ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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最近ちょっとスランプ中です。
文章や展開が変だったら是非ご指摘の程をお願いします。


撤退戦は身を削るが如し

 3077小隊以下多数が合流しようとするときも、まだ善行戦隊は戦闘の真っ只中であった。といっても、激戦と言うよりは、ダラダラとした戦闘を長々と続けているような、奇妙な状況では有ったが。

 

「こちら4番機、陣地まで後2キロといった所です。手伝いますか?」

 

「こちら西住、ちょうど3番機が補給に戻るところです、交代願えますか?」

 

「了解、滝川、引率はよろしくね!」

 

「お、おう!」

 

 猫宮は隊を2番機と来栖らベテランの随伴歩兵に任せると、太刀を引っさげ戦闘に突撃していった。手慣れたように突撃して、早速敵を屠っていっている。

 

 

「お帰りなさい、状況はどうですか?」

 

 4番機を見送り、善行が若宮へ訪ねた。合流できて一先ず安堵という所である。

 

「はっ、2・4番機の合流により幸いにして損害は抑えられました。最も、随分と連れが多くなりましたが」

 

 若宮が苦笑して見渡すと、後ろには3077から病院スタッフからあちこちの混成小隊からの多数の車列が連なっていた。全く、よくぞ生き延びたものだと思ってしまう。

 

「補給が要りますね……。陣地内にはレーションもあります。しかし、とりあえずは整備班の護衛をさせましょう。休憩などはローテーションで行わせます」

 

 そう言いつつ、久場大尉は補給の手はずを進める。こういう細かいところも実にそつなくこなす人材だ。

 

 

 

 合流してから暫くして、0101から言われた2時間15分が経過した。すると、時間きっかりに善行に連絡が入る。

 

「よく時間を稼いでくれた。これで菊陽の方も楽になる。順次撤退となるが、先に5121は転進してくれ」

 

 芝村神楽からの愛想も素っ気もない通信だ。

 

「分かりました、次は何処にですか?」

 

「熊本市南西に、少なくとも1200の兵が取り残されている。自衛軍の精鋭も含んでいる。包囲を解除しに行ってくれ。補給は途中の流通センターに用意させている」

 

 機動力の高い人型戦車と装輪式戦車の集団だ、徹底的にこき使うつもりなのだろう。補給が万全ということは、つまりそれだけ忙しいと言うことだ。この少女は不可能なことは言わないが、苦労は沢山よこしてくるのだ。

 

「至れり尽くせりですね、了解です。早いところ向かうとしましょう」

 

 横では、瀬戸口と久場大尉が移動ルートの検討をしていた。所々が渋滞しているので、芝村パスで優先して通れるルートを探している。

 

「えー、善行戦隊の皆さん、我々はこれより熊本南西部の味方の包囲を解除しに転進いたします。補給は途中の流通センターで行うので移動準備を」

 

 程なく、各小隊長から『了解』の返事が帰ってくる。声色にそこまでの疲労はない。まだ大丈夫だろう、まだ。そう判断し、善行戦隊は敵が消えた隙を見計らい転進するのだった。

 

 

 

 斎藤弓子は、イライラのイラ子と呼ばれることが分かっていても、イライラを抑えることができなかった。あの日、エースの猫宮さんに出会って、同じように暇をしていた学兵達を鍛えているのを知って、チャンスだと皆を誘ったものだが結局自分以外ついてきてくれなかった。その結果がこれ、引率の先生に率いてもらってのおっかなびっくりの行軍であった。

 

 市街地のすぐ南の菊陽にまで敵が迫っているらしいが、なんとか退けているらしい。……らしいらしいと、自分で情報を得る手段がろくにない学兵の自分がひどく頼りないものに思えた。頼みの綱の幌付きトラックがきたかぜゾンビに撃破され、今では徒歩行軍だ。

 

「私、どうなっちゃうんだろう……」

 

 そうポツリと呟くと、椎名がこちらを見た。

 

「先生もいるし、きっとだいじょうぶだよ」 そう言いつつ、下手な笑顔をみせてきた。

 

 うん、普段の責任感はいまいちだけど、こういう時に無理矢理にでも笑えるのはプラスかな?なんて、自分もそう思いたくて

 

「そうだね……」

 

 と言葉を重ねた。そして、会話が続かない。ああ、何やってるんだろう私。

 そんなことを思ってても、部隊は無情にも歩みを進めるのだった。

 

 

 日も傾くかな?と思った頃、自分たちも含め包囲された友軍を救助しに、5121を含む善行戦隊が助けに来るらしい。その知らせを聞いて、自分たちだけじゃなくて自衛軍の人たちもわっと喜びを表していた。あの隊の強さは、自衛軍にも鳴り響いてたらしい。それで私達の役割は――邪魔にならないこと。なんだかとっても、悔しかった。

 

 

 善行戦隊が助けに来るまで、残された学兵と自衛軍が同じ陣地に依って戦うことになった。と言っても、自分達の立場は下も下、銃も撃たせてもらえないような使い走りである。ところが斎藤だけは、銃を持たせて貰えていた。なんでも自主訓練の成果らしい。

 普段あれこれ言うだけ有って自分で考えていたんだな、あいつ……。と、椎名はなぜか悔しさに歯を食いしばった。

 

「小型幻獣多数、来るぞ!」

 

 戦えない学兵は戦えないなりに、弾の運搬や三脚の抑えなどやることが有る。せめて出来ることだけは役に立とうと椎名は必死だった。多数の発砲音の中で、必死に雑務をこなす0966独立小隊の兵達。だが、中型が見えるとその勇気が萎えてしまう。

 

「ひっ!?」

 

 建物の前に迫ってくるのはミノタウロスという巨大な幻獣だ。そいつが複数、機銃を巨大な腕で防ぎながら迫ってくる。死が、目前に見えた気がした。

 

 もうだめだとそう思った時、遠方からの地響きがミノタウロスを切り裂き、轟音が吹き飛ばした。目の前で太刀と銃を構えているのは――士魂号だ!

