ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
うーむ、改めて自分の小説を見返すと、本筋を勧めたい病のせいかこういう緩和というか、サブキャラのエピソードやら伏線がところどころ端折られてるなあ……
ヒロアカの方の小説も何か似た悪癖抱えてるし反省反省……
玉島聡史の場合
あの日、猫宮に叩きのめされてから、自分の人生って奴は大きく変わったと、ふと思った。周りでは炊き出しが行われ、命からがら逃げてきた学兵が、貪るように豚汁(なんと、貧乏汁ではない!)をかきこみ、おにぎりにかぶりついている。
一体何の因果かまた猫宮の居る隊に助けられ、ほぼ最後まで九州に残った部隊の隊長になってしまった。だが――
「あの人は、まだ戦ってるんだな……」
対岸では、まだここまで響くガトリングの音や92mm砲の音が聞こえる。本来は珍しい、しかし自分はもう何度も聞くことになった士魂号の戦闘音。その音に吸い寄せられるように歩いていくと、既に先客が沢山居た。対岸の戦闘を眺めている者たちの中に、ちらほらと知っている顔も、見たことの有る顔で構成された一団が有る。それは、5121や猫宮に助けられた学兵たちだった。
「よう、お前も生き残ったか」
「そっちこそ」
笑って、ぐっと拳を合わせる。多くの言葉は要らなかった。ただ、戦場を生き延びた者同士で分かり合う何かが確かにそこに有った。
「すげえな、あの人たちは」
「ああ、お陰で最後まで生き延びれたよ。こんな、俺が」
国から捨て石にされ、明日も知れずただ腐っていた自分が変われた。そして、誰かに感謝されるようになった。でも、そんな恩人がまだ戦っている。最後の最後まで、誰かを助けるために。
「……猫宮さん、帰ってきて下さい! 俺、ずっと、応援してますから!」
湧き出てくる衝動のまま、対岸へ向かって大声で叫んでいた。聞こえない、無駄だと分かってるなど、止める理屈は幾つだって思い付く。だが、そんな理屈とは関係無く、声が、想いが止めどなく湧いて出る。
そして、それは周りの連中も同じだった様だ。
「猫宮さん、みんな、待ってますから! 5121の皆さんも!」
「お礼、是非言わせて下さい!」
「善行戦隊の皆さんに助けられ、生き延びられて! だから、恩返し、したいんです!」
未熟な少年少女が、精一杯声を出す。それしか出来ない、それしか知らないから。
遠坂海運の船が続々と港に付くと、どんどんと学兵が上陸してきて、その声に加わる。この祈りよ、どうか彼ら彼女らに届けと。
「おい、船に士魂号が乗ってるぞ」
「あの色……あっ、確か荒波中佐の機体だっけか?」
「もう一機乗ってる、複座型だ」
「きっと、助けに行くんだ!」
大きく手を振って応援すると、赤い士魂号が手を振り返してくれた。
船がどんどんとこちらへ来る度に、対岸の音は少なくなっていく。そしてとうとう、音が聞こえなくなった。だが、すぐに違う大きな砲声が聞こえてきた。船の上からだ。目を凝らすと、フェリーから何度も何度も閃光が放たれるのが見えた。
フェリーが反転して、その船影が段々と大きくなってくる。そして、そのフェリーが海に浮かぶよく分からないものを引っ張っていて、それには士魂号が張り付いていた。
湾港はもう、人で溢れかえっていてすし詰め状態だ。そしてようやくフェリーが戻ってきて、4機の士魂号が陸に降り立つと、気がつけば両手を上げて叫んでいた。周りの連中も――学兵も自衛軍も関係なく、全ての人間が喜び、そして讃えていた。
士魂号が手をふると、また声が大きくなった。傷だらけであちこち焼かれ、装甲も剥がれた士魂号が、この瞬間は何よりも美しく、また格好いいと思えたのだ。
それからは大変だった。まず生き延びた部隊の隊長格が集められ、生き延びた人員、死んだ人員の名簿を提出させられる。それから、報告書だ。何処でどんな戦闘が有ったか、可能な限り詳しく詳細を書けと紙の束を渡された。そのため隊長には特配として嗜好品が優先して振り分けられていたが、それでもこりゃ割に合わねえんじゃねえかとため息をつく。もう撤退して3日も経ったが、未だに終わる気配が無い。
だが、支給されたチョコを見ると大正製菓の高級チョコだった。こんなもので嬉しくなってしまう自分に苦笑しつつ、テントの外に出て一口齧る。学兵と自衛軍の兵は分けられているのか、周りに見えるのは学兵ばかりだ。だが、その中で体格の良い大人な憲兵がチラホラと、物々しい装備をして巡回しているのが見える。
