ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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ジャンケンの結果は前回もそうですがダイスで決めまして。アンチョビ、強し……


ただ、覚えていてほしくて

 訓練は非常に和やかな空気の中進んでいった。西住中将の配慮により、その辺の事を分かっている士官が集められたため、学兵に対する蔑視等は非常に少ない。そもそも、実戦経験0の訓練兵の時点でこれだけの手応えを感じているのだ。文句を言う者など皆無である。そして、この結果には視察に来ていたお偉いさん方もご満悦であった。芝村に借りを作ってしまったものの、挙げられる戦果は従来より遥かに高い。少なくとも、戦場の火消し役としてピンポイントで投入させる部隊を作る意味はあると思われたのだ。その実戦での効果は、善行戦隊が証明していたのである。

 

 となると、キーマンの猫宮に視線は向くもので……

 

「しかし、こうなると彼をこちら側に引き込みたいですな……」

 

「ええ。しかし本人は芝村閥では無いと言ってますが……戦うときは古巣で戦いたいようですし、実質芝村閥の様なものでしょう」

 

「どうにかして引き込めないものか……」

 

「ベタですが婚姻と言う手は……西住中将の娘さんと非常に仲が良い様ですし」

 

「いやしかし、まだ結婚できる年齢ではありませんぞ……」

 

 などなど、大人の悪巧みは果てがないのである。

 

 

 

 一通りの組み合わせが終わった後、お願いされたのは猫宮の挑戦である。

 

「えっ、自分ですか?」

 

「はいっ、猫宮少佐の機動をご教授していただければと!」

 

 特に、第2師団のメンバーから熱心にお願いされる猫宮。勿論、訓練生達の視線も熱い。

 

「了解です。じゃあ、相方は……」

 

 どうしようかと横を見ると女子3人組がジャンケンをしていた。

 

「よし、勝った!」「くっ、またしても……」「またですか……」

 

 どうやら千代美が勝ったらしい。いそいそとシミュレーターへと乗り込む千代美。今までの教導で慣れたものか、自衛軍の兵もそれに従う。

 

「それじゃ、久場少佐、難易度高めでいいですよ!」

 

「了解した。ミノタウロス10、ゴルゴーン8、スキュラ4、キメラ4、きたかぜゾンビ4って所だな」

 

 たった戦車4機で相手取るとは思えない数に、感嘆の声が上がる。

 

 シミュレーターを起動すると、士魂号通常型と、3輌の95式対空戦車がフィールドに現れる。

 

「この組み合わせで戦うのは熊本城以来だな」「だね!」

 

 二人が頷くと、まずは突出してきたきたかぜゾンビへ1機と3輌から正確な射撃が襲う。4機のきたかぜゾンビがたちまち崩れ落ちると、猫宮が突進する。ステップステップ遮蔽への移動でレーザーを回避し囮になっている隙に、一番前のスキュラが3輌の集中砲火を受けて墜落、下に居た幻獣も巻き込み爆発する。

 

「さてと、普段と趣向を変えてみようか!」

 

 スキュラはそのままに、囮として中型幻獣のど真ん中へ跳躍、着地。左手の太刀、右手のジャイアントアサルトで、斬る、撃つ、歩く、斬る、撃つ。そして跳躍。また1体スキュラが落ちてきて、周囲の幻獣を巻き込んだ。

 

 跳躍し、降りたのはゴルゴーン溜まり。駆け抜けながら、数体のゴルゴーンに銃弾とグレネード弾を浴びせると、爆発、誘爆。6体のゴルゴーンが露と消える。

 

「おっと、こっちへ来たぞ!」

 

「了解!」

 

 対空砲に業を煮やしたか、スキュラが95式の方へ向かうと、跳躍、跳躍で追撃。着地して、スキュラの腹に20mmを叩き込む。そして、もう1体のスキュラも3門の20mm砲弾を受け、地に沈む。

 

「よし、空からの脅威は無くなった、前進する!」

 

 そう言うと千代美は3輌の車輌を分散させ、半方位の形に配置する。幻獣が何処にいても撃たれる形だ。その只中に猫宮が突撃し、銃と剣とグレネードで大暴れ。右へ左へ幻獣が右往左往すればそのスキに対空戦車から20mm弾が撃ち込まれ、あっという間に30も居た幻獣の姿が掻き消えたのだった。

 

「これにてシミュレーションを終了します。お疲れ様でした、猫宮少佐」

 

 シミュレーターから出ると、拍手で出迎えられる。千代美は鼻高々だが、千代美と戦った兵たちは半信半疑のようだ。自分たちだけであの数を相手にできるとは、まだ信じられない。

