魔法少女リリカルなのはvivid~四人目の王~ 作:ビスマルク
俺の記憶が戻ったのは丁度“俺”が二歳になったころだった。
意識が生まれてひどく驚いたことがある。
見た景色全て、何もかもが変わってしまっていたこと
俺やクラウス達がやってきたことの痕跡が残っていなかった世界。
それがショックで、これは何かの間違いではないかと思ったりもした。
それでも、いつまでたっても何も変わらない。だからこれは夢ではなく、幻ではなく現実なのだと分かった。
そう認識してから俺が一番初めにやり始めたのは現代の事と、今でいう古代ベルカ時代の事を調べることだった。
何かないかと毎日探した。
“夜天の書”について。
『覇王』について。
俺の大切なものについて片っ端から調べた。
それで分かったのはオリヴィエが『聖王のゆりかご』を使って戦争を終わらしたこと。
俺の名前は残っていないがそれはどうでもよかった。
ただ、クラウスのことを想って涙を流した。
いつもあいつは失ってばかりだ。
それをあいつは自分の力不足だというのだろう。
あいつは真面目だから。
そんなあいつの前で、俺は死んだ。
そして今度はオリヴィエをも失った。
止めようと思っても止められなかったのだろう。
あいつの悲しみが本からあふれて来るようで、痛々しくて、俺は先に死んだ自分を恨んだ。
“夜天の書”についてはどこにもなく、無限書庫の人間に聞いても誰も答えてくれなかった。
その時ユーノさんが居たかどうかは思い出せない。
居たとしてもロストロギアに間違いなく認定されているであろうものの情報を子供に教えてくれるわけがないと気が付いたのはそれから何日も経った後だった。
それからは一年程何も考えずに生きていた。
俺が生きたいと願ったのは『あの家族』と『親友』と居たかったからだ。
だから今の家族を認めることは出来なかった。
それからなにがあったか詳しいことは思い出せないが大変なことが起こった。
それが解決してから俺は今の“生”を受け入れることが出来た。
今思えばあれは早すぎる反抗期というものだろうか。
だけど、生を認められたかったからと言って何もかもを変えることは出来なかった。
いや、それが当たり前なのだろう。
俺は“
だから、その時決めた。
何もかもが変わってしまった世の中で俺だけは変わらないと。
クラウス達と一緒に居た時と同じように『家族』を守って、『友』を大切にして生きていこうと。
誰もがあいつらのことを忘れてしまったというのなら俺だけは覚えていよう。
あの時と変わらない、あの時代を生きたように生きよう。
せめて俺が、あの優しい人たちの生きた証になれるように。
全てが変わっていく世界の中で、俺は変わることを拒絶した。
***
「はいレオン君!」
不審者に襲われ、懐かしい顔にあった翌日。
昨日の宣言通りミイカが弁当を作って来てくれた。
しかもアインハルトとクインの分と合わせて四人分を作って来てくれた。
中身は民族料理の様で見たことなかったが独特の味を出していて美味かった。恐らくスクライア一族の伝統料理かその発展系なのだろう。保存性もあり旅のお供に丁度よさそうだ。
「おいしいですね」
「少し味が濃い部分と薄い部分と別れてる部分があるけど十分おいしいと思うよ」
「あはは、褒められると嬉しくなっちゃうね。お爺ちゃん達あまりほめてくれないもんだから。それでどうかなレオン君?」
「…………」
「えっと……」
「ああ、ごめん。レオンって初めての物を食べる時って無口になるんだよ。まぁ美味しくなかったらすぐに食べるのを辞めるから。それに失礼名前をすれば」
「レオンさん」
「あだだだだだだだだだ!!いきなり関節技をかけるのはやめろアインハルトぉおおおおいだだだだだ!!」
弁当を食ってるといきなりアインハルトが誰も気にしないような綺麗な動きで腕をとり関節技をかけてきた。
しかもご丁寧に弁当がこぼれたりしないように体重のかけ方に気を付けている。
つまり弁当をこぼすという心配をする必要が無いと言う事だ。
決して弁当をこぼして言い訳ではないがこの状態を何とかして欲しい。
「なんかレオンがすればアインハルトさんがお仕置きというシステム、なかなかいいと思わない?」
「アイちゃんたち、仲良いね……」
駄目だ。
クインは完全に見物してるしミイカはこんな状況が珍しいのか思考が追い付いてない。
こうなったら俺の話術で何とかするしかないだろう。
(無理だと思いますけどねぇ。マスターって口下手だし、痛みで何言ってるのかもわからない状態だし)
シルフィが何か失礼なことを言ってる気がするが気にしないで早く話を進めよう!そろそろ腕の感覚がなくなって来てるんだ!