そういや、共生派に襲撃もされたっけな……これも書かなきゃ駄目かと気を揉んでいると、見知った顔――橋爪が居た。
「よう」「おう」
軽く手を上げて――ふと手に持ったチョコを見た。まだ半分くらいは残ってる。
「いるか?」
「サンキュ」
こいつは一人残っちまったんだっけか。美味そうにチョコを齧ってる橋爪も、辛い経験を沢山してきたのだろう。多分、自分以上に。
「生き残ったな」
「ああ、生き延びちまった……仲間内じゃ、俺だけ」
コンクリの地べたに座り、どちらともなく対岸を見る。人の居なくなった、九州はとても静かだった。そして、夜は明かりの一切無い闇の世界に変わってしまった。代わりに、これから自然がどんどんと復活していくのだろう。共生派はそれを幻獣の齎す奇跡などと嘯いているが――
「…嫌だな」
「どうしたよ?」
「……いや、あそこが幻獣しか居ない場所になるのは何かな、嫌だ」
「……分かるよ」
二人共、あそこには碌でも無い思い出ばかり有るはずだった。だが、あそこは戦友たちと出会い、共に戦い、バカをやってきた場所だったのだ。そんな、命懸けで守り続けてきた場所が奪われた。そう思うと――許せなくなった。
そして、振り返り駐屯地の一角を見る。そこでは一際目を引く、巨大なテントが有った。あの中に、士魂号が収まっているのだ。そして、きっと夏が終わった後もあの人達は戦い続けるのだろう。
「なあ、お前さ、これからどうする?」
「これから、か」
橋爪が手に持っていた1枚の紙に視線を落とす。玉島にも見覚えが有った。
「……自衛軍への入隊の誘いか。お前にも来てたのか」
「ああ、って事はお前もか?」
ごそごそとポケットから折りたたんだ紙を取り出す。何度読んでも文面は変わらないのに、繰り返し読み返した書類。それなりの階級章をつけた自衛軍の将校に、直々に手渡されたそれは、聞けば知り合いの連中もかなり貰ってる奴が居るそうだ。
「……戦いはまだまだ、続くんだろうな」
「……ああ」
自分たちは運良く生き延びた。だが、死んじまった奴も大勢居る。学兵も、自衛軍も、民間人も。――自分は生き延びちまった。大勢の人に助けられて。そして、あの人達だって、助けは必要としている。なら――
「俺、この話受けてみようと思うわ」
「お前もか」
どうやら、橋爪ももう心に決めていたらしい。
「ああ。………………俺だけ、生き延びちまった。どっちの部隊の奴も、馬鹿だけど気のいい奴らだったんだがな……」
暗い、悲しい瞳をしていた。自分も橋爪程ではないにしろ、似たような目をしているのだろう。死者に、そして無くしてしまった者たちに囚われている目。だが、多分それだけじゃ駄目なんだ。
「お互い、生き延びようぜ。生き延びて、恋をして、子供を作って、この国を立て直そうって。あの人に言われたんだ」
「へっ、分かってらい。俺まで死んじまったら、先に逝っちまった奴らにどやされるしよ」
笑って、拳を合わせる。この後再会出来るかは分からないが、もし出来たのならまたこうして話してみたいもんだと、そう思った。
津田優里の場合
あの熊本城での激戦が終わり、もうすぐ休戦期でどうやら自分は生き延びることができそうだと安心していた矢先の事だった。早朝に、耳元で端末がとてもうるさくがなり立てて、不快な音で警告を発する。気持ちよく眠っていたところを叩き起こされ、慌てて画面を見ると目を引く赤い文字で緊急警報の文字と、猫宮のメッセージ。要約すると、今すぐ仲間を叩き起こして逃げる準備をしろとの事だ。
その強い言葉の数々に血の気が引く津田。慌てて寮の仲間を叩き起こし、他のクラスメイトには連絡を手分けして入れさせて、完全装備で集合させる。メッセージからすると、猫宮自体はもう戦闘に入って救出に走っているらしい。
ドタドタと大きな足音が寮中を駆け巡り、皆必要最低限の物を持ってウォードレスを装着していく。少しして、全員が集まる。
「そ、それで優里、どうすればいいの?」
「とりあえず、民間人の救助優先! 知ってまだ残ってる農家のお爺さんお婆さんの所に行こう!」
猫宮の指示には、まだ残っている民間人を救出すること。それが結果的に自分たちを助けることにもなるとの說明が有った。確かにこのまま逃げるだけでは敵前逃亡で今助かっても銃殺にされるのだろう。
