ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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岩国防衛線:インターバル

 8月7日の戦闘は史実とは違い、善行戦闘団は山口に留まらず、岩国へと転進した。そして、新たに誕生した第1人型戦車小隊の存在は、岩国要塞戦の戦局を左右する存在になりつつ有った。

 

 

 8月7日 一九○○ 岩国要塞:内殻・陣地駐屯地

 

 今日も幾度の戦闘を終え、疲れきった善行戦闘団は、倒れ込むかのように内郭に有る陣地内部の駐屯地へと入り込んだ。それぞれ戦車の装甲は所々欠け、塗装は剥がれ、人を見ずとも疲労困憊で有る有様がよく分かる。

 

 そして疲労困憊なのは整備員たちも同じであった。転進する都合上、戦闘員も非戦闘員も一緒になって移動していたのである。戦う術を持たない彼らは、戦闘員達とは別種の緊張に常に包まれていた。

 

 

「はぁ~……つっかれた……とっとと休もうぜ……」

 

「そう、ですわね……」

 

 滝川と壬生屋がそうボヤく。特に人型戦車のパイロットは疲労が激しい。さすがの壬生屋も弱音を吐き、芝村もそれを咎めることができなかった。

 

「特に、今日は途中から猫宮が抜けてたしね……」

 

「まあ、そのおかげで新設された小隊は無事初陣をくぐり抜けたようだ」

 

 タクティカルスクリーンを操作しながら芝村が言う。彼女から見ても、第1戦車小隊の初陣はかなりの戦果を挙げていた。

 

「おっ、そりゃ良かったじゃん」

 

「ええ、これで新しく人型の戦車小隊が増えますわね」

 

「ああ。これで我らほどではないが強力な戦闘単位が誕生するだろうな」

 

「これで僕達も楽になると良いね」

 

 新たなエース部隊の誕生の予感に盛り上がるパイロットたち。さて、整備テントの中に機体を入れようかという時、速水がそれを目ざとく見つけた。

 

「あっ、テレビカメラだ!」

 

「こんな所にまで取材だと……? 無茶をする……何!? 遠坂だと!?」

 

「えっ!? 本当ですか!?」

 

「うおっ、マジだ!」

 

 それぞれがカメラをズームインさせると、ウォードレスを着た遠坂がこちらを見つつ解説していた。側には田辺まで居る。

 

「そうだ、手を降ってやろうぜ」

 

「あっ、それいいね」

 

 滝川の言葉に速水が乗り、カメラヘ向けて手を振る2機。その後、おずおずと小ぶりに続く壬生屋。ちなみに、速水の椅子は強かに蹴られた。

 

 テレビ側も、士魂号達の様子気がつくと、遠坂と田辺が手を振りかえしてきてくれた。

 

 

「どうも、皆様お疲れ様でした。ご活躍はずっと見ていましたよ」

 

 機体から降りた4人の元に、遠坂と田辺が近付いてきた。テレビクルー共々、あちこちを取材してきたのか幾らかくたびれていいる。

 

「あはは、遠坂さんも田辺さんもお久しぶり。取材に来たの?」

 

「ええ、皆様と同じ空気を吸いたくなりまして。……やはり、離れていようと私も田辺さんも5121の仲間なのです」

 

 そう微笑んで言う遠坂の言葉に、田辺も頷く。

 

「そうか。まあ取材は後にせよ。今は我らも疲れているがゆえ」

 

 口ではそう言うが、芝村も口元が緩んでいる。久方ぶりの戦友との再会が嬉しいようだ。

 

「勿論です。と、炊き出しは私達も手伝わせて頂きました。中村とは違う味付けの、純洋風のカレーです。どうかご賞味を」

 

「おっ、カレー! 食べる食べる! 芝村、良いよな!?」

 

「ふむ……構わんが、きちんと並ぶのだぞ」

 

「よっしゃ!」

 

 反省会や作戦会議などもしたいが、今日は皆よく戦った。だから、先に食べるのもいいだろうと、丸くなった芝村であった。

 

 

 

 整備テントでは、整備班達が慌ただしく機体に取り付いていた。今日も1日、戦いっぱなしである。半ばオーバーホールじみた形で機体のあちこちを点検、整備していく。

 

