ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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敵は幻獣のみにあらず

 戦闘が終わり、全員がそれぞれ疲労しているようだった。やはり、歩兵を気にしながらの戦闘は全員に心労が大きくかかる。久場も善行もどれだけ休息を取らせるか悩んだが、とりあえず戦闘員を乗機の近くで小休止させることにした。この撤退戦は連戦続きになるであろうし、疲労からの損害の可能性は常に脳裏に問いかけてくる程に怖かった。

 

「ほら、疲れにはこれが効くばい」

 

「アンパンチョコパンメロンパン、いっぱい有るよ~!」

 

 疲れた戦闘員たちに、どこから手に入れていたのか、中村や新井木が菓子パンを配っていた。女子で構成されたL型のメンバーがきゃっきゃと嬉しそうに受け取ってく。

 

「ふむ、甘味による糖分の補給か、合理的だ」

 

 そしてこれには気難しい芝村もこくこくとうなずきながらパンに齧りついていた。みんな、一心不乱に配られた菓子パンにかぶりつき、水分で流し込む。その周りは3077や6233小隊が守っていた。

 熊本城攻防戦で慣れたのか、こんな戦場でも休めるときは休めるようになっている善行戦隊である。しばし、休憩で心身を休める一行。

 

 だが、指揮車はまた新たな問題を察知してしまっていた。

 

「菊池・山鹿方面で40個小隊が包囲、と。九州自動車道が塞がれ今は三加和町一体に前線を展開して、敵と交戦中……のようです」

 

「部隊は精鋭、戦車小隊も6つ有ります。これは救出しないと更に辛くなりますね……」

 

 瀬戸口の報告に善行がつぶやく。敵は熊本と北九州を結ぶ大動脈である九州自動車道と鹿児島本線へと殺到しつつ有る。この連絡線をどうにかせねば、まだ熊本にいる人間は全滅するだろう。

 

「救援の軍は……共生派テロリストまで出没していると」

 

 久場が顔をしかめた。テロリストはまだまだ潜伏していたのか。更に厄介な不確定要素の出現に、方程式の仮定が更に広がる。

 

「善行、居るか?」

 

「はい、三加和町の件ですね?」

 

「そうだ。朝までには壊滅するだろう。夜間戦闘も視野に入れて戦闘してくれ。出来るか?」

 

 誰かと思えば、また神楽が通信を入れてきた。どうやら向こうでも同じ結論を出したらしい。

 

「了解しました」

 

「ではやってくれ。向こうの隊には常に照明弾を撃ち上げさせる。以上だ」

 

 と、素っ気もなく通信が切られた。早速ルートの算出にかかる二人。そんな中、瀬戸口はやれやれと指揮車の外に出るのだった。

 

 

 

「壬生屋、大丈夫か?」

 

 貨物駅から少し離れた一帯は幾条もの線路が走り、周辺には雑草が生い茂っている。鉄路の外には、まだ生き残った兵たちが慌てて防衛線を再構築していた。戦場となり、傷ついた街が寂しく見える中、草木だけが変わりなく、旺盛な生命力を示していた。

 

「あ、あの、瀬戸口さん、どうされたのですか?」

 

 少しドキドキしているのか、顔を赤くして瀬戸口の方を見て、景色を見てを繰り返す壬生屋。

 

「そう慌てなくても良い。まったく、こんな天気のいい日に俺たちは何をやっているんだろうな」

 

 瀬戸口が人差し指を突き出すと、何処からかアゲハチョウがひらひらと舞い降り指に止まった。

 

「すごいです!」 壬生屋は目を輝かせた。

 

「そんな大げさなことじゃないさ。心を静かに保てば草木と同じになれる」

 

「平常心、ですか」

 

 壬生屋は自信なさげに言うと、瀬戸口は苦笑した。

 

「まあ、そんなようなものかな。壬生屋、深呼吸をしてみろよ」

 

 言われたとおり深呼吸をすると、少しずつ心が落ち着いてきた。周囲のざわめき、草木の香り、街の匂い、仲間たちの様子――それらを感じ、心を落ち着かせる。

 

「お前さんはもう大丈夫だよ。迷わなくていい。不安に思わなくていい。お前さんのことは引き受けるから」

 

「は、はい……」

 

 え、え、え――っ?