 

 

 熊本市近見町付近、そこに1200程の兵が包囲され息を潜めていた。善行戦隊はその救助ということである。

 

「車輌を失った兵が1200……中型を排除せねば自力脱出は無理でしょうね」

 

「では、何時も通り中型の排除ですね」

 

 久場の分析に、善行が返す。中型の排除は善行戦隊の得意中の得意分野である。

 

「既に敵に見つかって抵抗が始まってますね。早いところ向かわせないとやばいですよ」と、タクティカルスクリーンを見ていた瀬戸口が振り向いて声をかける。

 

「ええ、皆さん聞いての通りです。一先ず中型の排除を最優先に。小型の掃除はその時の判断でお願いします」

 

 善行の命令に、全員が『了解』と答えた。

 

「参ります!」

 

「続いていくよ!」

 

 今回は珍しく、1番機とほぼ同時に4番機も突っ込んだ。2機とも太刀を引っさげ、小型幻獣を踏み潰しながらまずはミノタウロスに斬りかかる。

 斬撃――そして爆発。登場と共に余りにもあっさり中型幻獣が吹き飛んだことに、兵たちの間では一瞬の間を置いて歓声が上がる。

 後続にも、次々とL型が入り込んできて、更に他の士魂号の姿も見える。兵たちは助かったのを確信した、この時までは。

 

 

 

「クソッ、小型、多すぎっ……!」

 

「ああもう、弾が無いっ!」

 

 速水や滝川のイライラとした声が響く。中型は、善行戦隊がやって来ればすぐに間引けた。だが、問題は小型であった。

 

 残された1200名は、車輌を持たない。そして、脱出せねば延々と幻獣が迫ってくる。なので、ある程度中型と小型を倒したところで移動し始めたが、それでも残った小型が少しずつ、兵を削っていく。撤退戦はいつの時代も、一番多くの損害を出すものだ。

 

「う、うわっ!? た、助け、助けてえええっ!?」

 

「ひ、ひぎゃああああああっ!?」

 

 そして、襲われた兵を助けようとして二次、三次遭難が起きる。これは学兵だけでなく自衛軍もであった。撤退戦は犠牲が出ても割り切るのが必要とは言え、目の前で虐殺が起きてそうそう割り切れる兵は多くない。

 

 それは、斎藤も同じであった。一緒についてくれていた自衛軍の兵が襲われている。とっさに周囲を探すと、サブマシンガンが落ちていた。拾った時、教わったことが脳裏によぎる。落ち着いて、数発ずつ。ゴブリンはうまくやれば1発でも倒せる。無駄弾は撃たない様、味方にはなるべく当てないように、だ。構えて、狙いをつける。やけにゆっくりと思える。引き金を引くと、タタタと軽い反動とともに弾が発射され、ウォードレスがその衝撃を受け止める。そして、撃ち出した弾がゴブリンを引き裂いた。

 また狙いをつけて別のゴブリンを撃つ、引き裂く、撃つ、引き裂く。いつの間にか、その兵の周りのゴブリンは少なくなっていた。

 

「助かったぞ」と、その助けた兵から肩を叩かれ、サブマシンガンの弾を追加で渡された。

 認められたんだ、と、熱くなった頭の片隅でそう思った。

 

 

 結局、この戦いで約1200名の内250名が帰らぬ人となった。だが、助かった兵達は皆が語る。もし善行戦隊が来なければ、壊滅していたであろうと。

 

 

【それは、歴史のどうでもいい1ページ】

 

 岸上は、針ネズミ陣地が陥落した時慌てて自分の小隊をまとめ、車を走らせた。だが、それが運命を分けた。

 

「今走っているのは……57号線!?」

 

 ちょうど、猫宮の指示で57号線は混んでるから避けるようにと、指示を出されたばかりだった。

 

「やべぇ、どうなるんだ……?」

 

 周囲を見ると、自衛軍やら学兵やらの車でごった返し、所々で事故も起こり、道を外れて畑を走る車も多数見えた。

 

 喧騒の中、遠くから風切り音がした。きたかぜゾンビのローター音だ。

 

「敵襲!」

 

 何処からかそんな声が響き、辺りでは逃げる車輌や打ち返す人間などでごった返した岸上も、このまま逃げるだけではやられるだけだと撃ち返したがきたかぜゾンビの生体機銃が近くのトラックに着弾、爆発し炎上する。そこで、岸上達3568小隊の意識は―――。

 

 

 史実の3568小隊:全滅

 本日の3568小隊:全滅

 

 




 原作でも言われたとおり、5121小隊が来ればその場の戦力バランスはひっくり返せます。しかしあくまで戦術レベルであり、戦略レベルに影響をあたえるのはなかなか難しい――撤退戦ではそんな戦況が続きます。

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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