 

「えーと、まあこれはかなり上達した後だから、普通はもと少ない数を相手にした方がいいかな?」

 

 そう言うと、5人の訓練兵がこくこくと頷く。流石にこの数を相手には余程慣れないと無理である。いや、慣れても出来るかどうか……。

 

 

 さて、そんなこんなで合同訓練も終わり、駐屯地の外に出ると、そこには遠坂が待ち受けていた。

 

「やっ、遠坂さん、待たせたね」

 

「いえいえ、本来はこちらが無理を言っている身です。では、こちらに」

 

 遠坂に案内され、高級車に招き入れられる猫宮。

 

「あっ、彼女たちもどうかな?」

 

 と、女子3人組を見ると、遠坂も頷いた。

 

「よろしければ是非に」

 

「何の話ですの?」

 

 と、首をかしげる凛に二人。

 

「ああ、遠坂系列のテレビ局で取材。学兵のこと、本土の人達殆ど知らないみたいだからね」

 

 ひどく真剣な顔で言う猫宮。余程思うところがあるのだろう。3人も顔を見合わせると、同時に頷いた。

 

「是非、私も行こう」

 

「わたしもだ。」

 

「私もお邪魔しますわ」

 

 そう言うと、3人共案内され車の中へと入ったのだ。

 

 

 

 テレビ局は、それまで彼女たちが知らない、彩りに満ちた世界であった。TVスタッフが軒を連ね、芸能人たちが出来利する。しかし、遠坂含めこの5人は、そんな彼らよりも一際目立つ輝きを持っていた。

 

「では、こちらへ」

 

 控室に案内されると、女性陣3人は軽く化粧を施される。テレビ映えをさせるためだ。元の素材も悪くないので、薄く施すと更に見栄えがする。

 

「準備OKです!」

 

 猫宮も勲章を下げて準備よし。そして、4人共スタジオへと向かっていった。

 

 

 スタジオへ入ると、光に照らされる。ゲスト席では自分たちと変わらない年齢の少年少女も居て、その服装や表情の違いが別の世界へ居たことを強く実感させられる。それより上の年齢の人々も、皆華やかだ。

 

「はい、本日は特別ゲストとして熊本で戦った学兵の4名をお呼びしています。猫宮少佐、西住大尉、田尻大尉、安斎大尉の4名です! 皆様、盛大な拍手をお送り下さい!」

 

 拍手を受けながら、席へと案内される4人。まずは軽く自己紹介から始まると、本題へと入っていく。

 

「さて、皆様の訓練期間はどれ程でしたでしょうか?」

 

「3ヶ月です」「2ヶ月位ですわ」「1ヶ月半だ」「3週間弱かな?」

 

 それぞれ、まほ、凛、千代美、猫宮の順である。その短さに、ざわざわと困惑があふれる。

 

「そんなことも知らなかったんですか?」

 

 そう言って首を傾げゲスト達の方を見ると、複雑な表情をされるか、顔を逸らされる。

 

「私達が命がけで戦っている実態を、皆さん殆ど知らなかったのですね……」

 

 まほが呟くと、沈黙が更に重くなる。

 

「まあ、それでも自分たちは幸運な方だったんですけど」

 

 猫宮がそう言うと、更に困惑が大きくなる。

 

「と、と言うと……?」

 

「熊本城攻防戦の時、私達の陣地の隣りにいた学兵は、銃の整備方法すら知りませんでしたわ。捨て駒扱いだったのでしょうね」

 

 凛の言葉に困惑の他、ざわめきが酷くなり、観客たちは落ち着かない。

 

「九州から撤退する際、3割の学兵は死んだ。おそらく、撤退するときの捨て駒にされて……」

 

 千代美の、悔しそうなつぶやきが口から漏れる。

 

 どうしようもない沈黙が降りて、インタビュアーも、コメンテーターも、何も言えなくなる。

 

「恨んでるわけじゃない。ただただ、悲しいんです。こうして死んでいった人たちのことが、知られないことが。覚えていてほしいんです。この国を守るために散っていった戦友たちの事を。お願い、します」

 

 

 そう言って、頭を下げる猫宮。3人も、頷く。スタジオのこの困惑と沈黙は、テレビを通して、お茶の間にも、通じていったのである。

 

 ディレクターもどうして良いか分からない中、この空気を届けられた遠坂や田辺は、満足そうに頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




息抜きにソックスハンター話書いたら凄く捗るなぁ……なぜだ……なぜなのだ……

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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