 

 壬生屋は混乱していた。これってもしかして――告白なのだろうか? 違う、それは思い上がりというものだ。私を気の毒に思って哀れんでくれているに違いない。

 壬生屋は下を向いてもじもじしていたが、やがて顔を上げぎこちなく微笑んだ。

 

「あのっ、私は大丈夫ですから……」

 

 次の瞬間、暖かなものを唇に感じた。壬生屋は目を見開き、硬直したまま、瀬戸口の唇を受け入れていた。周囲には唖然とする整備班や戦隊の面々が見える。だが、程なくして目を閉じ、瀬戸口を受け入れていた。

 

「よし、もう大丈夫だな」

 

 どれだけの時間が立ったか、瀬戸口の声が聞こえた。壬生屋は上気した顔を瀬戸口に向けた。

 

「俺達はいつも一緒だ。頑張ってこい」

 

 瀬戸口が振り返る直前、真剣な表情で言った。

 真っ赤に火照る顔を持て余し、胸の動悸を抑えかね、ギャラリーの目を逃れるように壬生屋はコックピットに逃げてしまった。

 

 そして、冷やかされながら指揮車へと戻っていく瀬戸口。そして、石津もしばらく瀬戸口を見ていたが、やがて口元に微笑が浮かんだ。

 

「……忘れる、ことに……したのね。……良かった」

 

 

 

 遠坂は、田辺と一緒に東京行きの特別列車に乗っていた。乗客は他には高級将校など、いわゆる特権階級と言われる類の人間たちだ。

 危機が迫っているというのに、自分は5121小隊の人間と離され、わがままを言い田辺さんまで巻き込んでしまった……。そんな自責の念を抱えつつ、今ようやく田辺から渡された善行・猫宮作の撤退案を見始めた。

 

「こ、この量は……」

 

 グラフィックが多彩でわかりやすいその案は、あまりといえばあまりに壮大で明らかに今の遠坂の処理能力を超えている。だが、知らず知らずのうちにその案に引き込まれていった。すぐ横では、田辺がカモフラージュのために、どうでもいい雑談を繰り返している。

 

 あの二人が、ただのボランティアを期待してこんな計画をよこすはずはない。必要な物資は? 引き入れなければならない人間は? 根回しは?

 

 5121から引き離され、灰色だった遠坂の世界にまた色が戻り始めた。

 

 

 

 

「あなた達は、傷病兵を守って岩国へ行って下さい。混成小隊は書類上のミスで列車に乗ることになる、とそういうことで」

 

 小休止が終わりかけ、これから転進しようとする中、善行は島村に通信を入れていた。これからは夜間戦闘になる。よほど慣れた兵でもない限り死んでしまうだろう。

 

「そんな。私達もお手伝いします!」 島村が訴えるように言った。

 

「無理だよ、あんたらじゃ」 しょうがねえな、とでも言うように橋爪は口を開いた。横では玉島も頷いている。

 

「夜間戦闘はよっぽど戦い慣れてないとダメなんだ。あんたらを守る暇はねぇ」

 

 6233の小隊長である玉島の言葉も、後押しする。

 

「けれど、整備班を守ってくれって……」 島村はなお、抵抗するように言った。

 

「島村」

 

 来須は帽子のひさしを上げると、じっと島村を見つめた。

 

「生き残れ。お前たちにはその権利がある」

 

「けれど善行戦隊の皆さんは……」 しまむらは思いを込めた目で来須を見つめた。

 

「……気持ちはもらっておく」 そう言ってから、来須はありがとうと短く添えた。

 

 こうして、3077小隊の戦争は終わりを告げるのだった。

 

 そして、残された6233や橋爪、更には鈴原軍医などは更に戦い続けることになる。

 

 

 

【山鹿戦区・三加和町近郊 十七三〇】

 

 

 前方に幾重にも連なった丘があった。樹木が旺盛に生い茂っており、道は丘と丘を縫うように走っている――典型的な日本の山岳の地形であった。

 

 

「前方に有力な敵を発見。ミノタウロス8、ゴルゴーン12、ナーガ10、キメラ7、後は例によって小型幻獣だな」

 

「早速敵の待ち伏せか」 「この程度なら問題ない」 「同じくだ」

 

 小隊長達が冷静に応じる。この戦隊はどれも中型の相手を得意とするが、小型は苦手だ。

 

「来須君、小型幻獣の相手なのですが」

 

 善行が通信を送ると、来須は即座に答えてきた。

 

「二番機を残してもらえれば、後は俺たちと6233で対処可能だ。それと整備の連中が怯えている」

 

「分かりました。整備班の近くに2番機を待機させましょう」

 

 こうして整備班の付近に2番機が、他は来須・若宮の指導の元十字砲火が形成される。

 

「ん~、ちょっと嫌な予感。石津さんも言ってたし、瀬戸口さん、衛星写真確認してみて」

 

 と、いきなり猫宮が瀬戸口に要求した。

 

「ん? 嫌な予感って何だ? 猫宮?」

 

「いや、共生派のの妨害が有ったみたいじゃない? だからさ」

 

 そう言われ、衛星写真を拡大し確認する瀬戸口。と、不自然なものが見えた。

 

「何だ、これは……レールガンだと……!? しかもこっちを向いてやがる」

 

 見ると、明らかにこちらへ向いているレールガンが有った。

 

「なんだと!?」 「なんだって!?」 「なんですって!?」

 

