ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
山口防衛線は原作でも4巻程の長丁場になるので、合間合間に思いついた短編を外伝として入れられたらなと思います。
緒戦――萩市防衛線
3ヶ月前、人類が九州から叩き出された時と同じように、それは唐突だった。山口県萩市に幻獣上陸。幻獣が地球に現れてから50年以上、一度も破られることのなかった自然休戦期が、ついに破られたのだ。その事に多くの者達が混乱し、対応が後手後手に回ることになったが、そうでない少ないものたちが、いち早く混乱から回復した。
8月4日:一一○○ 市ヶ谷防衛庁庁舎
「バカな、こんな時期に侵攻だと!?」
「自然休戦期が破られたことなんて世界を見渡しても一度もないんだぞ!?」
「動かせる戦力は何処だ!? 兎に角対応を……」
作戦科は今、混乱の極みに有った。それも当然である。自然休戦期が破られたのだ。例えるなら、真夏に雪が降るような、真冬に染井吉野が咲くような、そんなあまりにも非常識な事が今起きているのだ。
と、そこへ扉が勢い良く開かれ、西住中将が部下を数人引き連れて作戦科へ入ってきた。慌てて敬礼する幾人かを抑えると、即壁に作戦図を張り出した。
「皆落ち着くように。このような事態を我々は想定していた。第一報は萩だな?」
「はっ!」
「ではそれは囮だ。本命は広島の工業地帯だろう。岩国が防衛ラインとなるが……あそこは強固に要塞化してある。簡単には落ちん」
一つ一つ、噛みしめるように周りに説明し、落ち着かせていく。そうすると、もともと優秀な作戦科の面々である。すぐに使える部隊を抽出しだしてきた。それを、西住中将が持ち込んだ対処案と突きつけあわせていく。
「いいか、この24時間で日本の命運が決まるかもしれん。落ち着いて、気合を入れろ!」
『はっ!』
西住中将に発破をかけられた面々は、揃って敬礼をした。
「ひとまず、萩だな……。まずは……善行戦隊を、向かわせるとしよう」
一方、予算審議を途中で切り上げた善行は、猫宮と歩きつつ動かせる部隊を話していた。
「君の所の栄光号の部隊はどうですか?」
「第2師団共々、すぐに動かせます。最も、自分は先に山口へ飛んでも良いんですが」
「それも考えましょう……ん?」
善行、猫宮、そして秘書の青木少尉が声のする方に目を向けると、金髪半ズボンの怪人が興奮したように騒いでいた。そして、それを一人の少年が止めている。そして、赤い髪の少女が面白そうに見ていた。
「やっ、山川さんと……茜。どうしたのさ? ついでに田代さん、止めてくれてもいいと思うんだけど……」
「いや、悪い悪い、つい面白くてな」「え、ええと、茜を止めに来まして……」
田代は軽口を叩くが、山川は善行を見るなり敬礼していた。それを良いですよとやんわりと抑える善行。
「それで作戦が有るんだけど……」
と言い出した茜を、猫宮が抑える。
「作戦案は既に西住中将が提出しているはずだよ」
「えっ!? どういうことさ!?」
これには茜だけでなく、山川も驚いていた。
「もしも自然休戦機が破られたらって研究会が有ってさ。そこから持ち出された案なんだ」
「そ、そっか……」
自分の考えた案を披露できなくてがっくり来ている茜。
「と言う事は、混乱は早く立ち直ると?」
「うん、そうじゃないかな」
質問をしてきた山川に答える猫宮。山川は山川で、頭脳をフル回転させているのだろう。
「それより、勿論自分たちも戦場へ行くんだけど……茜、ついてくる?」
猫宮の言葉に驚く皆。そして、茜は一切の迷いなく頷いた。
「勿論だとも! 僕だけ置いていくなんてしないでくれよ!」
「猫宮君……」
「どうせ、行動力の有る茜の事ですし、置いていったらきっと無理矢理にでも着いてきますよ?」
そう言われると、善行も苦笑するしか無い。
「了解です、では適当な理由をつけて、田代さん共々来てもらいましょう」
「やった!」 「よっしゃ!」
喜ぶ二人。しかし、山川は複雑な表情だ。
「あ、あの……ルームメイトとして心配なのですが、大丈夫でしょうか……?」
「大丈夫、茜だってこれでも熊本城攻防戦とか、撤退戦を生き延びてきたしね」
クスリと笑いながら言う猫宮に、更に悩む山川。
「それでは、自分も連れて行ってもらうことは出来ますでしょうか……?」
「危険ですよ?」
流石に心配になったか、善行が口を出すが、山川も譲らない。
「それは茜だって同じでしょう。雑用でも何でもやりますので、連れて行ってもらえないでしょうか?」
どうやら、普段から茜を見ていて余程心配になっていたようだ。善行は苦笑すると、更に1名、山口行きを追加したのであった。
一二○○ 同上
荷物を整理し、これから中国地方へ向かおうとする猫宮へ、訪問者が現れた。一人は西住中将、そしてもうひとりは白皙顔の男である。
「あれ、西住中将、どうされましたか?」
他の士官の前なので、敬礼した後確認する猫宮。だが、内心は驚いていた。
「ああ、諸君らが行く前に紹介しようと思ってな。彼は泉野中佐だ。作戦科の俊英でな、第2師団と共に連れて行ってくれ」
