ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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宇部撤退~小休止

 8月6日 ○一○○

 

「やっと終わったか……」

 

「やっとっすね、隊長……」 「私もうヘトヘト~……」

 

 早朝から戦闘に参加していた千代美は、周囲に敵が居なくなると大きく息を吐いた。

 

 思えば、昨日の早朝5時から戦い詰めである。寝れた時間などほんの2、3時間であった。この疲労による悪影響は顕著であり、自身も戦闘中であるにも関わらず思考が途切れている時があった。

 

 そして、より大きく現れていたのが人型兵器のパイロットであった。中型が少数であったから良かったものの、命中率の低下や回避の呼吸の遅れは、一緒に戦ってきた千代美には感じ取れるものだった。

 

「こちら安斎。できれば大休止を提案したいのだが……出来ますか?」

 

「中隊長からも同じく具申します」

 

「自走砲小隊からもですわ。戦況は如何ですの?」

 

 他の中隊長からも次々と具申が入る。みんな、それぞれ敏感に感じ取っているのだろう。

 

「ぜひ休んでくれと言いたいところだが……増援が接近している。接敵まで後4時間と言ったところだ。規模は中型400、小型は算出不能。疲れている所悪いが……逃げるぞ。国道2号に乗って防府まで逃げて、そこで善行さんと合流だ」

 

「ふむ、山陽本線は使わんのか?」

 

「あちらさんは軍民間問わず車が多いからな。それに、善行さんは何かしらプランが有るらしい。だから、とりあえずそちら任せだ。それと芝村、お前さんたちもちゃんと休んでおけ」

 

「了解した」

 

 そう言うと、通信が切れる。そして車内からはため息が出た。

 

「うえ~、また運転ッス……」

 

「変わるか?」

 

「いやいや、まだまだやれるッスよ~!」

 

 と、部下も空元気を返してくる。それが言えているうちは、まだ大丈夫だ。

 

「ああ、頼む。終わったらぐっすり寝ていいからな」

 

「ダメと言われても寝るっスよ!」 「右に同じく」 「左に同じ!」

 

「ああ、分かってるさ」

 

 こうして、善行戦隊も東へと進む。幻獣に追い立てられて。九州撤退戦を経験した兵たちは、デジャヴを感じていたかもしれない。今回もまた、土地を失うのではないかと。その不安の鎌首は、常に将兵たちにつきまとっていたが、今は皆最善を尽くしていた。

 

 

 

 同 一二○○ 防府市 佐波川サービスエリア

 

「来た来た、みんな到着やで!」

 

 善行戦隊の姿を認めた加藤は、ぴょんぴょん跳ねながら後ろの中村へと伝えた。

 

「よしきた、準備は何時でも出来とるばい!」

 

 報告を受け、笑顔で鍋を明ける中村。すると、そこには中村特製和風カレーが、いい香りを漂わせて食べられるのを今か今かと待つように煮込まれていた。

 

「はい、みんなご苦労さま~! カレー、ぎょうさん用意しているさかい、たっぷり食べてな~!」

 

「やれやれ、元気だよな、加藤……」

 

 そんな加藤に苦笑しつつ、立ってカレーを盛り付け始める狩谷。彼はこの3ヶ月のリハビリで奇跡的な回復を遂げ、またバスケットボールが出来るようになるまでになっていた。

 

 更に、側には山川も居る。彼は自分からこの手の雑用を買って出たのだ。

 

 到着した車輌が駐車場に止められると、幟めがけて次々と欠食児童達が群がってきた。

 

「やった、中村さんのカレー!」 「もうお腹ペコペコ!」 「はやく食べさせて~!」

 

「はいはい、全員分ちゃんとあるから、みんな落ち着いてや~!」

 

 それを、慣れた様子で捌いていく。その表情は実に生き生きとしていた。

 

 

 そして、そんな戦闘員達を尻目に瀬戸口や芝村は善行と合流していた。

 

「まったくあやつらは……」

 

「ははっ、久しぶりのまともな食事なんだ、ゆっくりさせてやれ。と、瀬戸口司令代理、ただ今到着しました」

 

「ご苦労様です。何はともあれ、全員無事で何よりでした」

 

 何よりもまず、無事を労う。九州撤退戦に続き、撤退戦を乗り切れて善行は心からホッとしていた。

 

「ふむ、それでこれからどうするのだ?」

 

「戦車大隊と歩兵中隊、それに重迫撃砲小隊を2つ借りてきました。これを基幹に、撤退してくる兵たちを収容し、戦闘団を結成します」

 

「ふむ、善行戦隊の次は戦闘団か」

 

 くくっと笑う芝村と瀬戸口。笑われて、照れくさそうに善行は頭を掻いた。

 

「兎も角、山陽自動車道1本の兵を丸々貰います。その役目は士魂号に負ってもらいましょう」

 

「おや、専用の部隊は作らないんですか?」

 

「茜君の提案で、強引に行くことにしました。今はこの種の強引さが必要のようです」

 

「兵は拙速を尊ぶか。茜も言うではないか」

 

「まあ、それは明日からにしましょう。今は全員に休息を。皆さんのお陰で、かなりの民間人・軍人が助かりました」

 

「むっ、私はまだ大丈夫だが……」

 

「ダメです」「ダメだ」

 

 二人から同時にダメ出しされ悔しそうな芝村。

 

「さてと、ここからだが……俺は司令代理を返上しますよ。代わりに芝村を」

 

 その言葉に、黙り込む二人。しばらくしてから、善行が口を開く。

 

「ダメですか?」

 

「ええ、俺は状況に流されるのは得意なんですが、流れを強引に変えるのは不得意科目で」

 

