ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
善行戦隊を暗号で呼ぶのは書く方も見る方も混乱するかと思い止めておきました。
有力な敵との戦闘の後、30分の小休止が入れられた。だが、その前に善行からの言葉が全員に聞かせられる。
「先の戦闘で、幻獣共生派の攻撃が確認されました。彼らは幻獣と同じように処理して下さい。我々の敵です。もし、間違ってしまったとしても我々は最後まであなた達の味方をします。以上です」
ほとんどが、共生派との戦闘は初めてのはずだった。言葉は聞かせられるも、やはり大部分はどうすればいいかよく分かってないようだった。しかし、やるしか無いのだ、この状況では。
善行も各メンバーもそう思っていたが、しかし実際共生派と相対した時、躊躇なく撃てるかはまだ分からない。
小休止中、猫宮はまた端末を開いていた。まだ生き残っている隊には、撤退ルートや他の隊に出会ったときの方便などを指示していく。だが、やはり消えている端末・小隊の多さを見るに心がキリキリと痛んでいく。まだ、撤退戦が始まって半日足らずしか経っていないんに損害が多い。史実でも撤退戦はわずか3日の出来事なので、やはり混乱の大きい初日には大量の損害が出るのであろう。
全てを救えるとは最初から思っていなかったが、それでも悲しいものは悲しいのだ。
ただ幸いなのは、それでも史実より救えている人数は確実に多いことだろうか。
だがそれでも――と、堂々巡りになる思考を猫宮は強引に打ち切った。次は救出作戦である。失敗はできない。頬を叩き、首筋に薬を注射すると気持ちを切り替えた。
小休止が終わり、囲まれている部隊へと警戒しながら移動する善行戦隊。だが、人にも警戒する分普段より疲れた気がしたのだった。
救出先の部隊には、来須が一人先行していた。その先で指揮官と無事合流できたらしい。極々簡単な打ち合わせを済ませる。善行戦隊が包囲幻獣に仕掛ける時刻は0時ジャストである。
「信号弾、打ち上げ開始しました」
0時丁度、救出先の部隊が次々と照明弾を打ち上げた。発射音とともに、周囲には人工的な光が灯る。
「参ります!」 「続けて行くよ!」
照らされた戦場を、漆黒の重装甲と青い士魂号が駆けてゆく。突如として打ち上がった照明弾に混乱している幻獣の中に突入、壬生屋機は超硬度大太刀でバッサバッサと切り捨てていき、猫宮機は大太刀とジャイアントアサルトで幻獣を叩き伏せていく。
「第1、第2、第3小隊突入」
更に混乱が広がった隙に、L型の中隊が突入する。2機の士魂号が突入し、陣形が乱れて横や後ろを向けたところに、120mm砲が撃ち込まれていく。
「全車輌、発射」
そして、突入した士魂号とデータリンクしたグロリアーナの3輌が、遠くのゴルゴーンへと砲撃をする。正確なデータにより、ピンポイントで直撃させる3輌。ミサイルを発射しようとしていたゴルゴーンは、砲弾に己の生体ミサイルの威力を載せ、小型幻獣を巻き込み大爆発させる。
「ははっ、行くよ、舞!」 「任せた!」
そうして出来た道を、アンツィオと2番機の援護を受けながら駆け抜け、幻獣の中央へ。中型をロックし、24発の有線型ジャベリンミサイルが次々と突き刺さる。5121単独の頃から洗練させ、黒森峰と合流してからさらに磨き、グロリアーナとアンツィオと一緒になってから更に発展させた戦術だ。各機各車輌の練度・連携が向上するたびにその破壊力は加速度的に増していった。
東原、瀬戸口、武部の3人で戦果報告を分担するが、それでも追いつかない程だ。助けられた40個小隊は勿論、久場もまたまた呆然としていた。破壊力が強過ぎるのである。戦闘開始20分程度で、50以上の中型幻獣が損耗も無く撃破された。これはもう、驚きを通り越して呆れ果てる他無い。現に、包囲にはとっくに穴が空いていて既に40個小隊は我先にと脱出している。
「……ここは少し欲張ってみましょうか」
「はっ? 欲張る、ですか?」
善行の言葉に、怪訝そうに伺う久場大尉。
「ええ、取り残された小隊の包囲に大分敵は戦力を使っていたようですし、その戦力を撃滅できればその他が楽になります」
「なるほど。確かに」
ここで敵を撃退できれば九州自動車道や鉄道を狙う敵も減らせる。消耗はまだ少ないし、狙う価値は十分にあった。
「と言うことです。猫宮君、大丈夫ですか?」
「弾薬は問題なし、でも整備班達は脱出した部隊の力も借りて厳重に守ってて下さい。後、照明弾は切らさないように!」
「了解です。では、全機引き続き戦闘を」
途中、菊池市が陥落しそうになるもそちらの方面の敵も引き寄せたのか、この和泉町と言う狭い盆地に300もの中型幻獣が押し寄せたのであるが、包囲されていた40個小隊との連携もあり、内250を撃破するに至った善行戦隊であった。そして、菊池市が陥落するまでの時間を相当に稼げた。この隙に、人類は更に撤退し続けることとなる。
5月7日早朝、1台の戦闘指揮車が5121の指揮車の前で止まった。ハッチが開けられ、30代後半くらいの少佐が姿を表した。善行もハッチを開けると、お互い顔を見合わせて敬礼をした。
「自衛軍第27戦車旅団の村上です」
「善行戦隊司令官の善行です」
