ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
放送事故級の内容をお茶の間に届けた後、インタビューアーはフリーズしてしまった。どうしようかと悩んでるさなか、やってきたのはなんと遠坂である。このサプライズ登場に、更に声なき悲鳴を上げる関係者達。
「私が変わりましょう」
インタビューアーの肩に手をやると、席を替わる遠坂。その纏う空気は、チョコレートのCMの時とはうって変わって、厳しい空気を纏わせていた。ディレクターはどうするか迷ったが、上がっていく視聴率の数値に、そのまま続けることを決めた。関係者達はもうどうにでもなーれ状態である。
「まず、何を一番に思って戦っていましたか?」
「戦友たちのことですね。一緒に訓練して、一緒にご飯を食べて、一緒に整備をして、一緒に戦場に出る……そんな仲間たちを死なせたくないのが、第1でした」
プロパガンダ部隊としての性質を持つ彼女たちの代わりに答える猫宮。だが、口に出さない代わりに後ろでは、3人共頷いている。そして、その答えにざわつくゲストたち。
「ガンパレード・マーチの中に、どこかの誰かの未来の為にと有りますが、それはどの程度考えていましたか?」
「それは大規模な決戦のときなどですね。熊本城決戦や、撤退戦の時など」
「では、普段は違うと?」
鋭く切り込んでくる遠坂。ざわめきもだんだん落ち着き、真剣な表情に変わり、二人のやり取りを見守る。
「はい。普段、日常の間に戦う時は、仲間たちのことと、その住んでる街の人や、他の学兵たちの事を考えていました。その時は、実際に街に入る幻獣を防いでいる実感が有ったからでしょうね」
「では、大規模な決戦の時はどう考えていましたか?」
一度、目を瞑る猫宮。
「何時終わるとも分からない数の幻獣。街の、いや、戦域のあちこちで起きる戦闘。何時尽きるかもしれない自分や仲間の命。積み重なっていく疲労、消耗していく機体……そんな絶望的な中だからこそ、学兵達は唱えたんだと思うんです。『どこかの誰かの未来の為に』って。覚悟するため、奮い立たせるため、そして何より、生きるために……」
それは、熊本であらゆる戦いを戦い抜いてきた学兵達の生の叫び。想いの代弁。静かな語り口なのに、圧倒されるゲスト達やコメンテーター。
「ありがとうございました。では、そうですね……生活の合間、何が楽しみでしたか?」
「そうですね……始めの頃は買い食いしたり、ゲームセンターで遊んだり、友達とバカやったり……多分こっちの人と変わらないと思います」
後ろでも、うんうんと頷く3人。
「始めの頃と言うと……後からは違ったのですか?」
「ええ。時間が経つごとに、どんどんとお店が疎開していったんです。食べ物屋、アクセサリーショップ、書店、ゲームセンター……だから、遊べる場所もどんどん少なくなって。食事もじゃがいもばかりに。だから、小隊で作る炊き出しが、本当に楽しみになったんです。でも、自分たちはまだちゃんと補給されているだけマシでした」
明かされる食糧事情や、遊びの事情に、またもざわつくゲスト陣。まさか、ここまで酷いとは思っても見なかったのだろう。ここは、豪華な暮らしをしていた遠坂も痛いところであり、表情が暗い。
「ありがとうございました。では、一番辛かった戦いは何でしたか?」
「それはやっぱり……」
後ろを振り向くと、3人共頷く。
『九州撤退戦です』
4つの声が、一つに重なった。
「5月6日から、自分たちはひたすら北へ北へと撤退しながら戦いました」猫宮が
「倒しても倒しても、ひたすら幻獣が押し寄せてきて」まほが
「食事も、寝るのも交代で」凛が
「横で友軍が倒れていくのを見ながら」千代美が
「そんな、地獄のような戦いでした」
あの時の空気を纏わせて、答えた。この時、遠坂と、田辺の胸に、小さな後悔が疼く。やはり、一緒に戦っていたかったと。だが。
「だからこそ、最後の最後まで戦った時、迎えに来てくれた遠坂海運の船が嬉しかったですね」
猫宮の言葉に頷く4人。実際、あの時遠坂海運が助けに来なければ、1万5千は死んでいただろう。だからこそ、遠坂が本土に戻ったことは決して間違ってなかったのだと、4人が言外に伝えていた。
その心遣いが、遠坂の胸をうつ。
「ははは、ありがとうございます。しかし、これでは我が社の宣伝みたいになってしまいますね」
「いやいや、思いきり宣伝していたでしょ?」
こんなやり取りの後、はじめてスタジオにゲストたちを含む笑い声が響いたのであった。
この番組の反響は凄いものであった。まず、学兵の内実をバラされた政府からの抗議である。だが、これには遠坂が断固として対応してくれた。真実こそが民主主義の基本であると。
そして、軍の反響は様々であった。学兵を使わざるを得なかった軍の無能を責められるのではないかと言う物、あの戦いをよく伝えてくれたと言う物など、様々である。
