ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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久留米・鳥栖防衛戦

【久留米市近郊 二軒茶屋付近 ○五○○】

 

 5月8日。寝れる者は泥のように眠った後、油の浮いたレーションを腹に押し込んでいそいそと出撃していった。複合施設に置かれた司令部のテントが畳まれ、更に北部への移動であった。

 

 久留米市付近の空は黒煙に覆われていた。市街地は燃え上がり、上空はきたかぜゾンビの編成がしきりに旋回し、地上に掃射を加えている。

 

 だが、陣地が死んだわけではなかった。巧みに隠蔽された各種兵器が迂闊に近寄ってきた幻獣を叩き伏せ、兵は下水道を主体とした地下陣地に潜り、粘り強く抵抗を続けていた。兵が弱い学兵な分、考え抜かれた陣地を持って、幻獣を撃退し続けていたのだ。

 

 久留米守備隊は、今のところ敵を撃退し続けていた。敵は久留米を包囲するように攻撃を加えつづ、一部は更に北の鳥栖市へと進撃していたが、成果は得られてい無い。昨日、自由に動ける兵力を一気に減らされたためである。

 

「どうする? 逆包囲か?」

 

 芝村が善行に通信を送ってきた。しかし、善行は「いえ」と言下に否定する。

 

「それでは士魂号がもったいない。士魂号は久留米市の南から北への打通をはかって下さい。これを何度か繰り返し、敵主力をひきつけ撃滅します。包囲はL型の各員にお願いします。半円形に広がり、陣地とともに敵を挟撃して撃破して下さい」

 

「了解した」 芝村が短く頷く。

 

「了解です」 「了解しました」 村上少佐やまほも作戦を了承すると、すぐに戦車隊を半円形に展開させた。

 

 

 

 自走砲の援護を受けつつ、4機の士魂号は俗にいう「ゴルゴーン溜まり」……幻獣側の砲兵陣地に突進を始めていた。敵は8体ずつのミノタウロスとゴルゴーンで、市内にしきりに生体ミサイルの攻撃を加えていた。

 

「参ります!」

 

 壬生屋の1番機が16体の中型幻獣に切り込むと、あっという間に3体のゴルゴーンが爆発、更に2体が誘爆する。5秒ほど遅れて3番機が突入、ジャベリンミサイルが発射され更に8体のミノタウロス・ゴルゴーンが撃破される。

 

 残りは2番機のジャイアントバズーカと、更に遅れて突入してきた4番機の奮戦で撃破され、あっという間にゴルゴーン溜まりが全滅させられる。この間1分30秒、記録的とも言える速さである。

 

 砲撃がなくなったことで、また地下からぞろぞろと湧き出てきた兵たちがそれぞれの兵器に取り付く。挟撃の始まりである。

 

「各車自由射撃!」

 

 陣地の内外から挟撃された敵幻獣は、右往左往する内に次々と数を減らされていく。何処を向いても弱い角度を敵に晒すことになるのである。損害が大きいのも当たり前であった。

 

 

「さて、どんどん行くよ!」「ええ、参ります!」

 

 この戦果に気を良くしたか、1番機と3番機が更に突撃を始めた。

 

 

 

「右翼、左翼共に安定、大隅公園付近にて敵を多数撃破」幸先の良い報告が続く。

 

 だが、指揮車に揃っているのは悲観主義者ばかりである。何処かに不安要素はないかと、久場も善行もタクティカルスクリーンを俯瞰していた。どうにもあっけなさすぎると思ったが、昨日の撃破数を思い出すと、敵も戦力が枯渇しているかもしれない。

 

「日田方面に敵増援出現! スキュラ6、ミノタウロス18を含む有力な敵です。至急、士魂号の救援をお願いします」

 

 直後に、村上からの通信が入った。うなずき、即座に向かわせようとした所、猫宮から通信が入る。

 

「各員に警告! 負傷兵に紛れて共生派ゲリラが自爆テロをしている模様! 迂闊に近づかないように!」

 

 寝耳に水の報告だ。共生派ゲリラがこんなところまで紛れているとは……。しかも、自爆攻撃まで!

 

「猫宮君、その爆発の規模は?」

 

「士魂号の腕くらいなら吹っ飛ばせます! 絶対、迂闊に近寄らないように!」

 

「えっ? うわあああああっ!?」

 

 話している内に、滝川が爆発に巻き込まれ2番機の右腕が吹き飛ばされた。丁度警告が出る直前に、手を伸ばしていたのだろう。

 

「滝川さんっ!?」『滝川っ!?』

 

 4人の叫びが重なる。

 

「被害状況は?」 努めて冷静に、善行が問う。

 

「え、えっと、右腕が吹き飛ばされて……俺、俺……」

 

 何が起きたのかまだうまく飲み込めていない様子の滝川。

 

「落ち着いて下さい滝川君。後方に戻り、腕を換装して下さい。出来ますね?」

 

「あっ、はい。な、なんとか……」言われるまま、少しずつ落ち着きを取り戻していく滝川。

 

「結構。では、戦場は危険なので急いで下さい」その様子に、善行は優しく話しかける。

 

「はっ、はい!」

 

 そう言うと滝川は、慌てて後方へと戻っていった。危険だが、整備班は指揮車の後方1キロメートル地点に展開していた。

 

 

 

「日田方面からの敵増援があと5分で友軍と接触する。3機はスキュラを頼む」

 

 瀬戸口からの通信に、少し考え込む芝村。やはり最大の脅威はスキュラである。

 

「瀬戸口よ、スキュラはどのような隊形を取っている?」

 

「例によって密集して砲列を敷いている。距離は、文化センターを起点として東に3キロほどの地点だ」

 

 ふむ、と舞が10秒ほど考え込む。

 

