ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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※後半の部分をちょいと修正


明日への備えと研がれる牙

 8月7日 一九三○ 岩国要塞:内殻・陣地駐屯地

 

「警告! 警告! この基地へ向けてスキュラ約40体が前線を突破して向かってきています。至急戦闘準備を!非戦闘員は早く基地内に逃げて!」

 

 

 猫宮の切羽詰まった警告に、特に慌てたのは非戦闘員達である。丸一日続いた戦闘の緊張が丁度抜けて、カレーを頬張っていた真っ最中であった。途端、慌ててカレーを置いて、どこかへ走り出そうとするも、初めての基地なので勝手がよくわからない。徐々に近付いてくる対空砲火の音も、更に焦りを助長する。

 

「ちょっ!? 避難って言っても何処に逃げれば良いのさ!?」

 

「ざ、塹壕は、塹壕は何処に!?」

 

「スキュラ相手じゃ塹壕に隠れてもダメだよ!」

 

 だが、そんなパニック状態のときに統率力を出したのが山川であった。とっさの判断でメガホンを探し出すと、手近な車輌の上に乗って声を張り上げる。

 

「皆さん、ひとまず落ち着いてください! 手近な地下道へ案内します! まずは集合して下さい!」

 

 パニック状態の時、何か光明が見えるとそれを頼りにする。目立つ位置で大声を上げ解決策を出す山川の所に集まるのは必然だった。

 

 ある程度人が集まると、それを見て更に集まりだす。その連鎖が大分落ち着いてきた頃を見計らってまた、山川は大声を張り上げる。

 

「はい、皆さん集まりましたね! ではこれから案内します! ついてきて下さい!」

 

 そう言うと山川は車輌から飛び降り、メガホンを高く掲げ振りながら駆け足で移動する。目指すは隠蔽された地下通路の入り口である。山川はまっさきにたどり着くと、悪戦苦闘しながら茜他数名と隠蔽用のネットを外し、非戦闘員達を地下通路へと招き入れた。

 

「ふぅ、何とか間に合った……でも、なんでこんな奥に?」

 

「狙いはどう考えても僕らだろう。しかし、この要塞が相手じゃたどり着いても相当数が減っているはず……何をする気だ?」

 

 山川の疑問に、茜が声を重ねる。こんな奥地にスキュラを10体程度送り込んでも戦果など高が知れている。そんな不合理さを疑問に思っていたのだが……この後、実に狂気を含んだ合理性だと思い知ることとなった。

 

「なっ!? スキュラが士魂号に突っ込んでる!?」

 

「マズい、早く中へ!」

 

 もっとよく見ようと観察していた茜が山川に引っ張られ、地下通路の奥へと引っ張られる。そして、轟音が6回。人類が、記録れている限り初めての幻獣の自爆攻撃を受けた瞬間だった。

 

 

 

「……敵が来る……わ……」

 

 地下道に避難していた石津は、若宮・来須にそう告げると、すぐに地下道の外へと飛び出していった。

 

「おーい、大丈夫か!? 助けに来たぞ!」

 

 そう、駆け寄ってくる兵に近づくと、石津は素早く拘束した。それと同時に来須と、戸惑いながら若宮も無力化していく。

 

「な、何をする!?」

 

 拘束された兵の一人がそう喚くが、石津が体を改めると、爆弾の起爆装置が発見された。

 

「…自爆は……させない…」

 

 発見された共生派は舌打ちをすると最後の抵抗を試みようとするが、あっさりと来須に気絶させられる。

 

 今現在、岩国には各地から集結した敗兵や転進した部隊、そして数のすり減った部隊など、膨大な数の隊が存在していた。中には十数名程度にまで減った中隊などもあり、部隊証だけで本物と偽物を区別することは不可能であった。憲兵と動物部隊が巡回しているが、それでもやはり濃淡は出来る。共生派の浸透は目立たず動けばそれなりには可能であった。

 

 幻獣の特攻と、共生派の波状攻撃。この明らかに善行戦闘団を狙った行為に、若宮はこれまでとは違う戦闘になる予感を感じていた。

 

「ひとまず護衛を徹底させないとイカン。近江中隊と憲兵にも連絡をして怪しい奴らを近づけないように」

 

 あたりを見渡すと、補給資材が黒々と炎を上げていた。まるでこれからの戦況を予言するようだと若宮は思ったが、その予感をどうにか振り払った。

 

 

 

 猫宮と4番機が遅れて基地へ戻ると、何とか無事だった2番機が救助活動をしているのが遠目にも見えた。近付いていくと、地上では整備員達が破壊された1・3番機をなんとかしようとしていたが、整備テントから予備パーツ・予備機を含め、大分破壊されていたためどうにもできず立ち尽くしていた。

 

「猫宮君、無事でしたか」 善行から通信が入る。

 

