ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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あ、ありのまま今起こったことを話すぜ……
俺はアンチョビとのラブコメを書いていたと思ったら、ただの幕間の話になっていた……
超能力とか催眠術だとか(以下略




リハビリ短編7【アンツィオ高校・幕間】

こうして彼女たちは巻き込まれた

 

 熊本城攻防戦から三日の月日が流れた。幻獣のいなくなった街は急速に復興が進み、あちらこちらの瓦礫が片付けられ、戦死者の遺体もほぼ全てが回収されていった。千代美達アンツィオ高校の間借りしていた校舎も、混乱が収まるまでは野戦病院として使われ、とてもではないがまともに活動することも出来なかったのでは有るが、ようやく各地の野戦病院もまとまり始めて、元の人が少ないオンボロ校舎が戻ってきた。しかし、自分たちの保有する車両は全てくたびれてオーバーホールが必要な状況であり、おまけにあの決戦の後で有るので補給もままならない。ついでに食糧事情も良くないと、隊長である千代美にとっては頭の痛い問題だらけだ。全く、休みができたとはしゃいでいるうちの子達が羨ましいとついついため息をついてしまう。

 

 そんな事を思いつつ、隊長室と言う名の物置で備蓄を記した書類とにらめっこをしていると、ドタドタドタと複数の足音が聞こえてきた。そして、バンッ!とドアが勢いよく開けられる。

 

「たっ、たたた隊長!」「大変大変!」「ねっ、ねねね……」

 

「猫がどうかしたのか?」

 

 まさかウチの部隊で飼いたいなんて話じゃないだろうな?

 

「ち、違っ!」「ね、猫宮さんが来たんですっ!」

 

「……うええええええっ!?」

 

 びっくり仰天する千代美。あの、熊本城での最後の戦いで出会った自分たちの命の恩人。そう言えば連絡先を渡されていたのだがこの忙しさにすっかり忘れていて……ともかく、命の恩人だし早く顔を出さねばと、部屋から飛び出る千代美と、それを追いかける隊員たち。そして慌てて飛び出たは良いが場所がわからず、隊員たちの後に付いていく事になった。

 やって来たのは駐車場の片隅に、大型のテントを張っただけの整備ハンガーである。その前に、大型のトラックが幾つも停まっていた。

 

「やっほ、安斎さん。三日ぶりだね」

 

 人懐っこい笑みでやぁと手を振ってくる猫宮。その周りでは、高級なお菓子を配られすっかり餌付けされているアンツィオ高校の生徒たちが居た。

 

「ああ。連絡も入れられずにすみませんでした。ところで今日は何をしに……「あ、猫宮さん私達にも!」「下さい下さい!」「わ、大正製菓の高級チョコだし!」ええいお前ら静かにしろぉ!?」

 

『は~~~~~い』

 

 はしゃぐ隊員たちに一喝したら、大人しくお菓子を食べ始めるアンツィオのメンバー達。猫宮はそんな様子を見てニコニコと微笑んでお菓子を渡した後、千代美にも1枚渡しつつ本題に入る。

 

「喜んで貰えたようで良かったよ。……うん、じゃあ本題。安斎さん、そしてアンツィオの皆さん、僕ら5121や黒森峰、聖グロリアーナと一緒に是非戦って下さい」

 

 一転して真面目な表情になって、深々と頭を下げる猫宮。そして、周りの気配も引き締まる。全軍きってのエースが頭を下げてお願いにしに来る……それだけの一大事である。

 

「あなたの立場なら、命令する事も出来るでしょうに」

 

 苦笑する千代美。だが猫宮はふるふると首をヨコに振る。

 

「自分たちと一緒に戦うことになったら、色々と苦労かけちゃうから……あんまり無理やりとも出来なくて」

 

 プロパガンダでよく伝え聞いた5121や黒森峰の活躍。所詮、軍の宣伝のために誇張されているのだろうと思っていたが、むしろ過小評価と言ってもいい程だったのは、あの夜に思い知った。当然、一緒に戦うならそれなりの苦労もするのだろうが……。決戦の日、分かったことが有る。目の前にいる人は、いい人だ。でなければ、あんなもはや戦術的価値も無い陣地に一人救援に来る事など無かった筈だ。このエースパイロットは、損得など抜きにただ死に行く人間を助けるためだけにあの幻獣の群れへと突っ込んだのだ。――なら、決して自分たちを使い捨てなどにはすまい。だが、それでも隊長として改めて皆の前で確認しておかなければならない。