 その光景に懐かしさを感じつつ、ウォードレスを外した遠坂と田辺が整備班の近くに現れた。後ろにはカメラマンたちも控えている。

 

「このように、戦闘が終わってからも整備班たちの仕事は終わりません。むしろ、これからが本番とも言えるでしょう……どうも、皆様お久しぶりです」

 

「あ、あの、み、みなさんお久しぶりです!」

 

 思わぬ来客に、手を止め二人を見る一同。

 

「あっ、遠坂くんに田辺さん久しぶり!」

 

「遠坂~! 久しぶりたい!」

 

 テレビカメラを見つけて、ぴょんぴょん飛び跳ねながら近寄ってくる新井木を筆頭に、整備班達が寄ってくる。中には調子よくテレビカメラに向かってピースサインをしている者も居る。

 

「ほらほら、みんな手を止めない。遠坂君、田辺さん、まったく困るわよ?」

 

 といいつつもカメラ映りを気にする原である。

 

「ははっ、すみません。ここの空気が懐かしくて……久々ですが手伝ってもよろしいでしょうか?」

 

「わ、私もお手伝いします!」

 

 腕まくりでもしようかという勢いで主張する二人。余程事務仕事ばかりで飽きていたのだろう。

 

「うん、良いわよ。でも、腕は鈍っていないでしょうね?」

 

「も、勿論です!」

 

「多少のブランクはすぐに修正してみせましょう」

 

 二人がそう言うと、他の整備員たちとともに作業へ戻っていく。そしてその姿は、しっかりカメラへと収められ、遠坂自身のイメージアップへも繋がることとなる。

 

 

 

8月7日 一九○○ 岩国:とある山中

 

 玖珂町から岩国へと向かう道路を少し外れ、4番機は近隣の山中へと歩を進めた。月明かりの元、膝を着いた4番機の元に、多数の動物たちが集う。

 

「皆さん、今日はお疲れ様でした。でもここからが正念場です。どうか宜しくお願いします」

 

 猫宮が敬礼をすると、動物たちもそれぞれのやり方で敬礼らしきものを返してくる。その光景を微笑ましく思うと、それぞれからの報告を受ける。

 

「ふむ、やはり岩国要塞内に爆弾が多数……あちこちに……それと共生派のテロリストもあちこちの山に潜伏……これも報告しないと……」

 

 1匹1羽ずつ、丁重に話を聞いていく猫宮。山の中、戦争中なのにまるでそうは思えない、幻想的な光景が月明かりのもとに広がっている。

 

と、そこへ聞こえてくるのは静々とした上品な足音。草をかき分け、月光の光を白い衣装が反射する。

 

「ごきげんはいかがかしら?」

 

「そうだね、大分疲れたよ」

 

 首を鳴らし、肩を回しながら猫宮が言う。そんな様子を見ても、現れた少女は微笑んだままだ。

 

「私の爆弾、見つけ出したのはこの子達ね。随分と取られちゃったわ」

 

「そりゃあね。1個でも見逃すと、人が大勢死ぬ。将兵も、民間人たちも――」

 

 言葉を重ねる毎に、目付きが険しくなる猫宮。段々と、睨むように少女に視線をやる。

 

「私が狙っているのは兵士さん達だけよ。戦争だも「じゃあ、幻獣たちは民間人を狙わないっていうのかい?」っ……」

 

 言い訳のように聞こえるセリフを遮り、険しい声色で猫宮が言う。

 

「初上陸した萩市では、随分と民間人が死んだ。急襲から撤退する時も、兵士以外、大勢の民間人が死んだ。その光景を、また繰り返させるつもりなのか」

 

 それは、純粋な怒りの感情。人々を守れなかったことの、傲慢とも思える怒りの感情であった。

 

「君たちは、人間を殺す。老若男女、身分も兵であるかも関係なく。だから人は戦う、戦い続ける。例え醜く見られても。例え恐れられても」

 

「でも、私は民間人は助けて――」

 

「誰かを守るために銃を取った兵は助かる資格はないと? それに、君の身内は人類を絶滅させようとしているんだろう? なら、これはもう戦争じゃない。人が生き残るための、生存競争だ」

 

「っ――」

 

 猫宮に射竦められ言葉に詰まる少女。

 

「だから、こうなってまで、彼らは力を貸してくれる」

 

