ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
リクエストは、全てできるかわかりませんが、活動報告で随時受付中です。
※千代美の一人称をわたしにしています
猫宮、東京へ行く
軍中央、予算委員会。本来、予算を審議するはずの場で話題になっているのは、とあるパイロットの話題であった。名を猫宮悠輝と言う。
1999年3月より発足した人型戦車を運用する5121小隊は、初陣から練度を磨き、誰もが目をむくような戦果を挙げる隊へと変貌した。
そんな隊のキーマンの一人が、猫宮である。彼は、人型戦車の運用だけでなく、通常の装輪式戦車との連携にも長け、また戦術論も提出できる稀有な人材であった。おまけに、幾つかの筋の情報によると、共生派の摘発に大きな成果も挙げたとの未確認情報もある。
そんな訳で、休戦期に入ってからの猫宮の行き先というのは、軍上層部でも議論の的になっていたのである。……学兵をずっと徴兵し続けているという点に目を瞑って。
「我らとしては本人の希望を優先させたいものとする」
そして、議論が始まり真っ先に言われたのが芝村準竜師からのこの言葉である。さんざん条件を釣り上げられるかと思った会津・薩摩派は、面食らった。
「本当にそれで良いのですか?」
「無論。あれは我が派閥の人間では無いからな。最も、戦うときは古巣で戦いたいようだが」
思わず確認した所、放たれたのは上層部の人間には信じきれない言葉であった。猫宮は芝村派閥ではないという。下からの報告も上がっていたが、まさか本当だとは。だが、条件を気にしなくてよいのなら、議論が活発になってくる。
「やはり我々の試作機のテストパイロットにすれば良いのではないか?」
「いや、それは勿体無い。彼の持つ戦訓はどれも貴重だ。フィードバックさせたほうが良い」
「しかしフィードバックさせるにも機体がないと始まらないぞ」
「どうせ機体は後から持ってこれるのだ、それならまず隊を率いさせてはどうだろうか」
「むう、だが肝心のパイロットは……」
と、議論を進めていく内に気がついた。確かに猫宮は好きに使えるかもしれない。だが、それに付随する人型戦車のパイロット・整備員・機体等はまだまだ芝村が握っているのだ。だが、彼らはその芝村に渡す手土産をひとまず考えるのをやめた。それほどまでに、撤退戦までに挙げた戦果は魅力的だったのだ。軍人であれば、多大な戦果を挙げた兵器は欲しいものである。
「あー、そうだ、西住中将、ちなみに彼の希望は何処ですかな?」
喧々囂々、熱が入り肝心なことを、西住中将に聞くことにした諸兄。その様子に中将も苦笑する。
「ああ、彼か。彼は部隊の教導をしたいと言っていたな……どうやら、人型戦車及び通常の戦車の部隊を預かり、善行戦隊の様な部隊をもう一つ作りたいらしい」
その言葉を聞いて、ガヤガヤと浮つく会津・薩摩閥の一同。あの善行戦隊が、うまく行けばもう1隊出来る。それを聞いてワクワクしない軍人は居ないだろう。(予算のことは置いておく)
「幸いな事に、私の部下に善行戦隊と共に戦った久場少佐も居る。戦車隊の教官も、自走砲から対空砲まで小隊長も居るし、教導には十分な人材がいるだろう……が、全員が年下だ。その辺の機微を分かってくれる士官が必要だな」
なにせ、久場少佐以外全員が酒も飲めない未成年である。そういう人間に頭を垂れ教えを請える人材というのも中々に貴重であった。横では芝村準竜師もガハハと笑っている。
「では、その方向で調整してみましょう」
と、言うわけで、人型戦車の工場がある東京に、猫宮は行くことになったのである。
猫宮は、まほ、凛、千代美の3人と一緒に東京行きの特急列車に乗っていた。この3人なのは、それぞれが小隊長だからである。(置いてけぼりをくらったみほとエリカはものすごく不満そうであった)
学生4人、特急列車で修学旅行みたいな雰囲気になるかと思いきや、歴戦の学兵4人である。これから教導する部隊の話題になっていた。
「第2師団……会津派閥のお膝元だね」
猫宮がペラリと資料をめくりながら行く。
「ふむ……母上から聞いたことが有る。会津の兵は粘り強く戦うがかなり頑固らしい」
「あらあら、それでは新戦術を教えるのはかなり苦労するかもしれませんわね」
「やれやれ、私たちはまだ学兵なんだがな……」
まほの言葉に、懸念を示す凛と千代美。
「まあ、久場大尉が送られてきたみたいに、そこら辺はちゃんと考えてくれるんじゃないかな?」
猫宮のフォローに、それもそうかと頷く3人。
「えー、お弁当に飲み物、アイスにお菓子はいかがですかー」
と、丁度そこへ販売員のお姉さんがやってきた。