 

「使い潰したりはしないよな?」

 

「うん。貴重な対空兵器を、そんな事には決して使えないよ」

 

 それが分かるから、猫宮も真っ直ぐ真摯に答えるのだ。

 

「補給はどの程度を?」

 

「最優先で。車両には補給パーツや弾薬も満載してあるよ。食料も、良いのを回せる」

 

「歩調を合わせる訓練は?」

 

「了承してくれれば明日からでも。それと、全員分のサブマシンガンも用意するよ。そっちも訓練は受けて貰う」

 

「……激戦区に回されることになるな」

 

「うん。……だけど、自分たち5121や、黒森峰、聖グロリアーナの混合部隊に、ベテランのスカウトも付いてくる」

 

「つまり……今まで通り、あからさまな使い捨てや囮にされるよりは生存率は高いということだな」

 

 学兵は、時間を稼ぐための捨て駒だ。だからこそ、自衛軍にあからさまに見下されたり囮や被害担当などにもされてきた。だが、目の前のエースと共に行けばその様な事は少なくとも無くなるだろう。

 

「了解した。では……アンツィオ小隊の命運、5121小隊に預けるぞ」

 

「ありがとう。安斎さんたちと戦うと、凄くやりやすかったから、自分としても嬉しいんだ」

 

 確かに、あの時。目の前のエースと一緒に戦うことで、ありえない程の戦果を叩き出せた。それを思うと、激戦区に回されるはずなのに死ぬ気がしないから不思議である。

 

 そんな事を思っていると、スッと手が差し出される。迷うこと無く千代美は手を取り、しっかりと握手を交わしたのであった。

 

 

将来への展望

 

 5121小隊と合流してから、慌ただしく日々は過ぎていった。所持している車両は全てオーバーホールされ、サブマシンガンを全員に支給されて慣れない生身での射撃訓練をし、更にはシミュレーターに詰め込まれる。目の回るような忙しさだが、同時にその全てに意義も感じ取れ、士気は高い。

 

 そして、ほんの数日の合同訓練の後はいきなり実戦に放り込まれた。と言っても、敵の数は精々中型幻獣が20程度。もし今まで通り3輌編成の小隊であれば死を覚悟する数である。――だが。

 

「1番機、ミノタウロス2体撃破」「2番機、キメラ撃破」「4番機、ナーガ・ゴルゴーン・ミノタウロス撃破」「3番機、ミノタウロス・スキュラ・きたかぜゾンビ・ナーガ撃破」

 

 この有様である。4機の士魂号が敵を倒して、幻獣の注意がそちらに向いた隙に横から後ろから20mm砲を撃ち込む。

 

「……あ、あの、隊長……」「勝っちゃいましたね……あっさり……」

 

「あ、ああ……」

 

 アンツィオの隊員全員が、唖然としていた。シミュレーター上でも勝てていたが、実戦としてこんなに楽な戦いは、初めてだった。

 

「いやあお疲れ様お嬢さん方。初陣はどうでしたかな?」

 

「シミュレーター通りにやれたとは思いますが」

 

 そして流れてくるのは5121からの指揮車からの通信。

 

「あっ、は、はいっ。問題無いです。損害も無いですし」

 

 我に返って返事をするが、本当に本当に楽であった。思わず、今までの苦労は何だったのだと愚痴りたくなる位には。

 

「結構です。では、ひとまず戻り休息は十分にとって下さい。デブリーフィングはその後に行います」

 

「はっ、はい。了解です」

 

 ふぅ、と大きく息を吐いて背もたれに体を預ける。今日も生き延びれた。だが、それは何時ものように綱渡りではなく、これなら終戦まで生き延びれそうだとそんな予感がする勝利だった。

 

 

失われた国の料理で

 

