ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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た、多分この程度の表現なら大丈夫……な筈。


瓦礫の街のちっぽけな聖女【瓦礫の街で】

 決戦後の夜の街は、大部分が闇に包まれていた。疎開が進み、街には戦闘の痕があちこちに残り、店も人も少ない。そして、そんな街の夜には共生派や脱走兵が潜むには格好の場でもある。原作で共生派の浸透を許したのも当然であろう。憲兵の捜査も、これまで通りであれば手が足りない筈だ。

 

 そんな理由もあり、猫宮は今日も夜の街を巡回していた。そして巡回していれば、大抵は厄介事に出会うのだ。そして、今も。

 

「い、いやっ、こ、来ないで……!」

 

「へへっ、こんな場所に誰も助けに来やしねえよ」

 

「いや、居るんだなこれが」

 

『へっ?』

 

 あまりの唐突さに加害者被害者両名共に間抜けな声を出して猫宮の方を見た。猫宮はため息を付きつつ加害者の方の学兵をぶっ飛ばして、憲兵へ通報する。

 

「はい、1名様ご案内~と。もう、君もこんな時に夜に出歩いちゃダメだって」

 

「は、はい……」

 

 猫宮がそう言うと、しゅんと縮こまって頭を下げる女の子。少しすると憲兵がやってきて、加害者の方を引っ立てて女の子を連れて行った。

 

 

 この熊本において、学兵たちの性事情は乱れに乱れてきっている。何故かと理由を聞かれれば、多くてもう説明しきれないし納得するしか無い。まずは第6世代の出生率の低さに始まり、戦闘による昂ぶりや明日の命も知れないことへの不安から。他にも食うや食わずの生活に耐えれなくなり、食べ物やら何やらの為の売春。そして、何より貴重な娯楽として。

 

 ここまで来るともう、逆に乱れないほうが不思議である。未成年故に酒・タバコなどの嗜好品も手に入らず、日々の食事にも事欠く有様。更には異性も買えない……なら、残った有力な発散方法は性交渉である。

複数人に渡ってされることもあり、また惚れた腫れたの問題も加速し、端末でも不特定多数や秘匿通信でと、かなりの数の相談が猫宮に届いていた。これに関しては特効薬など存在しないので、根気よく根気よく対処していくだけである。

 

 それに猫宮としても、どう対処するか中々に悩む。戦場という特殊な環境で、世間一般の倫理観など保てるはずがないし、『適度』ならば心の支えにもなるからだ。もっとも、その『適度』が非常に難しいのであるが。依存関係に陥っている学兵もそれはもう数え切れないほど見てきたものだ。勿論の事、強引にするような輩には即対処だが。結構な割合で女のほうが襲っているケースにも出会った。

 

 

 さて、そんな人助けもやっていると困ったことに真っ最中の現場にも出くわしてしまうことも有るのであるが……今回は少し様相が違っていた。

 

「畜生、こっちは酷いことしてんだぞ、なんで、そんな優しい顔してんだよ!」

 

 現場に付くと、そんな声が聞こえた。突入しようとした猫宮は内心不思議に思いつつ、襲われている少女の表情を見た。自棄になってるわけでもない、投げ出しているわけでもない。ただ、優しげに襲っている奴の頬を撫で、微笑んでいた。

 

 行為が終わった後、襲った方の学兵は何度も何度も謝っていた。泣きながら頭を地面に擦り付け、何度も何度も。だが、少女の方は優しく微笑んで、ただ許していた。

 

「ねえ、どうしてこんな事したの?」

 

「そ、それは……」

 

 少女がそう聞くと、学兵はポツポツと話しはじめた。兵士としての辛さ、親元との離れての生活、不満。そして決戦で仲間が死んだ喪失感と、補充が送られてこない心細さ。全てが爆発して、自棄になったらしい。

 少女は相槌を打ちながら止め処なく溢れてくる言葉を受け止め続けた。そして、話し終えた時、学兵の顔は憑き物が落ちたかのように、変わっていた。

 

「……本当に、ありがとう」

 

「ううん、どういたしまして」

 

 少女はそう微笑むと、学兵の方は何度も頭を下げて、夜の街へ消えていった。もう、こんな事を起こすことはないだろう。そう思える表情だった。猫宮は学兵を見送ると、少女の前に現れた。

 

「どうもこんばんは」

 

「どうもこんばんは……あっ」

 