「地図出して! サイドカーでも何でも使って、手分けして知ってる人助けに行くよ! 後、送迎用の小型バスとかもかき集めて持ってきて! 足腰の弱いお爺さんお婆さんとかそれに乗せるから!」
バンッ!と地図をテーブルに広げて、ペンでチェックをしていく。
「順子、あんたはこっちのお爺さんのところに行って! 千歌、小型車両なら運転できたよね? ここの送迎バスとお爺さん達連れてきて! いい、全員で生き延びるよ!」
『了解!』
ずっとずっと隊長として気を張っていた経験が生きた。砲声が次第に大きくなってくる。焦りも大きくなってくるが、そんな時こそ深呼吸をして出来ることを片付けていく。まずは基地に残ったバイクや車両に、燃料を入れて食料や弾薬も積み込めるだけ積み込む。戻ってきたバイクやら車にも満タンになるまで燃料を積み込み、空いたスペースに様々な雑貨を詰め込む。出来れば、おむつも履かせたいのだが。
「優里! 近くの人達みんな連れてきたよ! 早朝だからみんな居たのが助かったね!」
「こっちはちょっと人数増えちゃった! ごめん、まだ入るよね!」
「勿論、全員助けるよ! 皆さんごめんなさい、狭くなるけど我慢して下さい!」
お爺さんやお婆さんは送迎バス等の車両に詰め込み、おじさんなどまだ体力があるような人は、軽トラの荷台になどに乗って貰う。
「みんな、本当にすまないねえ……」
「迷惑かけるよ、優里ちゃん……」
「手伝えることが有ったら何でも言うタイ!」
「大丈夫、迷惑だとは思ってませんから!おじさん達はとにかく落ちないように! よし点呼!」
弱気なお爺さんお婆さんに声をかけ、おじさんの励ましも受け、人数を確認。一人も忘れるわけには行かない。
「よし、全員揃ったわね! じゃあ春美、このルートでお願い」
「了解、じゃあ行くよ!」
端末で状況を逐一把握するために、優里自体はサイドカーに乗り込み、地図と端末を飛ばされないようにして開く。既にあちこちで渋滞が起き始めているらしく、幹線道路は逆に危ない。ならば、使うのは裏道や山道だ。多少距離が長くなろうと道が狭かろうと、渋滞で完全に動けなくなるよりは良い。
このまま北へ逃げ続ければ良いとも思ったのだが、北でも幻獣が既に居るらしい。端末では、次々と幻獣を見たポイントが更新されていくが、この50キロ程度の速度しか出せない集団で突破するのは不可能だろうとなると使えるのは――
「うん、列車を使おう!」
猫宮からも推奨されていたのは、九州を縦断する大動脈、鉄道を使うルートだ。今は装甲列車も使っていた、おそらく最後まで優先して守られる場所のはずだ。
「おっけー! みんな、しっかり付いてきてる? 遅れたりはぐれたりしたらすぐ連絡入れること!」
『了解!』
多目的結晶の短距離通信で全員に声をかけ、定期的に所在を確認する。逸れる=死な状況で、気は抜けない。時々遭遇するはぐれゴブリンは、車両をゆっくり止めつつサブマシンガンで掃除をする。車輪を巻き込み、故障させたらそれもまた死に繋がる。
途中のトイレなどの小休止では、銃を持った隊員を外側に配置し、交代で休憩を取る。普段の任務より、段違いに消耗するが、弱音は吐けない。端末の情報では、幻獣はどんどん包囲を狭めてきている。本当ならすぐにでも出発したいが、疲労によりミスをしたら目も当てられない。
民間人の人たちも、文句も弱音も零さず、そそくさと用を済ませてくれる。もう少しだから、きっとなんとかなるからと、津田も己を鼓舞し続けた。
駅へとたどり着くと、そこは人でごった返していた。列車は次々とやって来るようだが、それぞれに護衛の部隊なども付けないといけないのだろう。細かく乗る人員が制限されていた。そんな中でも、民間人をぞろぞろ連れた津田の一行はそれなりに目立った。ジロジロと無遠慮な視線に晒される。
そんな中、巡回していた中で殆どの兵にギョッとされている人員――憲兵に目を付けられた。つかつかとサブマシンガンを持った兵が近寄ってくるが、威圧感が凄い。他の子や、民間人の人たちは気圧されたようにしているが、自分もそうなるわけには行かない。胸を張って、じっと憲兵を見据える。
「所属部隊は? どうやってここまで来た? その民間人達は?」
普段街で見る時よりも特別に警戒が強い。だからこそ、不審に思われないようにはっきりと。
