「なぁ。これどうすんだっけ」
この間雪ノ下に教えこまれた『美味しい紅茶の淹れ方』とやらを実践しようとした俺は、雪ノ下に尋ねた。
「…教えたのは昨日じゃない。たったの数手順しかないのになぜ覚えられないの?そんな風だとまともに死ねないわよ。」
「いや、普通に生きていきたいんだけど。年収3000万円の優しい奥さんと慎ましく暮らしていければいいんだけど」
俺は雪ノ下の絶壁ほど慎ましい望みをいう。「貴方、それは由比ヶ浜さんがシェフになるというようなものよ。ところで最後のはどういうことかしら」
「それ絶望的、いやもはや絶命的じゃねーか」
こ、怖い。ゆきのんさんマジ怖い。後半はスルーだな。とりあえずまともにつっこめて良かった。
「ヒッキーまじサイテー!私だって料理できるようになってきてるし!っていうか絶命的ってなんだし!」
「いや、もう絶命そのものなんだが…まぁそれはおいといて、なぁ雪ノ下、マジでどうやんだったっけか?」
最近物忘れが多い。まぁ昔からなんだけど。とくにほら、か、川、川…川上の名前とかさ。
「貴方、本当に大丈夫?貴方の頭なんか、腐ってもおいしくないわよ?要するに比企谷君の存在意義は大豆以下ということなのだけれど」
雪ノ下さんとっても清々しい顔してますね。対して由比ヶ浜は、俺が最近ちょっと変だということに気づいたらしい。勘のいいやつだ。
「ヒッキー最近、物忘れ多くない?この間だって、戸部っちの名前忘れてたじゃん」
「戸部?戸部は別だろ。…戸部だし」
この間なぜか戸部に話しかけられた。その時のことを言っているのだろう。っていうか名前忘れてたのバレてたのね…。でも正直仕方ないとおもってる。だってさほら…まあ、戸部じゃん?
「ははは…まぁ、戸部っちだもんね〜」
おま、納得しちゃうのかよ。さすが戸部。
「…おっともうこんな時間か。今日ちょっと用があるから帰っていいか?」
「…比企谷くん。見栄などはらなくていいのよ。というかやめなさい。惨めだわ。」
「ヒッキー…まぁその、べ、べつに、予定ある人が偉いってわけじゃないからさ、うん」
「おいお前ら。俺を残念な人と断定すんな。あと由比ヶ浜。優しい目でこっちみんのやめろ。なんか本当に惨めになってくるだろ」
今日は小町と買い物に行く予定だ。妹とお買い物とかマジ千葉ってる。千葉最高。あ、なんか高校名っぽい。千葉最上高校略して千葉最高。多分和歌とかに出てくる。名前的に。さくらんぼとか美味かったりするかもな。ってか千葉なのに最上の名を冠するってどういうことなのん?千葉なのに東京ディズニーランドみたいなものなのかしらん。
「まあともかく俺は帰るからな。妹のために、いや、俺のために!」
「うわーヒッキー、マジきもい…」
「捕まるなら少年法の対象に入らない来年以降にしなさい。ムショ谷君」
いや、捕まらないから。っていうかガハマさん、本気でひいてませんかね。女子高生に本気でひかれるって結構辛いんですけど…。
なんだかんだと言いつつ、俺は奉仕部を後にした。
「お兄ちゃん。プレゼント何買ったの?」
「ん。ま、色々だ」
明日は家の大黒柱、つまり母さんの誕生日だ。俺が部活を早く切り上げたのも、小町とプレゼントを買いにいくためだった。
「また面倒くさがって…ところで最近部活はどうなの?」
「お前母さんかよ。」
もう母さんにもこんなこと聞かれないけど。いや、ただ放任主義なだけだから。自由な家庭なだけだから。多分。
「で、どうなの?」
「可もなく不可もなくってところだ。普通だ」
「ふーん。ま、いっか。じゃ小町寝るから」
「ああ。おやすみ」
「おやすみ〜」
俺も寝るか。戸塚数えて寝たらいい夢見れそうだな。いや眠れないか。
そんなどうでもいいことを考えているうちに、俺は寝ていた。
「…ぃちゃん。お兄ちゃん。朝だよ〜」
俺は我が愛しの妹の声で目を覚ました。
「やっと起きた〜。まったくお兄ちゃんはいつもいつも…」
今日も可愛い。身近に天使と小悪魔がいるとか俺やっぱり恵まれた子。
朝から軽口のひとつでも叩こうと口を開いた俺は、愕然とした。
俺は、
俺は、
こいつの名前が思い出せない。