リィンバウムの三つの国の一つ、帝国。
そこの帝都において一人の女性がカフェで待ち人が来るまでのお茶を楽しんでいた。
リンゴのような赤い髪、エメラルドのような瞳、黄金律の手本のような男性を誘惑する体を見せる服装。
道行く男も一度は目を向け、唾をのむほど、彼女は美しかった。幸運にも彼女の近くに座れた男性は彼女に声を掛けようとタイミングを図っていた。そんな彼女は憂いに満ちた顔でカップを覗き込んでいる。話しかけようと決意したとき、彼女の口から小声ながら、しっかりと可愛らしい声が隣の席の男性の耳に届いた。
「ふぁっきゅー、じょうそうぶ」
話しかけようとした男の時が止まった。
◆◆◆
皆さん、こんにちは。「サモンナイト3」の主人公のアティです。
えっ、主人公ってどういうことかって?それはですね、私がかつて日本人だったからです。
いやいや、頭がおかしくなったとか電波を受信したとかじゃないですよ?本当ですよ?
よくある転生というやつです。まさか自分が体験するとは思いませんでしたが……。
自分が転生したと気づいたのは幼い時に目の前で両親が殺された時です。その時の精神的衝撃で前世のことでもよみがえったのでしょうか?ともかく、こうして私はアティとして第二の人生を歩みだしたのです。新しい生活は大変でした。アティって貧民出身なので水汲みから火の管理まで、すべて人力の必要があったからです。
それでも生きていくために朝から晩まで働いていました。そんなある日、転機が訪れたのです!何と、地方巡業中の軍人の目に留まったのです!なんでも、一定以上の魔力を持つものを軍人として推薦しているとかなんとか。ともかく、これはチャンスだと思い話を受けました。軍人になればお給料は良くなりますし、原作でも主人公が言っていたように医療を学べれば食い扶持には困らないはずです。
村のみんなに成り上がってくるといって村を出たのが数年前。それからは前世でもしたことがないほど努力をしました。おかげで目的であった医療技術以外にも召喚術を使えるようにもなったのです。成績も主席と順風満帆でした。
でも、ここで私は悩んでしまいました。原作ではアティは主人公です。一番大事な人物です。ですが、今の私はアティであって、アティではありませn。
わざわざ名もなき島で無職派閥とかいう気ちがい連中とドンパチしたくはないからです。
悩みに悩んだ私は原作を無視することにしました。島の住人や流れ着いた人々には悪いのですが、自分の身が一番大事だからです。
そうと決めれば話は簡単で、軍を辞めないようにしました。アティが辞める原因の事件でもしっかりと犯人を拘束しておきましたし、ヘマをした同僚のサポートもしました。マルティーニなる人物ともエンカウントしませんでしたし、これからも軍人として頑張ろうと思った一週間後、軍から辞めさせられました。いみわからん。
なんでも、一緒に任務を受けたあまり使えない同僚はお偉いさんの息子だったそうです。それだけなら別にいいんですが、任務での失敗で経歴が傷つくのを嫌がった親御さんが失敗をこちらに擦り付けてきたそうです。
…………なんじゃ、そりゃ!!?
事情を聴かされた時は思わすそう叫んでしまいました。いくら帝国が実力主義とはいえ、こういったところは封建制なんだとつくづく実感させられました。
そうして、職を失い、原作通りのコネもない私はカフェで現実逃避をしているわけです。思い出したらまたムカついてきましたね………
「ふぁっきゅー、じょうそうぶ」
おっと、いけません。思わず声が出てしまいました。隣の男性もこちらを見て動きを止めいます。とりあえず、頭を下げて、腕を組みこれからのことを考えます。
①原作のマルティーニからの誘いはない。仮にあってもお断りします。なぜって?面倒ごとに関わりたくないからです。
②アズリアとそれほど仲は良くない。いや、最終的に主席は私でしたが実際は拮抗していましたからね。しかも、アズリアは別のもう一人の優秀な奴と切磋琢磨していましたから。こちらではなくそいつと仲良くなっていましたからね。…………寂しくありませんよ?
