ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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随分と遅くなり申し訳ございません……。
これから人型戦車が多数出てくるので、白の章、第1小隊の機体をP1番機(石田・小島機)P2番機(横山機)P3番機(工藤機)P4番機(佐藤機)として区別します。




初陣、第1人型戦車小隊!

 8月7日 一四○○ 山口県周防市 周防カントリークラブ付近

 

 殿である矢吹大隊が戦闘している中、先鋒の黒森峰中隊は警戒を続けていた。何時那珂町方面から敵が来るかも分からないからだ。

 

「後方の方では派手にやっているようだな」

 

「ええ。流石精鋭の戦車大隊ですわね。殲滅速度が速いですわ」

 

 砲声を聞いたまほの言葉に、凛が言葉を重ねる。こうした待機時間はどうしても自分たちは戦わなくて良いのか? など、心理的に不安になってしまうので部下たちに色々と聞かせている形だ。勿論警戒は怠れないが。

 

 だが、そんな待機時間も終わろうとしていた。エリカが車輌から体を出して周囲を偵察していると、キラリと光るスコープ光が見えた。咄嗟に、叫ぶ。

 

「全車、警戒! 緊急回避!」

 

「えっ、何?……きゃあああっ!?」

 

 そう叫んだ直後、6号車に向けて零式ミサイルが放たれ、履帯に直撃し走行不能になる。

 

「くっ!? 随伴歩兵は何をやっていたんのよ!?」

 

 思わずそう叫ぶエリカ。他の車両は、慌てて飛んできた方向に機銃を撃ったり散開して物陰に隠れようとしたり様々な動きを見せるが、肝心の敵の方角が分からなければやはり有効的な対策は打てない。

 

「全車、スモークを散布してから動け! ひとまず隠れるんだ!」まほの指示が飛ぶ。そして、スモークを装備していない自走砲は慌てて煙の中へと入り込む。

 

「どうした、何があった!?」「何事だ!?」「おいおいどうしたんだ!?」

 

 瀬戸口ら数名から、緊迫した声で通信が入る。

 

「きょ、共生派からのミサイル攻撃です! どこから飛んで来るか分からなくて!」

 

「何だとっ!? 分かった、すぐに若宮と来須を向かわせる!」

 

 近江中隊の歩兵も居るが、やはり共生派には場馴れしているこの二人が適任だ。瀬戸口はすぐに整備員を守っていた若宮・来須に通信を入れる。

 

「若宮、来須、共生派が現れた! お前さん方の出番だ、頼む!」

 

 通信を入れて程なくして、整備トレーラーのすぐ近くから飛ぶように二人の歩兵が飛び出した。そして、来須から無線が入る。

 

「できれば士魂号を1機、こちらへ向かわせてくれ。それと近江中隊から1個小隊を護衛に引き抜いてくれ。今の配置では役に立たない」

 

「分かった。猫宮!」

 

「了解、また共生派狩りですね!」

 

 返事をした猫宮は、そのまま、先鋒の配置されている南側へ突撃する。半端な共生派は、幻獣との共存が出来ない。故に、幻獣が一番少ない方面へに居るだろうと当たりをつけた。だが、猫宮が突撃している間にも、スモークで覆われた中隊の居るエリアへミサイルが降り注ぐ。

 

 だが、その闇雲な射撃は迂闊にも自分の位置を教えることにしかならなかった。

 

「そこっ!」

 

 発射炎の見えた範囲を、ジャイアントアサルトで掃射する。20mm弾の範囲攻撃は、その範囲内にいた共生派をずたずたに切り裂いた。

 

「とりあえず3つかな」

 

 戦果を確認する間もなく、センサーをサーマルモードに切り替えてまた次を探索する。だが、小型ミサイルを装備した歩兵相手では士魂号も相性が悪い。

 

「うおっと!?」

 

 四方八方から発射されるミサイルを、なんとか避け続ける4番機と、それを囮にして敵の位置を割り出し仕留める歩兵二人。史実でもそうだが、共生派というのはあまりにも厄介極まりない代物だった。

 

 

 

 8月7日 一四四○ 岩国司令部・作戦室

 

「第二十旅団、損耗率10%、まだやれるそうです」

 

「対空歩兵、順調に戦果を挙げているようです」

 