「2088オートバイ小隊、津田優里百翼長です。熊本市内の民間人を避難させるためにやむを得ず護衛しながら北上してきました」
さっと端末で部隊章と顔を確認される。部下も含めて全員。そして、民間人の人たちには入念なボディチェックを。おっかなびっくりしていたが、特に何も言われる事が無かった。
「問題は無い。爆弾及びガス等も所持は認められず――乗車を許可する」
そう言うと、サラサラとサイン入りの切符を津田に託され、また全員に安っぽい厚紙の切符が渡された。
「え、えっと……の、乗って大丈夫なんですか?」
「ああ。番号が呼ばれたら、向かうように。それを見せれば大丈夫だ。――猫宮君の教え子か。よく頑張ったな」
ぽんっと、肩を叩かれた。
「えっ、猫宮さんの事――」
「ああ、知っている。我々も世話になっていてな。学兵には優しくしてくれと、頭を下げて頼まれている。是非、生き延びろよ」
「はっ、はい!」
そう言葉をかけられると、憲兵はまた巡回に戻っていった。
砲声は聞こえるが、ここにはまだ幻獣は浸透してないようだ。長い長い待機時間の後、電車に載せられた。ようやく、ウォードレスが脱げる。助かったんだという思いとともに、疲れが一気に吹き出てきた。思わず、壁によりかかり崩れ落ちる。
「優里ちゃん、本当に、ありがとうねえ」
「お陰で助かったばい」
「みんなも、こんな年寄のために命をかけてくれて……」
見上げると、助けた人たちが、自分も含めてオートバイ小隊の皆にお礼を言っていた。中には泣き出している人も居る。
「あっ、いえ、私達が助かるためって事もありましたしっ」
「それでもよ。幻獣が出て来た時も、皆で守ってくれたじゃない」
次々とお礼を言われ、何だか気恥ずかしかった。そして、こんな自分でも誰かを守れたんだと実感する。
外を見ると、本来のどかな田園風景の筈が、車両に踏み荒らされ、砲弾で穴が空き、時々砲声も聞こえる物々しい、そして悲しい光景に変わっていた。そして、それと同時に自分は本当に沢山の人に助けられたのだと実感する。
猫宮さんもきっとまだ戦っているのだろう。そう思うと、不意に涙が溢れてきた。このままで、いいのだろうか?
トンネルを抜けて本土へ戻ると、そこは人でごった返していた。九州からどんどん人が逃げ出してきて、受け入れ先等もまだ決まっていないのだろう。不安そうな人が、あちこちに見て取れる。
「や、やった! 本土に来れたよ!」「生き延びたんだね、私達!」「もう、戦わなくていいんだよね!?」
仲間たちは、抱き合って、飛び上がって叫んで無事を喜んでいる。自分も、生き残れたのは確かに嬉しい。――でも
「猫宮、さん……」
あの人は、皆を助けたあの人は、今も誰かを助け続けているんだろう。自然と、両手を合わせて祈っていた。足音、そして気がつくと仲間たちが隣りにいて、同じ様に両手を合わせていた。
「あの人、きっとまだ戦ってるんだよね」「若宮教官もだよね、きっと」「まだ残ってる学兵も沢山いるよね」
砲声の続く海の向こうの島に、それぞれが思いを馳せる。いつの間にか、祈っていた。……でも、祈る以外まだ自分に出来ることは残っているのではないだろうか。
「……ちょっと炊事場覗いてみる」「あ、じゃあ私は洗濯とか手伝えることとか無いかな?」「私は介護が何か出来るか覗いてみる!」
なにか出来ることは無いかと、あちこちに散っていく仲間たち。もう、守られるだけじゃ嫌だった。
その想いは、4機の士魂号が上陸したときに最高潮に達した。最後の最後まで戦い抜いた機体はボロボロで、くたびれ果てていて――今にも崩れ落ちそうに思えた。機体から降りた時、遠目に見えた猫宮や他のパイロットの人達も、疲れ果てていた。
「猫宮、さん……」
懐から、今日貰ったばかりの書類を取り出す。急増で刷られたであろう、安っぽい紙に印刷された自衛軍の勧誘の広告。自分は彼らのような英雄じゃない。でも、英雄でなくても、沢山の人が支え合って、こうやって沢山の人を救えた。なら、自分だって――
「私も、誰かのために戦ってみますね」
もう、助けられてばかりじゃない。胸を張ってまた会えるように。そう決意すると、学兵の駐屯地の一角の徴募官の居るテントへ力強く歩き出した。
かなり初期から出ていた学兵のお二人の話。
こういうサブキャラの話書くのが実は大好きです