図書館交差   作:蹴急

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十一冊目

図書館は俄に風当たりがきつくなった。連続通り魔殺人事件の捜査に図書隊が協力を拒否したことが警察の公式発表で報じられたからである。

 

発表の一部談話ではあったが、そのニュースは報道各社に大々的に取り上げられた。警察からなんらかの示唆があったのではと思わせられるほど足並みを揃えた論調であった。

『図書隊、警察への捜査協力を拒否』

『容疑者少年を擁護する図書隊』

『犯罪者を利する図書館法の歪み』

少年犯罪が増加する折から未成年容疑者を擁護する世論は少なく、捜査協力を拒否した図書隊を非難する意見が圧倒的でだった。少年が黙秘を続けて取り調べが停滞していることへの苛立ちもあっただろう。

少年の読書履歴が分かったところでそれは心証のわずかな一部にしかならず、捜査の大勢には影響しないという客観的な事実は、無意識にか故意的にか無視された。また、犯罪者であろうと法の原則が歪められるべきでないという図書隊の公式見解は、稲嶺が『日野の悪夢』の関係者であったことが判明してからは、当時の不明瞭な警察対応への意趣返しではないかとの憶測が飛び交った。

 

図書館と警察の間にどのような因縁があろうと、その遺恨は別の事件において晴らすべきではない。事件の被害者や遺族がどのような思いで解決を待ちわびているかを図書館関係者は考えたことがあるのだろうか。

 

「あれ、あまりにも偏ってますよね。それでも提供しないといけないって……」

 

和人は朝見た新聞の内容に思わずため息を吐いた。これには小牧も同じような気持ちであるが決して顔には出ていない。

 

「そうだね。でも図書館はそういう場所だから、例えどんな不利な記述があったとしてもね」

 

それは分かってはいるが、それでも納得いくものではない。今日装備する週刊誌各種を持ち、二人で閲覧室に向かっていると廊下の窓から館外に報道関係者と思わしき人が大きく取り囲んでいるのが見えた。

 

「正規の取材じゃないね。警備の人がなんとかするとは思うけど」

 

報道が出入りする職員に群がっているみたいだ。すぐに群れは解散し、小牧の発言からそんな問題になることも無いだろうと興味を失う。しかし、わらわらと一人を中心に報道がまた群がり出したところで和人は目を見開いた。あそこにいるのは……

 

「また、誰か囲まれたみたい---」

「……ッ⁉︎ 小牧教官、すいませんッ!!」

 

持っていた週刊誌を小牧の持っている上に積み重ねて和人は飛び出した。小牧は積み重なった週刊誌を横目に外を見ると中心に栗色の髪をした女性がいるのが確認できた。

 

 

 

明日奈が所用で外出から図書館へと戻りセキュリティゲートに近づき、身分証を取り出す。と、いくらも行かないうちに人垣に囲まれた。どこにこれだけいたのかと呆れる程の人数だ。まるで行き慣れたダンジョンでモンスターハウスのトラップに引っかかったような気分である。

 

「図書館の方ですね?---ですがちょっとお話し伺いたいんですが」

 

名乗った誌名や媒体名は、その連中が我先に声をかけてきたので重なり合って聞き取れない。相手が報道関係者だというのはとりあえず分かった。

 

「えっ、その、困ります」

 

人垣を抜けようとするが、記者たちはまるで示し合わせてスクラムでも組んでいるかのように壁を崩さない。

これが本当にmobならば腰にあるはずのレイピアで一人残らず指しているところだ。けれど現実では刺すことなど不可能。

 

「図書館が犯罪者擁護をしていることをあなたはどう思われますか!」

 

咄嗟の剥き出しな悪意に明日奈は息を呑んだ。これが例の連続通り魔殺人事件について聞いているのはすぐに理解した。今朝方、寮のテレビで見て、仕方ないとはいえ図書館を非難する物言いには少し頭にくるものがあったからだ。

 

「答えてください!」「三人もの人間を殺した犯罪者を図書館は何故庇うですか!」

 

押し寄せてくる声の圧力に対して冷静になるよう言い聞かせるかのように答えた。

 

「法はすべての人に平等であるべきという原則に図書館は従ってるだけです」

 

図書館の公式見解を笑顔で答え、その場から逃げるよう足を運ぶ。

 

「その原則は犯罪者に対しても守られるべきなんですか!?」

「あなた自身はどうなんですか、自分と同じ年代の女性が三人も殺されてるのに何も感じないんですか!?」

 

そんなことは訊かれても日本国憲法が言っているのだからどうしようもない。それに何も感じないはずないでしょう!?