 そう言うと、猫宮から青い光が漂い出す。猫宮を護るように。

 

「それは……」

 

「これは、かつて大切にされたものたちの光。死して尚も輝き、こうして力を貸してくれている」

 

 月光の下、青く照らされたその姿を、少女は美しいと思った。

 

「……私は、間違っていたのかしら……?」

 

 視線を下ろし、呟くように少女が言う。その姿は、ここに訪れたときよりも随分と頼りなく思えた。

 

「ただ、民間人を助けただけじゃ自己満足だよ。そんなの、『慈悲』じゃ無い。他の王の気まぐれで直ぐ殺される、家畜同然。もし、あなたがその心を持っているなら……」

 

「……なら?」

 

「和平を。人と幻獣とが戦う必要が無いように。もう、土地も、殺戮も、十分過ぎるでしょう」

 

「……そう、ね。『慈悲の心もて分かち合い、ともに歩まん』……随分と長い間、この言葉を実践できてなかったのね……」

 

 そして、長らく伏せていた目を猫宮の方へ向け、話し始める。

 

「和平、良いかもしれない……でも、それには反対派をどうにかする必要があるわ。お兄様や、叔父様を……でなければ、和平なんてとても出来ないの」

 

「なら、どうにかするさ。戦って、戦って、戦い抜いて……。今までも、そうしてきた。今回だって、やれるはず」

 

 強い、決意に満ちた目を、猫宮は少女に向けた。それを受けて、少女もまた微笑んだ。

 

「……あっ、なら、あなたの隊に早く連絡を入れないと拙いわ」

 

「っ、一体何が!?」

 

「……兄が、西王が、あなた達の部隊を本格的に脅威とみなしましたわ。今頃……」

 

「っ~~~!?」

 

 少女の言葉もそこそこに、猫宮は急いで機体へと乗り込んだ。

 

 

 

 8月7日 一九三○ 岩国要塞:内殻・陣地駐屯地

 

 カレーを頬張っていたののみが、はっとして顔を上げた。

 

「ん? どうしたんや? ののみちゃん?」

 

 不思議に思った加藤が、顔を覗き込む。こんなののみの顔は、今まで見たことがなかった。

 

「こえがするの……やめて、こわいよ、こわいよ、うごけないよって……」

 

 そしてその声が終わると同時に、警報が基地に鳴り響く。そして、猫宮の通信も。

 

「警告! 警告! この基地へ向けてスキュラ約40体が前線を突破して向かってきています。至急戦闘準備を!非戦闘員は早く基地内に逃げて!」

 

 途端に、基地内が慌ただしくなる。ここはほぼ後方であり安全地帯であったため、気を緩めていた兵たちが慌てて整備中の機体へと散っていく。

 

 だが、ここに来るまでスキュラはあちこちの対空陣地からの攻撃で散々に内減らされ、残り9体程度にまで減らされていた。そして、その9体も5121なら問題なく落とせると思われた――。だが、その9体はただの9体では無かった。

 

 

「な、なんだ!? あいつら、真っ直ぐ突っ込んできやがる!?」

 

「ダメッ、逃げて下さい!」

 

「っ!? 各機、散開!」

 

 1機がバズーカで撃ち落とされ、1機がジャイアントアサルトで爆発炎上し、1機が対空戦車の集中砲火で破裂する。だが、残り6体が止まらなかった。次々と、悲鳴を上げながら地面へと向かっていく。

 

 そして、大爆発が立て続けに6回。善行戦闘団の駐屯地は、豪火に包まれた。

 

 

 

 




はい、カーミラの説得でした。対決を望まれていた方々、申し訳ございません。
これにはカーミラが加害者という事実や印象を少しでも減らし、和平を好印象に持っていくことと、単純に1個師団以上の損害を出さないことなどが目的となっています。考え方も論破したとおり、カーミラの家訓とは離れていたものでしたしね。

しかし、猫宮の誤算が一つ。暴れすぎた猫宮は、カーミラだけではなく西王も注目する部隊になっていたことでした。

スキュラが後方まで突破できたのは、損害になりふり構わず突撃して、複数の陣地に渡って展開し段階的に撃ち減らす岩国要塞の戦術の裏を取られたことが原因です。さすがの空中要塞数十体の一点突破を全て止めるほど火力はありませんでした。

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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