ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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何処もかしこも敵だらけ

 戦闘で助け出した兵たちの中に、5121メンバーは懐かしい顔を見つけた。坂上、本田、芳野の3人の教師たちであった。

 

「おおっ、先生たちじゃん、久しぶりっす!」

 

 見つけた滝川が嬉しそうに拡声器越しに話しかける。ちょっと高い音量に耳を塞ぎつつ、芳野先生が手を降ってくれた。

 

「滝川君、それに皆も久しぶり。お陰で先生たちも助かったわ」

 

 小走りで駆け寄ってくる芳野先生に、士魂号で手を振ると、周りの兵たちも思わず微笑む。

 

「あなた達には随分と助けられました。本当に立派になりましたね」

 

「ほんとだよな。もうすっかり一人前って感じだ」

 

 坂上と本田も先の戦闘を思い出し、笑顔で頷く。度々報道で切り取られた戦闘を見ることも有ったが、やはり直で見るとその練度が際立っていた。

 

「まったく、無事で何よりであった」

 

「ええ、お助けできて本当に良かったです!」

 

 芝村と壬生屋も嬉しそうである。

 

「おっ、斎藤さんも無事だったみたいだね、良かった良かった」

 

「あ、ね、猫宮さん、はい、ちゃんと出来ました!」

 

 そして、猫宮も斎藤を見つける。斎藤は受け取ったサブマシンガンを誇らしげに掲げていた。

 

「じゃあ、自分たちはまた転進しますのでまた!」

 

 そう、4機の士魂号が手を振ると、元5121の教官達は見えなくなるまで見送ってくれたのだった。

 

 

 

 熊本駅は、様々な兵でごった返していた。秩序立って撤退してきたもの、なんとか逃げ延びてきたもの、自衛軍、学兵などなど……。

 その中でも、人型戦車を所持する善行戦隊は特別に目立つ存在であった。数々の兵に見上げられつつ、貨物駅の内部へ入ると善行戦隊の車両群は曙号の停車位置へと移動させられた。

 

 士魂号はトレーラーごと貨車へと搭載され、他の車両群もスッキリと貨車へと収まった。

 

 5121含め、整備員たちはキャッキャとはしゃぎながら列車へ乗り込み、3077や6233小隊は倒れ込むように客車へなだれ込んだ。客車は鉄板がむき出しになった武骨な作りだが、広々としていた。だが、それでも人数が多い。傷病兵を優先して座らせ、元気なものは大体が立っていた。

 

「今日はしんどい一日だったばい」

 

 中村がため息をつきウォードレスを脱ぎだすと、整備班の面々も次々とウォードレスを脱ぎ始めた。そんな様子を芝村は苦々しげに、善行や久場は苦笑しつつ見た。

 

 最後の傷病兵が客車に担ぎ込まれると、「乗車完了しました」と善行が乗降口から百翼長に言って敬礼をした。

 百翼長も敬礼を返すと、出発合図の笛を鳴らした。

 

 ごとん、と車体が揺れ曙号が発進する。物資と人が集積された貨物駅の風景がゆっくり流れていく。酷く混雑した車内は、それでもホッとした雰囲気で満たされていた。

 

「列車に乗るなんて久しぶりだよー。ね、ね、僕たちこのまま本土へと引き上げるんでしょ?」

 

 新井木が弾んだ声で猫宮に訪ねた。子供のように、車窓に顔を近づけて移り変わる風景を眺めている。

 

「どうだろうね? 自分たち凄い強いからまた何処かで戦うと思うけど」

 

 と、猫宮はあまり絶望させないような口調で言うが、新井木は続けてまくし立てる。

 

「けどさ、僕、調べたんだけど、曙号って熊本と広島の間を1日1往復するんだよ。えっとね、途中駅は福岡と門司と岩国。僕、広島でお好み焼きが食べたいな」

 

 猫宮や芝村の顔がひくつく。自然休戦期まで後4日、更に熊本城攻防戦を生き抜いたのでそう思ってしまうのだろうがやはり楽観的に過ぎる。

 

 芝村はぎゅっと拳を握りしめるがそれを速水がまあまあと取りなしていた。

 

 そんな様子を苦笑して眺めていた猫宮であったが、つんつんと肩を突かれた。振り返ると、まほや凛や千代美がこちらを見ていた。皆真剣な表情をしている。

 

 猫宮は話を聞かれないように隅の方へ移動すると、まずは千代美が口を開いた。

 

「やはり戦闘は続くか?」

 

「うん、熊本最強の部隊だからね。多分、一番きつい所に」

 

 その答えを聞いて、改めて難しい表情をする3人。覚悟はしていたが、やはり疲労は溜まるし精神にも負荷がかかる。

 

「まったく、大変な部隊に放り込まれてしまったものだ。これはもう責任でも取ってもらうしか無いか」

 

「えっ」

 

 そう言いつつくすりと笑いながら下から見上げてくる千代美。

 

「あらあら、そうですわねえ」

 

 などといいつつ流し目をしながらくっついてくる凛。

 

「えっ、えっ」

 

「むっ、えっ、こ、これは……!?」

 

 などといいつつ混乱してどうしようか迷っているまほ。ついでに猫宮。そんな様子を羨ましそうに見ている玉島だの橋爪だのの一般兵諸君。そしてあらやだ奥様なんて言ってる奥様戦隊……ってなんだこのカオスは。

