真剣で一振りに恋しなさい!   作:火消の砂

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~交流戦は突然に~

「おう、キャップ何してる」

 

「あ、総一お前どこ行ってた!今すげえ盛り上がってるぞ!」

 

 河原まで降りてきた総一郎はそこで仁王立ちしているキャップを見つけた。非常にテンションの高いキャップだが総一郎はいまいち状況を理解できていない。

 

「あれ、大和とクリスのは、どうなったんだ?」

 

「今まさに最終決戦の最中だ」

 

「おお、流石軍師。あの体調でよくここまで行けたな」

 

「逆だよ」

 

 いつの間にか――勿論、総一郎は気が付いていたが、百代はそう言う。

 堪えきれなくなった由紀江が大和の体調不良を公表すると、残りの試合を省いて最後の試練である川神レースをすることになったらしい。大和としては最悪の種目に変わりないが百代が止めていないあたり恐らくは根性――川神魂で何とかしているのだろう。

 

「頑張ってるな大和」

 

「ああ、特に最近は少し男らしくなってきた」

 

「お?」

 

「……なんだよ」

 

 そんな総一郎の意図を百代は本当に理解できていなかった。彼女自身は姉として言ったまでに過ぎない、だが彼女がそんなことを言うだろうか。

 そんな無言の会話をしていると。

 

「あ、大和だ!」

 

 逆方向からはクリスも走ってきているが少し大和が近いか、足取りと様子からみて朦朧とする意識の中、ただの信念だけで走っていることが分かる。

 

「まさか川の中から現れるとは……」

 

「キャップ避けるなよー」

 

「まじか」

 

 大和は出来うる限りの知恵を導入し、普段であればやらないような「無理やり」という根性でかなりの熱がある中、最短ルートにて川を渡って来ていた。勿論ずぶ濡れである。根性だけクリスは勝てる相手ではない、大方は大和の策略に間違いはないがそれでも彼の本気はこの僅差を埋める糧となったことは間違いない。

 大和はゴールであるキャップに飛びつくと同時に意識を手放した。

 

「うわ、すげえ熱だ。モモ先輩!」

 

「任せろ」

 

 百代は大和を背負うと颯爽と消えて行った。キャップも森を駆けていく、恐らくそのまま皆と合流するのだろう。

 

「さ、俺達も行こうか」

 

「あ、ああ……」

 

 クリスは落ち込んでいるのか、気まずいのか、それとも反省しているのか。二人はクリスが後をついて少し距離を取るように歩いた。

 

「総一殿」

 

「ん?」

 

 山の中腹あたり、体力が減っていたクリスは総一郎と共にそこで休んでいた。そんな気まずいところで休みたくはなかったが「山を舐めるな」という総一郎に諭されて腰を切り株に掛けていた。

 

「大和は正しいのだろうか」

 

「正しくない」

 

 クリスは突然彼から肯定され困惑した。真ん丸な目で総一郎と視線を合わせた。

 

「それが問題か?」

 

「問題だろう!」

 

「正しくないことを理解して大和はそれを実行している、皆の為にな。手段が正しくなく、行為は正しい、俺はこれを問題なのかどうか判断できない」

 

 クリスは黙った。論破されたわけじゃない、反論するところがただ無かっただけだ。

 

「クリスの正しさ、俺の正しさ、大和の正しくなさ。これから分かって行こうぜ」

 

 総一郎は初めてクリスに笑顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

♦  ♦  ♦

 

 

 

 

 光灯る街に背を向け、我が歩むは果て無き荒野

 

 奇跡もなく、標べもなく、ただ夜が広がるのみ

 

 揺ぎ無い意志を糧として、闇の旅を進んでいく

 

 

 今回の箱根でクリスと由紀江はこの川神魂を初めて受け取った。それは由紀江の勇気が認められたことでもあり、クリスと大和が互いを認め合ったからでもある。

 そしてそれはこの二人が「ファミリー」の一員として正式に認められた裏付けでもある。

 クリスと京の間に多少の齟齬はあるが京も拒絶はしない、ただ二人とも距離感を掴みそこなっているだけだ。由紀江は相変わらずの人見知りでマスコットの松風と遊んでいる、もちろんファミリーとも。更にはクラスに一人だけ友達ができたとか、その日の島津寮夜は大層賑やかだったらしい。