「ええ、何とか……酷い目にあいましたね。人的損害は?」

 

「幸い、避難が進んでいたのと、車輌も地下通路へ入っていったのでそう目立った損害はありませんが……やはり補給物資の損失が痛いですね。特に人型戦車が丸々やられました。……猫宮君、敵はあのような攻撃を続けてくると思いますか?」

 

 常に最悪を考えていたのだろう。この攻撃が続くかを猫宮に確認する善行。

 

「いえ、あの自爆攻撃は早々使えないはずです。幻獣の王……いえ、知性体にとってもかなりの負担となるようですので」

 

「そうですか。ひとまずは、大丈夫のようですね」

 

 ほっと安堵する善行。だが、直ぐ頭を切り替える。

 

「この事は荒波司令にも報告しましょう。特に、戦車と人型戦車の予備を早く要請しませんと」

 

「そうですね。自分も話しをさせて下さい」

 

「ええ、勿論です」

 

 だが、善行が通信を入れるよりも早く、司令部から通信がかかってきた。

 

「大丈夫かね、善行大佐?」

 

 荒波の声も珍しく緊迫している。

 

「人的被害の方は何とか……しかし、物資の方は粗方やられてしまいましたね」

 

「ノオオオオゥ! 人型戦車の物資は希少ナンデス! 通常の戦車のパーツは何とかなりますが、人型戦車のパーツはかき集めて1日程度は覚悟して下さい!」

 

「1日、ですか……」

 

 善行が顔をしかめる。この戦局で善行戦闘団が1日居なくなるのは痛い。いや、1日で再建できるだけ、岩国司令部がかなりの準備をしてきたと分かるのだが。なまじ、機体に何か有ればすぐに予備が用意できるようにと前に集めすぎたのが裏目に出た。

 

「何、心配するな。要塞が健在である限りこの岩国は落ちん。内部の爆破テロも憲兵隊と動物たちが取り締まっているしな」

 

「あはは、すっかりバレてましたか」

 

「ああ、全く動物兵器もかくやと言う活躍具合だったな」

 

 カーミラがまだ和平派に振れる前、仕掛けた爆弾の山は動物たちが次々と発見していた。組成を調べ、もしこれが爆発していたらと関係者一同真っ青にした代物である。

 

「さて、ここからデンジャラスな情報を話しますが……大丈夫です?」

 

「ああ、防諜は問題無い。君らとの通信はあのお姫様が色々と弄った特殊暗号になっているしな」

 

 何やら重大な情報の予感に、人を散らす荒波。岩田もギャグを止めて真顔になっている。

 

「良かった……。では情報を。自分たち、幻獣の西王と呼ばれる存在にかなり注目されているみたいです。あ、スキュラを操って自爆特攻させたのもその西王が直々にスキュラに精神操作をかけたみたいですよ」

 

「――は?」 「――何?」 「――ナンデスと?」

 

 あまりに突拍子もない情報に、3人が固まる。

 

「待って下さい、幻獣にも王が居ると……!?」善行が声を荒げる。

 

「ええ、階級も有って知性体はその上の方ですね。人間に勝るとも劣らない知能や戦略眼、軍事知識を持っていたりもします」

 

「つまりは何か、その西王とやらがずっとこの戦いを見ていて、君らを脅威と認識したと――」

 

「いや、指揮を取っていたようですね。具体的には、八代会戦辺りから九州撤退戦、そしてこの戦いまでずっと」

 

『…………』

 

 いきなり過ぎて、まるで現実感のない情報である。しかし、この3人はそんな情報を渡されて拒絶反応を起こしたり思考停止を起こしたりするような軍人ではなかった。

 

「なるほどな。それで、暗殺は可能か?」

 

 恐ろしいほど低い声で、荒波が聞いてきた。彼は、八代会戦で部下を失った。当然の反応だろう。

 

「…難しいでしょうね。おそらく後方に位置しているでしょうし、近づけば逃げるでしょう」

 

 だが、猫宮の声も険しい。簡単に暗殺できる相手ではないのだ。

 

「……この戦いも指揮を取っていると。物量による奇襲……彼の得意分野のようですね」 善行の声も低い。思うところがあるのだろう。

 

「ええ。熊本でもそれでやられましたし」

 

「後方の憲兵を空にする勢いで増員しましょう。フフフ、なるほど、現実が自分の思い通りになると思っている、旧軍の参謀に多かったタイプでしょうかネ」

 

 そして岩田中佐が不敵に笑う。旧軍の参謀の事を事細かく調べ執筆するほどの人物だ。敵の性格を早速分析に入っているのだろう。

 

「よし、分かった。脅威に思っているということは何処か近くで見ているはずだ。遠くからの報告だけでは君らの脅威は信じきれんだろうしな。――山岳師団の山岳騎兵を使う。徹底的に狩り出すぞ」

