ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
夜明け
下関から続々と人が方々に散っていく。撤退戦が終わり、自然休戦期に突入したことにより、一種の弛緩した空気が流れていた。自衛軍も学兵も民間人も皆助かったことに安堵し、そしてこの後の事を考えるとどうにも不安が拭えないが、それでも明日は来てお腹が減ってしまうのだ。だから、明日を生きるためにそれぞれの場所へと移っていくのだ。
自衛軍はそれぞれの駐屯地に、学兵は解散が決まり特例を除きそれぞれが日常へと回帰していき、民間人は受け入れてくれる日本全国の各自治体へと着の身着のままの様な状態で引っ越していく。
賑やかでお祭り騒ぎのようでさえあったこの街に日常が戻っていく様は、祭りが終わった後の様な寂しさも感じられる。元気いっぱいの善行戦隊の面々も、九州撤退せが終わってから賑やかさに少し陰りも見える。皆、それぞれ失われた200万の民間人の命と3万学兵の命の事を、受け止めきれなかったりするのだろう。
「……最も、わたしもそうなんだけどな」
今日も眠れずに何となく外に出ると満月だった。対岸の明かりが少ないせいか、満天の星空と満月がやけに綺麗に見える。草の上にでも寝転んでみるかと宿舎から離れると、先客が居た。
「あら、どうもこんばんは」
「ああ、こんばんはだ」
田尻凛。自走砲部隊の隊長であり、その冷静な観察眼には幾度も助けられてきた相手だ。
「そちらも眠れないのか?」
「ええ……色々とありましたから」
「……そうだな」
隣に座り、一緒に夜空を見上げる。九州に近い下関、5月でも既に暑い日は有る位だが、今日は風も適度に吹いていて涼しい。幾らでも見上げることが出来そうだ。
思えば不思議な縁でこんな所まで来たものだ。あの熊本城での決戦の日、本来なら自分たちは死んでいただろう。それが、彼に助けられていつの間にやら巻き込まれ、ヘトヘトになるまで戦い抜いて、更には学兵のまま取り置かれることになってしまった。横の彼女も似たようなものの様で、何だか妙に親近感を感じてしまう。
「……これからも苦労をするのだろうなあ」
「ええ、そうですわね。あの人型戦車を自衛軍が放っておくとはとても思えませんし」
そして自分たちはその人型戦車と沢山連携をしてきた貴重な部隊と言う訳だ。――まあ、貴重ならば熊本城の時みたく使い捨てにだけはされないだろうとは思える。それに、九州が陥落したのだ。遅かれ早かれ軍には関わることになるだろう。それを考えると、悪いことだけ、とも言い切れなかった。もしも生き残れたら年金の支給や大学への特進や学費や生活費を全て肩代わり、と言う飴もばら撒かれていたし、部隊の子達はそれで喜んでいる子も多かった。だが、自分としては……
「全く、こんな事に巻き込んでくれた人には責任を取って貰わないとな」
「ええ、そうですわね」
誰の事かは言うまでも無い。戦場で偶然出会った不思議な人。誰よりも強くて、誰よりも他の人の為にその身を削って戦っているあの姿が、強烈に焼き付いている。付き合いはほんの短い間なのだけれども。一緒に戦い、一緒に訓練をし、交流を重ねる度にその存在が心に存在を刻み込まれた。ただまあ……
「ライバルが多いんだよな」
「むしろ一番の敵はあの人の認識では無いかしら? まずは異性を意識させませんと」
「……そんなに、か? 先日も美少女の手にキスをしたりとその気はありそうなのだが」
「ちょっとその話を詳しくお聞かせ願いませんか?」
と、恋の話に花を咲かせるのは隊長と言っても少女で有るが故か。少しおしゃべりに興じていると、ふと猫が見えた。それも、見覚えのある猫である。5121で見た、1メートルは有る巨大な猫だ。ちゃんちゃんこも着ているしまさかあんなのは2匹と居ないだろう。んん?と不審に思いつつ、思わず立ち上がった二人。しっぽをゆらゆら揺らしているブータに、何となく付いていく。