 熊本城での決戦が終わり、幻獣も散発的に攻めてくるだけで損害も減ってきた。すると、熊本市内の復興に力が入れられ始めた。軍事用途に使用がほぼできない市電が真っ先に復旧され、市内のあちこちでは大人たちが電線やら電話線やら水道管やらを繋ぎ直し、インフラを復活させていく。

 そんな明るい雰囲気が伝播したのか、はたまた終戦まで後少しなので備蓄しておく意味も見いだせなくなったか、駅近くの物資集積場は、連日腹を空かせた学生達でごった返していた。逆に言うと、もう市内で食べ物が手に入る場所はここ以外には闇マーケット位しか無いという世知辛い事情も有ったのだが。

 

 そして、千代美他数名のアンツィオの隊員達もまた、今日もこの人でごった返している物資集積場に来ていた。目当ては勿論食材である。いい加減、じゃがいもばかりの食事にもうんざりしてきたところだった。5121に合流したことで量としてはちゃんと支給されているが、それ以外の物が食べたければ、自力調達する以外方法がないのである。ここに来る前にも試しに裏マーケットを覗いてみたが、学兵の安週給ではとても買えないような値札が付けられていた。

 

 今日は何か良いものが見つかるだろうかと、それなりに広い集積場をうろついていると、人だかりが見えた。

 

「おっ?何だろ?」「隊長、行ってみましょうよ!」

 

「ああ、わかったわかった」

 

 人の集まりの中心では、必ず何かが起きているものだ。炊き出しでもやっているのだろうかと覗いてみると、もはや馴染みとなった声が聞こえてきた。

 

「と、言う訳で明日この位置で合同訓練を行います。ついでに炊き出しとかもやるので、是非来て下さい。以上です!」

 

 猫宮が、学兵を集めてまた合同訓練の勧誘を行っていた。本来なら弛緩している学兵たちだが、猫宮の真剣な表情や威圧感に飲まれて、体を固くしていた。このエースが言うからには何かある、と思わせられるだけの実績を既に手に入れているようで、それを何の迷いも無く利用し尽くしている様だ。

 

 お立ち台――と言うにはあまりにも貧相な、ひっくり返したプラスチックのケースから飛び降りると、一気に緊張が緩む。そして、猫宮もこちらを見つけたようだった。

 

「やっ、安斎さんにアンツィオのみんな。今日も物資確保に?」

 

 片手を上げ、人懐っこい感じに寄って来る猫宮。隊員たちは「そうですそうです!」「そろそろじゃがいも以外が食べたいです……」「奢って下さ~い♡」

 

 などなど、すり寄って甘えている。この間チョコを持ってきたり、お菓子を持ってきたり、ちょくちょく差し入れを入れてくれるのですっかり懐いてしまったようだ。

 

 千代美もこほんと一つ咳払いをして、甘えている隊員たちをちょっと牽制しつつ話に参加する。

 

「ああ。その日によって食材が色々と変わるからな。そろそろイタリア料理が恋しくなってきた所なんだが……」

 

 ため息を一つ。チーズはもはや嗜好品の部類であり、トマトも農家の疎開が進んだ今となっては中々手に入らない。

 

「あ~、なるほど、チーズか……。トマトは手に入るんだけど……チーズかぁ……」

 

 腕を組もうとしたら両手を取られていたので、首を傾げつつ悩む猫宮。まあ、頼れる場所は一つしか無いのだが。

 

「それじゃ、ちょっと裏マーケットに寄ってみようか」

 

「えっ……い、いや、あそこ……高いぞ?」

 

「大丈夫大丈夫、年金沢山貰ってるから」

 

 心配する千代美に、お金はあるから大丈夫と笑いかける猫宮。

 

「やった!」「猫宮さん大好き!」「結婚して!」

 

 と喜ぶ隊員たち。あははと笑ってる猫宮。そしてめっちゃ羨ましそうにしている周りの男性学兵諸君。そして、ちょっと何故か不機嫌になる千代美。謎のもやもやを抱えつつ、裏マーケットへ。崩落を免れた地下街では相変わらず様々な商品が並んでおり、そこの利用客も絶えない。

 猫宮としては勝手知ったるこの広場。店の入れ替わりも激しいが、何処から情報を仕入れているのか狭い道を通り、奥へ奥へと。見つけたのは、缶詰が並んでいる商店。その中に、缶詰入りのチーズが有った。だが、乾燥していない分お高い。

