ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
とりあえず、アナザープリンセスは書ける時に外伝として追加していこうと思います。
※2/21 シグ・ザウエルの発砲の止め方を変更。感想でのご指摘、ありがとうございました
夜、人気の無い街の廃墟を原は歩いていた。市街地で自分を付けてくる気配を振り切ろうと逃げ続けていたらいつの間にかこんな所に迷い込み……いや、追い込まれていた。しかし、不思議と心は落ち着いていた。ただ来る時が来たのだとそう思い、護身用のシグ・ザウエルを取り出し、少しでも有利な地点で迎え撃とうと、移動し続ける。
「まさか人相手に、訓練が役に立つなんてね……」
合同の射撃訓練で何度サボろうとしても猫宮に無理やり参加させられたものだが、まさか幻獣相手ではなく人相手に役に立つとは。そんな運命をよこした神様に文句をつけつつ、更に奥へと向かう原。しかし、闇の奥に更に気配があった。気配の有る方に目を向けると、武器を持った男女が何名か、こちらを見ていた。
咄嗟に、横っ飛びに飛んで隠れる。途端に銃声が響いて自分のいた場所に銃弾が通過していった。そして、後ろから追っていた気配も乱れた。周囲で足音が響き渡り、銃声も何度も交じる。落ち着いていた心は恐怖に染まり、ガタガタと震える原。まさか、共生派が隠れていたのか? だとしたら、なんて所に入り込んでしまったのだろう。自分の間の悪さに、もはや自嘲する気力すら無い。
ふと、後ろから口を塞がれた。心臓が飛び出しそうになり、反射的に撃とうとした銃のデコッキングレバーも下ろされ、弾が出ない。
「原さん、静かに」
闇の中から響いたのは、聞き慣れた声だった。恐る恐る振り返るとすぐ側に猫宮がいた。
「ね、猫宮君……?」
「ダメですよ、追われてこんな人気のない場所に潜り込んじゃ」
猫宮は苦笑しつつ、そっと手を引いていった。暗闇の中、銃撃戦が行われているのを尻目に慎重に、そして急いで我関せずとすり抜けていく。こんな派手な撃ち合いをすれば、そのうち憲兵も駆けつけてくるだろう。しかし、憲兵にも味方はいるのか? 原は不安に思いつつも手を引かれていった。
そして、急に猫宮は原に抱きつきつつ押し倒した。
「ちょ、ちょっと!?」
小声で抗議しようと思った時、爆発音。原と猫宮は爆発元から少し離れた場所で、吹き飛ばされた。
殺風景な部屋だった。部屋の奥にはスチール製の事務机と椅子が一つ、机上には巨大な砂時計が置かれている。壁には九州中部域戦線の地図が貼っており、配置がピンで表されていた。
部屋の中には芝村準竜師とその副官、更には善行と芝村舞が居た。アポを取った善行と舞の要求は、それぞれ5121小隊の身の安全と速水を副官にすること。それぞれが、拍子抜けするほどあっけなく承認される。ウィチタがメモを受取り退出した後、舞が話題を変えた。
「士魂号部隊の増設が検討されているそうだが」
舞が尋ねると、準竜師が頷いた。
「うむ。本格的な話は自然休戦期に入ってからだ。もっとも、すでに気の早い連中が見よう見まねで妙なものを作って大失敗したがな」
そう準竜師が言うと、善行は苦笑した。1度は壊滅、そしてもう1度は自分たちがこっそりフォローをしたものだ。
「ふむ、しかしそれで懲りるような連中ではあるまい」
「ああ。だが、流石に学習する程度の知能は有るようでな。今度はパイロット候補と、その教官を要求してきた」
「しかし、教官は既に荒波中佐が居るのでは?」
「あれはお前と同様に出世させる予定があるので、中々に教導には徹しきらせぬし、天才肌なので教えるのが苦手なきらいがある。なので、代わりに教導も前線指揮も出来るエースパイロットが目をつけられてな」
「……猫宮か」
舞の言葉に、準竜師が頷く。
「本人も芝村派では無いと公言しているだけ有って要求の声が大きいのだ。最も、本人は5121に居ることを望んでいるようだが」
「ああ。……あやつも掛け替えのない仲間だ」
舞の言葉に、善行も頷く。自分も、散々に助けられてきたものだ。
「まあ、本人の希望はそうだが、それゆえに強引な手段を使うものも少なくないだろう。重々に気をつける事だ」
準竜師の言葉に、二人は重々しく頷くのであった。だが、二人はすぐに思い知ることになる。人同士の厄介事は、思いの外直ぐ側に迫っていることを。
二人が尚敬高校へ戻ると、香辛料のいい香りが漂っていた。そして、5121のメンバーだけでなく黒森峰、聖グロリアーナ、アンツィオのメンバーの姿も見え、それぞれが思い思いにカレーを食べていた。
「あっ、善行さんに芝村ちん!」
香りの元を辿り食堂に入ると、新井木が鍋の番をしていた。
「おや、今日も炊き出しですか?」
「はい。近所のお店、だいたい壊れてるか疎開しちゃってるし、おなかすいてる人も居るんじゃないかって中村君が」
「ふむ。それは良いことだ」
舞が頷きつつ、よそわれたカレーポテトを食べ始める。食料の欠乏は真っ先に士気に関わる。なので、ここでカレーを食べるのは軍人として正しいことだと理論武装しつつ舌鼓を打つ。
善行も盛り付けられたが、食べる前に新井木に訪ねた。