「猫宮、92mmライフルで煙幕弾を。その隙に1・3番機でスキュラに肉薄する」

 

「了解、自分は後方支援だね」

 

 そう言うと、92mmライフルに煙幕弾をリロードする猫宮。

 

「あの、私たちは?」モコスの佐藤からだ。

 

「1体でも多くの中型幻獣を削ってくれ。無理はしなくていい」

 

「了解しました」

 

 佐藤からの通信も途切れる。彼女らは、出来る範囲で無理なく削ってくれるだろう。

 

「スキュラ、文化センターより2.5キロに接近。頼んだぞ!」

 

「任せておけ」

 

 1.3番機がスキュラに向けて突撃する。レーザーの射程に入る前に、猫宮は煙幕弾を展開、巧みに敵のレーザーを逸らさせる。

 

 先に突入した1番機が跳躍し、スキュラの腹を切り裂くと、着地地点に居たミノタウロスもついでとばかりに切り倒す。

 

 1番機に気を取られている合間に、3番機はスキュラの群れの下に潜り込んだ。下側の、腹は弱い。一気にロックオンすると、3番機から24発のジャベリンミサイルが発射され、3番機はスライディングをするようにビルの影へと逃げ込む。

 途端、大爆発。空中要塞と言われるスキュラは、その爆発も凄まじく、下に居たミノタウロスも次々と誘爆していく。

 

 スキュラの脅威が無くなると、L型、L2型、モコスなど、様々な車両の砲撃が残った地上ユニットに降り注ぐ。4番機の92mmライフルも、一射一殺の精度で敵を削っていた。

 

「日田方面からの敵全滅」

 

「よくやってくれました」

 

 瀬戸口の報告に、善行が言葉を重ねる。これで一先ず久留米は安全だろう。

 

 

 ふと3番機の眼下に、担架に横たわったままの学兵が映った。酸素供給装置、点滴・薬剤注入装置などを装備している最新のLSS(Life Support Stretcher)である。それを即座に共生派と看過し、離れるように言う芝村。

 

 銃声・途端に大爆発。共生派の自爆テロだ。全く――どこまでもこちらの心の隙をついてくる奴らだ。

 

 

 

 流石にこの共生派の数は専門家でないと防げない……と猫宮が歯噛みしている所に、通信が入る。

 

「困っているようだな」

 

「もしかして、盗聴してました?」

 

 芝村泰守からだ。猫宮から指摘されても、ガハハと笑うだけである。

 

「そう怒るな。俺も何処かの準竜師と同じく。お前たちのファンなのだ。それでだ、憲兵隊を一部そちらに回してやろう」

 

「憲兵隊を!? よく抽出できましたね……」

 

 突然の援軍にびっくりする猫宮。憲兵は貴重なはずだが……。

 

「何、撤退してくる兵に自爆テロでもされたら叶わぬのでな。思いの外スムーズに進んだぞ。西住中将にも感謝すると良い。ああそれと、お前の知り合いも来るそうだ」

 

「知り合い……と言うと、まさか矢作少尉?」

 

 前は曹長だったが、多数の共生派の検挙により昇進したらしい。

 

「まあ、そういうことだ。無事に帰ってこい。まだお前と話すことも有るからな。以上だ」

 

 そう言うと、勝手に通信を始めた時と同じように勝手に通信が切れる。だが、猫宮はこれまでやったことが無駄ではなかった――そう思うのだった。

 

 

 

 一方、整備班ではコックピットの滝川に森が縋り付いてうわんうわんと泣いていた。もう少しで死ぬところだったのである。森としては不安で仕方がなかった。

 そんな森を心配そうに見つめる整備員たち。そして、それを咎めようと原が声をかけようとして、森がキッと顔を上げた。

 

「滝川くんをこんなにして! 許せないわ!」

 

 森は嗚咽を止めると、すっくと立ち上がった。

 

「おいおい、俺は大丈夫だって、森」

 

 滝川が安心させるかのように言うと、森は「それでも!」と強い口調で言った。

 

「1時間なんてかけません!30分有れば十分です!」

 

「いえ、15分よ」

 

 森の言葉に、原が重ねる。原も怒っていたのだ。

 

「はい、班長、分かりました! 滝川君は軍医さんの診察、受けて!」

 

「滝川君、あなた達の肩に大勢の命がかかってるの。負傷兵なんか無視しなさい。もし間違ったとしても、私たちは最後まであなたの味方をするから」

 

 森と原の真剣な様子に、滝川は気圧されたようにこくんと頷くのであった。

 

 

 

 ……のちに久留米・鳥栖防衛戦と呼ばれた戦闘は、士魂号の活躍と人類の巧みな連携攻撃により成功を収め、更に2万の兵が虎口を脱した。善行戦隊は殿として、幻獣と戦ったが敵は既に精彩を欠いていた。

 

 こうして、九州撤退戦は新たな局面を迎えつつ有った。

 

 

 

 一方、遠坂財閥を手中に収めた遠坂は、妹の絵里、そして田辺と共に下関の系列ホテルのスイートルームに居た。今は、来るべき撤退戦のための準備をしているところである。

 しかし、そんな所に絵里もついてきたいと行って秘書業をやっていた。そして、手伝わせてみると実に優秀な秘書だったのである。

 

 コンコンと、部屋の扉がノックされる。開けると、そこには芝村神楽が居た。

 

「邪魔をするぞ」

 

「ええ、どうぞ」

 

 遠坂が優雅に礼をすると、絵里と田辺がぱたぱたと紅茶を入れる。

 

 ここから、始まるのだ。撤退戦の総仕上げが。そう思うと、遠坂は緊張から気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 これから戦闘回が続きます。しかし、5121はやっぱり圧倒的ですね……。

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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