。精神と肉体の乖離は、自分からだと中々に気が付けない。

 

「しかし、帰る際に陣地前の敵を少し掃除ですね」

 

「それくらいならまあ、大丈夫でしょう」 

 

 この帰り際の掃除でまた、陣地も一息つけるはずだ。

 

 整備陣地にも、チラホラと中型が迫るようになっていた。今のところ来須のレーザーライフルや25mm砲で何とかなっているが、何時破られるかもわからない。善行は、陣地に通信を入れる。

 

「あっ、司令、何か御用ですか?」通信に出たのは新井木だった。

 

「ああ新井木さん、来須君をこっそり呼んでください。」

 

「来須先輩ですね! はーい!」

 

 震える声で、しかしなお元気よく返事をした新井木が、来須を呼びに行ったようだ。程なくして、来須から通信が入る。

 

「俺だ」

 

「時間がないので率直に言います。以後、生き延びることを優先して考えて下さい。退却の可否、方法についてはあなたに一任します」

 

「……わかった」

 

 来須は低いが、はっきりとした声で請け合った。

 

 これで、大丈夫だ。そう善行は後方に残してきた整備員たちと、一人の女性のことを思い、大きくため息を吐いた。

 

 決戦が、終局に向かっていた。




 やはり大和は調べれば調べるほどロマンですねえ……。でも、二次創作だしロマンに憧れても良いかな……

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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