パラレルワールドの女神達   作:藤川莉桜

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可愛いけど、アニメ版と全然違う漫画版にこ先輩登場回です。おかげでこの話はかなりの難産でした。作っては納得できずに破棄して最初から作り直しというの繰り返しています。それでも不安ですが、少しでも再現が出来てれば良いな、と。むしろ違和感はどんどん指摘して頂きたい。


その3

「希先輩、また今日も来てなかったな」

 

放課後になっても部長の姿が見えないのを確認した俺は踵を返した。希先輩がいないのなら超常現象研究会入り浸る理由はない。ぶっちゃけ俺ってオカルト興味無いし。まあ先輩の手伝いをしてる内に都内の有名神社仏閣の名前はあらかた脳みそに叩き込んではいるのだが。

 

「あの人マジで秋葉原のパワースポットの研究に集中してんのか。まったく……その情熱を少しでも勉強に割けば、慌てて後輩に宿題手伝わせたりせずに済むんじゃないか」

 

部員獲得のために会誌を作ると高らかに宣伝して飛び出してから、俺は一度も先輩を見かけていない。今時珍しいと思われるだろうが俺は自分のケータイを所有していないし、男子が一人もいない三年生の教室にわざわざ足を踏み込む勇気だって持ち合わせていない。

つまり希先輩とコンタクトを取れる唯一の手段は部活に参加する事。なのだけれども、当の先輩が顔を出さないのならどうしようもない。部室の整理整頓で暇を潰しながら様子見しつつ、30分ほど経っても来ないなら諦めて退却。

今日は生徒会も休みだから、珍しくお日様が元気な内に校門を出れるな。

 

「ていうか先輩、あの怪しい占いグッズはいい加減持って帰ってくんないかな。部室を圧迫してるんだけど」

 

とりあえず下校前にトイレに行っておこう。

些細な不満だが、この学校は元女子高なだけあって男子生徒が使える場所がかなり少ない、というか無いに等しい。教室と文化系部室が並ぶこの校舎の場合は最上階の一角だけが男性用トイレに改造されて使用を許されている。廃校が決まった今では増設も絶望的だろう。

ようするに俺のような音ノ木坂の天然記念物達は卒業までの間、尿意が高まる度にわざわざ最上階を往き来しなければならないわけだ。ほんと些細な不満だからわざわざ生徒会長に訴える気力は無いんだけどね。いや、ほんと。体力の無い俺にはいちいち階段上がるのも辛いから何とかして欲しいとか思ってないよ?

 

さて、始めようか。この果てしない階段との戦いを。

だが、そんな大げさな決意を秘めた俺の耳に大声が飛び込んでくる。

 

「いけなーい!新しく配信されたUTXのスクールアイドルの動画見てたらこんな時間になっちゃったよ!」

 

声は上の階から聞こえてきた。合わせて何かが近づいてくる気配。

 

「あぶなーい!君!どいてどいてー!」

 

それは黒髪を揺らしながら接近してくる小さな影だった。バタバタと大きな足音を立てながら俺とは反対に猛スピードで階段を駆け下りてくるそれは減速することなく、あまりに突然の事態に回避どころか待ち構える余裕すら与えられなかった俺の眼前まで迫り、

 

「へ?」

 

当然のように正面衝突した。

 

「きゃっ!」

 

「うおっ!」

 

俺も影も小さな悲鳴をあげながらすってんころりん、見事に床下へと倒れこんだ。

 

「イテテテ……」

 

「うわ〜、もうビックリした〜」

 

小さな影、長い黒髪を希先輩のようにおさげで結んだ音ノ木坂の女生徒は座り込んだ姿勢のまま胸を押さえている。俺も一瞬心臓止まりそうになったわ。

 

「もう、だから私危ないって言ったじゃない〜。君大丈夫?」

 

ぶつかったのが丁度廊下なのが不幸中の幸いだった。おかげで階段を転げ落ちるなんて最悪の事態は免れた。心配そうに声を掛ける女の子に無事を伝える。

 

「ああ、とりあえず大丈……」

 

ん?いや、ちょっと待った。

 

「い、いや、大丈夫というか全く大丈夫じゃないというか……」

 

むしろ最悪の状況かもしれない。なんせ今の俺は廊下の床に寝そべっている状態で腹部を目の前の少女に馬乗りされているのだから。

 

「え……きゃあっ⁉︎」

 

女の子もようやく気付いたようだ。飛び起きるように慌てて俺のマウントポジションから離れた。

 

「ご、ごめんね……」

 

顔を赤くした少女は立ち上がると未だ倒れたままの俺にサッと手を差し伸べる。

正直その手を取るのは躊躇ってしまう。少女の腕と指は小柄な彼女の体格と同様にあまりにもか細く色白で、大の男である俺が触れてしまえば容易く折れてしまいそうに思えるから。

 

「どうしたの?ほらっ!」

 

しかし、俺の葛藤中に女の子は不思議そうな顔をして首を傾げる。どうやら俺がいつまで躊躇しているのを不審に思い始めているようだ。俺は慌てて少女の小さな手を握り返した。

 