「あ、かしわめし下さい! 後お茶も!」 「私はSL弁当とお茶を一つずつ」 「私は小京都味めぐりをおひとつ、後お茶も」 「わたしはちぐまや弁当とお茶を」
猫宮、まほ、凛、千代美がそれぞれ別々にお弁当を頼む。
「はい、駅弁4つとお茶4つありがとうございます」
それぞれが違う種類の駅弁4つ、山口の駅弁である。
「やっぱり電車の旅といえば駅弁だよね。自分山口の駅弁初めてなんだ」
「私もですわ」
「わたしもだ」
「私は父上の実家に行くときに何度か」
それぞれがパカっと駅弁のフタを開けると、色とりどりの惣菜が顔を覗かせる。
九州熊本では、配給品ばかりでとても食べれなかったようなおかずの数々だ。思わず、4人とも夢中になって口に運ぶ。
「あ、この炊き込みご飯美味しい」
「この蒸鶏が何とも……」
一つ一つ食べていっては品評し、次々と口に入れていく。
「あら、それも美味しそうですわね……」
隣の芝は青いと言うが、横で美味しそうに食べているのを見れば大抵はそう見えるもの。
「交換するか?」
となればこういう話も出てくるわけで。
「ええ、では遠慮なく」
「あっ、わたしもさせろ!」
「それじゃ自分も!」
4人でわいわいとおかず交換会になるのだが、千代美がちょっと思いつく。
「……そ、そうだ。お、お礼がまだだったな。たべさせてやるぞ、ほら、あ~んだ!」
「え、えっ」
突然のことにびっくりする猫宮。一方千代美は顔を赤くしてドキドキと、箸を差し出している。
「……じゃ、じゃあ、遠慮なく……」
その視線に根負けして、とうとうぱくっと食べた猫宮。心なしかまほ、凛の視線が痛い。
「……そ、その、猫宮さん、私のもどうぞ!」
次は顔を真赤にしたまほである。これまたあ~んと差し出してきた。千代美の分も食べたのに、まほのぶんだけ食べないわけにもいかない。
「え、えと、うん、頂きます」
顔を赤くして更にパクっと頂く猫宮。心なしか凛の視線が凄く痛い。
「あら、そうですわね。じゃあ猫宮さん、それをお願いしますわ」
と、次は凛があ~んと口を開けた。
「あっ、は、はいっ」
と、凛の口元に運ぶ猫宮。パクっと食べてご満悦な凛。
「わ、私にも!」 「わたしにもだっ!」
そしてそれに対抗心を持つ二人。結局、この食べさせっこは駅弁が無くなるまで続いたのであった。
そんなこんなで夜、東京に到着する特急列車。宿舎が遠いので、安ホテルに1泊する羽目になったのであるが……。
「はあっ!? 4人部屋っ!? しかもベッド4人用!? えっ、他の部屋はっ!?」
「すみませんすみません、あいにく満室でありまして……」
なんと、予約が手違いからか4人部屋であった。しかも4人並ぶ形式のベッドである。
とりあえず部屋へと入る4人。だが、大型ベッドを見るとどうしても意識してしまう。
「あ、あはは……自分は床で寝るよ……」
『だ、ダメですっ(だっ)!』
猫宮の遠慮に重なる3人の声。
「ね、猫宮は明日の講演の主役だろう!」
「そ、そうですわ、主役が疲れていては大変です!」
「う、うん、分かった……」
だが、流石にシャワーを浴びるときは外に出ることにした猫宮。だが、中へ戻ると女性3人から立ち上るお風呂上がりの香りが思春期の少年的なものにダイレクトヒットする。
「あ、あはは、じゃ、じゃあ、次は自分がシャワー浴びますんで!」
どうにかこうにか理性を維持しつつ、シャワーへ入る猫宮。カラスの行水も各屋というスピードで体を洗い髪を乾かすと、即座にベッドの端の端で眠る猫宮。
「だ、大丈夫ですか……?」
約束の時間が立った後、まほが部屋を確認すると、そこには既に顔を赤くして寝ていた猫宮が。そんな様子に3人はくすくすっと笑うとジャンケンをしたのである。
なお、次の日目が覚めると、猫宮の横に居たのは髪を下ろした千代美であった。
館山士官学校に4人が着くと、歓迎の幟で迎えられた。代表で挨拶をしに来たのは、山川士官候補生である。
「お迎えできて光栄です、猫宮上級万翼長、西住万翼長、田尻万翼長、安斎万翼長」
挨拶と同時に一糸乱れぬ敬礼をする士官候補生達に、同じく敬礼で返す4人。と、猫宮は茜を見つけた。つい先日、ここ館山士官学校に入学したばかりであった。
「やっ、茜、元気?」
「ふっ、勿論さ。早速僕の才能を先輩方に見せつけてるところだよ」
その言葉に、苦笑する先輩方。確かに才能は有るようだが、一言で言って茜は変人であったのだ。
「そっか。じゃあそのついでに今日の講演もちょっと手伝ってよ。茜、ずっと自分たちの戦いを見てきたよね」
そう言うと、頼れらたことが嬉しいのか茜は満面の笑みで快諾したのであった。
猫宮、爆発しても良いかなぁ……いや、この世界での爆発は洒落にならん……
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