ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
これからの活動は活動報告に書きましたので、もしよろしければそちらもご一読の程をお願いします。
機体から降りて泥のように眠った後、猫宮は深夜に目を覚ました。兵のための炊き出しや宿舎、野戦病院もすっかり静かになり、対岸は黒々とした闇が覆っていた。
「そっか。やっと終わったんだ……」
そう思うと、お腹がぐぐぅ~と鳴ってしまった。ザラメと水しか取ってなかった胃が、今度はちゃんとした食物を要求しだしたのだ。何か残っているものは無いかな?と炊き出しのテントを覗くと、鍋もすっかり空になっていた。
さて困ったと、仕方ないので物資が集まっている場所を探した所、どうやら倉庫らしきテントが見つかった。近付いた所、歩哨に立っていた兵に敬礼される。
「おはようございます猫宮万翼長殿」
「何かお探しでしょうか?」
生真面目に敬礼され、猫宮も敬礼をし返す。
「ああいや、ちょっとお腹が空いちゃって。レーションでもないかなって」
「はっ。それでしたらエースの手を患わわせることもございません。少々お待ち下さい」
と、歩哨の一人が速やかにテントに入ると、牛丼レーションをもってきてくれた。
「あはは、ありがとうございます」
「いえ、当然のことであります」
猫宮がお礼をしても、生真面目に返す兵。どうやら、余程敬意を持ってくれているらしい。ぺこりとお辞儀をして、猫宮は埠頭の方へと歩いていった。
コンクリートの地べたに座り込み、レーションの加熱剤で食事を温める。対岸に、一切の光はない。それが幻獣に支配された領域の特徴でも有った。これから、自然もどんどん蘇っていくのだろう。それを思うと、奪還も大変だなと思ってしまう。
「こんな所に居たのか」
振り返ると、西住中将が立っていた。立ち上がって敬礼をしようとすると、そのままと抑えられ、隣に座られた。
「この撤退戦の時も、テロの時も、君には助けられっぱなしだな。特に、今回は君たちのお陰で数え切れないほどの人間が助けられた。本当にありがとう」
そう言って頭を下げる西住中将。
「どういたしまして」 そう言うと、猫宮は笑顔で応えた。
「それで、これからの事なのだがな……」
「やっぱり紛糾してます?」
「うむ、特に君の扱いなのだ……」
どうやら、準竜師が言ったように5121の人員を巡って熾烈な争奪戦が発生しているらしい。全員生還して一安心といったところか。整備・運用・教導とどれにも使えそうに見える5121のメンバーは軍・そして企業には宝の山のように見えるだろう。
「自分はやっぱり5121に居たいですね。気心の知れた仲間たちですし。一番戦果を発揮できますし」
「そうか……」残念そうに俯く西住中将。
「でも、休戦期の間、教導とかだったら大丈夫ですよ」
そう言って微笑む猫宮に、ふむと考え込む西住中将。
「教導か……良いのか?」
「ええ、今回の戦い、自衛軍の中にも戦闘経験がない人たちも結構見受けられましたから。その人達と戦訓を共有できたらいいなって」
その言葉を聞いて、自衛軍の戦闘を思い出す中将。確かに、戦闘に慣れてない隊は一方的に撃破されることも多かった。
「何なら芝村準竜師に確認を取ってみます? まあ、それなりのものは取られるでしょうけど……」
そう言うと苦笑いを浮かべてしまうのだった。芝村に随分と手土産を渡さないといけないのだろう。そんなことを考えていると、多目的結晶に設定していたタイマーが鳴った。どうやら温め終わったようだ。
「あっ、レーション……」
「こちらは気にしなくていい。是非食べてくれ」
「では遠慮なく」
封を開け、あちちと言いながらレーションを食べていく猫宮。流石加藤も一押しするだけ有って、レーションの中でも特に旨い。はふはふと牛丼をかきこみ、おかずを平らげ、お菓子もあっという間にぺろりと。そこまでして、ようやく人心地が付いた。
「ふぅ。ご馳走様でした」そう言うと両手を合わせる。
西住中将は、そんな様子を微笑みつつ見守っていたのであった。
長い夜が明けると、埠頭は再び喧騒を取り戻しつつ有った。炊き出しが始まり、帰還した隊調査が憲兵より始まっていた。
「どうもおはようございます」
そんな様子を眺めている猫宮の所に現れたのは、この場に似つかわしくないスーツ姿の遠坂と、エプロンドレスを付けている田辺だ。
「あ、遠坂さんおはよう。フェリーでの輸送ありがとうございました」
そう言うと、猫宮は深々とお辞儀をする。
