再生と追憶の幻想郷   作:錫箱

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短編として書いた「まほろばへの風穴」を若干改訂して序文として連結しました。本編とはほとんど何の関係もない前書きのようなものです




序・理想郷への洞穴

 

 

 

 この幻想郷というところはまったく付いている名前のとおりにあるがままの土地で、こむつかしい理屈やつごうといったものはすべて、そこに住むものたちを煩わせることはありません。土地そのものがこういう気だてなものですから、住んでいる人々もおおらかです。ことばはいつだって人々の心のそばにピタリと寄り添って、裏切るということもなく、全部が全部、あるがままの姿でほんとうになってしまいます。嘘をつけばどろぼうのはじまりが近づきますし、来る年の話をすれば鬼が大きな声で笑います。枯れたすすきの束がゆうれいになってしまうこともあれば、かべや障子に付いた神様が聞き耳を立てていることだってあります。

 

 ほかではとうに死に絶えてしまった「言い伝え」や「口伝」が、かくれ場所を探してふらふら迷いこんでくることもしょっちゅうです。そういったものは、ある日とつぜんに、冷たいみずうみのほとりに降っている紅いきりの中や、十五夜の竹林の奥ふかくや、はたまた地面の底の紅玉(ルビー)いろに焼けた高炉、といったところから、しんきろうのように……ゆらり……とたちのぼってくるのです。はじめのうちそれらは人々をさわがせますが、忘れたころになって見てみると、まるではじめからそこにいたかのようなすました顔をして佇っていたりもします。

 

 このかくれ里で起こりうる突拍子もないような出来ごとのなかにはとうぜん、山あいからぬっと首を出すでいだらぼっちや、赤、緑、青に明滅する不思議なUndefined Fantastic Objectのたぐいもあるでしょう。けれどもそれらかげろうのようなものたちを外から見たとき、彼らはけして現実のものとはいえないのです。ただタテ、ヨコ、高さと時間とでできた第四次元宇宙の片隅、ふつうではとうてい見つけることのできないようなスキマにだけ、ひっそりと息づいていることだけはたしかです。

 

 しかし、この土地にすむものたちからすると、目の前の不可思議な出来ごとがはたしてほんとうか、そうでないかなどは大したことではないのです。彼らにしてみれば、どんなにおかしなことが起こったとしても、それは春の次に夏が、夏の次に秋が、そして冬が来るのとおんなじことで、しごく自然な出来ごとにすぎないのです。

 

 それがほんとうであろうと、そうでなかろうと、彼らの目の前には空、山、森、川、花、鳥などが、もののけやゆうれい、人間と同じように並び立っているだけです。

 (一種の超空間ともいえましょう)

 

 とはいえ、

 (たとえ小さな箱庭の中だとしても)

 この場所を流れるゆるやかな時間は、

 (他の時間流と同じように)

 とてもかんたんといえるものではなく、たとえば一つの投石や、一ぴきのさかななどが流れに現れただけでも、目覚ましい変化を示すことがあり得ます。それによってものごとはますます複雑になってゆきますが、それを楽しむのもまた、ひとつの眺め方といえます。

 

 我々は一柱の外つ神として、あるいは夢みる少年少女の眼として、極小の虫めがねや雲外鏡、少女アリスの落下した兎穴を通し、さまざまな実験や観察をこころみるよりほかにありません。我々が心にいだくまほろばの情景、それらは畢境おのおのの心象の中でのみ有効なものですから、他のだれのものでもないのです。

 

 この文字と文字との間にぽっかりと空いた覗き穴からXanadu(ザナドウ)が見えるかどうかは、わたくしにもはっきりとはわかりかねます。しかし、たとえここになくとも、幻想郷への入り口はそこかしこに開いておりますから、手始めにこのぶかっこうな節穴をのぞいてみるのも、悪くはないように自分では思います。

 

 

 

 







年内を目標に、本編の次話更新を目指します
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