③田舎に帰る。これはいい案かもしれません。田舎とはいかずとも、実家の近くの大きな町に病院でも開くのはどうでしょうか?危険もないですし、きちんと需要があるからくいっぱぐれることはないでしょうし。
だんだん、③の案が魅力的に思えてきましたね。いいですねこの案を採用することにしましょう。
そこまで考えて組んでいた腕を解き(なぜか、周りの男性が落胆の声を出しています。近くの女性にたたかれています)残っていた紅茶を飲み干しました。後は、あいつが来るのを待つだけです。
そこまで考えると、店のドアが開く音が聞こえました。そちらの方に目を向けると赤い髪の男性が立っていました。寒くもないのにマフラーを巻いており、独特なベルトをしています。その顔は男らしさと柔和な様子が合わさっています。
つまり、イケメンです。
「御免、アティまったか?」
そう声をかけながら私の前にその男性は座り、注文をしています。
「はい、紅茶一杯分は待ちましたよ?レックス」
そう返すとその顔立ちを困った風にしています。やはり、イケメンです。
彼の名前はレックス。「サモンナイト3」の男主人公でアティのたった一人の肉親で、主人公である。彼がいたから私は主人公の役割を降りようと思ったのである。
えっ?二人も主人公ユニットがいるのはおかしい?いいんですよ、私は主人公(笑)なんですから。私に比べてレックスは本当の主人公です。ゲーム通りの性格でルックスです。騙されないか心配です。
私が軍を辞めさせられた任務で実は彼も任務を遂行していたのです。彼は列車の後ろ、私は列車の前で護衛をしていたのです。私の方は前述通りしっかりと犯人を逃がしませんでしたが、レックスの方は原作通り犯人を逃がしていしまい、原作通りの結果、軍を自主的にやめたそうです。くそったれ。
「アティ?顔が怖いんだけど?」
そう指摘されて咳払いします。いけない、いけない。中身が残念でもがわはアティです。一級品です。貶めるようなことはしてはいけません。
「それで、レックス。あなたの方はこれからどうするんですか?」
仕切りなおして尋ねるとレックスは嬉しそうな顔つきで報告してくる。犬みたい…
「それが、列車に乗っていたマルティーニさんって言う人に家庭教師をしないかって誘われたんだ」
ほう、やはり主人公のようですね。これで安心してレックスに任せそうです。
「そうですか。それでは家庭教師の仕事をがんばってくださいね?」
「えっ」
「えっ」
応援の言葉をかけるとハトが豆鉄砲を食らったような声をかえされ、思わず同じ言葉を返してしまいました。なにか、嫌な予感がします。
「いや、アティも仕事がないだろうから話しちゃったんだけど」
「はっ?」
疑問符を返すと「だめだったの?」逆に疑問そうな顔で返されました。
そんなのダメに決まっているじゃないですか………。
「逆に聞きますが、どうして私が家庭教師をすると思ったんですか?レックスの人に確認を取らない癖は悪いと思いますよ?」
ここがカフェで公衆の面前ということもあって叫ぶことはしませんでしたが、今の私の顔は怒りの形相だと思います。
それなのに、レックスはへらへらと笑っています。
「レックス?人が怒っているのに笑っているのはどうかとおもいますよ?」
「ごめん、ごめん。でもそんなに怖くなかったからさ、つい」
なんですと!?人が怒るのを我慢していたら付け上がりおってぇ…。
さすがに慌てたのか頭を下げて「ごめん、本当にごめん!」と謝ってきます。むぅ。
「レックス、顔をあげなさい」なるべく優しそうな声でレックスに促します。
恐る恐る顔を上げたレックスの頭にチョップを食らわせます。ポコッ☆
「アイタっ!?」
軽く入れた頭に手で押さえながら見上げてきます。まったく、
「今回はこれで許してあげます。次やったらゲンコツですからね!」
そう伝えると、私は今後の予定を組みなおします。別に船に乗ったからといって=島に行くわけではありません。船から落ちないようにすれば島に行くことはないでしょう。生徒ならレックスが真っ先にむかうでしょうし……。
こうして、私は今後の予定を組みなおしていました。前の席で私が一緒に行くとわかったのかニコニコ笑っているレックスにはケーキの一つでもおごってもらいましょう。
◇◇◇
目の前でなにか考えているアティを見ながら、俺は昔のことを思い出していた。
オレが記憶の中で最初に覚えているのは“赤”だった。