 猫宮が挨拶すると、少女も挨拶を返した。しかし、少し「しまった」というような表情をした。

 

「どうしたの?」

 

「あ、あの、今私ちょっと汚れちゃってるから……」

 

「いや、変なことするつもりはないからね……」

 

 少女の言葉に、猫宮は思わずため息を付いた。

 

「どうしてこんな所に?」

 

「……家が、戦闘で潰されちゃって……」

 

「部隊の仲間は?」

 

 そう聞くと、顔を曇らせてふるふると首を振った。

 

「そう……」

 

 そして、猫宮も顔を曇らせた。そして、改めて少女を見た。衣服は多少乱れていたが、外に居る学兵には不自然なほどに、身綺麗で多少の化粧もされていた。少女も、そんな視線に気がつく。

 

「あ、これ? 相手をする女の子が汚れてるままじゃ相手もかわいそうかな……?って」

 

 それを聞いて猫宮はため息を一つ付くと、少女に向き直った。

 

「……どうしてこんなことを?」

 

 猫宮に尋ねられ、少女もポツポツと話しはじめた。

 

「あの戦いでね、仲間がみんな死んじゃって、家もなくなっちゃって、それで何をする気も起こらなかったの。それで、夜も公園をウロウロしてたら、他の学兵に襲われちゃったの。それで、はじめは怖かったんだけど相手の顔を見たら、とっても可愛そうな顔をしていたの」

 

 そう話した彼女の表情は、とても憂う、そして少女とは思えない雰囲気を纏っていた。

 

「その顔を見ちゃったら『ああ、この人もとっても辛かったんだ』って思っちゃって。だから、許してあげたの。そうしたら終わった後、何度も何度も謝ってきちゃってね。そして、何度も何度もお礼を言われたの。そして、最後は泣きそうな顔で笑いながら何処かへ行っちゃった。――でね、その笑顔を見た時、何だか心があったかくなったの」

 

「……だから、体を許してる?」

 

「うん」

 

 そう微笑んだ彼女の穏やかな表情に、猫宮は慈母のような優しさを感じた。

 

「時々、何人かで一斉に来られた後は身だしなみを整えるの大変だったりするけど。でもね、本当に乱暴されることは殆どないよ」

 

 だから、心配しないでと言っている。猫宮は、どうしたら良いかと悩んだが、とりあえずどこかの部隊へ誘うことにした。

 

「……ねえ、問答無用で殺しにかかるような共生派も居るし、憲兵の巡回も強化されてるし、どこかの部隊へ入らない?」

 

 そう聞くと、少女は顔を曇らせた。

 

「……私、銃を撃つのもあんまり上手じゃないし、戦車にも乗れないし、オートバイにも乗れないし、地理にも詳しくないし……。死んじゃうと、他の人、元気づけられないし……」

 

 戦車もオートバイにも乗れずに交通整理の技能もない。つまりは戦車随伴歩兵行き。そしてそれはほぼ確実な死を意味すると思ったのだろう。しかし少女はそんな中でも自分の身より、何処かの誰かの身を案じていた。その少女の気遣いに、猫宮は淋しげに微笑んで言った。

 

「大丈夫。装備も練度も何とかして、あの決戦も生き延びた部隊だから。今こうしているより、生き延びる確率は高いと思うよ?」

 

「……」

 

 少女は少し悩んだが、「はい」と猫宮を真っ直ぐ見て答えた。

 

「うん、良かった。じゃあ、危ないし何処か適当に泊まれる場所は――」

 

 と、猫宮が端末を取り出して誰かに連絡しようとした時に「あなたの家で大丈夫です」と言われてしまった。

 

(お礼のつもりか……)

 

 そう思った猫宮は、とりあえず頷いた。どうせ、自分から襲うことも無いし、別にいいだろうと、そう思った。

 

「そうだ。自分は猫宮悠輝。きみの名前は?」

 

「四月一日玲奈。よろしくね、猫宮さん」

 

 玲奈はそう言うと、優しく微笑んだ。

 

 

 

「まあ、何もない部屋だけど、一晩寝るくらいならいいよね?」

 

 部屋に案内された玲奈は絶句していた。『何もない』と言う謙遜に思われた言葉は、嘘でも誇張でも無かった。安物のベッドに、テーブルと椅子と本棚とパソコンに冷蔵庫。ただ寝て起きて仕事をして栄養を補給する――そんなイメージの起きる、生活感と言うものが欠如した部屋だった。

