パラレルワールドの女神達   作:藤川莉桜

6 / 7
久々の投稿ですが、あまり話進みません。この作品はのぞにこのシーンが一番楽しいんですが、まだ出番に時間かかりそう。


その6

 赤毛の新入生に俗物と罵られるところから始まり、勝手に写真を撮られたり、頭からボンボンを被るなどの希少なアクシデントはあったものの、それ以外は普段と変わらず何気ない日常として時間が過ぎていった。

 気づけば放課後。俺はいつものように生徒会室の自席にかじりつき、今回は教師から頼まれていた生徒会新聞の校正に没頭していた。

 誤字や脱字、文法の間違いがあれば赤のボールペンで印を付けて修正内容を書き込む。何度も言っているが、俺はこういう細かい作業が好きだから苦にならない。特に今日は邪魔する輩がいなくて作業が捗るのなんのって。

 なんせ普段は無駄話に興じる上級生達が全員席を外しているおかげで今の生徒会室はシンと静まり返っているのだから。おかげで集中してルーチンワークを進めるにはもってこいである。

 

 ちなみに余談だが、希先輩の書く文章は誤字脱字がやたら多い。大雑把かつ豪快な彼女の気質を体現するようにパッと見のレイアウト構築は上手いのだが、その小さなミスの多さから俺は超常現象研究会の会誌を製作する際には細やかな修正をかなり入れていたりする。

 

コンコン。

 

 ドアをノックする音が俺一人しかいないゆえに静けさを保っていたこの部屋で一際大きく響いた。

 無論客人に対応するのはお留守番役を任された俺の役目だ。

 

「はいどーぞ」

 

「失礼しまーす!!!!」

 

 不必要な程の元気な挨拶を引っ提げて勢い良く扉を開けたのは高坂さんだった。

 続けて入ってくるのはクラスメイトの園田さん、南さん、それと二人の一年生らしき女子生徒。明らかに見覚えのある顔ぶれ。

 

……今朝、校庭でダンスをしていたメンツですね。

 

「ってあれ?桜井君だけ?絵里ちゃ……生徒会長は?」

 

 高坂さんは拍子抜けした様子で部屋の隅から隅まで眺め回している。当然、生徒会長はおろか俺以外の役員すら見つかるはずがない。

 

「絢瀬会長なら先生との会議で職員室行ってるよ。もしかしたら遅くなるかもって言ってたなあ」

 

 俺は手の中でクルクルと赤ボールペンを回しながら答えた。

 

「今はほぼ全員出払ってるから、生徒会室に残ってるは今俺だけ」

 

「うーん、そうなんだ」

 

「どうやらタイミングが悪かったようですね。出直しますか?」

 

「話だけなら俺が聞くよ」

 

 それまで手の中で遊ばせていたボールペンを机の上に転がす。そして、椅子の背もたれにゆっくりと寄りかかった。

 

「つーか校内の規定は一応殆ど把握してるし、何か学校に申請したいことがあるのなら俺でも充分対応できるからね」

 

 実際学年が上がってからは生徒からの要請の殆どは俺が受付を行うようになってきている。来るべき二学期からの引き継ぎを念頭に置いた練習、前準備も兼ねているのだろう。

 とはいえ、大きな権限を持たされてはいないのだから俺の一存で何でも許可出来るという話じゃない。時折来る、誰の目にも明らかに滑稽無踏な要求をやんわりとお断りするのが俺に与えられた仕事内容なわけだ。

 

「創部届の提出に来ました!」

 

 俺の手元に一枚のB4サイズ用紙が置かれた。

 

「アイドル部の設立許可……お願いします!」

 

 俺は渡された紙を上から下まで目を通す。()()()()の校則に書かれていた、部の設立に必要な五人のメンバーが記載されている。

部長・高坂 穂乃果

副部長・園田 海未

南 ことり

星空 凛

小泉 花陽

 

「高坂さん達が剣道部を辞めてまで始めたいことってスクールアイドルだったんだね」

 

「あれ?あまり驚かないんだね?まだ学校の中でもあんまり宣伝してないはずなんだけど」

 

 意外といった様子で高坂さんの背後に控える南さんが首を傾げた。実際赤毛の女はダンス部や学校の催しか何かだと勘違いしていた。少なくとも校内で浸透していないのは間違いない。

 

「ふっふっふーん!実はねー。桜井君は今朝の練習見てたんだよ!ついでに彼の近くにいた可愛い女の子もグループに勧誘しておいたから!おかげで宣伝はバッチリ!」

 

「ああ、そうだったんだね」

 

 そうそう。ボンボン頭に被らされたりさ。

 

「この調子でギャラリーを集めたなら有名になるのもきっとあっという間だよね!目指せ日本一のスクールアイドルっ!」

 

 両手を握りしめ、目を燦々と輝かせながら謎のポジティブ思考を垂れ流す高坂さん。それに対し、園田さんは呆れたと言わんばかりに深いため息を吐きながら、幼馴染に釘を刺す。