 ふむ、と考え込む善行。

 

「猫宮は候補に挙がらなかったのか?」

 

「あいつはかなり忙しい身でな。今回は5121が離れることが多いかもしれん。それに、修羅場なら芝村だって適任だ。お前さんの果断さは必ず必要になる。」

 

「むっ……」

 

 そう言われ、考え込む芝村。だが、意を決したように頷いた。

 

「了解した。謹んで拝命しよう」

 

「結構。では、任せましたよ」

 

 そう言い、芝村の肩を叩くと、善行もまたカレーの方へと向かっていった。

 

 

 

 一方矢吹少佐は、必至でカレーを貪る善行戦隊の面々を少し離れて観察していた。見るからに少年少女の集まりである。だが、タクティカルスクリーンで戦闘の流れを見て戦慄した。彼らだけで200を超える幻獣を撃破し、周りの部隊と連携することで更に数百の敵を少ない損害で撃退しているのだ。

 

 そのことを知っている戦車大隊の面々は、一定の敬意を持って善行戦隊の少年兵達を見守っていた。

 

 しばらく見守っていた矢吹に、一人が近寄ってきた。猫宮である。

 

「どうもこんばんは。矢吹少佐ですね。自分は猫宮悠輝上級万翼長です。どうか宜しくお願いします」敬礼をする猫宮。

 

「君が、あの……」

 

 急なエースの登場にびっくりするも、すぐさま軍人然として答礼する矢吹。

 

「それで、何用ですかな?」

 

 相手は自分より遥かに年下であるが、敬意を忘れない矢吹に、猫宮は好感を持つ。

 

「あ、自分たちがそろそろ食べ終わるんで、皆さんもカレーはどうですか? うちの隊の整備員が作ったカレーですが、絶品ですよ!」

 

「むっ、まだ大丈夫なのか?」

 

「はい、炊き出しなんでたっぷり作ってますから」

 

「では、お言葉に甘えましょう」

 

 そう言うと、部下たちにカレーを食べる許可を出す矢吹。いい香りに腹をすかせていた兵たちは喜び勇んで突撃する。矢吹も、猫宮と話しながら列に並ぶ。

 

「それで、私に何か御用でしょうか?」

 

「あ~、特に用って訳でもなくてですね、雑談でもしようかと思いまして」

 

「なるほど」

 

 矢吹としても、全軍きってのエースと話すのは実に興味深い。そして、雑談をすると言うのでタバコを取り出そうとして、相手の年齢を思い出して慌てて仕舞う。

 

「矢吹少佐から見て人型戦車はどう映ります?」

 

「ここに来るまで、大佐の論文を読み漁りましたが、率直に言わせてもらえれば実に面白いですなあ。特に、人型戦車を囮にした戦法は実に興味深い。これがあなた方以外でも戦法として確立できれば新たな展望も見えるのですが」

 

「そっちは、岩国基地の第2師団に教え子たちが居まして。初陣だけは付き合おうかと思ってます。あ、でも練度は自分たちの初陣より遥かに上ですよ」

 

「ほう、それは頼もしいですな。上手く初陣を乗り切れば、非常に期待できそうです」

 

 強力な味方が存在することは軍人にとっては朗報である。派閥争いから距離を置いている矢吹は素直に期待を表した。

 

「あ、それで5121との連携にはどれくらい掛かりそうですか?」

 

「ふむ、それは黒森峰・アンツィオの前例が有りますからな。部下にも論文やいくつかの資料を読み込ませているので、戦車は少し一緒に戦えば特に問題無いでしょう。むしろ不安は歩兵ですな」

 

「あ~……確かに歩兵は……拠点防衛する学兵とばかり共闘してきましたからね……」

 

 今まで、善行戦隊との面々は学兵と共闘したことはあっても、生粋の戦車随伴歩兵――それも大規模な遊撃戦を行える歩兵と共闘したことは殆ど無かった。

 

「ある程度編成が終わったら、戦訓の共有が必要でしょうね。例えば、スキュラが出たときの対処法とか」

 

「と言うと?」

 

「例えば、こちらはスキュラが出たら即座にスモークを展開しますが、そのお約束が分かっていないと混乱するかもしれませんし」

 

「ああ、それは共有が必要ですな」 

 

 矢吹も納得して頷いた。そのような、僅かな認識の違いが戦場では死につながることも往々にして有る。史実では、近江の部隊の混乱が特に顕著だった。

 

「おっと、もう順番ですね」

 

「本当だ。あ、加藤さん、少佐には肉多めで!」

 

「はいよ、任しといてえな!」

 

「ははっ、これは役得ですな」

 

 こうして、矢吹少佐とのファーストコンタクトは実に和やかな雰囲気で終わったのである。

 

 だが、猫宮の心配事は歩兵中隊隊長の近江の事である。どうにも、彼女は未知数であるし、両親は仕方ないにしても身寄りのない少女や上官殺しは流石に擁護できない。下手すれば戦闘の合間に憲兵にしょっ引かられることも覚悟しなければ。だが、案外ちゃんと教育をすれば使えるようになる可能性もある。

 

「さて、どうなるかな……」

 

 未来を知っているからこそ、猫宮の悩みは尽きなかったが、この手の問題は実際そのときになってみなければわからない。

 

「……ま、とりあえず今は休んでおこう」

 

 そう思うと、腹を満たした猫宮は5121の備品である大量のダンボールの上に寝っ転がるのだった。

 

 

 

 

 




仲間同士の交流を描きたいところですが中々に書けない……
やはり長編の中に入れていくのは難しいですね。

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話
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