 

 

 猫宮が助けを求めるようにキョロキョロと視線を彷徨わせていると突然、ゴトンと音がして列車が急停止した。悲鳴が上がり、隊員たちは折り重なるようにして倒れた。猫宮は庇って女性たちの下に埋もれた。

 

「どうした!?」

 

 久場が屋根の上の兵に尋ねる間もなく、94式機銃の銃撃音。更に高射機関砲の重低音が空にこだました。100メートルほど先には大牟田駅のホームが見える。

 

「貨物駅の方角に敵襲! 各自戦闘準備せよ!」

 

 警備小隊の隊長がよく通る声で叫んだ。パイロット達はそれぞれ外へ飛び出た。

 

「状況は?」

 

「貨物駅物資集積所に幻獣が侵入。ただ今駆逐中とのことです」

 

 砲塔のハッチから身を乗り出した隊長が久場に視線を向けていった。

 

「救援要請です! 敵は有力な中型幻獣が多数」

 

「全機出撃」 善行がそう司令を下した。

 

 パイロットたちは車外へ降り立ち、整備班たちはまたウォードレスを着るのに大わらわである。

 

「整備班は補給車を中心に展開、3077は傷病兵の護衛を、6233は整備班の護衛をお願いします」

 

「はいっ!」「了解です!」

 

 島村や玉島の声が、大きく響いた。

 

 

 

 猫宮は士魂号に素早く入り込むと、戦況を確認する。中型幻獣はほか3機で十分対応できる数だった。

 

「芝村さん、自分は歩兵助けに行くね! 中型は任せた!」

 

「了解した、ただもしものときは援護をしてくれ」

 

「うん、分かってる!」

 

 そう言うや、猫宮は孤立して戦っている車列に突撃し、小型を吹き飛ばした。そして、拡声器から大声を張り上げる。

 

「自分は5121小隊の猫宮です! 他にも士魂号やL型がいます! だから大丈夫、近くの隊と連携して戦ってください! 中型は自分たちが全部吹き飛ばします!」

 

 そう言いつつ、孤立した兵を他の隊に合流させたり、パニックを起こした場所の近くに機体を寄せ、大声で指揮を回復させたり、既に抵抗できなくなった拠点の兵を別の場所に移したり、負傷兵を直接運んだりもした。

 

 中型幻獣の脅威が無くなる以上、小型は兵がきちんと対応できればそれほど脅威ではないのである。

 

 

 

「いやはや、改めて凄いですな彼は……」

 

 その様子を指揮車から見ていた久場は感嘆の声を上げた。普通、士気が崩壊した兵はよほどの精鋭でも中々に立て直せない。が、猫宮はただの1機で戦域の歩兵を立て直して犠牲を少なくしていた。

 

 久場大尉も熊本城攻防戦での猫宮の活躍を資料では見ていたが、目の前であっという間に立て直す姿を見せられると一種の感動が胸を打つ。士魂号と言う人型兵器のインパクトも利用した絶妙な士気の立て直し方であった。

 

「ええ、お陰で整備班達も他の隊の援護を受けれていてなんとか無事のようです」

 

 車外に展開していた整備班も、装甲列車と歩兵の援護を受け、弾を打ち尽くした士魂号の補給をしていた。

 

 およそ1時間半の戦闘であったが、駅も各車両もよく持ちこたえ、なんとか拠点としての役割は維持できるようだった。駅司令官から、善行へと直々に感謝の念を受けたのだった。

 

 

 

 

【それは、歴史のどうでもいい1ページ】

 

 自衛軍の栗原にとって、学兵とはどうでもいい存在であった。練度も低く、せいぜいが時間稼ぎの駒である。だが、その事に何処か引っかかりも感じていたのは確かであった。自分たち大人の兵隊が育つまで、子供を犠牲にする――それは自衛軍だけでなく、日本人全体がどこか顔を背けていた問題であった。だからこそ、無関心を装ったのかもしれない。

 

 

 だが、今共に戦う羽目になった学兵の集団は、少なくともただの使い捨てではないようだった。車輌を幻獣に壊され、隊が全滅し自分一人が今相乗りしているのは他でもない学兵たちの集団であった。

 

「……この車列は何処に向かっているんだ?」

 

「とりあえず、熊本駅まで。そこで列車が頻繁に出ているらしいです」

 

 見れば、端末まで用意して通信をしている。そして多数の他の隊と通信を取っているらしかった。

 

「前方、敵襲! ゴブリン多数!」

 

 そう叫ばれ、ハッとなって飛び出す。他の学兵達もサブマシンガンを構えて同様に飛び出して、掃射する。戦闘は数分で終了した。見れば、全員自分より年若い。しかし、必死で戦士の顔になっていた。そして、今まで学兵を色眼鏡で見ていた自分を恥じた。

 

「どうしました? えっと……」

 

「栗原軍曹だ。よろしく頼む」

 

「あっ、はい、栗原軍曹」

 

 学兵たちが、恐る恐ると言った風に自分を見ていた。そして、彼らもまた自分たちをよく知らないのだとわかった。それが、なんだかおかしかった。

 

 

 

 

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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