「っ!」

 

まずい。思わず変な声が出た。元女子高に入学したにも関わらず、同世代の女の子の手に触れるなんて去年生徒会に入って最初に絢瀬会長と握手をして以来だ。あの人の意思の強さを体現した女性らしくも力強さを秘めた感触と違い、目の前の少女の場合、この手は柔らかさだけで作られてますって感じで、なんなんだろうかこれ。

 

「本当に大丈夫?あ、頭打ったりとか……」

 

「う、うん。まあ平気だよ。ちょっと驚いたくらいだし」

 

起き上がった俺は少女の手の柔らかい感触が呼び起こすおかしな衝動を抑えて平静を装う。実際、尻もちは付いたし、女の子に跨がられるという非常事態には陥ったものの、見た限り目立つような怪我を負ったわけでもない。

 

ついで周囲を見渡しておく。ーーーよし、誰にも見られてないな。生徒が少なくなる放課後なのが幸いした。ほぼ女子しかいないこの学校で、もしも女の子に馬乗りされたなんて噂が広まったら俺の世間体が終わってしまう。

 

「良かった〜。急に飛び出してくるんだもん。ビックリしたよ〜」

 

改めて少女の姿を見直す。同年代の少女と比べてもさらに華奢な体躯。どう少なく見積もっても高校生には見えない。陶磁を思わせる色白の肌はそんな印象をより強めていて、赤い瞳と合わせて小学校時代に世話をしていた小さな白ウサギを彷彿させる容姿だった。

髪は希先輩同じ二つに分けたおさげ。まあ希先輩と違って圧倒的に足りないとある部位が存在するのだが。

 

「って君のズボンすごく汚れちゃってるじゃない。全然平気じゃないよっ!」

 

そんな白ウサギさんはいきなり憮然とした表情で俺の脚を指差した。

 

「へ?」

 

ああ、尻までは見えないけど、確かにちょっと埃がついてしまってるみたいだ。まあ、でもこの程度なら別に気にするまでもーーー

 

「ほら、動かないでね」

 

女の子は俺の背後に回ると、ポンポンと手でズボンを叩き始めた。その動きに合わせて少々の埃が宙を舞う。

 

「あ、いや、そこまでしなくても自分で……転んだのも俺の不注意だし」

 

「いいの気にしない気にしない!さっきはニコだっていきなり飛び降りたのが悪かったしね」

 

いやいや、君が良くても一応思春期の男である俺としてはめっちゃ恥ずかしいんですよ。それに年頃の女の子が見知らぬ男に平然と密着するのはどうかと思うね。世の中は俺みたいな紳士的な男ばかりじゃないんだ。馬鹿で短絡的なケダモノ共に同じことをしてみろ。変な勘違いされちまうじゃないか。

と、内心でお説教なんてしてみたが、やたらと真剣な面持ちで俺のズボンを綺麗にしてくれようとする彼女の姿を見てると無理に振り払うのにも躊躇ってしまう。

 

いや、決して少女の柔らかさや甘い香りを堪能できるからなんて不埒な考えがあるわけではないぞ。

 

「はい、綺麗になったよ!」

 

女の子は腰に手を当てて胸を自慢げに張っている。うん、確かに、ぱっと見てもズボンの汚れは目立たなくなったようだ。

 

「あ、ありがとう……」

 

「どういたしまして〜」

 

今度はニコニコと屈託の無い笑顔を披露しながらビシッと敬礼する女生徒。

この子やたらオーバーアクションだな。

と、内心苦笑いしていたら今度は眉根を寄せて一心不乱に俺に視線を送り始めた。

 

「ジーっ」

 

いや、それ口にするとこですか?

ルビーのように鮮やかな深紅色の瞳が俺を捉えて離さない。いや、そこまでマジマジと見つめられるといくらなんでも恥ずかしいんだが。

 

「……あの、なんで俺をそこまで真剣に眺めて……」

 

そこで俺は今更のように気づいた。この女の子、付けてるリボンの色って三年生のじゃねえか。

 

「……るんですか?」

 

最後を無理矢理敬語に変えた。ごめんなさい。だって下手したら中学生以下にしか見えないくらい小柄なんだもの。まさか先輩だなんて思いもしなかったのです。仔ウサギみたいだなんて失礼なこと考えて申し訳ない。

 

「あ、ごめーん。私の学年は男子いないからつい物珍しくてー」

 

珍しい。まあ、そりゃそうですね。だって共学化したの俺の代からだし。だから当然三年生には一人も男子生徒は存在しない。

 

「ああ、なるほど。去年入学した頃はよく似たようなこと言われてましたよ。最近は前ほどじゃなくなりましたけど」

 

一年生の頃は上級生のお姉様方の興味津々な視線が突き刺さって辛かったもんだよ。

 

「みんな男の子なんて中学以来なわけだからねー。おまけに共学化したと言っても男子は今年の新入生を合わせても片手で数える程度のレアな存在!そりゃもうついつい気になっちゃうんだと思うにこ」

 

「ふーん、そういうもんなんですかね?」

 

にこ?なんだよ、この変な語尾。

 