 

「う、うわっ……」「やっぱり高い……」

 

 奢ってもらえると喜んでいたが、いざ値段を見ると気後れしてしまうくらいには高かった。だが、猫宮は何の躊躇もなく万札を数枚取り出すと、店主に渡して数缶程貰っていく。中身がバレないように黒い袋に包んではい、とアンツィオのメンバーに差し出す。

 

「これだけあれば隊の皆の分は足りるかな? じゃあ、みんなで楽しんで!」

 

 それじゃあね、と買うだけ買って、自分は戻るつもりの様な猫宮。反射的に、千代美は腕を掴んでいた。

 

「待ってくれ。折角買ってくれたんだし、このチーズで作ったイタリア料理を食べていってくれ」

 

 思えばずっとお世話になりっぱなしだし、何か返したかった。うちの子たちも、全力で賛成している。ぐいぐいと強引に猫宮の体を運んでいく。多分強引に行くことが必要なのだ。

 

 間借りしている校舎まで帰ると、隊員たちが一斉に出迎えてくれた。

 

「わっ、猫宮さんだ!」「いらっしゃーい!」「チーズ買ってもらった!」「ほんと!? やった!久しぶりにドリア作れる!」

 

 元気いっぱいの沢山の女学生達でとても賑やかだ。学校によって雰囲気違うよなあなんて思いつつ、精一杯お高いコーヒーでおもてなしされる猫宮。付け合せの角砂糖なんてものはなく、代わりにサッカリンを混ぜた合成練乳が側に置いてある。こういう嗜好品から真っ先に削られちゃうんだよなあなんて思いつつ、ストレートでコーヒーを一口。本当に最低限の豆だが、本物であった。

 

 厨房では、エプロン姿の女の子達がチーズにはしゃぎながら料理を作っていく。トマトを潰してトマトソースを作り、米がないのでポテトを蒸して潰してポテトドリアに。ミルクは市販の強化プラスチックやカルシウムが混ぜ込まれた物を使い、オリーブオイルは無いので、合成香料でオリーブのような香りを付けた油で代用して、フォッカチオを焼き上げる。パスタの湯で時間は少し短めにして、ちょっとだけ硬めのアルデンテへと。

 

 戦争の合間の、ちょっとした日常と、ちょっとした贅沢。それを、彼女たちは全力で楽しんでいた。

 

「みんな凄く手際が良いね」

 

「ああ。アンツィオは……と言うより、この手の海外の文化を伝える学園は、とても沢山の事を教えるんだ。料理だけじゃなくて、裁縫や音楽や文学とか、その国の事を出来るだけ。先生には何人か本物のイタリア人の人も居るんだ。もうお爺さんお婆さんなんだが……私達が料理や刺繍を披露すると、本当に喜んでくれて……だから、みんな頑張って覚えたんだ」

 

「……そっか……」

 

 イタリアはもう無い。イギリスやロシアも。その国の文化の残り香を残すために、多くはアメリカに渡ったそうなのだけれども、日本に渡ってきた人も極少数が居る。この国を気に入ってくれた為か、それともリスクを分散させるためか。それとも――沢山の人に、覚えていてほしかったからだろうか。

 

「だから、な。……悲しいって思うんじゃなくて、美味しいって思って食べて欲しいんだ」

 

 出来上がった料理を大きなテーブルにどんどんと乗せていって、テーブルの上はちょっとしたイタリアの家庭料理で彩られていく。

 

「それじゃあ、猫宮さん。どうぞ」

 

「うん、それじゃ、頂きます!」

 

 味も材料も元とは違うのだろうけども、猫宮は確かにそこにイタリアの景色を幻視した。

 

 

 

 




アンチョビの話を書こう→そう言えばあんまり詳しく書いてないな→ゲームのイベント風に飛び飛びで時系列順にちょっと書いていって見ようか→あれ、ラブ要素とコメディ要素どこ……?
そしてこれを書いたら今度はグロリアーナの話も書きたくなった問題

活動報告に、ガンパレ関連の話題を載せました。感想以外でも自由にコメントが出来る場所なので、宜しければ是非見ていって下さいな
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