ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
そしてしほさんの人気にものすっごいびっくりしておりますw
しばらく猫宮は堪えていた後、ムクリと顔を上げる。その顔には、また別種の決意が浮かんでいた。
「うん、了解です。彼らは彼らの意思で、善意で、決意で戦うことを選んだ。なら」
少し間を置いて、呼吸を整え、目を閉じる。
「少しでも損害を減らすこと、それが一番ですね」
「ああ」
しほもコクリと頷いた。たとえ練度が低い学兵であろうと、損害が大きくなることを望む指揮官は居ない。ましてや学兵である。大損害を被った時、その批判は大きくなることだろう。
「そこで、自分が使っていたのはこれです」
と、猫宮は荷物からゴソゴソと遠坂財閥が開発した最新式の端末を取り出した。九州の時に出た改良点を洗い出した後適用した新型である。
「遠坂財閥の物だな……」
自衛軍も、撤退した学兵たちを調べた時、ようやくこの端末に気がついた。そして、そのアプリの有用性に。なにせ、アプリ内では学兵たちの戦訓が、徹底的に共有され、しかも疑問点が有れば即座に他の人が返してくれるのだ。そして、そこに書き込まれた大から小までの様々な戦訓は決して無視できないものであった。塹壕や陣地の配置しかた一つとっても、生存率や撃破効率は変わってくる。
「ええ。自衛軍と共闘して思ったのですが、自衛軍は自衛軍で質の差が激しいです。と言うより、部隊によっては基本的な戦訓も更新されていない気がします。それを、リアルタイムな相談や画像・写真機能付きな通信などで改良します。」
「……なるほど」
実際、史実では海軍旅団は基本基本の愚直な繰り返しばかりで、体力だけが立派になったり、茜の取り入れた教本もまともに読まれていなかった。また、陸軍師団同士でも歩兵の傘型散会も、教本通りではまずいとツッコまれていた。
つまりは、基本的な戦訓の共有すら、史実の自衛軍は難が有ったのだ。それを改善するだけでも、大分違うだろう。
「とりあえず教本のアップデートですね。それと、学兵は学兵で教えることを別にして絞らないと。陣地防衛とか大小の砲の使い方とか。ああ、民間人の避難マニュアルも最近泰守さんと打ち合わせしたばっかりだし……」
端末を開いて予定を合わせる猫宮にまたしほは心配そうな顔をしてしまう。
「そんなに忙しくて大丈夫だろううか?」
「今回、自然休戦期は破られる予感がしますし、急ぎませんと。」
サラリと言われた衝撃的な言葉に、心配そうな表情を切り替えるしほ。
「……その根拠は?」
「幻獣の王と思われる人と会いまして」
「幻獣の王だと!?」
「ええ、心覗かれたときにちょっと心がリンクしまして……」
何でもないように言うが、あまりに重大な事である。しほ以外、偉い人間には言えないだろう。
「っ!? それは憲兵には絶対言わないように、良いな!」
「勿論ですよ」と苦笑しながら猫宮は言うのだった。
だが、しほの焦りは大きい。
「防衛計画を練り直さねば……いや、情報の出どころが明かせない。まずは検討会からでも……」
「そちらは、お願いします。こちらは友人にも手伝って貰う予定ですし」
猫宮は猫宮で、茜や善行に手伝って貰う予定であった。
「と、随分と遅くなってしまいましたね。それじゃ、自分はこれで……」
「まあ待ってくれ、せめて風呂にでも入って夕飯でも食べていくと良い」
帰ろうとしたところを、がっしりと手を掴まれた猫宮。
「え、えーと、じゃあお言葉に甘えて……あ、今回は足滑らせないでくださいね!」
「はっはっは。勿論だとも」
釘を刺す猫宮をさらりと流すしほ。そして、猫宮が風呂へ言ったのを見計らって、まほを呼んだ。
「まほ、話があります」
「はい」
母の何時になく真剣な表情に、姿勢を正すまほ。
「猫宮君のことです」
しほがそう言うと、まほもコクリと頷いた。
「彼は、出来ることの範囲が広い。そして、それ相応の実力も持ってしまっている……だから、それ故に、色んな物を背負いすぎています」
「はい」
まほも薄々と気がついていたことだ。
「だから、近くにいるあなた達は普段、遊んで、お馬鹿なことをやり、少しでも負担を軽くしてあげて、忘れられるようにしてあげなさい。きっと、それが一番彼にとって必要なことだと思うから」