「いえ、今回のことで運輸はかなり儲かるとわかりましたので……1万5千人の特別運賃、いやはや儲けさせていただきました。それに、我が社の宣伝にも大いに貢献していただけました」
そう言う遠坂の口調には、商人としての逞しさが溢れていた。今回のことで、どうやら一皮も二皮も向けたようである。
「もう、政府の無策を言い訳にはさせません。政府が無策なら、我々が取って代わります。その為には何だってするでしょう。ですが、もしものときは……」
「ええ、お手伝い、任せてください」
そう言うと、二人はがっしりと握手を交わしたのだ。
「ああそうそう、遠坂さん」帰りかけた遠坂を呼び止める猫宮。
「何でしょうか?」
「田辺さんの格好だけどね。メイド服、似合うと思うんだ……それじゃ、また!」
そう言うと、去っていく猫宮。そして、遠坂は多大な衝撃を受けていたのだった。
ぷんと懐かしいカレーの香りが漂う。そちらに近づくと、「5121小隊特製和風カレー」なるのぼりが立ててあった。
「おーっ、カレー?」
ワイワイガヤガヤと人が集まってるところに覗く猫宮。見ると中村やヨーコが元気よく皿に盛り付けていた。
「おおっ、猫宮、起きたか。お前も喰っていくばい!」
そう言うと、大盛りで盛り付けたカレーを渡される。ふーふーして一口。うん、いつものカレーの味だ。
「うん、美味しい。流石だね、中村さん!」
そう言うと、笑顔になる中村。それからも、次々と盛り付けていく。
周りを見れば、5121のメンバーが集まっていた。やはり皆、懐かしい味を食べたいのだろう。それぞれが、すごい勢いでカレーを食べていた。
周囲の喧騒の中、一段落すると立ち上がって善行が5121の皆に話しかける。
「えー皆さん。本来は学兵は今日の自然休戦期を持って解散となるはずでしたが、我々善行戦隊は特例を以ってそのままで待機ということになりました。しばらくはここ、下関に置かれることとなります」
そのことに対する反応は様々だ。喜ぶもの、戸惑うもの、落ち込むもの……等々。
「ですが、我々は凄まじい戦果を挙げ、多数の味方を助けました。よって、悪い扱いをされることはないでしょう。なので、皆さん、ひとまずはゆっくり身を休めて下さい。身の処し方はそれから考えましょう。以上です」
どうやら、特別扱いと言っても、今までと変わらず、仲間といれるようだ。その事がわかったか、少なくとも不安は消えていく。
「あ、じゃあ何か買い出しに行かないと! あの校舎においてきたものも結構あるし、家から持ち出せなかったものも有るし!」
猫宮がそう言うと、あちこちから「賛成!」「賛成!」と声が上がる。
「ええそうね、どうせ宿舎、殺風景でしょ? せめて何か彩りがないと」
「バンバンジー! バンバンジーのビデオとゲームがないと始まらないだろ!」
「えーと、僕はクッキー作りたいな……だから調理道具、買ってこないと」
「あ、あのですね、皆さん、まずは予算が……」
と善行がなだめようとすると、すっと遠坂が出てきた。
「それでは僭越ながら私が予算を出しましょう。皆様、お好きなものをどうぞ」
それにまたわっ!と歓声が上がる。なお、いつの間にか田辺はメイド服へと姿を変えていた。
「はい、それじゃあ作戦会議開催。買い出しに賛成の人」
バババッと、5121のほぼ全員の手が挙がる。右を見て、左を見て、ため息をつく善行。そうして、ようやく最後の一人の手も上がる。
「よし、全会一致で賛成ね! それじゃ、トラックの手配に宿舎の確保、班を分けましょう。まずは……」
こうして、新天地でもいつものように騒がしい5121小隊。今はただ、彼らにやすらぎを。そして、彼らの未来に幸多からん事を願って。
短編が出るとしたらどんな話が良い?
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女の子達とのラブコメが見たいんだ
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男連中とのバカ話が見たいんだ
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九州で出会った学兵たちの話
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大人の兵隊たちとのあれこれ
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5121含んだ善行戦隊の話