ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
夕刻にもなると、あちこちに散っていた善行戦隊の面々が司令部へと戻ってきた。広大な駐車場では多数の車輌が補給と整備を受け、負傷者は臨時の野戦病院に送られ、空いた土地では炊き出しが行われていた。その光景はある種の賑やかさを感じさせ、不謹慎かもしれないが一種の祭りのようにも見受けられた。
しかし、そんな中どうにも居心地が微妙に感じられたのが猫宮である。先の戦闘で敵を退けたこととその戦い方から恐れ半分、畏れ半分といった視線を受けていた。
必要なことだったとはいえ少し寂しいなと思いつつ、炊き出しの貧乏汁とおにぎり1個を食べ終わると一人、少し隊を離れて戦場となった無人の街を眺めていた。人の営みが無くなった街は急速に荒廃が進んだようで、そして植物が生命力を旺盛に主張していた。その風景が、なんとも哀愁と風情を感じさせる。だが、猫宮には悲しいものに思えるのだ。
「この光景、お嫌いかしら?」
今まで聞いたことのない、鈴を転がすような声だ。
「嫌いというより……ね。人が居ない街って寂しいから」振り返らずに、猫宮はそう返した。
「そうね。私も見たことが有るわ。新天地へと、進化しようとみんなみんなが移動したの。その土地にあった何もかもを投げ捨てて、残ったのは空っぽの街や村々だったわ」
少女も、似たような光景を知っているのだろう。その声には寂しさが有った。
「進化、か……あんな風になることが?」
「ええ。強くて大きい体。戦いにだけ向いた姿。あんな風になってしまったわ。あなたみたいに」
少女の声に、嫌悪感が交じる。しかし、猫宮は気にした風もない。
「これでもまだまだ彼らより弱いさ。睡眠も食事も必要で、他の人の力を借りなければ満足に戦えない。あの巨人は、皆の想いの結晶」 くるりと、少女の方に振り返る。
「あの力は、決して自分一人のものじゃない」
そう言うと、まっすぐに見つめた。その視線を、正面から受け止める少女。そうして暫くして、目を伏せて呟くように言った。
「そう……ごめんなさい。少し誤解していたみたいね」
「大丈夫。今こうして話して誤解は解けたでしょ?」
「ええ、そうね」
そうしてお互い微笑む。すると、次の瞬間に脳裏に思念が入って来た。探るような、いたずらするような、そんな感覚。
猫宮は素早く動いて少女の手を取ると、その感覚を止めた。
「おっと、お話の最中にそれは反則かな? 心を暴くなんて淑女のやることじゃ無いですよ?」
「っ、いきなり手を取るのもマナー違反ではなくて?」
少し拗ねたように、少女が言う。だが、猫宮は意に介さない。
「心を覗くは心の陵辱と同じですよ? だから、これはそのお代――」
そう言い、恭しく手を取ると、手首へと口付けた。
「~~~!」
顔を赤くして、パクパクと口を開き、言葉も出ない少女。その様子を見て、いたずら成功と猫宮は距離を取る。
「それじゃあ、またね、女王様」
「喰えないお人ね……でもああそうね、詰めが甘いかしら?」
そう言うと、ひらりと横を見る少女。見ると、口をポカーンと開けた千代美とみほとエリカがそこに居た。
「えっ!?」
「それじゃあまたね、猫宮さん」
トドメとばかりに投げキッスをしてからホホホと去っていく少女。それからずずいっと迫ってくる新たな少女3名。
「ねねねねね、猫宮さんっ!」 「今の人は誰ですかっ!?」「と言うか何をしていたっ!?」
「だ、だだだ、誰だろうね……」
物凄い冷や汗をかきつつとっさに言い訳する猫宮。だがその始めが最悪だった。
「誰だろうねって、誰か知らない人にあんなことをやってたんですか!?」 「そそそ、そんなに手が早かったのか!?」 「ね、猫宮さんっ……!」
右を見る、前を見る、左を見る…… ねこみや は にげだした !
