ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
これからはあんたがたどこさを含みつつ、撤退戦まで日常エピソードを中心にやっていこうかと思います。それと、外伝も気が向いたら挟めるかな?
帰還
「周囲に敵幻獣なし――そして、包囲援軍により熊本に突入してきた幻獣は殲滅――どうやら、生き延びたようです」
「そうですね」
瀬戸口の言葉に、善行は頷いた。永遠に続くかに思われた幻獣の群れはとうとうその姿を消し、自分たちは生き延びたのだ。その事実を仲間達よりも先に知ると、思わず善行は目を閉じて背もたれに体を預けた。
この激戦で、皆が生き延びたことは本当に奇跡と呼んでも良かった。
「ほら、司令。皆にも伝えてやらないと」
「ええ、そうですね」
瀬戸口にそう促され、善行は通信機のマイクを手に取る。
「皆さん、周囲に幻獣の反応はありません。我々の、勝利です」
そう言うと、生き残った機体から歓声が上がった。続いて、そのメッセージが伝えられた陣地からも、爆発的な喜びの声が上がる。
「やった、俺たち、勝ったんだ……!」
「ええ、わたくしたちの……勝利です……!」
疲労困憊ながらも、喜びの声を出す滝川と壬生屋の通信が流れる。
「全車、陣地へと帰投。みんな、本当によくやった……」
「こちらも戻りましょう。本当にお疲れ様でした」
まほと凛も、それぞれの小隊に指示を出す。ホッとして、思い出したかのように疲労が押し寄せてきた体に鞭打って、1・2番機と動いていた車輌は、整備陣地へと帰投する。その機体を、生き残った兵たちは歓声を上げながら迎えた。
帰投する指揮車の中、通信が入る。
「こちら植木環状陣地。そちらは5121小隊か?」
「はい、5121小隊善行万翼長です」
「そうか。こちらは貴隊の二人のお陰で助かった。礼を言う……」
「そうですか。今、二人は?」
「陣地の中で、ぐっすりと眠っているよ」
「そうですか」
それを聞いて、善行は微笑んだ。二人共、ひどい激戦をくぐり抜けて陣地を守ったのだろう。それが、善行にはとてつもなく誇らしかった。
続いて、熊本農業公園陣地からも通信が入る。これも同じく、感謝の通信だった。3人共、援護も殆ど無い地獄のような戦場で生き延びたようだった。そのことを、早速部隊のメンバーにも伝える。
「皆さん、3番機及び4番機も無事なようです」
「ははっ、やっぱりそうですよね!」
「ええ、あの3人がそうそうやられるはずがありませんわ!」
善行の言葉に、滝川と壬生屋をはじめまた皆も喜んだ。
指揮車から出ると、善行は大きく伸びをした。瀬戸口は壬生屋の所へ、石津は怪我人の治療へと向かった。
最後まで戦い抜いたパイロットや搭乗員達は、疲れ果てたのか機体の直ぐ側で寝息を立てていた。瀬戸口は壬生屋に膝枕までしている。
その光景を善行は微笑んで見守っていると、背後から声がかかった。
「終わったわね」
「ええ」
原の言葉に、善行は頷いた。彼女も非戦闘員でありながら、よく整備班たちの支えになってくれた。
「で、戻ってきたことだしデートしましょデート」
「今からですか?」
思わず眼鏡を押し上げて苦笑する善行。
「良いのよ、色気もなんにも無いけど今はこれで我慢してあげるわ。あ、でももちろん後からのデートも妥協しちゃだめよ?」
「お手柔らかにお願いします」
「無理ね」
笑顔で切って捨てる原に、善行はやれやれと首を振りつつ、そして笑いながら付き合うのだった。
「やっと終わった……」
津田は、喜びに湧く陣地の中で座り込んだ。この決戦においては、慣れ親しんだオートバイでなく陣地での防衛戦に従事した津田の小隊は何とか生き延びることが出来た。
外側の方の陣地で陥落しそうな陣地を助けてくれたのは、4番機とその仲間達だった。助けられてから陣地を移り、そしてまた助けられ。押し寄せる幻獣を何度も何度も押し返し、しかしそれもようやく終わった。
「また助けられちゃったなぁ……」