 そんな箱根旅行から日が経ち、その後一つ目の土日が過ぎた月曜日の朝会だった。

 

「てなことで、次の土日で福岡にある天神館から修学旅行生が来るそうじゃ。そこで天神館と学年対抗の交流戦――東西交流戦をすることになった。皆楽しみじゃろう、存分に暴れていいぞい」

 

 全校生徒が騒然となった。

 ある者は「俺様の力を見せる時が来たぜ!」といい、ある者は「あんまり僕には関係ないかな」という者も。

 一方百代と総一郎は。

 

「天神館か……確か鍋島さんが――ふふ」

 

「……これの事か?というか俺は流石に出れないよな大和?」

 

 久々に燃え上がる百代の戦闘意欲、総一郎は反対に大した反応を見せなかった。

 百代は未知の者との邂逅、そして川神院の弟子でかつては武道四天王の一人だった壁を超えた存在である鍋島正と戦えるかもしれない事に興味を抱き。総一郎はどうせ戦っても大したことは無いだろうという思いと、もし燕がこれにゲストで参加するならば二年生である自分に関わりがないことを残念がっている。

 

「学年対抗で行う、じゃから編成は任せたぞい」

 

 鉄心がそういうと朝会は終わる。

 三年は百代を中心に各部活の部長などの連合、一年生は派閥を仕切ってる武蔵小杉という一年生が仕切ること決まる。

 だが、二年生は事情が少し違う。この学年はFクラスとSクラスの派閥がでかく、逆に言えばそれ以外が地味で普通である。でかい派閥が二つ、しかもアウトローな落ちこぼれでありながらも実力を持つFクラスと金持ちでエリート、しかも実力は一部が突出しているFとは違い平均的な能力が高いSクラス。

 諍いが起きることは必然と言ってもおかしくなかった。

 

「なんでSの連中といっしょにやらなきゃなんないのよ!」

 

「それはこっちの台詞じゃ、この猿共!」

 

 Fクラスの小笠原千花と鼻につく不死川心の言い争い。個人同士のものだが、ある意味クラスの総意といっても過言ではない。クラスの三分の二はそのような感情を持つだろう。

 

「まあ、チカリン落ち着いて」

 

「そうです、不死川さんもここは引いてください」

 

 二年生は統率を取ることが難しい。だからか、他のクラスはこのFとSに指揮権を丸投げし、指揮権の統一を図る双方は軍師こと侍中の大和、学年一の天才である軍師こと謀略家の冬馬が今後について空き教室で会談しているところだ。

 Fは大和、一子、クリス、ガクト、モロ、京、千花、甘粕真与、源さん。

 Sは冬馬、準、小雪、心、そしてつい先日転入してきた――マルギッテである。

 そんな彼女は何食わぬ顔で総一郎をに視線を向けていた。非常に総一郎はこの数日迷惑で仕方がない。

 

「大将は英雄、これはこちらとしても意義はない。ただ武闘派はこちらが多いから隊の指揮は必然的にこちらに偏る、それがこちらとしての譲歩であり、不安要素でもある」

 

「なるほど、軍師は我々としても纏まるには些かこちらの傲慢さが障害ですね……」

 

 一瞬冬馬は総一郎を見た。彼はマルギッテの視線が鬱陶しく窓の外、夕焼けに黄昏ていた。

 

「では、将軍として総一郎君を任命しこちらの傲慢とそちらの不満を取り除きましょう」

 

「お、それでいこう」

 

「まてまてまて」

 

 まるでコントのようにズコーン!二人の間に総一郎は割って入る。二人とも「何だ」という表情をしている、いや他に居たメンバーも同じような顔だ。

 

「何故俺だ」

 

「不死川さんや九鬼とも仲がいいし適任だろ」

 

「平和の為です、骨を折ってください」

 

