赤鷹の弟   作:羽付

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久しぶりに会った親戚のおじさんの心象

 季節外れのインフルエンザでダウンしていた間に、様々なことが起きていたらしい。

 桂を逮捕しようとホテルIKEDAYAに乗り込んだり、局長がストーカーになっていたり、局長副長揃って銀髪の男に負けたり。

 局長が女にフラれた上に決闘で卑怯な手を使われて負けたらしい―――という噂が組中を駆け回っていたわけだが、まあ後半は置いておいて前半はいつもの近藤さんということで噂は終息へ向かっていった。

 

「え、マジで土方さんも負けたの?」

「それはもう鮮やかな清々しいまでの負けっぷりでさァ」

 

 寝込んでいた間に溜まっていた事務仕事と格闘していると、人の悪い笑みを浮かべた沖田が来室して嬉々として告げた。

 あの鬼の副長が一対一の決闘で負けたのである。しかし斬られたというわけではなく、侍にとって命とも言っていい刀を折られた。

 まぎれもない完敗だ。

 

「土方さんに勝つなんて、相手はどん超人だろうな」

「あの腐れマヨラー程度なら俺にも倒せますぜィ」

「何張り合ってんの」

 

 沖田の土方嫌いも相変わらずのようだ。

 

「遠目でしか見てねえですけど、江戸じゃあ珍しい銀髪の天パ野郎でやした」

「銀髪、か」

「かぶき町で万事屋やってる旦那―――安藤さん、もしかして知り合いとか?」

「いいや、そいつは珍しいなと思っただけだ」

 

 そろそろ昼時だ。いつもは屯所内にある食堂で済ませることが多い安藤だったが、今日は甘いものが食べたい気分だ。しかし食堂には甘味が充実していない。そうと決まれば外食だ。

 財布と携帯をポケットに突っ込むと、刀と愛銃を掴んで立ち上がった。

 

「珍しいですねぇ、安藤さんが外食なんて」

「頭使い過ぎたんだよ。糖分摂取しないと午後の活動に支障をきたす」

「そいつはいいや。土方さんの仕事が増える」

「はいはい。お前も適当なところで昼休み入れよ」

 

 既に休憩モードといってもいい状態だが。

 

「万事屋、ねえ……」

 

 安藤悠太は真選組副長助勤である。

 副長助勤とは局長、副長に次ぐ三番目の役職で一体の小隊長を任されるのが通常であるが、安藤はどの隊の長もやっていない。ただの副長直属の部下だ。

 土方にまでは回す必要のない仕事をこなしているため、多忙な日々を過ごしていることが多い彼だが、逆に隊に縛られないからこそある程度自由の利く身であった。

 幼い頃一家の大黒柱と嫡男を亡くし、母の生家がある武州に引っ越してき以来、近藤達とは懇意にしている。彼等が江戸で真選組を結成する際には喜んで参加を決めた。

 刀も差しているが、専ら使う獲物は銃だ。遠距離からの狙撃には誰にも負けない自信があった。

 

 

 

 

 その日坂田銀時の姿は馴染みの定食屋にあった。

 基本金欠に喘いでいる銀時だが、先日の屋根修理の収入のおかげで宇治銀時丼にありつけるというものだ。

 その仕事の最中瞳孔開いたポリ公に喧嘩吹っかけられたりと、散々な目には遭ったが。

 

「はあ、やっぱ甘いもん疲れた体にに染みるぜ」

 

 今日は午前中パチンコしかしていないが。されどパチンコ、極限の玉のやりとりがそこにはある。

 ここに新八や神楽がいればこのマダオ!ときついツッコミをいれたこと間違いないが、生憎彼等は妙と出かけていた。

 

「失礼するよ、旦那」

 

 不意に隣の席に若い男が腰かけた。

 その黒い制服には既視感があり、銀時はうげえと顔を顰めた。

 チンピラ警察24時だ。先日そこの副長に喧嘩を売られて返り討ちにした銀時にお礼参りに来たのかもしれない。

 せめてこの宇治銀時丼を食べ終わってからにしてくれ。掻きこみながら祈る。

 

「相変わらずゲテモノ食ってんなあ」

 

 さらり。

 深紅の髪が視界に滑り込んだ。

 口の端に小豆をつけながら声の方を振り向く。

 金色の瞳が懐かしい笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 

「久しぶり。銀兄」

「お前、悠太か」

「うん。おかげさまでピンピンしてるよ」

 

 銀時の記憶の中では兄貴の背中に隠れてばかりの人見知り小僧だったが、端正な青年になっていた。

 どことなく彼の兄に面差しが似ている。

 

「真選組入ってんだな」

 

 安藤の制服を見て銀時が笑った。

 彼等の故郷では圧倒的に攘夷思想を抱く者が多かった。幕府の犬など持っての外だ。

 

「あの後母さんの故郷に引っ越してさ。そこで近藤さん達と知り合ったんだ。散々世話になったからせめてもの恩返しに。銀兄は万事屋やってんだって?」

「おうよ。従業員もいる会社の社長だ」

「儲かるのか?それ」

「まあボチボチだ」

 

 弟のような存在の前では見栄を張りたくなるときもあるのだ。

 いつの間に定食とケーキセットを頼んでいたのか、安藤の前にどんどん並べられていく。三人前は軽くありそうなその量に、銀時も顔を引き攣らせた。宇治銀時丼をゲテモノ呼ばわりされる筋合いはない。

 細い身体のどこに入るのか、凄まじいまでの箸の動きで吸い込まれていく。

 あっという間に平らげると、丁寧に手を合わせて「御馳走様」と呟いた。

 

「元気なようでよかった」

「お前のために言っておくけど、銀兄って呼び方は」

 

 ただでさえ池田屋での件があって銀時は土方にやや怪しまれている。

 親しい仲を連想させる呼び方は控えた方がいい。聞くところによると真選組は規律が厳しいことで有名だ。難癖つけられて切腹なんて事態になりかねない。

 

「わかってるよ。なんて呼ばれてんの?」

「銀さん。かぶき町の大抵の奴等はそう呼ぶ」

「オッケー、銀さんね」

 

 代金を置くと、ひらひらと手を振ってその場を後にする。

 そして数歩進んだところで振り返った。

 

(変わったな、あの人)

 

 




オリ主元ネタ:安藤早太郎 副長助勤
池田屋事件で重傷を負い、間もなくして亡くなった隊士
弓道の名手
年齢や出身、生い立ち等々完全な捏造です
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