ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
8月5日 一○三五 前線・東大和町
超硬度大太刀がきらめき、ゴルゴーンが両断される。幻獣の憎悪が増幅され、周囲のミノタウロスが突進してきた。
だが、4番機は軽くバックステップで突進を交わすと、1体には太刀を、1体にはジャイアントアサルトの攻撃を叩き込み、楽々と包囲から離脱する。
憎悪にかられ、更に突撃してくる幻獣を、横から第2小隊の砲撃が突き刺さる。
「エリカさんナイス!」
「そちらこそ、良い囮具合です」
戦闘は、何時もの様に推移していた。士魂号が囮となり、主力戦車の強力な砲撃で四方八方から砲撃を仕掛ける。だが、何時もと違う感じを、人型戦車のパイロットたちは敏感に感じ取っていた。
「ねえ、九州のときより憎悪が強いよね」
近くのミノタウロスにパンチを叩き込みつつ、速水が言った。
「ええ、そんな感じがします」
壬生屋もミノタウロスを2体同時に切り裂きつつ、同意する。
こんな鉄の暴風の如き砲撃をくぐり抜けてきたからだろうか、それとも先発隊だからだろうか? 一際憎悪が強く感じられる。
「ねえ猫宮、どう思う?」
「ん~、強い憎悪って事はつまり確固たる意思ってことで……何が何でも人類の重要拠点を落とそうとしているんじゃないかな?」
ステップステップからの敵陣突入、そしてゴルゴーン溜まりを潰しつつ猫宮が応えた。
「ふむ、向かう先は岩国――そしてその先の広島か。なるほど、確かにそこが落ちれば、日本は滅ぶ。共生派にでも吹き込まれたか」
冷静に次の獲物をロックオンしつつ、分析する芝村。
幻獣にも感情が有る。それはパイロットたちの共通認識であった。そして、その憎悪の度合を度々分析したりもしてきた。そして今回は、九州よりも明らかに憎悪が強い。
「ふーん……あ、じゃあムキになってるなら猫宮、前みたいな内臓抜きやってみたらどうだ?」
「おっ、滝川ナイスアイディア!」
善は急げとばかりに、適当なミノタウロスの腹を掻っ捌き、内臓を引き抜いて踏み躙ると、憎悪が極限まで達したようだ。他の機体に見向きもせず、4番機に突進してくる幻獣たち。
「ははっ、こりゃ良いや! 囮の効果もっと高くなってる!」
ぞろぞろと、面白いように幻獣が釣れる。跳躍して包囲から抜け駆けると、それを追ってくる中型たち。だが、それは単なる的になったに過ぎない。次々と、撃破されていく。
「ほとんど射的みたいです……」
みほがそう呟いてしまうほどだ。そしてそんな時、駅からアナウンスが流れてきた。
「こちら下関駅・駅長です。最終便、出発します。……国営鉄道を代表して自衛軍及び諸隊の皆さんに御礼を申し上げます」
「よし」芝村が張りのある声で頷いた。
「みんなよくやった。お前さん方のお陰でかなりの数の民間人及び自衛軍・学兵が助かった。さて、後はトンズラするだけだが……」
「無論、撤退を支援しつつだ」
「だよな。んじゃ、新下関駅まで支援しつつ引いてくれ。ある程度敵を間引いたら山陽道に乗ってトンズラだ」
瀬戸口からの連絡が入った。敵も順次減らし、味方も戦いながら徐々に撤退していっている。ここで機動防御を行えば、被害は軽微で撤退できるだろう。
「それじゃ、また突撃するよっ。参りますってね!」
「あっ!? それ私の真似ですか!?」
「やれやれ……」
こうして、下関撤退戦は緒戦は混乱しつつも、善行戦隊により戦局が安定、大部分が整然と撤退できたのである。だが、残された極々一部は、絶望的なサバイバルを行うことになった。
同 一九三○ 宇部拠点
撤退は順調に推移していた。善行戦隊が交代しつつ殿を務めることで、敵はまとまった数の中型幻獣を送り込めなくなり、その隙に人類は5車線の大動脈を使い整然と撤退できていた。そして今、宇部・霜降山付近のドライブインに展開していた。
この撤退戦で大活躍した善行戦闘団の司令代理の瀬戸口は勿論会議に呼ばれ、隊員たちは、休息を貪っていた。朝からずっと戦い詰めである。彼らの疲労は極限にまで達していた。
だが、休息できない者も入る。当然猫宮であった。猫宮は今、イタチ達から報告を受けていた。
(宇部病院に知性型幻獣が接近……うん、分かりました。ありがとうござます。報酬は今出せないので、後払いでどうか)
猫宮がそう言うと、敬礼するイタチ達。彼らを見送ると、後ろからぬっと2つの影が出てきた。
「また厄介事か? 猫宮?」
「まあ、そんな所です。近くの病院に知性体。多分、囮にするため」
そう言うと、二人の空気が深刻なものになった。
「ふざけやがって」
怒気を纏わせながら、若宮が吐き捨てる。
「それで、俺達の出番か?」
来須がそう尋ねると、頷く猫宮。
「お二人の力が必要です。どうかお願いします」
「おう」「任せろ」
同意を得た後、装備を整えて4番機に乗り込もうとした猫宮。だが、その前にはどこからか嗅ぎつけたか石津が居た。
「あ、い、石津さん?」
「何処へ……行くの……?」
「ちょ、ちょっと近くの病院へ……」
「私、も……行くわ……」
「い、いや、危ないよ!?」
確かに、この3ヶ月石津は衛生兵として来須によく鍛えられた。だが、それでも心配してしまうのが猫宮である。
「行くの……」
「で、でもね……?危険だし……」
「…………」
猫宮がなんとか止めようとしていた所、来須に肩を叩かれた。
「連れて行ってやれ。石津なら大丈夫だ」
若宮も危なっかしそうに見ているが、来須と石津を見て、やれやれとため息を付いた。
「……分かった。気をつけてね、石津さん」
諦めて猫宮が石津がついてくるのを了承すると、コクリと頷いたのであった。
同 二○○○ 宇部病院
瀬戸口に一報を入れた後、4番機はこっそりと病院へと忍び寄っていた。夜の病院は静かだが、石津のアンテナには確かに幻獣が引っかかったようだ。
「居る、わ……」
そう言うと、サブマシンガンにサプレッサーを付ける石津。その両脇を、来須と若宮が固める。猫宮は万が一のときのため、機体に待機しているのだ。
「血の匂いはまだしない……となると、潜り込んだか……」
まだ、騒ぎは起きていないだろう。どうするか考え込む猫宮。すると、猫宮の方に1羽のカラスが止まった。
(猫宮の将軍、あしきゆめを確認しました3階です)
(ありがとう、勲一等だよ!)