そう呟くと空を見た。今までまったく意識していなかった茜色の空が、とても綺麗に見えた。
「よし、負傷者は野戦病院に運べ! 手の空いてるやつ、警戒は怠るなよ!」
玉島は小隊長と、幾つかの部隊のまとめ役としてまだ指示を出していた。戦闘は終わっても怪我人はまだ治療し終えてないし、どこかにゴブが潜んでいるかもしれない。すぐにでもへたり込みたい自分の肉体を叱咤し、テキパキと指示をこなしていく。
激戦を何度もくぐり抜け、そして大勢の味方を助けた玉島は、今では兵たちからは尊敬の目で見られていた。
「あの人も無事か……そりゃそうだよな」
4番機無事の報告を聞き、玉島は頷く。あの人間と幻獣がごっちゃになった戦場で、危なくなったときに何度も4番機とあの集団に助けてもらった。
「猫宮さん、生き延びれましたよ……俺も、皆も」
ある程度の指示が終わった後、玉島は端末を取り出し、猫宮に礼の連絡を入れておいた。
「隊長、これ、とっておきです!」
「ああ、サンキュー」
打ち終わると、部下の一人が昭和製菓の板チョコを差し出してきた。遠慮なく、齧り付く。高級品の板チョコの上品な甘みと、適度な苦味が疲れ切った体に活力を与えてくれた。
前は、すぐに死ぬのだと思っていた。しかし今は自分も、何より味方を終戦まで無事に、生存させたかった。
砲声が止み、静寂に包まれた地下室で狩谷とののみはじっと待っていた。すると、ドタドタと、階段を駆け下りてくる足音がした。ドンドンドンと、鉄扉が叩かれる。
「なっちゃん、ののみちゃん、ウチら、勝ったんや!」
「ほんと!」
ののみが扉まで駆け出した。そして鍵を取り出し、ガチャガチャと回して、扉を開けた。すると加藤が飛び込んできて、ののみをギュッと抱きしめた。
「ふぇぇ、まつりちゃん、苦しいの……」
「あはは、ごめんごめん」
加藤は涙を拭いつつののみから離れると、狩谷にも抱きついた。
「なっちゃん、ウチら、みんな無事や……皆生き延びれたんや……」
「まったく、こんな暗い所に二人で閉じ込めて……」
加藤がぎゅっと抱きつくと、狩谷も抱き返した。
「うん、ごめん、ごめんね……」
そう言って泣く加藤を、狩谷は優しげに撫でるのだった。
ののみは空気を読むと、そ~っと外に出た。左右を見渡すと、忙しそうに働いている兵と、疲れ果てて休んでいる兵たちが見えた。知り合いの人が誰か居ないかキョロキョロ見渡すと、遠坂がこちらを見つけてくれた。
「ああ、東原さんも無事でよかった。大丈夫でしたか?」
「うん、大丈夫だったの!」
笑顔で答えるののみ。
「おおっ、東原さん、ご無事で何よりでしたああああああっ!」
と、そこへ乱入してくる岩田。
「あっ、裕ちゃん!」
「ふふふ、東原さん、約束したアレですが……」 「あ、アレだとっ!?」
岩田が口を開いた途端、東原が「あっ、素子ちゃんだ!」と声を上げた。
原が善行とともに、東原の前に立った。
「指揮車の皆は無事よ。また一緒に働けるわね、東原さん」
「うん!」 東原は元気よく応えたが、やがてふっと真顔になった。
「あっちゃんと舞ちゃん、ゆうちゃんはだいじょうぶ……?」
陣地に3番機と4番機が見えなかったので心配になった東原。
「大丈夫です。遠くの陣地で3人共眠っているようですよ」
「そうなんだ、よかった……」
そう言うと、東原は茜色に染まった空を見上げた。
夜、もぞもぞとみほが起き出すと、周囲はすっかりと暗くなっていた。自分の体にはいつの間にか毛布がかけられていて、周りでは搭乗員の皆が同じように毛布にくるまって泥のように眠っていた。
体を起こすと、全身に気だるさを感じられる。周りでは、整備員の皆さんが整備テントを畳み士魂号をトレーラーに乗せ、撤収の準備をしていた。戦車随伴歩兵たちは交代で休んでいて、そして同時に憲兵と思われる兵があちこちに哨戒で立っていた。
生き延びたんだ……と思うと、何だか急にお腹が減った気がした。くぅと可愛く鳴ったお腹に顔を赤くすると、思わず何か無いかなと探してしまう。しかし炊き出しなどはやっていないようなので少しがっかりしつつ、そう言えばレーションがあったなと物資保管庫の方へ行ってみた。そこでは加藤があちこち動き回って在庫管理をしていた。