「エースにこうして会えるとは光栄です」
敬礼する猫宮に、同じく敬礼する泉野。どうやら、手柄を上げるチャンスだと思ったらしい。猫宮としても、ただの参謀として働く分には泉野は守勢に長ける指揮官なので問題はない。そして、くっついてきたのは戦果を上げるためだろう。なら、上手いこと誘導すれば役立ってくれるはずだ。
「こちらこそ。では、急ぎましょう」
「はい」
「二人共、武運を」
西住中将に言われ、猫宮と泉野はその言葉に見事な敬礼で返すのだった。
一四○○ 萩市近郊
萩市には、山口に残された善行戦隊が向かっていた。L型は90式に、急増の対空戦車は95式にそれぞれ新調され、また換装訓練も済んでいた。高所から見下ろすと、街は黒煙が多く上がっていた。
「3番機も4番機も居ないからな……囮は実質1番機だけか……よし、外周から無理なく削っていこう。どのみち長期戦になる。1番機にも92mmライフルとジャイアントアサルトを」
軽薄な印象とはまるで違い、瀬戸口は指揮官としては慎重すぎるほど慎重だ。任された善行戦隊を、なるべく消耗させないようにしている。
「わ、私が飛び道具ですか!?」
キンと甲高い壬生屋の声が響く。だが、瀬戸口は言い聞かせるように言う。
「3,4番機が居ないんだ。我慢してくれ……それとも、壬生屋は飛び道具はダメか?」
「ば、バカにしないで下さい、常在戦場、飛び道具の訓練も怠っていません!」
「じゃ、よろしく頼むな」
そう言うと、各機各車輌に準備を始めさせるのだった。
「よし、行きます!」
「参ります!」
「私達も!」
1,2番機と95式の3輌が、一斉に対空砲火を始める。地上の味方にとっては、やはり航空ユニットが怖いのだ。うみかぜゾンビに向けて、一斉に掃射すると、次々と落ちていく。5機のうみかぜぞんびが落ちると、残りの10機がこちらに向いてやってきたが、その程度の数はあっという間に蹴散らされる。
「よし、滝川とアンツィオのお嬢様方はそのまま対空警戒、壬生屋、待たせたな。存分に暴れてくれ」
「はいっ!」
心なしか、嬉しそうに言う壬生屋。ライフルを太刀に持ち帰ると、中型幻獣の群れへ向かっていく。
「許せません、参ります!」
黒煙が上がる市内に、重装甲が、ぐんぐんと加速して突入していく。そのまま手頃なミノタウロスを見つけると、一瞬にして血祭りにあげる。
「遅い、次!」
壬生屋の動きは、3ヶ月の休養を経て更に冴え渡っているようだった。
「ひゃ~、壬生屋、また腕上げたなぁ……」 「ホントですね、凄いです……」
援護射撃を入れる滝川や、エリカも感嘆の声を上げる。
斬っては移動し、移動しては斬り、時々両腕のサブウェポンで射撃を加える。一見勇壮な動きにも見えるが、一呼吸置いたり、距離を少し離したり、隙を見つけ、無理なく攻撃を続けていた。
そして、それを援護するのは2番機や90式、そして自走砲の面々である。自走砲は遠くの敵を、2番機は位置をこまめに変えて戦車では狙いにくい敵を、そして90式はその威力を持って正面だろうが側面だろうが関係なく粉砕していく。
中型幻獣が、他の部隊が唖然とする速度で削られていった。こうして、橋頭堡として制圧された萩市は、善行戦隊到着の僅か1時間半後には、人類の手に戻されたのである。
一方、民間人はと言うと、大部分がシェルターに逃げ込めていた。これは新しい避難訓練プログラムのお陰である。が、逃げ遅れた老人、子供連れなどが、シェルターの前で殺されていた姿があちこちで見られていた。逆に、家の地下などに隠れていた方が生き延びられいたケースも有る。
これは、史実では開けっ放しにされていたシェルターを、危険が迫ったら閉じるように、退役軍人などを使って指導・命令させた結果であった。
「必要なことであった。だが、それでも時々これでよかったのかと思うことが有る……」
とは、とある萩市に配属された退役軍人の言葉である。こうして、史実よりは犠牲を少なくしながら、萩市は守られたのであった。
一六○○ 市ヶ谷防衛庁庁舎
「萩市奪還、善行戦隊にて萩市奪還です!」
その報告に、わっと作戦科が湧く。奇襲であったが、善行戦隊が居たことが幸いした。橋頭堡が作られたが、あっという間にそれを崩せたのだ。
「よし、萩市へはまだ幻獣が流れているようだから別の部隊を後詰に入れろ! 善行戦隊は山口へ戻す!」
「はっ!」
第一波を凌げたことに、なんとか安堵する作戦科。だが、これはまだ始まりに過ぎない。それが分かっている面々は、また次の配置を練り始めるのだった。
泉野大佐(この小説ではまだ中佐ですが)の登場でした。
原作読んでぶっ殺したいリスト上位に入ってる男ですが、指揮官としてみた場合守勢にこそ役に立つ指揮官なのですよね……
なので有効活用するため、ここで登場してもらいました。
敏い男なので、ここでくっついていけば確実に手柄を上げられるとの計算の上で、ねじ込んできました。そういうわけで西住中将としても無碍には出来ないのでした。
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