善行の階級は上級万翼長……自衛軍では少佐階級に当たる。つまりお互い同階級ということでは有るが、自衛軍と学兵の間の上下関係は微妙なところがある。
しかし、村上少佐は前線で鍛えた軍人らしく、率直に礼を述べた。
「あなた方の救援がなければ、あたら精鋭を全滅させていました。それにしてもあなた方は決断が早く、大胆ですな。こちらは夜間戦闘を躊躇ってしまった」
村上らの単独突破では成功はおぼつかなかっただろう。包囲からの逆撃まで出来たのは、ひとえに善行戦隊の強力な打撃力のおかげだった。
「いえ、夜戦を選んだのも実は上からの命令でして。0101と言う部隊からの命令を受けています」
「なるほど」
それだけで村上少佐は察したようだ。0から始まる部隊は存在しない――つまり、特殊な命令を受けているということだ。
「我々は上のお墨付きもありで最後まで友軍の撤退支援に回ろうかと考えています。少佐殿は如何なさいますか?」
善行の言葉に村上少佐は少し考えて、一通の命令書をかざしてみせた。本土への撤収。命令書にはそう書かれてあった。
「菊池・山鹿方面の残存兵力を吸収しつつ、撤退を図るつもりでした。しかし、敵の進撃が早く、包囲されてしまったしだいです。救援の軍は……」
村上は言葉を区切ると苦笑いを浮かべ、首を横に振った。
「到着が昼以降になると。敵の妨害が激しく、損害多数……というのが最後の通信でしたが」
「ええ。事情は理解しているつもりです」
「どうやら指揮系統は滅茶苦茶らしいですな。私も司令殿の指揮下に入りたいと考えております」
「ならば早速」
善行が4番機の方を見ると、4番機が器用に頷いてみせた。
「あ、神楽さん? これから救援した部隊は指揮下に入れていい? お、大丈夫? ありがとう!」
どうやら、OKを貰えたらしい。善行と村上はそんな型破りに苦笑いを浮かべると、改めて打ち合わせを始めた。
「司令部からのお墨付きも貰えましたし、作戦目標その1は北九州と中部九州の連絡線の確保、2は友軍の撤退支援、それでよろしいですね」
善行の言葉に、村上と各小隊長達と猫宮は頷いた。それしか無いだろう。善行戦隊も村上率いる諸隊もまだ十分に戦える。
「司令部は八女に置きましょう。5121が先発します。瀬戸口君、指揮車を発進させて下さい」
そう言うと、善行は指揮車へと潜り込み、またタクティカルスクリーンを眺め始めた。
途中、スナックでの暴行で逮捕された敷島中佐に変わり指揮を取っていた落合大尉の軍も合流し、善行指揮下の隊は更に膨れ上がった。
トラックに揺られながら、橋爪と玉島はなんとなしに喋っていた。片や所属した幾つもの隊が全滅した学兵、片やなんとか全滅を免れ続けてきた学兵同士、色々と思うところは有ったのか適度に話が弾んでいた。
出てくる話題は食い物のことや女の事、後はどうやって寝たら寝付きがいいのか……などなど、下らない、しかしこの戦時下では貴重な話ばかりだ。しかし――やはり最後には戦いの話に行き着いてしまうのだ。
「しかし、お前らよく生き抜いてきたよな……」
橋爪が感心するように、6233小隊を見た。どいつもこいつも、2ヶ月は戦場を生き抜いた、ふてぶてしく狡っ辛い面構えをしていた。
「ああ、そりゃあの人のおかげだよ」
と、玉島は4番機の方を見た。
「あの人のおかげ……? そんなに戦場で一緒になったのか?」
「いや、違う。前にあの人にカツアゲ止められてボコられてさ、それで学兵同士の訓練に放り込まれたってわけ」
「お前、あの人に喧嘩売ったのかよ……」
呆れ顔の橋爪。そして苦笑する玉島。
「あんな人だと知らなかったし、6対1だったしな」
「しかも6人でやって負けたのか」
「ああ、ボロ負け」
あの時を思い出し、思わず鳩尾を抑える玉島。
「まあそんなわけで、今こうして生きてられるのはあの人のおかげみたいなもんだしな」
「そっか……お前らも苦労してきたんだな」
「お前ほどじゃないと思うけどな」
お互い苦笑いする橋爪に玉島。だが、それでも戦友とずっと一緒に入られることに羨ましそうにしている橋爪だった。
お馬鹿話、長らく書かないと書くのが難しくなっていて困ります……ああ、お馬鹿話思いっきり書きたい……。
そしてこれからの編成ですが、1~9号車が黒森峰、10~12号車がアンツィオ、13~15号車が聖グロリアーナの車輌にしようと思います。
短編が出るとしたらどんな話が良い?
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女の子達とのラブコメが見たいんだ
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男連中とのバカ話が見たいんだ
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九州で出会った学兵たちの話
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大人の兵隊たちとのあれこれ
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5121含んだ善行戦隊の話