「お、西住さんどうもおはようさん。よく眠れたかいな?」
「あ、はい。お陰様で」
「そりゃ良かった。あ、お腹が空いてるん?」
「え、ええ、そうなんです」
ズバリ当てられて、顔を赤くするみほ。そんな様子を加藤はけらけらと笑うと、レーションを取り出してくれた。
「はいこれ、牛丼レーション。自衛軍おすすめの一品やで。あと、他の隊長さんたちも起きて向こうへ行っておるで」
「あ、ありがとうございます!」
みほはペコリとお辞儀をすると、加藤が指差した方向にてててと小走りに走っていった。行った先では明かりの下、まほ、エリカ、凛が座って牛丼レーションを開封しているところだった。
「起きたか、みほ」
「おはよう、みほさん」
「あら、おはようございます」
こちらを見つけた3人が、順繰り会釈をする。みほは頭を下げて近づくと、同じように近くに腰を下ろしてレーションを開封した。中身を取り出し、周りと同じように加熱材を使用してレーションを温める。
缶詰はいわしの野菜煮にたくあん。キコキコと缶切りで開けた辺りで牛丼とごはんが温まった。飯盒に開けて、白米の上に牛丼の元を乗っける。肉の香りと白米の湯気が食欲をそそった。
『頂きます』
みほのレーションが温まるのを待って、4人が同時に食べ始める。ホカホカの御飯に牛丼の汁がよく染みて、そして肉、玉ねぎなどの旨味が一体となり口いっぱいに広がる。そこにたくあんを一切れ口に入れて一休み。ポリポリと心地良い歯ごたえと、脂の一切無い清涼さが、牛丼の味を洗い流す。いわしの野菜煮を口に入れて、お茶で一息。そしてまた牛丼へ。濃い味付けが、体に染み渡る。
皆が黙々と、レーションを食べていた。小休止の時に流し込んだ栄養ブロックやジュースは正直、全く味を感じる暇もなかったが、生き延びた実感が湧いた今、お米の一粒一粒が力になるようだった。
牛丼とおかずを食べ終えたら、乾パンとチューブ、そして金平糖をとりだす。乾パンにチューブの中の甘いソースをかけて一口。そして金平糖を口の中に。貴重な、本物の砂糖を使った一品だ。人工甘味料ではなく、天然のブドウ糖が脳に活力を取り戻していくようだった。
『ご馳走様でした』
食べはじめたときと同じように、食べ終わりもまた合わせた。お腹一杯になり、ほうとため息をつくみほ。ふと空を見上げると、星々が煌めいていた。疎開のために、地上の光が少ない為だった。
「生き延びれたんですね、私たち」
みほがそう言うと、周りの3人が、それぞれ頷いた。何処かの誰かの未来の為に戦い続けて、それでも助けられなかった人たちが居た。でも、助けられた人はもっと多かった。だから、きっとこの戦いは無駄ではなかったのだと、そう思った。
「そう言えば、撤収はどうなるのでしょうか……」
ふと、エリカが口を開いた。5121の整備テントはもう畳まれていて、1番機と2番機はトレーラーに積まれていたが3・4番機は遠くの陣地だった。それに、自走できない車輌も多々ある。
「人員は他の車両に便乗すればいいが……車輌は後から取りに来ることになるだろうな」
エリカの疑問に、まほが答えた。幻獣はもう付近から一掃されただろうし、明日あたり現地で修理になるだろう。
「そうですね……幻獣もいなくなったことですし、そう急がずとも良いですよね」
ほっと一息つくエリカ。
まほは頷くと、ふと端末を取り出した。色々とあって母に連絡を取るのを忘れていたのだ。接続すると、既に母からメッセージが入っていた。
『まほ、みほ、それに一緒に戦った全ての皆さん、お疲れ様でした。こうして戦い、生き延びてくれて本当に嬉しいです。積もる話も有るでしょうが、こちらも色々と指揮や事後処理等も有ります。落ち着いたらまた話しましょう』
東京で売っている携帯とはこういう便利な機能がついているのだろうなと思いつつ、まほは返信をした。そして少しすると、またメッセージが入る。