「それにしても背高いねえ君。何を食べたらここまで伸びるのかな?」

 

そう言いながら先輩は小さな体と腕を精一杯伸ばして俺の頭頂部に触れようとする。さすがにそこまで過剰なスキンシップは恥ずかしいからやめてくれ。俺は頭部を触られないようにそっと距離を取った。

 

「い、いや、別に俺は特段大きいわけじゃないですよ。せいぜい男子の平均くらいです」

 

おまけに背がそこそこあるだけで筋肉も体力も無い典型的なひょろ長ノッポって奴だ。

 

「へえ〜そうなの〜?ニコは同じ歳位の男の子のことは全然わかんないから君が特別なんだと思っちゃったにこ」

 

さっきから気になって仕方なかったけど、この『にこ』とか付けるあざとい語尾といい、わざとらしい甘ったるい喋り方(声は意外とハスキーだけど)といい、この人あれだよね。

 

所謂『ブリっ子』て奴だ。

ここまで極端なのはテレビに映ってるタレントくらいでしか見たことないよ。

そんな絵に描いたようなブリっ子の小さな先輩さんは実にブリっ子らしく、人差し指を咥えて甘えるように体をくねらせている。

 

「あ〜ん、ニコももっと身長欲しいな〜。みんなニコのこと小さくて可愛いって言ってくれるけど、やっぱり背があってスタイル良くて足が長くて超美人って子の方が人気あると思うんだよね〜。例えば生徒会長さんとか〜他にはUTX学園の〜」

 

絵里先輩か。確かに女性としてはかなり背が高いし、顔立ちもスタイルもそんじょそこらのモデル顔負けな抜群のレベルなのは確かだ。実際校内の人気は女子生徒の間でも凄いみたいだしな。ただあの人の場合あまりにも日本人離れしすぎて、一般的な女性の理想像を語る上での参考資料としては不適切な気もするけど。

 

生徒会長は本来なら手の届かない高嶺の花って感じで、俺だって一緒に生徒会の仕事してなかったらとてもじゃないが身近な存在と言えなかったんじゃないだろうか。俺個人としては気軽に相手できる希先輩の方が……

 

「ねえねえ!君もそう思ってたりするんでしょ?男の子的にはどうなの?」

 

「え?いや、俺は、えっと」

 

いきなり意見を求められて困惑する俺。

さあ困ったぞ。この状況で俺に与えられた選択肢は二つ。生徒会長みたいなモデルばりの美人と、目の前の先輩のような愛くるしさを押し出したタイプのどちらが理想なのかを答えなければならないわけだ。

しかし、残念なことに俺は女心が読める気の利いた男ではないから、どっちを選んだ方が彼女の機嫌を損ねずに済むか判断がつかない。

 

にしても、ほんと女って流行に合わせた『可愛い』に拘る生き物なんだな。無茶なダイエットを決行して逆に体を壊してしまう女性が後を絶たない昨今だが、そこまでして自分の見た目を他人好みに変えようとするのはどうも理解できん。

この幼い外見の先輩だって、俺からしたら方向性こそ違うものの充分に美人の部類だと思うけどなあ。わざわざ絵里先輩みたいな完全に別ベクトルの女を目指さなくてもいいじゃないか。

オシャレや流行の類に疎い俺には理解できない複雑なコンプレックスを抱えてるんだろうか。

 

「えーと、えーと」

 

そんないつまでも答えられずにいる俺に助け舟。突如ピピピッとシンプルな電子音が夕焼けに染まった廊下で軽快なリズムを刻む。

俺より先に先輩が反応して懐からケータイを取り出した。電子音の発生源もどうやらそのケータイのようだ。先輩がちょこちょこと操作したら音も止まった。なるほど、アラーム機能か。

 

「あ、やばい!そろそろ行かないとバイトに遅れちゃうよ〜!」

 

ケータイをポケットに戻した先輩は慌てて下の階段を降り始める。そう言えば俺とぶつかった時もなにやら急いでたよな。どうやらすっかり失念していたようだ。

 

「じゃあね後輩くん!機会があったらまた会おうね!」

 

嵐のように過ぎ去って行く先輩。俺は力無く適当に手を振って返す。

 

「あ……そういや、名前聞いてないや」

 

まあ俺も教えてないけどね。あの人一人称が『ニコ』だったから、ニコが名前なのかな。

 

「あ、そういやトイレ」

 

おっと俺もトイレに行こうとしてたんだった。あの先輩のペースに飲まれてついつい俺も忘れてたわ。窓の外に目を向けると、いつの間にか太陽が沈み掛けて世界がオレンジ色に染まっていた。今日は早めに帰るつもりだったはずが、なんだかんだでこんな遅くまで……

 

「おりょ?」

 

ふと、窓から見える校庭の風景の中でとある一角が気になった。下校する生徒達と、掛け声と笛に合わせてランニングをしている運動部だけだったら、見慣れた変哲の無い光景に気にも留めなかったかもしれない。

いつもと違うのはその中に、校門の隣にそびえる大きな桜の木の下には知った顔がいたからだ。

 

「あれって園田さん?」

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