それは火の色だったし、俺とアティの髪の色であったし、お父さんとお母さんの血の色であった。数年前、俺たちの両親は俺たちの前で殺された。どうして殺されたのかはわかっていない。ただ、彼らが行商人だったお父さんとお母さんを殺して荷物を持って行ったことは覚えている。
俺とアティは荷馬車の下に隠れていたから助かった。お母さんが盗賊に見つからないようにそこに隠してくれた。俺は何もできなかった。普段、双子でお兄ちゃんだと言っているのに、アティを抱きかかえて黙っているしかできなかった。
そのご、俺たちは近くの村に引き取られた。でも、そこでの生活は決して快適とは言えなかった。村自体が貧しかったのもあるが、俺たちみたいに村の外から来たものは異物と見られたからだ。俺は悲しかった。村ではお父さんやお母さんからの愛情がなかった。俺はつらかった。今までしたことがない作業は難しく、少しでも遅れると叱られたからだ。
それでもがんばるしかなかった。だって、俺はお兄ちゃんだったから。
なのに、アティは俺よりも仕事ができた。毎日笑顔で言われたことをこなしていった。二回言われたことをすれば失敗はしなかった。沢山の仕事を言いつけられても文句ひとつ言わずこなしていた。
俺はそんなアティに劣等感を抱いていた。周りの人はみんな俺のことを鬱陶しいと思っていると思っていた。しかも、夜にはお父さんとお母さんが殺された夢を見ていたせいで眠れずにいた。でも、アティにはそんなそぶりが見えなかった。
だからだろう、ある日俺はアティに酷いことを言ってしまった。
『なんでアティはそんな毎日楽しそうなんだよ!お父さんとお母さんのことが悲しくないのかよ!』
アティに村での生活の不満を叩き付けるように俺はアティに酷い言葉を吐いた。まるで毒を吐くみたいに。
『言いたいことはそれだけ?』
アティは黙って俺が言い終わるのを静かに待っていた。でも、その眼は強くその心を主張していた。
『村の生活が楽しそう?つらいわよ!お父さんとお母さんのことが悲しくないのかって?悲しいわよ!それでも、私たちは生きているの!生き続けなくちゃいけないの!だって、お父さんとお母さんが生きろっていったんだから!』
その言葉を聞いてふと気が付いた。アティは村に来てから一度も弱音を吐いていない。俺が文句や弱音がはいても慰めや応援はしていたのに。
俺はなんだか自分が恥かしいと思って俯いてしまった。アティに謝ろうとすら思えなかった。
そんな、俯いている俺をアティは抱きかかえ、慰めてくれた
『ねぇ、レックス?私たちはたった二人の家族なんだからもっと頼ってくれてもいいんだよ?お母さんとお父さんの代わりにはなれないけど、私はあなたのたった一人の家族なんだから』
そんなアティに俺はお母さんを思い出して泣いてしまった。
『レックス、私は傍にいるからね?』
眠りに落ちる前、その言葉が聞こえてきてなぜだかとても安心した。
翌日から俺は以前より頑張るようになった。そうして初めて周りのことを見ることができるようになった。両親の死に捕らわれていた時にはわからなかったが、俺たちのことを心配してくれる人たちもいた。アティが頑張っているのは俺のためでもあった。アティや心配してくれる数少ない人のためにがむしゃら頑張った。そして、次第に認められるようになった。俺の世界は大きく広がっていった。
そして、俺の世界を広げてくれた大事な家族は今目の前で注文したケーキをおいしそうに頬張っている。その顔は幸せそうで見ているこちらも思わず笑ってしまうほどだった。
「?レックス、どうかしましたか?」
見ていることに気づいたアティが不思議そうにこちらを見返してくる。
「いや、昔と比べて変わったなとおもったからさ」
そう返すと意味を考えているのか首をひねり、フォークを皿におき、口を開く。
「確かにいろいろ変わりましたけど、私は傍にいますよ?」
――――……。本当にアティは俺の欲しい言葉を言ってくれる。
「ねぇ、アティ?」
ケーキを口に運んだフォークを口に含んだまま「まだなにか?」といいそうな顔を向けてくる。それに小さく笑いながら俺の想いを告げる。
「これからもいっしょだよ?」
そう伝えると少し睨んだ後、ため息をこぼしながら返事してくれた。
「仕方ありませんね。兄弟ですからね。レックス一人だと不安ですし落ち着くまではアドバイスぐらいはしますよ」
あぁ、アティ。俺のたった一人の家族。俺がどんなに思っているのかわからないだろう。それでもいい。この思いはオレだけのものだから。だからね?
――――ずっと一緒だよ?姉さん
そう胸の内で想いを告げた