だが、センセーショナルな話題が好きな日本人の気質と相まって、暫くの間、この学兵の問題は世間を賑わすことになったのである。ちなみに、そのとばっちりとしてまだ山口にいる善行戦隊のメンバーたちにも取材やら講演の依頼が多数来たのはご愛嬌である。
【以下ものすっごくどうでもいいおまけ】
この頃、一人のソックスハンターが、ソックスハンター界で注目を集めていた。その名をソックスロボと言う。このソックスロボは、黒森峰、聖グロリアーナ、アンツィオ……数々のソックスハンターが挑み、そして風紀委員に捕まっていった難攻不落のお嬢様学園のソックスを幾つも狩り、しかもそれを独占すること無く市場に流しているのだ。
そう、彼は正に、ソックスハンター界では次世代を担うソックスハンターの一人と目されていた。
だが、本人の考え方は違っていたのである。
「俺、このままで良いのかな……」
今日もまた、アンツィオの子のソックスをゲットしたばかりのロボである。だが、その心中は複雑であった。確かに、ソックスハントを続けて大金を何度も手にしている。だが、自分には既に森と言うカノジョが居る。このままでは、その内森のソックスも売り渡さなくてはならなくなるだろう。だが、そんなのは嫌だと、心の片隅が叫んでいた。
「……そうだよな。よし、もう辞めよう」
そう、アンツィオとグロリアーナの元気な子のソックスを握りしめ、そしてポケットに仕舞い決意した。
「ふふふ、ロボ、今回の仕事はどうでしたかぁ~?」
くねくねと踊りながら仕事を確認するバット。だが、香りから確信がある。今回の仕事も成功したのだと。
「あ、ああ、これだ。受け取ってくれ……」
ゴソゴソと、ビニール袋で丁重に封をしたソックスを渡すロボ。バットはその香りをかぐと、「エクセレントオオオオオオオオッ!」とトリップした。キモい。
「ふふふ、では報酬はここに……」
と、茶封筒を渡すバット。それをロボは受け取ると、口を開く。
「な、なあ、いわ……バット。俺さ……」
「どうしましたか? ロボ?」
いつもと違う様子に、キラリと目が光るバット。
「俺、ハンターをやめようと思うんだ……!」
そう、魂からの叫びを絞り出したロボの言葉に、驚愕に染まるバット。
「ど、どうしたというのだロボよ。ほ、報酬に不満があるのか……!?」
あまりのことにギャグを忘れてマジモードのバット。しかしロボは首を振る。
「ち、違うんだ。こんなこと、間違ってるって思い始めてきて……お、俺はもう辞めたいんだ……!」
その言葉に、目を細め声を低くするバット。
「ロボよ、裏切り者はどうなるかわかりますか……? その昔から足袋狩人の結束は硬い……もし裏切り者がいればその正体が晒され、あなたは風紀員に連れられ、そして森さんにもその正体が……」
「や、やめろ、それだけは止めてくれ……!」
懇願するロボに、高笑いするバット。
「あなたは、この業界から、もはや逃げられないのですよおおおおお、ロボ! さあ、次のターゲットは……」
絶望するロボ、だがそこに救いの手が差し伸べられる。
「そこまでだ、ソックスハンター……一人の更生しようとする若者を引き止めるのはやめるんだ」
コンテナの上、もう5月だというのにコートを着てボルサリーノに手をやりポーズを決める。そいつの正体は!
「
「ふっ、九州では上手く晦まされたが……初めての土地で、土地勘がないのが仇になったな!」
くるくるりと回転しながら降りてポーズを決めるHOSH。
「さあ、滝川、今のうちに逃げるんだ!」
「させるか!」
と、懐に手をツッコミソックスを取り出しトリップするバット。その早業に、洗剤の早撃ちが辛くも間に合わなかった。
「ふふふ、今日こそ決着を付けますぞおおおおおおっ!」
「やってみろおおおおおおおおっ!」
ハリウッドでイグノーベル賞が取れそうな動きの数々。そしてそれを現実感を感じられない視線で見るロボ。
「そうだ、帰ろう……」
ロボ は にげだした
あとに残されたのは、狩る者と狩られる者の二人。その勝敗の行方は――!
【終われ】
「ふっ、いかに動きを加速させようとも、限界があるはずっ!」
「くっ!」
戦況は、バットの不利で進んでいた。いかに動きを素早くしようとも、相手はそんなハンター達に戦い慣れている狩人である。おまけに、バットが取り出したのは決戦用の大事な大事なソックスである。これを守らざるをえないバットは、どうしても動きに制限がかかる。
「さあ、終わりだソックス・バット! 君も遥か昔、検非違使が足袋狩人を捕まえた時に行わせたとされる踏足袋を行わせてやる!」
「ふふっ、そんなことは、させませんよおおおおおおおっ!」
戦況の不利を悟り、一か八かの特攻の勝負に出たバット。そして、それを迎え撃つHOSH。二人の影が交差して――!
【だから終われって言ってんだよ!】
……ソックスロボ、これからどうしよう……()
短編が出るとしたらどんな話が良い?
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