 刻一刻と変わる戦況の全体を把握できる作戦室で、泉野中佐は会津からの客人としての扱いを受けていた。まずはこの現場に慣れるための雑務からである。

 

「フフフ、いらっしゃああああい! 会津からのお客さんですね、大丈夫です、粗雑な扱いは致しませんよ……」

 

 などとのたまう岩田中佐や、豪快な性格の荒波司令とのファーストコンタクトはやや戸惑ったものの、その第一印象とは裏腹な岩国の仔細に及ぶ要塞図と、その効果について舌を巻かざるを得なかった。

 

「(流石は芝村か……良い能力の人材を取り揃えている)」

 

 そして、この防衛線の配置図や動きが、自分の頭脳によく染み込むのだ。泉野自身は自分は攻勢向けの人間だと思っているようだが、実は防御向けの人材であるのだ。

 

「(狭い地形におびき寄せ大量の鉄火を叩き込む。この基本をどこまでも忠実に守っている。例外はやはり善行戦闘団……)」

 

 周防市での戦闘の流れを見たが、彼らの戦果は一際際立っていた。やはり人型戦車と組み合わせた時、その戦果は莫大になる。だがそれを知ると、欲も出てくる。

 

「司令、今のうちに第2師団の人型戦車の初陣を済ませておきたいのですが」

 

 その言葉に、荒波が振り返る。

 

「ふむ? 確かに彼らは初陣もまだだったな……。だが、それ故にベテランが随伴して居なければ何が起きるかわからないぞ?」

 

「そ、それは……」

 

 元人形戦車のパイロットであった荒波にそう言われ、泉野は口籠る。確かに、あのエースがここまで育ててくれたパイロットたちを何かの事故で失うのは非常に都合が悪い。

 

「しかし、戦場は玖珂町か……周防市と近いな。では少し連絡を取ってみようか」

 

 そう言うと、荒波は善行へ向けて通信を入れる。

 

「こちら善行です。どうされましたか?」

 

「少し君の所の4番機を少し貸してほしくてな。今大丈夫か?」

 

「はて、そこまで状況が切迫していますか?」

 

 唐突な依頼に、首をかしげる善行。

 

「いや、第2師団の人型戦車小隊……第1小隊の引率役が欲しいのだ」

 

「……なるほど。しかし彼は今共生派をようやく片付けた所でして。少々補給の時間が必要です」

 

 周囲の共生派はどうやら片付いたらしい。猫宮が動物たちへと依頼して偵察した結果なのでまず大丈夫だろう。

 

「そうか。こちらの敵も刻一刻と削れていっているからな。なるべく早く頼む」

 

「了解です……と、聞いていましたね、猫宮君?」

 

 いつの間にか瀬戸口が猫宮に繋いでいたのだろう。それに気がつくと、善行は猫宮へと話しかける。

 

「はい、大丈夫です! 弟子たちの初陣には駆けつけるって言いましたし、補給したら山を経由してすぐ行ってきます!」

 

「はい、お願いします」

 

 善行の通信が終わると、泉野もほっと一息を付いた。あのエースが見守ってくれれば大丈夫だろう。

 

「さて、これからは君の出番だ。しっかりと見守るように」

 

 荒波直々の激励に、泉野は生真面目に敬礼を返すのであった。

 

 

 8月7日 一五一○ 玖珂町・第2師団仮設駐屯地

 

「今日が諸君らの初陣になるかもしれない」

 

 上官である久場少佐にそう告げられ、第1人型戦車小隊の面々は緊張に包まれていた。駐屯地にも砲声が絶え間なく流れ込み、今も多数の車輌が基地に出入りをしていた。そして、その事がとうとう戦争の当事者になるのだという事を否応なく自覚させられる。

 

 その中でもやはり、パイロットである5人は殊更に体をこわばらせていた。ウォードレスの上からでも、その体のこわばりが伝わってきそうだ。

 

「いよいよ、なんですね……」

 

「ああ……」

 

 工藤の言葉に、頷く佐藤。どちらも声が少し震えている。

 

「ね、猫宮さんは来て……くれますよね?」 

 

 不安そうに皆に尋ねる横山。

 

「どうだろう……? 猫宮さんは今部隊と一緒に周防市に居るはずだ」

 

「そ、そうですか……」

 