「そうそう、猫宮君に話すことが有るのですが……何処に居るか分かりますか?」
「あっ、猫宮君は今日見てないです」
「そうですか、分かりました」
猫宮はよく、何処かへ出かけては様々な用事をこなしている。今もそうだろうと、この時善行は特に心配もしなかった。
速水、滝川、茜の3人は、プレハブ側の木ノ下でカレーを食べながらとりとめもないことを話していた。熊本城での決戦から出撃の頻度も敵の規模も減り、速水と滝川の顔には生気が戻っていた。
ずっとパイロットを見ていた茜にはそれがよく分かっていて、ホッとしている。そして、次の話題を切り出した。
「なあ、二人共、休戦期に入ったらどうするんだ? 流石に学兵の徴兵は終わるだろうけどさ」
茜にそう言われて、すぐに答えを返せたのは速水だ。
「僕はずっと舞についていくよ。きっと舞は軍属を続けるだろうし、なら僕もそれについていくだけさ」
そう言う速水には確固たる意思が有った。あの熊本城決戦の直後から、二人の絆は更に深まったように見えた。
「そっかー……二人共パイロット続けるんだろうな……」
そんな速水の様子を見て、滝川は悩んでいた。戦争が終われば、パイロットでなくなる。そうなった時、自分はどうなる? また、家に帰って、あのつまらない学校生活に戻るのか? 母ちゃんの叫び声、暗い押入れ、囃し立てるクラスメイト、そして、あの、赤い、赤い――
「――がわ? 滝川っ、どうしたんだ?」
そう考えにふけっていると、肩を揺すられていた。横から、心配そうに速水が覗き込んでいる。
「あ、ああ、悪ぃ……ちょっと考え込んじまった」
「大丈夫か? まあ、君は頭が悪いんだから僕が代わりにプランを考えても――」
そう言ってくれる、茜も心配そうな表情をしてくれている。ああ、そうか。俺、やっとここで居場所を見つけられたんだ。そう思うと、なんだかとっても嬉しくなった。
「いや、俺も士魂号パイロット、続けたいんだ」
そう言うと、思わず笑顔になった。そして、速水と茜もつられて笑う。
「じゃあ、僕は士官学校に入って主席参謀にでもなろうかな。二人共、僕の指揮下で存分に活躍させてあげるよ」
最後に、茜が語った。戦いという過酷な現実に投げ込まれた少年たちは、しかしその戦いの中で、何よりも尊い絆を見つけることが出来たのだ。
こうして今日もまた1日が過ぎていく。休戦が近づく中皆の胸に有ったのは、未来の希望であった。
昼過ぎ、5121小隊全体には不安げな空気が漂っていた。猫宮と原が姿を見せなくなって、もう3日になる。何の連絡も無しに、だ。整備班長である原と、戦闘時の中心的存在である猫宮。この二人の不在は5121のメンバー全員が戸惑うのに十分すぎる要因である。
「まずいですね……幸い出撃は有りませんでしたが……もし、出撃を挟めば多くの人に知れ渡るでしょう……」
「熊本城以来、我らの周りを探る人間も更に増えたな……」
「ひとまず、隊の連中と話しておきましょう。何処からか漏れると、マズいですから」
そして、そんな空気を特に発している善行、芝村、瀬戸口の3名が司令室で話し合っていた。熊本城の決戦が終わり、自然休戦期も近づいてきている今だからこそまだ隠せているが、このままでは二人が更に悪い立場に追い込まれる可能性が高い。特に、猫宮は全軍きってのエースである。この事を盾に、一体どんな処罰が下されるか。と、どんどんと悪い方向を想像する思考を切り替えるように善行は頭を振った。
「ええ、お願いします。二人共、全員を1組へ集めて下さい」
善行の言葉に揃って頷くと、二人は校内へ隊員たちを探しに行った。
善行が1組へ入ると、全員が大なり小なり不安げな表情を向けてきた。善行自身も似たようなものでは有るが努めて表情に出さないようにして全員へ話しかける。
「皆さんも知っての通り、猫宮君と原整備班長が現在連絡が取れない状況です。ひとまず、これを病欠とし、全員、無闇に話さないように」
戸惑う中、顔を真っ青にした茜が手を挙げる。
「茜君、何か質問が?」
「はい。最悪はまだ無い、と考えて良いんですか?」
茜の言葉に、善行が頷く。
「はい。直近でのテロ活動や事件はまだ報告されていません。最悪の可能性は限りなく低いでしょう」
その言葉に、多少は安堵の気配が広がる。が、逆に不安を掻き立てられるものも居た。1組の外で、ガタッと言う音がした。音のした方を5121のメンバー全員が見ると、顔を青くした西住姉妹が様子をうかがっていた。
善行は更に努めて表情を押し殺すと、二人に話しかけた。
「お二人とも、どうしてここへ……?」
「は、はい。猫宮さんと連絡がつかないのでここに来れば知っている人は居るのではないかと思いましたが……誰も居ませんでしたのでこちらへ探しに来て……」
まほの言葉に、みほもこくこくと頷く。
また、厄介な問題が増えてしまった。そう思うと、善行は二人に事情を話し始めるのだった。
戦争が終わりそうだと思ったら、早速内ゲバめいた事態が起きる人類でありました。うん、君たち、状況を考えようね!
短編が出るとしたらどんな話が良い?
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