「ストップ!ストーーーーーーーーっプ!!当たってる!慎ましい胸が当たってるから!!」
「!!??!?」
『うわぁ……。やっちゃいましたよこのアホ』
アインハルトの拘束が解けるがそこで安心するなどという愚かな真似はせずにすぐさまその場を離れる。
これはもう一種の条件反射のようなものだ。いつ追撃が来るか分からないからな。
しかしいつまで待っても追い打ちは来ない。
よく見ればアインハルトは真っ赤になって俯いてる。
頭からも湯気が出てるようだ。
何だ?俺がなんか言ったのか?
痛みで頭が回ってなくて何言ったのか覚えてないんだが。
とりあえずなんか言ってフォローしておいた方がいいよな。
「取り込み中のところ悪いが、自分もここで昼食をとっていいだろうか?」
騒いでるといつの間にか屋上のドアを開けた茶色い髪をした少年が立っていた。
少しの着崩れもないように規則正しく制服を着こなしているところからこの少年が几帳面だと言う事が分かる。
その手には弁当を入れているであろう袋を持っていた。
そして一番の特徴。
歩くときに音が出ないように歩いている。
多分、結構強い。
「名前は?」
「なに?」
「名前は、って聞いてるんだ。ああ、俺の名前はレオン・G・トエーラだ」
「そういうことか。自分の名前はアッシュ・ドラグラー。中等部一年のB組だ」
「俺たちは全員A組だ」
「一緒に昼食とはな。仲がいいじゃないか」
「まぁな、これでも結構昔からつるんでるからな。若干一名この間からって条件が付くが」
「ひどいよレオン君!」
「ふっ、冗談を言い合えるのも仲がいいという証拠だ。ところで……」
アッシュが言葉途中にあらぬ方向を見る。
それにつられ、全員が同じ方向を見る。
そこにはいまだに真っ赤になって意識が回復していないアインハルトが居た。
「彼女は一体どうしたんだ?」
「ちょっとレオンがデリカシーのない事を言ってね。ああ、ボクはクイント・フェン・ヴォテックス、クインって呼んでくれればいいよ」
「レオン君はもう少し言動に気を付けた方がいいと思うよ……。あ、わたしはミイカ・スクライアと言います」
クインもミイカも二人してひどい事言いやがる。
確かに昔もデリカシーないってオリヴィエとかクラウスとかエレミアとかイタズラ魔女とか他にも色んな奴に言われてたが……、あれ?俺の扱いって今も昔も結構悪い?
いや、世の中もっと悪い奴もいるんだ。大丈夫、俺はまだましな方だ。
空気も読めず、間も悪い奴だって世の中きっといるはずだ。
「なんだか考え込んでしまったようだが……」
「大丈夫、いつものことだから」
「クイン君って結構レオン君に辛辣だよね」
「そうかな?あんまり意識してなかったけど」
「うんうん、仲が良いゆえの距離感だね。とっても羨ましいよ」
「……そういえばクラウスも時々苦笑いしてたような……シグナムとあいつの邪魔すんなってヴィータに殴られたことも何回かあったな……、あれ?俺ってもしかして空気も読めてない!?」
『今更気づいたんですか?』
自分のデバイスにまでKY認定された!
俺ってそこまでアレな奴だったのか……。
「なんかショックだ……」
「なんか気付いたら勝手に考え込んで勝手にへこんでるし」
そうか、俺って前世からあれだったのか……。
そう考えるとエレミアの冷たい目とかも納得できる。
いや待てよ。アイツと俺って性格的にあんまり合わなかったこともあって元々仲良くなかったんじゃね?
そう考えるとアイツの冷たい目って元から何じゃ……。
「やはり俺の味方はアインハルトしかいなかった」
「君は一体何を言ってるんだ?」
「それより早くアイちゃん起こした方がいいと思うよ?」
おっと、それもそうだな。
いつまでもこんなことしてたら弁当を食う時間がなくなっちまう。
「……今は小さいかもしれないけど戦闘体形の時は大きかったし将来性はあるはず……。……でもあれは未来予測でしかないから将来違うことになってもおかしくない……。…………そもそもレオンさんの趣味は一体どっちなのか……」
「おーい、意味不明なこと言ってないで早く起きろー。飯が冷めちまうぞー」
「ひゃうっ!?」
このごろアインハルトがおかしくなってきてる気がする。
はっ!これもまさか俺の影響なのか!?