 だが、それは難しいのではないかと遠回しに石田が返す。それを聞くとまた、5人に重い沈黙が訪れてしまった。それからしばらく、誰も何も言わない時間が過ぎる。だが、体を揺らしたり貧乏ゆすりをしたり、不安は隠せない様子だった。

 

 そんな空気を破ったのは、聞き覚えのあるコツコツと規則正しい足音だ。パサリ、とテントが開けられる。久場少佐だ。

 

「諸君、これから第2戦車大隊と共に出撃をする。準備をしてくれ」

 

『は、はいっ!』

 

 その言葉に、慌てて立ち上がって敬礼する5人。その姿を見て、同じく敬礼をする久場少佐。

 

「よし、姿勢を楽に。……緊張するなとは言えないな。だが、一つ良いニュースが有る。猫宮少佐が、約束通り付き添いに来てくれるそうだ。なんでもわざわざ周防市から機体を走らせて来てくれるそうだ。その心意気に応えてくれ。そして、生き残ってくれ――私からは以上だ」

 

『はいっ!』

 

 猫宮が来る、その言葉に、緊張が半分ほど解ける5人。ホッとした空気が、少し広がる。

 

「では、総員駆け足!」

 

 そう言うと、久場少佐が駆け出す。そして、それに5人も続き、機体へと乗り込む。

 

「生きて帰ってきてくださいね!」 「頑張れよ~!」「生きてれば機体はいくらでも直しますからね!」「絶対絶対、死んじゃダメだからね!」

 

 第1小隊の面々からの激励の言葉を聞きながら、4機の新型の栄光号は、戦場へと歩き出して行くのだった。

 

 

 8月7日 一五二○ 玖珂駅付近

 

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 人型戦車に乗ると、自分自身も巨人になったような錯覚を覚えることが有る。そして、初めて見下ろす戦場は遠くまで見え、ひどく広く感じられた。あちこちから煙が上がり、山の砲撃陣地からはひっきりなしに砲弾が幻獣へ向けて飛び交い、爆音とともに幻獣の命を削っていく。

 

「これが、戦場か……」小島が呟いた。

 

 シミュレーターでは幾度となく見た光景であるが、体に響く砲声が実戦であることを感じさせる。そして、自分たちの後ろには、人型戦車よりも遥かに背の低く見える戦車が、今か今かと敵を待ち受けているようにみえる。

 

「前方より、中型幻獣100を中核とした一団が接近中。皆様、準備を」

 

 どうやら、感慨にも浸らせてもらえないらしい。まずは、敵を排除せねば。だが、どうにも体が動きにくい。そう考えているときだった。突如として通信が入る。

 

「どうも、久場少佐。部隊の準備は出来ましたか?」猫宮からの通信である。

 

「あ、ああ。こちらの準備は大丈夫だ。君は今何処に?」

 

「ぐるっと回り込んで南の山に。周防病院付近かな。こっちも何時でもいけますよ」

 

「そうか。まあその前に、部隊のみんなに何か一言頼みたい」

 

「そうですね……えーと、みんな聞こえてる?」

 

『はいっ!』

 

 猫宮に呼びかけられ、緊張混じりに5人が返事をする。

 

「うん、当たり前だけど緊張してるみたいだね。じゃあ一言。シミュレーターでやってきたことと同じ。習うより慣れろ! 初めは楽させてあげるから。じゃ、突撃してくるね!」

 

「えっ?」 「はっ?」 「ええっ?」 「ちょっ?」 「おいっ!?」

 

 そう言うと猫宮は、岩国へと進撃する幻獣たちの群れへ機体を突撃させた。先鋒のやや後ろ、通り過ぎながら一刀の元ゴルゴーンを切り裂き、ミノタウロスの腹にジャイアントアサルトを叩き込む。ナーガは手の12.7mmで撃ち抜かれ、キメラと小型幻獣の群れには40mm榴弾が叩き込まれる。幻獣の隊列が、更に乱れた。

 

 その光景に呆気にとられている4機5人。そこに猫宮の激が飛ぶ。

 

「ほら、隊列が乱れたよ! そんな時はどうするの!」

 

「はっ、ぜ、全機散開! 横を向いている敵を撃て!」

 

『了解!』

 

 猫宮機によって乱れた隊列、乱れた射線の間隙を縫い、それぞれが遮蔽へと移動し、射撃を開始する。

 猫宮機に気を取られ、横や後ろを向いている幻獣に次々と突き刺さる。

 