 一斉に無線で反応する善行戦隊。

 

「味方の待ち伏せの可能性は?」

 

「こんなところで孤立していたらとっくに全滅しているはずだ。有り得ない」

 

 その瀬戸口の言葉に、緊張が走る。

 

「それじゃ、そいつらちょっと蹴散らしてきますから」

 

「……大丈夫ですか?」善行の確認するような声だ。

 

「ほっとくほうが大丈夫じゃないです!」

 

 至極最もであった。

 

「ではお願いします。……苦労をかけます」

 

「いえいえ。それじゃ、行ってきます! あ、後来須さん援護に下さい!」

 

「了解した」

 

 そう言うと、来須と猫宮は共生派の居る藪の中へと移動していった。

 

 

 

 幻獣たちの戦いを尻目に猫宮が共生派の陣地へと向かうと、2発、レールガンが発射される。それをとっさの横っ飛びで交わすと、発射位置に向かいまずはジャイアントアサルトの1連射。爆発し炎上する。

 

「うん、撃ってきた、敵で確定だね」味方に言い聞かせるように報告を入れる猫宮。

 

 もう片方を見ると、地面へと慌ててレールガンを隠そうとしていた。そちらにも一連射、爆発させる。こうしてみると、敵としてタクティカルスクリーンに表示されない共生派は、視認で戦闘するしか無く、しかも隠蔽されているため非常に厄介であった。

 

「200メートル先、鉄塔の真下にスコープ光、狙えるか?」

 

「了解、射撃するね」

 

 一方で来須も相当の兵を相手取っているようで、頻繁に猫宮に向けての援護要請を入れてくる。その都度援護射撃を的確に撃つが、その頻度が共生派の物量を物語っていた。

 

 

 

 一方で、中型を倒し終え帰還しようとする善行戦隊の前に、共生派の歩兵が立ちふさがっていた。誰も彼も、アサルトライフル程度の武装では勝てないはずなのに、弾を士魂号やL型に向けてばら撒いている。

 

 

「こ、こちら5号車、目の前に共生派が……」「8号車も同じく……」「こ、こちら1番機もですわ……」

 

 みんながみんな、困惑していた。自分たちが少し移動すれば轢けてしまうのに、なぜこんなことを……。

 

 

 不意に射撃音がして、横や後方で凄まじい爆発が怒った。士魂号はつんのめり、L型も大きく揺られた。

 何が起きたのかと見渡すと、硝煙の中から来須の武尊が姿を表し、猫宮の4番機が92mmライフルを構えていた。

 

「背後や側面からプラスチック爆弾を背負った連中が忍び寄っていた」

 

 そう言うと、来須や猫宮は容赦なく逃げ去る共生派を倒していった。

 

 自爆攻撃。いままで、散々に幻獣は倒してきた。だが、人と殺し合った経験はない。その事に大きく衝撃を受ける善行戦隊。戦況は、また新たな局面へと突入していくのであった。

 

 

 

【それは、歴史のどうでもいい1ページ】

 

 運送会社に努めている竹田は、その職務上良く行く場所を守っている学兵たちと交流を深めていた。彼らは強制的に徴兵され、しかしそれでも今日をなんとか生き延びようとしている姿に心を打たれ、ちょくちょくと差し入れも持ってきていたりしていた。

 

 だが、今日は様子が違っていた。砲撃音が多く、しかも近いのだ。そして、駅の近くでは大量の兵でごった返していた。

 

 これはまずいと、会社に連絡を入れすぐに北に向かおうとしたが、何故か何時も話していた小隊の学兵たちが気になった。迷った末、彼らの様子を見に行くことにした竹田。するとそこには、車輌がなく立ち往生する学兵たちの姿があった。

 

「お、お前たち大丈夫か?」

 

「あ、た、竹田さん。あ、あの、助けてください!」この小隊の隊長である小池がそう頭を下げた。

 

「た、助けてくださいって、一体どうすれば……」

 

「あ、あの、俺たち死守命令が下されるんですけど、竹田さんがいれば民間人を守るために護送って名目が……」

 

 そう言うと、小池がすがるように竹田を見た。ふと見ると、小池だけでなく小隊の十数人全員が、同じような目をしていた。皆薄汚れていて、とても不安げにこちらを見ていたのだ。

 

「よし、分かった。それじゃ、本土まで護衛してもらうよ」

 

その姿が、とても哀れさを誘ったのかもしれない。だが、竹田はこれでいいのだろうと思った。

 

 学兵たちは、竹田のトラックのコンテナの側面に穴を開け、即席の銃眼を作り、乗り込んでいく。

 

 こうして、竹田と1小隊の撤退戦が、今始まった。




瀬戸口の告白シーンがありましたが、その後即座に共生派との戦闘……
休まる暇が全く無い撤退戦であります。
そろそろお馬鹿なシーンが書きたい……外伝でもやるべきか……

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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