そう話すしほは、優しげな母な表情をしていた。そして、まほも同意するとばかりに、大きく頷いたのであった。
滝川は、閑散としてしまった5121の居住地で、暇を持て余していた。遊び仲間の速水、茜、猫宮はそれぞれ別の場所に行ってしまっているし、整備員達も各方面の整備学校で教員として教えている。瀬戸口司令官代理は言うまでもなく壬生屋とべったりである。
だが、一つだけ救いが有った。森が、山口での整備学校の教員として残ってくれていたのだ。
草原に寝っ転がっていると、ふと影がさした。森である。
「あっ、またこんなところでサボってる」
「へへっ、訓練はちゃんと終わった所。それより、森はどうなんだよ?」
ムクリと起き上がって、森が買ってきてくれたジュースを受け取る。滝川の好きな銘柄だ。
「私のところも終わりました。今日は土曜だから早いんです」
そう言うと、滝川の隣に座り込む。すると、森独特の香りが、滝川に漂ってきた。そのことになんだか嬉しくなると、プルタブを開けてグビッとジュースに口をつける。
「そっか……お互い暇なんだな。ん、んじゃさ、どっか遊びにでも行かない?」
「ええ、いいですよ」
そう言うと、森も同じくジュースに口をつけて、少しの間二人は寄り添っていたのであった。
「おやおや、二人共自然にいい空気になってるねえ。前の初々しさがちょっと鳴りを潜めたようでお兄さん少し寂しいよ」
「もう、何を言っているんですか」
と、森と滝川よりも自然に距離が近い二人が見ていたりもしたのである。
二人のデートと言うと、特別な事は何も無かったりする。極々普通のカップルの様に、この糞暑い街をぶらついている。
「おっ、クレープじゃん、そういや最近熊本じゃ見てなかったな~……」
「ホントですね。……食べる?」
「ん、食べる! 姉さん、バナナチョコスペシャル一つ!」
「はい、まいどどうも。そちらのお姉さんは何にします?」
「あ、えーと、ストロベリークリームで」
もう、滝川君たら体型に悩む乙女をむししてあんなのを……と、乙女らしい悩みを抱えつつ、少し控えめなのを頼む森。
一方滝川は、出来たクレープを早速受け取ると、かぶりついていた。
「あ~、この味この味。しばらく食えなかったけどやっぱ美味いよな~」
はむはむ、もぐもぐと実に美味そうに食べる滝川。それを見た店員のお姉さんが聞いてくる。
「お二人とも、熊本から来たのかい」
「ふぁい」 「はい、そうです」
「そうなんだ。最近学兵さんたちとか多くてね。商売繁盛しているんだ。次からはおまけしてあげるからさ、また来てよ」
「ふぁい、ふぉーひまふ!」 「もう、滝川君、口に物入れてしゃべっちゃダメです!」
森がそう怒ると、もぐもぐと飲み込んで「悪ぃ」と反省する滝川であった。
そんな、何処にでも有る幸せなカップルの風景。夕方、人気の少ない公園で、なんとなしにいい雰囲気になった二人。お互いに見つめ合って――滝川が口を開いた。必死に何かを堪えている。
「3万人、死んだんだよな、熊本で」
「……ええ」
頷く森。
「……悪いと思ってる。あいつらが死んだのに、俺ばっかりが生きてて、こんな事しててって」
「…………うん」
九州での、200万の死、そして3万の学兵の死は、この二人だけではない、生き抜いた者たちに、少なくない影を投げかけていた。
「でも、あの戦いの時……森のことを思いながら戦ってたら、いつもよりずっと粘れたんだ。えっと、だからその……これ、誓いみたいなもん。絶対九州を取り戻すって」
「……はい」
そう言うと、二人の影が、静かに重なるのだった。
短編が出るとしたらどんな話が良い?
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女の子達とのラブコメが見たいんだ
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男連中とのバカ話が見たいんだ
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九州で出会った学兵たちの話
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大人の兵隊たちとのあれこれ
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5121含んだ善行戦隊の話