「3階にいるらしいです、詳しい案内は、彼に頼んで下さい」
と、カラスを紹介され、呆れる若宮。まあ、誰だってカラスに案内されると言えば呆れ果てるだろう。だが、その例外が若宮にとって不幸なことに二人も居た。
「まかせる……わ……」 「頼んだ」
他でもない、石津と来須であった。
「……ひょっとして俺がおかしいのか?」
と、頭に疑問符をつけつつ、3人は病院の中へ入っていった。すると、ウォードレスを着た相手にも慣れたものか、普通に応対される3名。
「こんばんは。どなたか怪我をされたのでしょうか?」
「いえ、極秘任務であります。少し病院を見回ります」
「あっ、はい、あの、案内は……」
「いえ、大丈夫です」
若宮がそう言うと、肩に止まっていたカラスが飛び立ち、階段へと案内する。
「ひゃっ?! あ、あの、動物の持ち込みはご遠慮ください!?」
「すみません、軍用カラスでありまして、案内をしてもらうのです」
口からでまかせを言い、速やかに3階へ登る3人。すると、とある部屋の前でカラスが旋回をする。
「ここ……よ……」
石津も感じたのか、確信する。丁度、個室のようだった。
「突入するぞ」
そう言うと、ドアの真横につく来須。若宮もそれに続く。
3,2,1と指でカウントし、0で突入、すると中には包帯で包まれた人間らしきものが居た。
「こいつ……なのか……?」
パット見、幻獣とは区別がつかず銃口を向けつつ引き金を引けない若宮。だが、そこを石津に突き飛ばされた。はっとして敵の方を見ると、腕を伸ばし生体レーザーを放った所だった。
「す、すまん石津!」
すぐさま、サブマシンガンを来須につづいて撃ち込む。すると、知性体はおよそ聞いたことのない不気味な悲鳴を上げ、絶命した。
その悲鳴と、サプレッサー付きとは言え銃声がしたことに、付近が騒がしくなる。さて、誰が説明するかであるが……若宮は周囲を見渡すと、カラス、来須、石津が見えた。
「……俺が説明するしか無いか」
慌てて様子を見に来た医師や看護師に、何と説明するべきか悩む若宮であった。
若宮が苦手な頭脳労働を精一杯行っている頃、猫宮のところには更にツバメから報告が来ていた。
(猫宮の将軍、小さなあしきゆめ共が、付近に集まっています。恐らくは明け方に奇襲を狙っているものかと)
(うん、ありがとう。恩賞に期待していてください)
恩賞の増額を示唆され、嬉しそうに鳴くツバメの通信兵。そして、猫宮は瀬戸口へと連絡を入れる。
「あ、瀬戸口さん? 今大丈夫?」
「おっと、失礼。会議中だが……何か有ったか?」
緊急無線として入れたので、瀬戸口が会議中にも関わらず通信を取ってくれた。
「ああ、なら好都合かな。付近に小型幻獣のみが大量に潜伏中。おそらく明朝辺りに奇襲してくるものと思われる」
無線の音量を大きくしたので、その報告は会議室にも響いた。すると途端にざわつく会議室。
「小型幻獣のみ? 中型は居ないのか?」
小型のみということに疑問を持ったのか、無線機越しに質問をされる。
「中型は自分たちが散々に狩りましたからね。だから小型幻獣のみでも効果が発揮できるよう、奇襲を選んだのでしょう」
その指揮は、病院に居た知性体が取っていたのであろう。そのままであれば史実通り病院を囮におびき寄せられる羽目になったはずだ。
「だが、その目論見は外れたな。だが、数が多い事には変わりない。総員起こし、急いで陣地を増強しよう」
「後集結もだ。半端な数ではすぐに孤立する」
こうして、睡眠を貪っていた兵たちは叩き起こされ、眠い中更に陣地の補強に駆り出されることになる。だがその甲斐もあって、明朝の戦闘では全員疲労困憊なるも、小型幻獣の群れと、善行戦隊にとってはほんの僅かとも言える中型達に、損害極小で撃退することに成功した。
もっともその戦闘の後、殆どの兵が我先にと眠りこける羽目になあってしまったのだが。
生理現象から逃れられぬ人類と、戦闘機械とも言うべき幻獣。このスペックの差は、この山口防衛線において大きなキーワードとなることであろう事を、指揮官達は予感せずには居られなかった。
一息つく間もなくまた次の戦闘へ……。交流する暇もありませぬ。
しかし、次の話ではようやく5121小隊メンバー集合となります。
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