 異議なし――とこの場の人間全員に言われてしまえば、総一郎は民主主義の長所と短所に頭を抱えてそれにいちゃもんを付けることも叶わなかった。

 

「そうだ総一、天神館のこと教えてくれ」

 

「……知らん自分で調べるか京に教えてもらえ、体でな!行け京!」

 

「大和ぉぉぉぉぉ!」

 

「なんでぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦  ♦  ♦

 

 

 

 

 

 暗く、そして幻のような明るさ、月明かりを霞ませるこの明るさは人類が開発した蛍光灯のものだ。何重ものパイプ管と巨大な丸いタンク、その隙間にある人が一人通れる位の隙間、そこに光が差し込みこの九鬼が所有する工場は観光名所として公開できるほどには素晴らしい場所であった。

 今日土曜日、そして今夜、西は天神、東は川神、学年対抗の東西交流戦と名を打った戦が始まる。

 

「ゔへあ」

 

「ああ……」

 

 一年の部は天神館の勝利。あの剣聖の娘である黛由紀江を擁した川神学園がまさか負けるの大波乱――だが、実際は対象である武蔵小杉が何故か「プレミアーム!」と突出したところを単純に袋叩きにされただけだ。活躍して友達を増やそうとした由紀江は相も変わらず苦労を知るままだ。

 

「天神合体!」

 

「川神――波!」

 

 三年の部は生徒会長を始め部活連合や言霊を操る京極彦一の連携により互角以上の戦い、そして生徒が何故か合体し、百代に挑むが結果はいつもの通り、ビームによって巨大な合体生物は消し飛んでその後アッという間に勝負は川神学園の勝利となった。

 

これで一対一、残るは明日行われる二年生の勝負によって勝敗が決まる。

 

「西方十勇士ですか」

 

「ああ、西に手を回しておいて良かった。名前と写真もある」

 

 大和と冬馬は足場の上で工場を見渡しつつ明日の策と情報の共有を行っていた。

 

「大将は十勇士最強の男「石田三郎」そしてその側近である槍使い「島右近」特攻隊長の「大友焔」なんでも大砲使いとか。凄まじい攻撃力を持つ「長宗我部宗男」京と同じ天下五弓の「毛利元親」瞬間移動する「尼子晴」汚い忍者「鉢屋壱助」金にうるさい巨漢「宇喜多秀美」情報戦のプロ「大村ヨシツグ」広告塔のエグゾエル「龍造寺隆正」――実戦力は八人みたいだが兎に角要注意だ」

 

「ええ、こちらの将を当てることとしましょうか」

 

 大和は頷いた。

 

「総一、お前は本陣の守りをしてもらうけどいいか?」

 

 闇討ちに気を気張るため二人の近く(冬馬対策でもある)に総一郎控えていた。だが、返事がない。

 

「総一?」

 

 確かにそこに居るが総一郎から中々返事が帰ってこなかった。恐る恐る大和が近づいてみると深く考え込んでいる彼がいた。聞き取れないほどの声で何かを呟いていたが大和は不気味そうにもう一度声を掛けてみる。

 

「総一」

 

「ん?あ、悪い、聞いてなかった」

 

「明日は本陣を守ってもらいたい、忍足さんと二人で守ってもらうことになる」

 

「ああ、了解した。ネズミぐらいは通してやろう」

 

「いや、通さないでくれ、あっちには忍者居るぞ……どうかしたか?」

 

 大和が不安そうな顔をする。彼の不安定さを心配してのことだろう、今考えたことはそれについてじゃなかったので総一郎は特に不自然さを見せることなく首を振った。

 

「いや、何でもないよ。ただ大村って名前に聞き覚えがあっただけで。多分西の方だから聞いたことあるだけだろう、問題ない」

 

「そうか」

 

 大和は京ほどの観察眼があるわけじゃないがとりあえず総一郎の様子に異変を感じなかったのか、何事もなかったかの様にその日の作戦会議は終了した。

 

 

 

 

「貴様等、選ぶが良い! 学び舎の名を高めるか、それともバラバラに戦い一年生のように負け辱めるか!」

 

 啖呵、と言うには少し、鼓舞、と言うには少し相違がある。これは世界で最も効果のある煽りだ。己達のプライド、それがFとSの対立を生んでいる。どちらが上でどちらが下か。くだらない――と言ってしまえない、ここはどこまでも競争する学園である東の川神学園である。自らに従うのがその生徒達である。

 ならば彼らにとって最もな屈辱とは何か、テストで負けることか? Fに負けることか? Sに負けることか?