 

「フフフ、了解デス」

 

「そうですね。最近、新型の幻獣がぽつぽつと発見され始めてきました。小型くらいの大きさで、大きな目玉が一つ付いている不気味な幻獣ですが……それが監視役の様です。まずは、それを潰していきましょう」

 

「まずは目から潰すか、了解だ。ああそれとだな猫宮君、君のその情報収集は、今後とも更に続けるように。期待しているぞ。それと、あとで憲兵達にも君から話しておくように」

 

「ええ、了解です」

 

 戦場では突拍子もない事がよく起きる。だが、その中でも極めつけな事を信じてくれる人達に、猫宮は自然と頭がさがるのだった。

 

「さて、それでは君も片付けの方に回って下さい。こんな作業にも人型戦車は便利なものですね」

 

「あ、はい」

 

 こうして猫宮は、一人だけカレーを味わえずに2番機と共に片付けに回ることとなる。

 

 

 

 

 8月7日 二二○○ 岩国要塞:内殻・陣地駐屯地

 

 

「はあ、やっと終わった……」

 

「めっちゃ疲れたな~……」

 

 人型戦車での片付け作業が一段落し、猫宮と滝川が息を吐く。今日1日乗りっぱなしだった上、更に片付けの作業までさせられて二人共疲れたのだ。

 

 瓦礫は隅に片付けられ、基地にはまた新たな補給物資が次々と送り込まれている。流石は要塞内部の陣地だけあり、しかし善行戦闘団が相手なので岩田中佐がすぐに物資を回してくれたようだ。地下道に退避していた車輌も続々と顔を出し、改めて補給と整備に回される。

 

 だが、やはり人型戦車のパーツはまだ入ってこない。なので、スキュラの爆発を近距離で受けた1番機と3番機の修復はまだまだ先になりそうだ。

 

「1番機と3番機、修理に時間がかかるんだよな? 明日の戦い大丈夫かな……」

 

「そうだね……あの2機が復帰するまでは二人で囮を務めるしか無いか。ま、頑張ろう!」

 

「うへ~、マジか……。でも、そうすると明日は俺も主役かな?」

 

 苦笑しながらそんなことを言う滝川。普段は他3機の援護ばかりしている2番機である。ついついそんな感想が漏れてしまったのだろう。

 

「軽装甲は撃たれ弱いから気をつけてね?」

 

「ははっ、ずっと乗ってるからわかってるよそんな事」

 

 そんなことを話しつつ機体を降りると、てててと近寄ってくる影があった。田辺である。

 

「滝川さん、猫宮さん、お疲れ様です。これ、差し入れです」」

 

 差し出されたのは袋が少し焦げた牛丼レーションであった。丁度腹の空いていた二人は喜んでそれに飛びつく。特に猫宮はずっと栄養ブロックと栄養ドリンクを流し込むだけであったので、いそいそと牛丼を温め始めた。

 

 だが、座ってあたたまるのを待っていた猫宮に、近付いてくる影が2つ有った。瀬戸口と石津である。

 

「よう、猫宮。ご苦労さん。ま、食事前で悪いんだが――」

 

「今回の襲撃のことですね」

 

 そう言うと、石津がこくんと頷いた。

 

「ののみが怯えていた……石津も何か感じ取ったようだしな。だが動物連隊は今一正体を掴みきれていないようだ。……何が起きている?」

 

「幻獣の王の一人がこの地へやってきているみたいです。そして、5121を本格的に脅威と見たようで」

 

「幻獣の王……」

 

 突如出てきたその単語に、瀬戸口が絶句する。

 

「爆弾テロに自爆テロ、それに司令部乗っ取りも企てたようですし……かなりの脅威です」

 

「――止められるか?」

 

「荒波司令は山岳騎兵を使う気のようですけど、それだけじゃ足りない……アンテナ役が居ないと」

 

 それを聞いて、石津が自分を指差した。それを見て、猫宮も頷く。

 

「石津さん、大きい動物は平気?」

 

「……大丈夫……よ……」

 

「よし、明日朝一番で紹介するね!」

 

「そんじゃ、俺は若宮、来須達と一緒に本陣をどうにかしよう。ま、明日は速水と壬生屋にも手伝ってもらうか」

 

「うん、お願いします」

 

 今までは、ただ目の前の敵を倒していればよかった。だが、ここに来て幻獣の共生派、そして幻獣の王。様々な要素が絡み合ってきた。そして、また明日から始まる激戦の予感を、この陣地に居る全ての者が感じられずには居られなかった。




はい、というわけで次から緑の章のメンバーもオリジナルな動きをしつつ登場することとなります。その他、リクエストに有った熊本からのメンバーの動きなども、出していきたいと思います。

ヒロインとの絡みは……じょ、情勢が落ち着けば何とか……で、ですかね?

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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