 

「あんな事有った後でしょ? シャワー浴びていいから」

 

 猫宮はそう言うと、冷蔵庫を開けて食材を取り出した。調味料と、野菜や魚肉ソーセージが寂しく冷蔵庫の中に置かれていた。

 

「あ、はい……」

 

 玲奈はこくんと頷くと、ユニットバスへと消えていった。その間に、猫宮はじゃがいもを茹で、そしてありあわせの具材で味噌汁を作る。玲奈が感じる、久々の温かい食事の香りだった。

 

「あ、上がった? んじゃ、これ食べたら寝ちゃっていいから」

 

 玲奈がシャワーから出ると、猫宮は玲奈の体に目もくれず、シャワーへと向かった。

 

「……あ、お互いシャワー浴びないとね……」

 

 玲奈は多少混乱したが、シャワーを浴びた後に手を出されるのだろうと思い直し、じゃがいもと味噌汁を食べはじめた。とても、暖かかった。

 

「ごちそうさまでした」 

 

 食べ終わった玲奈は食器を片付けて洗うと、下着姿でベッドに座って待つことにした。

 

「あ、洗ってくれたんだ。ありがと。それじゃ、ベッド使っていいからお休み」

 

 しかし、シャワー上がりの猫宮はなんと玲奈に目をくれることもなく、学生鞄を枕に床に横になってしまった。

 

「あ、あの……」

 

「ああ、特に気にしなくてもいいよ。床でも寝れるし」

 

「で、でも、お礼……」

 

「お礼、欲しくて助けたわけじゃないし。君も、そうなんでしょ?」

 

 そう言われると、玲奈は口を閉じるしか無い。しかし、この部屋を見て、お礼以外の気持ちが湧いたのも本当だったのだ。しかし、何かを言う前に、猫宮は電気を消すと、横になってしまった。

 

「……」

 

 そして玲奈もどうして良いかわからず、結局久々のベッドで寝ることにしたのだ。

 

 

 翌朝、玲奈は朝ごはんもご馳走になり、猫宮の知る部隊の一つに引き取られる事となった。

 

「あ、こっちこっち。高谷さん、この子、よろしく!」

 

「了解です!」

 

 玲奈を迎えに来たのも、また女学兵だった。少し戸惑ったが、お辞儀をする玲奈。猫宮は玲奈を引き渡すと、また何処かへ去っていった。

 

「……高谷さん、あの人は一体……?」

 

 玲奈が、思わず訪ねた。玲奈基準から見ても、本当に不思議な学兵だった。

 

「ああ、彼はね。私たちみたいな見捨てられた学兵を、助けようとしてくれてる人なんだ」

 

「学兵を?」

 

「そう。他にも、数え切れないくらい猫宮さんが助けてくれたんだ。戦い方を教えてくれて、物資を揃えてくれて――ね」

 

「そうなんですか……」

 

 玲奈は、去っていく猫宮の背中を見つつ呟いた。

 

 

 

 それから数日の後、また猫宮は夜の街を巡回していた。そして、また猫からの報告を受けた。案内された場所に行くと、玲奈はまた別の学兵を相手にしていた。しかし、それを遠巻きに守っているような気配が有る。そちらをこっそり見ると、数日前に玲奈を襲った学兵だった。他にも、何人もの学兵が彼女を見ないように、見えないように守っているようだった。

 

「そうか――」

 

 彼女は、自分なりにできる選択をしたのだろう。何処かの誰かのために。そして、そんな彼女に惚れ込んでしまった学兵もできてしまったのだろう。

 

 それは、瓦礫の街に生まれた、ちっぽけなちっぽけな、聖女なのだろう。猫宮はそう思うと、また別の闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『四月一日玲奈』
 17歳・女学兵。熊本城決戦において、即席の戦車随伴歩兵として参戦、所属部隊の唯一の生き残りとなる。帰る家も学校も無く、宛もなく街を彷徨い学兵に襲われた。


 戦争と切っては切り離せない「性」の問題。公式でも、乱れに乱れていたようです。そんな中に生まれたちっぽけな光の物語でした。
 そして、猫宮の家の事情も初公開。無駄金使うわけにも行きませんし、攻略最優先なプレイヤーならこうなりますよね……(待て)
 まかり間違っても小隊の仲間を家に呼ぶわけにも行きませんし、無理やり踏み込まれたら凄いショックを受けるでしょう。

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話
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