 否――我らが最強であることを覆されることである――

 

「うおおおおおおおお!」

 

 その叫び声こそが総意である。

 

「行くぞ貴様等! 我らの全てを西の者共に見せつけてやれ! 出陣だ!」

 

 一年でも三年でも無かった、まるで戦であるその豪声はまるで地響きと錯覚するほど、金属のパイプに振動としてそれは天神館にも伝わってた。

 

「ふん、東の者も力が入っているな」

 

「はい、御大将。向こうの大将は九鬼英雄、名将でしょう」

 

「ああ、それは認めよう。だが! この石田三郎の前では無意味だ! 行け!」

 

 

 

 

 東西交流戦最終戦、今ここに最高潮で始まる――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十勇士がいない?」

 

 大和は一子たちの報告を受けると隣に居た冬馬に視線を向けた。すると視線が合い、彼も頷いた。冬馬の方にもそういう連絡がいっているようだ。

 

「わかった、とにかく敵兵を減らして大将を見つけてくれ」

 

 大和は電話を切ると思考に耽った。冬馬も同様だ。

 自分たちの身の心配は取りあえずない、隣にはテコンドーの使い手である小雪と呼び寄せたガクトがいる。最悪逃げれば近くには源さんがいる。

 だが、指揮権を一般生徒に任せて全ての十勇士がいないとなれば大和は凄まじい不安に駆られていた。

 

「大和君大丈夫ですか?」

 

「……ああ」

 

「確かに想定外ですが本陣は総一君が……なるほど」

 

「……やられた――京か? 本陣に……分かった援護に回ってくれ」

 

 冬馬と大和は顔を合わせて。

 

「クリスか?」

 

「マルギッテさん」

 

 友軍すべてに本陣への急行を命じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 遡ること十五分前――本陣の守りは総一郎をとあずみを主体とした体格のいい編成が組まれていた。

 といってもあずみは完全に英雄の直衛、総一郎はネズミ捕りのようなものだ。

 

「少し雰囲気がおかしいな」

 

「はい、少し見てきます」

 

 英雄は何かに勘付いていた。何かと言えないがそれは天下人としても勘だろう。逆に完全に察していたあずみは離れすぎない位置に居る総一郎の元へ向かった。

 だが何の異常も今はない、総一郎にあずみは声をかけようとした。

 

「おい――」

 

「そうか……いや、助かった、急なお願いで悪いね。こっちには何時?……じゃあもうすぐだね。直輝?あいつも来るのか、いい経験になるよろしく言っておいて、じゃあ」

 

 総一郎の電話、それは間違いなく外部からだったことが分かる。恐らく燕、だがそこまであずみも読み取ることはできない。

 そして再度声を掛けようとしたとき、総一郎が刀を抜いた。がらっと彼の雰囲気がその刀と同じに染まっていった。模造刀だというのにまるで真剣のよう、あずみは冷や汗をかいて居た。

 

「あずみさん、英雄の所へお戻りください。鉢屋が来るかもです」

 

「!?……ここは任せたぞ!」

 

「ええ――任されます」

 

 あずみが消えた時点、そこから本陣は戦場に変わる。

 

 閃光が一閃、そして二閃、三閃と連続した。その勢いを削ぐように、返しはしない、三閃を総一郎はいなした。

 

「間違いないその技、彼の暗殺拳か。大村君」

 

 姿を現したのは写真で見た病弱な彼ではない。背筋を正してこちらを真っすぐ見つめる彼――大村ヨシツグは武人そのものだった。

 それだけではない、総一郎は十人の勇士に囲まれていた。

 




やっとここまできた






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