『追伸――まだ猫宮君は熊本農業公園陣地に居るようですよ』
「…………」
沈黙してメッセージを覗き込むまほ。そしてその端末を後ろから見ていたみほ、エリカ、凛もなんとも言えない表情で沈黙する。
「……そうですわね。迎えに行きましょうか」
「迎えに?」
凛の言葉に、エリカが首を傾げた。
「ええ。道がこの有様だと士魂号のトレーラーも一々他の陣地まで動かすのも大変でしょうし。なら、士魂号に歩いてきてもらったほうが手間が少ないと思いますわ」
その説明に、他3名が頷いた。
「では、原整備班長と善行司令に話を通しに行こう」
いきなり消えるのは流石に拙いので、善行と原に話を通しに行く4名。それを聞くと、二人は『あらあら』と言いたそうな笑顔で4人を見ていた。
「ええ、では迎えをお願いします」
「まだ時間がかかるからゆっくりでいいわよ。3番機はこっちから誰か迎えに行かせるわ」
と、善行と原が笑いながら許可してくれた。後ろでは、誰が3番機の二人を迎えに行くかを決めているようだ。
4人は一番傷の少ないL型に乗り込むとエンジンを入れた。皆一通りの操縦法は覚えている。運転席にはまほ、機銃座にみほが着く。10㎏強の瓦礫があちらこちらにある道のりを、車体を上げ下げしながら器用に乗り越えていく。小型幻獣が居なければ、不整地でもそれなりの走破性は有るのだ。
瓦礫の道をしばらく進むと、熊本農業公園陣地が見えた。入り口で、憲兵に止められる。
「所属と姓名・要件をお願い致します」
「黒森峰戦車中隊・西住みほ千翼長です。こちらの陣地に居る猫宮千翼長を迎えに来ました」
憲兵が端末で照会し、確認が取れると敬礼される。
「はっ! どうぞお通り下さい!」
みほもペコリとお辞儀をしてから、はっとして慌てて敬礼する。そんな様子を微笑ましく歩哨達に見られながら、L型が陣地の中へ入っていく。中の学兵たちは皆疲労困憊の様子で、ぐっすりと寝ていた。しかし、探すべき場所はすぐ見つかった。4番機が膝を付いているのは、遠くからもはっきりと見える。居りた4人は、4番機に近づいていく。
「猫宮さん、起こしちゃっても大丈夫かな……?」
「起きてもらうしか、無いでしょう」
みほの言葉に、エリカも表情を微妙に曇らせつつ言う。疲れてるところを起こしてしまうのは気が引けるが、しかし起きてもらうしか無い――などと考えていると、沢山の毛布が見えた。そして、固まる4人。
猫宮と女の子が寄り添うように眠っていて、その周りを他の女学兵達が囲んでいた。どうして良いか分からない4人。そして、その固まっている間に千代美がもぞもぞと目を覚ました。
「ああ、眠ってしまった……か……?」
目が覚めると、目の前に立っている学兵4人。
「……どちら様だ?」
思わずそう聞いてしまう千代美。
「え、ええと、猫宮さんを迎えに来たんですけど……」
みほがそう言うと、4人の視線を追って横を見る千代美。途端に顔が赤くなった。
「うわわわわわわっ!?」
思わず仰け反って叫ぶ。
そして大声に、周りで寝ていた学兵達ももぞもぞと起き出す。
「んんん? もう朝~?」
「なになに、何があったの?」
「ふぁ~……眠い……」
毛布にくるまった女学兵たちが、目をこすりつつ起き出した。そして、猫宮も。
「…………何事?」
いつの間に寝てしまったのだろうか。それにしても、温かいし寝心地が良い。もう少し寝たいなと思いつつキョロキョロと周りを見ると、女の子たちに囲まれていた。そして、目の前には隊長4人。真横にも隊長一人。
「……お、おはようございます……」
「お、おはよう……」
思わず目を見合わせてそんなことを言う猫宮と千代美。そして、それを何とも言えない目で見る4人。
「あ、あの、猫宮さん、帰投するから機体を持ってきて欲しいって原整備班長が……」
「おおっ!? りょ、了解!」
みほにそう言われ、慌てて立ち上がる猫宮。
「あっ……そ、そうだこれ、連絡先!」
千代美はそれにちょっと名残惜しそうな顔をしてから、慌ててメモに書いて猫宮に渡す。