アインハルトのキャラにまで影響を与えるとは……俺って罪な男。
『(またこのマスターは馬鹿なことを考えてますね)アインハルトさんにデリカシーない事を言ったことの言い訳するなら今のうちにした方がいいですよ』
言い訳つってもなぁ。
自分が何言ったかすら覚えてない状況で何と言えと?
「とりあえず謝るところから始めるのはどうだ」
「やっぱりそれからだよなぁ。やっぱ女って分かりにくいな」
「ああ。自分も剣術を習っているがそこの後輩が時々わからなくなる時がある」
「女って複雑なんだなぁ」
(((いや、それは貴方【君】たちが単純過ぎるだけだから))))
なんか今失礼なこと言われた気が……。
アッシュもなんかあたり見渡してるし。
それにしてもこいつとは仲良くなれそうだな。趣味も似てそうだし。
「あの、レオンさん……」
「ん?あれ、もういいのかアインハルト」
「はい、ご迷惑をおかけしました」
「いや別に迷惑でもなんでもないけど」
「ですけど……」
「そんなに言うんだったら今日特訓付き合ってくれよ。もう少しでインターミドルだからな。そろそろ調整も最終段階にしたい」
「わたしにも得があると思いますけど……」
「いいんだよ。この頃一緒に練習してなかったしな。どれくらい強くなったか見てみたいし」
それにその方がフェアだし。
というか俺の方がデリカシーない事言ったのにいつのまにかアインハルトが謝ってるし。
本当に女って不思議、というかアインハルトが不思議なのか?
「レオンたちはインターミドルに出場するのか?」
「ああ、そのつもりだが?」
「そうか。実を言うと自分も出場することになっている」
「へぇ~~~」
「そろそろ周りの強さを知っておいた方がいいという師の言いつけでな。自分も気になっていたから渡りに船ということで参加することになった」
「ふぅーん、その師匠っていうのは中々いいこと言うな」
「ああ、自分の自慢の師だ」
「強いのか?」
「少なくても自分が見てきた中で師に敵うものはそうはいなかったな」
少し気になった。
目の前のこいつは少なくても過大評価する奴ではないだろう。
そんなこの少年にそこまで言わせる師の存在に。
だから聞いてみた。
「師匠の名前は?」
「八神シグナムだ」
頭の中が真っ白になった。
メノマエノコイツハイマナントイッタ?
シグナム。
間違いなくその名前を言った。
八神というのは読み方の漢字からして地球の名字だろう。
そしておそらく現在の“夜天の書”の所有者がそこ出身なのだろう。
でなければ名前と名字のアンバランスさに説明がつかない。
たとえそんなアンバランスな名前を持った人間が居たとして偶然魔法の存在を知って偶然このミッドチルダに来た?
そんな偶然があるわけがない。
「ははは…………」
まさかこんな所でシグナムの弟子と合うなんて、運命っていうものがあるとすればそいつは面白いことが大好きなんだな。
今回はその性質に感謝してやる。
「決めた。お前は俺が倒す」
「なに?」
「シグナムの弟子なら手加減は必要ないよなぁ……」
「師の事を知ってるのか?」
「そいつを今聞くのは野暮ってもんだぜ?」
「なら勝てば答えてくれるといことか?」
「別に戦った後なら答えてやるよ。さすがに戦えって言った理由を相手に話さないっていうのは不条理だからな。あとこの勝負を受けるかどうかはお前が決めていいぜ」
「舐めるな」
間髪入れずにそう言う。
その姿はまさにシグナムと瓜二つ。
「師の名前を言った瞬間に挑まれた勝負。逃げるのは自分と師の誇りにかけて許さない」
なるほど、確かにアイツが言ってた通りこいつといれば楽しいだろうな。
シグナム達が今楽しそうに過ごしているっていうのも納得できる。
「レオン。自分と戦う前に負けるのは許さんぞ」
「お前も俺と戦う前に負けるのは勘弁してくれよ」
「ぬかせ」
インターミドルも、その中身も楽しみになってきた。
リインフォース、確かにこいつは手加減を良しとしない人間だ。
だから俺も本気でやるからな。
***
「お前は、変わらないな……」
「主レオンも壮健の様で何よりです」
その言い方に思わず苦笑する。
堅苦しい性格なのは今も昔も同じと言う事だろうか。
あの頃と変わっていないその姿は、しかしどこかが変わっているのだろう。
具体的に言うとその雰囲気とかが。
「というか“主”は無いだろ、主は。お前には今の主が居るんだろ?」
「はい、主はやてはとても素晴らしいお方です」
「だったら」
俺が続けようとするとそいつは手で制して言葉を遮った。