「あっ!?」 「猫宮さんっ!?」 「ま、待て~!」
そんなこんなで追いかけっこを始める4人。猫宮が司令部の方まで逃げ出すと、大勢の兵に目撃され、口笛を吹かれたり囃し立てられたりする。そんな様子を見て、恐れの目線が呆れ顔に変わったりするのであった。
一方その頃、善行・久場・村上などは地図を眺めて戦況を検討していた。本来は鳥栖・久留米市に行くはずだったであろう有力な敵を司令部で撃破できたことから、各所の交通は予想外にスムーズに動いていた。
「撤退は今のところ順調ですね」
「ええ、この分では司令部を明日には北上させられるでしょう」
久場の分析に、善行が頷く。今日、この南北の大動脈を維持したことで、約3万の人間が北へと脱出できたのだ。
「いやはやしかし、士魂号とは凄いものですな……私も彼らと共に戦ったのですが、航空ユニットがあっという間に蹴散らされましたよ」
村上は感心したように言う。これまでもそうであったように、一度士魂号と共闘した指揮官は、その使い勝手の良さに大抵は好意を抱くのだ。特に3番機は広範囲の敵に攻撃できる万能ユニットだ。村上少佐が惚れ込むのも無理はないだろう。
「お陰であちこちで引っ張りだこですが」と、善行が苦笑した。
実はこの撤退戦の前、危うく善行と原は連行されそうになったが、憲兵隊のお陰で助かったのだ。もし捕まっていれば、この二人抜きで撤退戦を行わなければならない所だった。
「ははは、これまでの戦果を見ればその理由も納得です」
村上少佐の言葉に久場大尉も頷く。見れば見るほど、知れば知るほどその戦力が魅力的に見え、なおかつパイロットの天才性もむき出しになる。一番普通と思われる滝川でさえ、平均点を軽くぶっちぎっているのだ。気の早い本土では、既にどう5121のパイロットを分配するか皮算用もしているかもしれない。
「では、我々もそろそろ休憩をしましょう。指揮官の判断が遅れては事ですからね」
久場大尉の解散宣言に、二人も頷いた。
テントを出ると、そこには原が居た。照れくさそうに頭をかく善行と、気を使って速やかに離れる二人。心の休息も、誰にだって必要なのだ。
滝川は、いつの間にか森と二人きりになっていた。機体の話をしながら、なんとなしに陣地を見て回り、気がつけば人気の少ない所に居たのだ。そのせいか、妙にドキドキして、何度も森の方を確認してしまう。それは、相手も同じなようで、時々目が合うと赤くなって慌てて目をそらす。そんなことを何度も何度も行っていた。
しかし、瀬戸口のあの場面を思い出し、勇気を出して声をかける滝川。
「あ、あのさ……」 「ひゃいっ!?」
声をかけると森はビクッと飛び上がり、変な声を上げてしまう。どうすれば……と思いつつも、森の手を掴んだ。すると、体を硬直させてしまう。反射的に離そうとしてしまったが、思いとどまる。
そうして、まっすぐ森の目を見据えて話し出す。
「あのさ、俺、他の奴らより強くないけど、それでも絶対森を守るからさ……」
乏しいボキャブラリーの中、必死に言葉を探す滝川。そんな様子を見ると、なんだかおかしくなってしまう森。くすりと笑ってしまった。
「な、何だよ……」 拗ねる滝川。
「あはは、ごめんなさい。でも、滝川くんらしくて良いなって」
そう言うと、森は目を瞑り、体を滝川に預けた。
えっ、えっ、これ、良いの?良いんだよな?良いんだよね?
テンパって、焦って、頭が混乱して――でも、最後には、二人のシルエットが重なったのだった。
たわけ、たわけめ……破廉恥な……!
芝村はずんずんと大股で不機嫌そうに陣地を歩いていた。
瀬戸口も壬生屋も猫宮も善行も原も滝川も森も浮かれおって……今は戦闘中なのだぞ!
不機嫌そうにポニテをゆらゆらと揺らし、後ろに速水を引き連れて、本人曰く陣地の見回りをしている。それというのもあちこちで色恋にうつつを抜かしている様を見てしまったからだ。
だが、芝村といえども一人の女の子、やはりそういうことは気になるものである。やがて大股歩きも止め、顔を赤くしながらくるりと速水の方に振り向いた。
「こほんっ……やはり、ああいうことは男女では普通のことなのか……?」
普通、にコンプレックスを持っている舞である。あくまでもそこを強調して速水に聞いた。
「うーん、仲のすごく良い男女なら普通……だと思う」
「そ、そうか、普通か! ……ときに厚志よ、そなたはその……そういう事に憧れを持っているか?」
顔を真赤にし、チラチラと速水を見ながら問いかける芝村。意図がバレバレである。
「うん、僕もそういうのは憧れるかな……」 あはは、と笑いかけながらじっと芝村を見る速水。
「そ、そうかそうか! ……我らもカダヤだし、それは普通なのであろうな……コホン。な、ならばそなたの好きにしていいぞ……」
この期に及んで素直ではない芝村。しかし、速水はそんな仕草がすごく愛おしい。迷いなく側によると、すっと唇を重ねたのであった。
猫宮の目的の一つに、カーミラを自分に夢中にさせる(興味的な意味で)というのがあり、そのためにこんなわざとらしいことをしました。……わ、わざとらしすぎたかな……?
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