「おっと、自分も」
そう言うと、猫宮もポーチからメモ帳を出して千代美に渡す。
「れ、連絡、待ってるからな!」
「うん、分かってる!」
猫宮はそう返事をすると、素早く4番機を登る。後ろでは「隊長、ナイスです!」とか「さっすが隊長!」なんて声が聞こえる。
士魂号を起動し、立ち上がるとL型を先導して歩き出す。帰り際に手を振ると、起きていた兵たち皆が手を降って応えてくれた。
「え、えっと、猫宮さん、あの部隊の方は……?」
じ~と猫宮に注がれる4人の視線。その圧力に猫宮は冷や汗を流しつつ言葉を紡ぐ。
「ああ、アンツィオ校の戦車小隊の人たちだね。ずっと熊本農業公園付近で頑張ってたみたい。珍しく、対空戦車の部隊で、凄い助けられたんだ。そうだね……まるで初めてみほさんと一緒に戦った時と、同じような感覚かな」
「そうなんですか……」
あの時の戦いは、みほの心のなかに大きく残っている。そして、それと同じくらいの指揮を取れたと猫宮が言ったあの指揮官のことを、4人共とても気になったのだった。
「それにしても、お疲れ様。みんなが無事で、本当に良かった……」
そんなことを考えていると、猫宮から労いの言葉が飛んできた。そして、多分に安堵の感情も混じっている。
「は、はい! 何とかなりました!」
「そちらこそ」
「ご無事で何よりです」
「ええ、無事でよかったですわ」
陣地へと戻る間、5人はのんびりと話す。生き延びれたことを、そして、明日からの事を。生き延びた者たちは、ようやく明日を手に入れられたのだった。
翌日、それぞれの拠点は野戦病院と化し、パイロットたちも整備員たちも手持ち無沙汰であった。何とか設置だけは出来た整備テントの前に、集まる5121小隊。そこでせっかく生き延びたのでパァッとやろうという事になって、全員で海へ行くことにしたのだ。
委員長と副委員長も居るので即席の作戦会議が開催、即満場一致で可決となった。可決した途端、昨日あんな戦闘があったばかりだと言うのに中村や岩田を筆頭に、元気な奴らが車輌に食料やら何やらを詰め込み始める。パイロットたちはそんな様子に苦笑すると、車輌の荷台に乗り込むのだった。
海に行く車列の中、若宮は荷台で寝ているパイロットたちを見た。猫宮以外、皆顔付きが変わっていた。
「寝ているな。こいつら、げっそりとしちまって……」
若宮が鼻をすすりあげて呟くと、来須は黙って頷いた。
「なあ、知ってるか? お前さんが来る前はこいつらもっと酷かったんだぞ……? それがいつの間にか、なあ……」
問題児の集まりだった。そして、いつまでも素人っぽさが抜けなかった。しかし、そんな連中が大勢の命を救ったのだ。そう思うと、若宮は何だか誇らしくなった。そして来須はやさしげに口許をほころばせると、飽かずにパイロットたちの寝顔を見守った。
海に着くなり、整備班達は我先にと駆け出すと荷物を下ろしはじめた。
「ははっ、皆元気だねえ」
猫宮がそんな様子を笑いながら見ている。
「昨日あんだけ戦ったばっかりだってのになあ」
滝川もそれに同意する。
「あはは、でも僕達らしいよね」
「ええ、そうですわ」
速水、壬生屋も頷き芝村も渋々ながら頷いて認めている。
「ほら、そこのパイロット連中、こっちに来るたい! くすぐられ大王ばやるぞ!」
「了解、じゃあ誰からやる?」
「ふんなら、最初は森にするばい!」
「お、おい、いきなりかよ!? はいはい、俺が代わりになる!」
「のおおおおおっ!? いきなり立候補とは滝川君、空気を読みなさああああいっ!」
「ひゅーひゅー! 滝川、嫉妬~?」
「まあいいさ。ほら、滝川行くぞ!」
「ふふふ、僕の頭脳プレイを見せてやるよ」
波打ち際に、賑やかな5121メンバーの声が響く。はじめは遠巻きに見ていた善行や原も巻き込んで、全員で。
このささやかな、しかし最高の楽園を、全員が心から楽しんでいた。
短編が出るとしたらどんな話が良い?
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