「よし、第1大隊、散開! 砲列を形成せよ!」

 

 適度に先鋒が削れたと見るや、久場大尉は戦車大隊と歩兵中隊を散開させる。混乱し、広まった幻獣たちが、外周から次々と削られる。人型戦車と通常の戦車、そして歩兵のミサイルにより、十重二十重と作られた半包囲網は、確実に、しかも損害無しで幻獣達を削っていく。

 

「よっし、石田百翼長!」

 

「は、はい!」

 

 猫宮の言葉に、戦果に興奮した声で石田が応える。

 

「これからは、君の指揮に従う。思うように動かして」

 

「わ、私がですか!?」

 

「指揮官でしょ? 大丈夫、君の才能は自分が保証する」

 

 戸惑う石田に、優しく語りかける猫宮。やがて決心したのか、石田が叫ぶように返事をする。

 

「了解です、P1番機(石田、小島機)によるミサイル攻撃を敢行します。各機、中心部への道を開いて下さい。P2番機(横山機)は、猫宮機と一緒に突撃を。P3番機(工藤機)、P4番機(佐藤)は、先んじて外周の敵の気を引いて。では、散開!」

 

『了解!』

 

 初手、P3番機とP4番機が幻獣の外周へと取り付く。92mm砲で狙撃し、すぐに遮蔽に隠れる。そうして、遮蔽に隠れた2機を狙おうと動き出したミノタウロスが、戦車隊の105mm砲に撃たれる。

 

「さて、道は空いたかな? 横山十翼長、行くよ!」

 

「は、はいっ!」

 

 幻獣たちの空いた隊列の中に、白兵戦をする2機が突撃し、こじ開ける。猫宮は大太刀とジャイアントアサルトと両手のサブウェポンを器用に使い分けて。横山は何とジャイアントアサルトは腰に下げ、一刀を両手持ちして殆どの幻獣を一の太刀で片付けていた。

 

「小島っ!」

 

「分かってる!」

 

 4機の人型戦車がこじ開けた穴に、石田・小島が阿吽の呼吸で突撃する。5121が散々行ってきてマニュアル化されたパターンの再現だ。

 

「敵幻獣多数、ロック……発射!」

 

 中心に躍り出た栄光号複座型から、24発のミサイルが発射され、それぞれ中型に突き刺さる。予め幾度かの砲撃で柔らかくなっていた幻獣たちは、漏れなく四散した。

 

 残ったのは、散々に討ち減らされた幻獣が、まばらに残っているだけだ。そして、それは他の機体が至極あっさりと片付けていく。

 

「幻獣の集団、消滅しました」

 

 オペレーターの声が、ひとまずの勝利を告げる。

 

「えっ、こ、こんな簡単に、シミュレーター通りに……」

 

「お、俺たち……勝ったのか……?」

 

「え、ええ、勝ったみたいですわ……」

 

 放心したように、佐藤、小島、工藤のつぶやきが通信に流れる。

 

「そうそう、皆の大勝利! これが君たちの実力だよ! 5121の初陣よりよっぽど練度の高い君たちのね」

 

 猫宮にそう言われ、ようやくその勝利が実感として出てきた5人。

 

「や、やりました! あ、ありがとうございます、猫宮教官!」

 

「どういたしまして!」

 

 石田の礼に、満面の笑みで応える猫宮。他4人からも、次々と礼の言葉が告げられる。

 

「おめでとう、第1小隊の皆。戦車大隊や、歩兵中隊の連中も諸手を挙げて喜んでいる最中だ」

 

「よくやってくれた。これからもよろしく頼む」

 

「いやはや、実際に見ると凄いものですな。これからもよろしくおねがいしますよ」

 

『は、はいっ!』

 

 久場少佐からも、そして戦車大隊指揮官や歩兵中隊指揮官からも次々と祝辞が述べられる。

 

 こうして、また新たなエース部隊が産声を上げたのだ。




うーむ、パターン化された戦闘はやはりマンネリ感が強い……
いや、これは5121小隊が築き上げた戦術をマニュアル化し、他の部隊でも使えるようにしたって言う大事なシーンなのですが、やはり既視感がががががが……
お陰でちょっとまたスランプに陥ってました。

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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