 

「あのですね……昨日今日始めたばかりなのですよ。公園でのファーストライブも観客の人達から散々な評価だったのに、そんなわけないでしょう」

 

「だよねー……」

 

「そもそもダンスの練習を始めて数日でライブを開催するだなんて貴女は無謀すぎます。おかげでことり達にまで余計な恥をかかせてしまったではありませんか。あの件はもう少し反省すべきですよ」

 

「はぁーい……」

 

「良いですか?今後は勢いだけで行動を起こすばかりでなく、もっと計画性を持って……」

 

 高坂さんが意気消沈していくのと反対に、園田さんのお説教はエスカレートしていって止まることを知らない。口を挟むタイミングを見出せない俺に代わって南さんが仲裁してくれなかったら、いつまでも終わらなかったかもしれない。

 

「あのね海未ちゃん?ええっと、今は……一応人前なんだし……」

 

「あ……」

 

 園田さんは顔を赤らめて俯く。そして、その隣で力なくうなだれている高坂さんと苦笑いしている南さんが並ぶ構図がどうにも笑いを誘う。とりあえず我慢はしているけど。

 

「そのファーストライブとやらは知らないけど、実は俺、公園でダンスの練習やってる君らを偶然見ちゃったんだよ。その……園田さんが転倒するところとか」

 

「あ、あれを見ていたのですか?うう……生き恥を晒してしまいました……」

 

 日本舞踊なら得意なのですが、と消え入りそうな声でぼそぼそと呟いている。

 

「海未ちゃんは初めてのダンスだったんだから仕方ないよ!それにあれくらいの失敗で恥ずかしがってたらアイドルなんてやれないと思う!」

 

 いつの間にか復活を遂げていた高坂さんが、ますます顔を赤く染めていく園田さんに発破を掛ける。

 

「た、確かに……それはそうですが……」

 

「でも、練習を見てくれてるんだったら話は早いよね!クラスのみんなにも今まで内緒にしてたけど、これこそが私達が思いついた、この学校を廃校から守るための最高のアイデアなの!」

 

 些か不服そうな園田さんを無視して、急に本題を進める高坂さん。

 

「ええっと……ようするに……スクールアイドルを結成して高坂さん達が客寄せパンダになろうって計画なんだよね?そんでもって入学希望者を増やすって感じで」

 

「そうだよ!すごいでしょ!」

 

 すごいと言うか、すごく……獲らぬ狸の皮算用です……。いやいや、考え甘すぎだろう。ぶっちゃけ嫌な予感しかしねえ。

 

「スクールアイドルって言ったら今雑誌やテレビでも取り上げられる位に盛り上がってるらしくて!特にこの間私が見に行ったUT……」

 

「ああ、うん、わかってるから大丈夫だよそこは」

 

 キラキラと目を輝かせながら自慢気に熱弁を始めた高坂さんを俺は手のひらを向けて制止する。

 スクールアイドルくらいなら俺も知ってるよ。なんせ一応俺も思春期の男の子ですからね。

 まあ、そりゃあ同世代の連中に比べたら流行に疎い自覚はある。でも、女の子がフリフリの服着てダンスしてたら目が行く程度には典型的な男子高校生です。

 

「というわけで……改めてアイドル部の創部、よろしくお願いしまーす!」

 

「……うーん」

 

「どうしたの?難しそうな顔して唸って」

 

 ……うん、なんというかさ。正直な話、君達のアイドル活動やりたいって気持ち、個人的には応援してあげたいよ?

 今まで特に接点無かったとはいえ、同じ学校で同じ授業を受けてきたクラスメイトではあるし、オシャレな服着て流行歌に合わせてステージでダンスをしたいってのも年頃の少女なら当然の欲求だとも思う。

 

「アイドル部とやらの設立、俺は難しいと思うね」

 

「えええっ、なんでえ⁉︎」

 

「なんでって、『長い歴史と由緒正しい伝統を誇る我が校において、生徒による芸能活動への参加は校内の風紀を乱し、著しく校名を貶める非模範的行為である』という説明以外いるかな?」

 

 本当に心の底から応援してあげたい。うん。

 でも、生徒会の仕事に絡んだら話は別ってもんだ。なんせ女の子の夢よりも校内の風紀って奴を優先して守るのが俺の役目なわけだから。

 俺は目の前の少女から渡されていた創部届をそのまま当人に突き返した。

 

「えええっ⁉︎そこをなんとか……」

 

「調べたところスクールアイドルは営利目的の芸能活動ではなく、あくまで形を変えた吹奏楽部や軽音部やダンス部等の文化系部活の亜種として周知されているはずです。芸能事務所に所属して金銭契約を結ぶわけではないのですから、それは杞憂なのではないでしょうか」

 

「え?そうなの?すごいよ海未ちゃん!よく知ってるね!」

 

「何を言ってるのですか。この程度ならちょっと調べればわかります」

 

「そうなんだ!よくわからないけど、そうらしいから大丈夫!」

 