「主レオンも、それに負けず劣らず素晴らしいですよ」
やっぱりこいつは変わった。
こんなこと言える奴ではなかったんだがな。
それでも、これは“良い”変化なのだろう。
だからこそ俺は後ろめたくなってしまう。
「俺が素晴らしいなんて嘘でもやめとけ」
「ですが」
「ですがも何もねぇよ。シグナム達は“あれ”について何も思い出してないし、お前も何も言ってないんだろ?」
「はい」
「ならいい。お前が生きてるってことはあいつ等も生きてる、それが分かっただけでも今は十分だ。会うのはまた今度にしとく」
「分かりました」
「ありがとな」
これでいい。
俺にはまだヴォルケンリッターに会う勇気はない。
あいつらは知らないのだろうが、俺のせいで長年苦しめたのだから。
「そういえば聞いてなかったことがあったんだよ」
「?なんですか」
「お前、名前は?決めてもらってんだろ?」
驚いた顔をした後すぐに笑う。
こいつのこういう表情は見たことが無いから新鮮だ。
こいつをこれだけ変えられる。それだけ今の生活が幸せと言う事だろう。
「リインフォース。リインフォース・アインスです」
「そっか。俺もこれからそう呼んでいいか?」
「もちろんですよ。主レオン」
「……ありがとう、リインフォース」
「いえ、いいんですよ。主」
本当に楽しそうに話す。
本来俺を恨んでもいい、いや恨んでいなければおかしい立場だというのに。
それだけのことを俺はやったのに、それを覚えていてなおこうして接してくることが出来るのは正直予想していなかった。
それだけの強さを得られたことを、少し羨ましく思う。
「“闇の書”から“夜天の書”に戻すことが出来たのは高町さん達とプレシアのおかげか」
「はい、彼女たちが居なかったら今も私は世界を滅ぼす呪いの書だったでしょう」
「……その時起こした罪のせいで、お前等が裁かれたのか」
「それでも、今の皆の顔に浮かんでいるのは主レオンと共にあった時と同じ笑顔、皆も主の事を知れば会いたくなるでしょう。皆は幸せそうです」
「それでも、今幸せだとしても。裁かれるべきは俺であってお前たちじゃあるまいし」
「あの時はあれしか方法がなかった。それに主レオンがやったことは“素”でしかありません」
「それでも、罪悪感は感じるさ」
「今の将達は本当に幸せそうです。弟子も出来て今度インターミドルという大会に出るようです」
「俺も出るよ、その大会」
「それでいいのですよ、主。主も昔にとらわれないでください」
「それが無理なのはお前が一番知ってるだろ」
過去は変わらない。
変えてはいけないし、そんなことを願うのも間違っている。
しかし、それでも願ってしまう事がある。
過去に戻れるのならば俺は……。
「もし戦う事になっても手加減しないからな」
考えた事を打ち切って話す。
いくら何でも、そんなことは起こってはいけない。
「その方が将も、その弟子も喜ぶと思います」
リインフォースは俺の考えていたことに気付いていたようだが結局何も言うことなく、最後まで俺は気遣われたままだった。
そこからは話も無しに別れた。
リインフォースはあの不審者について調べると言っていた。なにか分かったら教えてくれるとも。
俺は一人歩いていた。
シルフィは空気を読んでリインフォースとの話の前からなにも離さない。
こういう所は素直にありがたいと思う。
自分がやったことに吐き気がする。
間違いだらけの前世で一番の間違い。
家族と呼んだ存在を苦しめる結果しか生まなかったその原因。
忘れるわけにはいかない。
『夜天の書』を初めて改変して『闇の書』を生み出すきっかけを生んだという俺の罪。
どんな顔をしてあいつ等に会えばいいのか分からない。
やっぱり、俺はどこまでいっても、馬鹿なんだよ。
いつも迷って、いつも一人じゃ何もできなくて。
だから頼って、だから頼ってほしくって
いつまでも一緒に居たくて、それが無理だと分かってて。
全てを失くして、また手に入れて。
何も分からなくて、ただ強くなるという約束しか俺にはなくて。
「俺はやっぱり弱いな。なぁ、クラウス……」
夜の街は何も答えてくれなかった。
大変遅くなってしまいました!
こうなったのも全ては就職難がいけないんです!
こんな所で愚痴ってるのならほかでやるべきことがあるだろとか言う突込みはやめてください、人は時に現実逃避しなきゃ生きていけないんです。
まぁ戯言はこれくらいにして。
次回更新は必ず近くにします!
今度こそ本当です!
それではまた次回!