深夜、人通りも車の通りもまるで無い夜の街をえっちらおっちらと。ブータも、後ろから付いてくる二人に気が付いているのか、塀の上を登ったりもせずに、のっしのっしと道を歩いて行く。
てくてくと暫く歩いていくと、砂浜が見えてきた。そして、そこには沢山の先客が居た。犬に猫にリスにモモンガにイタチにウサギにカラスにスズメにたぬきにキツネにウグイスに…と。たくさんの動物達が集まっていた。ふと海を見れば、月と星の光で輝いている水面に背ビレも見える。そして何よりも――その動物たちの中心に居るのは、見慣れた少年。
何か、邪魔をしてはいけない気がして二人はそっと気配を消して隠れた。そして、何が始まるのかと息を殺して固唾を呑んで見守る。
鳥や動物達が一斉に声を上げた。沖ではイルカが水面を飛び跳ね、クジラが潮を吹いている。その中心で、猫宮が笛を吹いている。神話の中に迷い込んでしまった様な感覚に、心を揺さぶられる。やがて笛を置くと、朗々と歌い出した。
長い長い夜にこそ 星は空に渾然と輝く
次に太陽が見える時まで みんなが寂しくないように
夏の終りに秋がくるのは 冬の終わりに春がくるため
巡り 再び 繋がる 回る
全てをなくした時に生まれ出る
その剣の名は豪華絢爛
人の心が二つあるのは 闇を抜けて光りかがやく
恋の終わりに愛が来るのは 次の季節に希望を生むため
紡ぎ 織りなす 生命の螺旋
想いも 智慧も 勇気も 命の限り続いていく
探求の果てに 旅の終わりに 平和へと至る
両手に眩いその光は 希望を紡ぐ戦士の絶技
いつの間にか、周囲一体に光が浮かんでいた。言の葉が紡がれる度に、光が集まり、周囲を取り巻くように廻り出す。動物たちは、月へと啼いていた。その声に導かれるように、柔らかな光が天へと登っていく。
強く輝く光は、吸い込まれるように猫宮の両手に集まっていく。
いつの間にか視界がぼやけていた。慌てて拭っても、止まらなかった。ただ、ありがたかったのだ。神話の光景の中で、涙が止まらなかった。そして、猫宮の名前の意味も知ってしまった。悠久に、輝き続ける。きっと、ずっと。戦いが有る限り。あの両手に瞬く美しく、力強く、哀しい光の様に。
夜が、明けようとしていた。東の空が段々と明るくなっていき、星の光が消えていく。それが、二人にはこれから起きる事の象徴のように感じられた。夜が明けて、朝が来る。――だが、もしその時に星の光が一つ消えていたとして、一体誰が気がつくのだろうか?
「……嫌ですわね」
「……ああ、嫌だな」
勝手に助けて、勝手に優しくして、勝手に心に残って、それで最後には消えてしまう? そんなのは、嫌だった。無責任にも程がある。
「引き止めましょうか。どんな手を使ってでも」
「ああ。手強そうだし……共同戦線といってみようか。引き止めてからが、勝負の本番だ」
「ええ。そちらでも負けるつもりは無いのですけど……でも、本人が一番手強そうですわね」
只者じゃないのは分かっていた。だけどまあ、関係ないのだそんな事は。人だろうと精霊だろうと妖精だろうと。好きになってしまったのだから。恋をするというのは多分そういう事なのだ。
「さて、差し当たって他の方々とも話し合いましょうか」
「うむ! では今日の夜にでも一度集まるか!」
朝が来た。そしてまた、新しい一日が始まる。
むしろこれって本編に挟んでおかなきゃならない話だよなと反省……
改めて1から読み返すと手直ししたい場面や保管したい場面が大量に出てきて困る今日この頃
そして、本編の最新話の方は手直しする事にしました
もしも見てみたいとしたら……
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