 流石園田さん。学校側から反対されるのは想定内で、いざという時の反論も予め用意しておいたのだろう。

 

「でも、だったらさ、別にアイドルに拘らなくて良いよね」

 

歌が歌いなら軽音部や合唱部が既に存在しているし、ダンスがしたいならダンス部だってある。わざわざアイドル部なんて胡散臭い活動内容を表明しているクラブを新設する必要は無い。

 

「よりにもよって君らが選んだのはスクールアイドルだよ?スクールアイドル。この学校、潰れそうとはいえ俺達のお爺ちゃんお婆ちゃんより長い時代を生きてき由緒正しい伝統校って奴だよ?そんな最近出来たばっかのUTXのまねごとなんて認められるわけないじゃないの。下手したら保護者会からクレーム来ちゃうよ」

 

 少女達の顔色が暗くなっていく。少し心が痛むが、俺の口は止まらない。

 

「それに廃校決まってからいたずらに部を増やせなくなっちゃってさ。予算の関係で設立の基準そのものも厳しくなってるんだよ。そんでもって、こんな切羽詰まった状況で先生達に予算の使い道を説明すんのは俺ら生徒会なわけ」

 

 つまり先生に『学校の予算をアイ活に使います』と説明する役目は俺や会長が負わなきゃならないわけだ。やる気のある無し関係無く、学校側からの印象悪化は避けられないだろう。教師達の機嫌を損ねたくない俺としては、そんな役回りは真っ平御免だ。

 

「そんなだから、この際だし大人しく二人共に剣道部に戻った方が良いと思うんだよね、俺としては。学校の宣伝ならそっちでもやれるでしょ?」

 

 頼むからさっさと諦めてくれるとありがたいのだけど。だが、そんな俺の願いを真っ先に粉砕したのは意外にも真面目な優等生であるはずの園田さんだった。

 

「……剣道部には戻りせん。私達の決心は固いのです」

 

 園田さんは拳を強く握りしめている。その表情に先日の迷いに満ちた感情は残っていなかった。

 

「穂乃果は……いえ、私達は本気なんです!お願いです!創部を認めていただけないでしょうか!」

 

「はあ……まさかよりによって園田さんがここまで肩入れするとはね」

 

 全く、誰だよ。園田さんにアイドル活動なんざ勧めたのは。余計な真似しやがって。

 

「私を後押ししてくれたのは桜井君、貴方だったではありませんか!貴方自身の目で私達の思いを見てもらえないのですか!」

 

 そうですよねー。俺でしたよねー。いやでもさ、知ってたらさすがに高坂さんを止める方向で諭してたと思うよ?だってあの時はまさか二人がスクールアイドルなんてもんを始めるなんて想像すらしてなかったもんだから。

 

「それは……まあケースバイケースって奴だよ。それに二人とも剣道凄いじゃない?別にアイドルなんてやらなくても、これからもそっち方面で頑張ればきっと……」

 

「……剣道じゃ駄目だったんだよ」

 

 なかなか折れない園田さんを諭そうとする俺の続きを高坂さんが遮る。

 

「アイドルじゃなきゃ駄目なんだ!私、UTXのスクールアイドルのライブを見て思ったの。確かに音ノ木坂学院は素敵な学校だけど、ここには足りない物がある!」

 

「足りない物?」

 

「それは……ドキドキとワクワク!夢と希望!」

 

 そう言って彼女は胸を抑えながら天井を仰ぎ見る。

 

「この学校に入ったらどんな楽しい高校生活が待ってるんだろう!どんな素敵な出会いが待ってるんだろう!そんな夢を受験生の子達に……ううん、受験生だけじゃない。今音ノ木坂に通ってるみんなや沢山の人達にあげたいんだ!だからお願いっ!」

 

「だから、無理なものは無理だって」

 

 可哀想ではあるけど、今までにも直談判に来た生徒を追い払った経験は一度や二度じゃない。

 

「お願いです桜井君!」

 

 ううむ、お互いに話が平行線染みてきたな。このままじゃ埒があかない。

 

「でしたら生徒会長と……」

 

「先輩は忙しいんだよ。こんな結果がわかりきってるものにわざわざ目を通す必要なんて……」

 

「穂乃果先輩をイジメるにゃ!!!」

 

「り、凛ちゃん?」

 

 突然、今の今まで高坂さん達の後ろで黙って見ていたはずの一年生の一人が俺を睨みつけながら食って掛かってきたのだ。あまりの唐突なことに高坂さん達二年生も唖然としている様子だ。

 

「だ、駄目だよ凛ちゃん……」

 

 隣の大人しそうな八の字眉毛の少女が制止しようとするが、ショートカットの一年生はそんなのお構い無しといった調子で高坂さんを押し退けながらズンズンと突き進み、俺の眼前まで迫ってきた。

 歳下の少女とは思えぬ迫力に俺は思わず面食らってしまう。

 

「は……はは?何か用ですかな?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。