矢継ぎ早にくる問いについ反応してしまいそうになるのを必死に飲み込む。

相手は怒らせて反応を引き出そうとしているのだから怒ったら思う壺だ。

 

「すみません通してください。取材だったら広報へお願いします」

「逃げるんですか!」

 

お願いだから話しかけないで。ピンポイントに気持ちを逆撫でする発言に流石の明日奈も堪え兼ね始めた。どうしようもない状況に心の中で助けを求める。

 

誰か助けて…………キリト君!!

 

「明日奈!」

 

願いが届いたのか自分を呼ぶ声に下を見ていた顔をあげる。そこにはいつだって自分を助けてくれる剣士がいた。服装も体格も変わっているが、あの頃から変わらない優しい彼の姿が写る。

 

「キリト君!」

 

手を引かれるままに彼に体を預ける。ガッシリと抱えられ「大丈夫だ」と耳打ちされると、心細かった気持ちが一気に消えていきそれと同時に心拍数がドンっと上がる。

和人は明日奈を抱えると報道者の壁を黙って押し退けて通用門を目指す。時よりガンガンと人が押し寄せるが和人は明日奈に当たらないよう体を動かしていく。

 

「逃げるんですか!」

 

再び詰る声が追いすがるが和人は淡々と「取材は図書隊広報がお引き受けします」と告げる。通用門を潜り抜けてサッと門扉を閉め、中に入ってからようやく追いすがる声がなくなった。

 

「大丈夫か? なんとか間に合ってよかった」

「……う、うん。和人君が来てくれたから大丈夫だよ」

 

ドクドクと脈打つ心臓を抑えるのに必死で和人への返事が少し遅れた。バレていないのか和人は明日奈を気遣って話をする。

 

「たまたま、通路の窓から明日奈が見えてさ。囲まれていたから気付いたら飛び出してた。あっ、小牧教官に資料押し付けて来たんだ、後で謝っとかないとなぁ」

 

頭をかいて聞いてもいない事を話し続ける和人。いつもそうだ、彼は助けてくれる時いつもなんでもないように装う。でも、そんな所も自分は好きになって、いざという時に颯爽と現れなんとかしてくれる安心感がある。

 

あぁ、私あの頃から何も変わってない。いつも彼に助けられて、守られてる。私も彼の横で並んでいたいのに。

トンッと頭を和人の肩に置いて涙を隠す。

 

「あ、明日奈?本当に大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫だから……少しこのままでいさせて」

「…………」

 

先程からチラチラと図書隊員らしき人が此方を伺っている為に気まづい思いをしている、しかし動く事も出来ないままに和人は優しく明日奈の頭を撫でた。

ふと、明日奈から視線を離すと通用門に向かった背の高い女性が見えた様な気がした。

 

 

 

 

そのアンケートは都内の全図書館に配られたという。和人は寮で受け取り、女子の方にも同様に配られたらしい。

タイトルは直球で「高校生連続通り魔殺人事件への情報提供に関するアンケート」と来た。

 

 

 

また嫌な書き方のアンケートだな。それが、和人がコーヒーを飲みながら一枚のアンケートを読んだ感想だ。

同じ部屋の住人である、裕司、日向、大山も似たような事を思ったのか渋い顔をしている。もう一度、一から読み返していく。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

Q1 この事件についてどう思いますか?

(許せない・許せる・どちらでもない)

 

Q2 容疑者少年の黙秘で取り調べが難航している事を知っていますか。

(はい・いいえ)

 

Q3 早く事件が解決すべきだと思いますか?

(思う・思わない・どちらでもない)

 

Q4 図書隊の情報提供で捜査が進展するとしたら

(情報提供してもいいと思う・情報提供すべきでないと思う・どちらでもない)

 

Q5 図書館法の原則を固辞する現状の図書隊の判断についてどう思いますか?

(賛成・反対・どちらでもない)

 

Q6 特例を認める協議が持たれたら特例を支持しますか?

(はい・いいえ・どちらでもない)

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

これ笠原なら絶対「小賢しいやり方しやがって」とかって怒りそうだなとここにはいない人物の事を思っていると、目の前から声がかかった。

 

「みんなはなんて書くの?」

 

大山がなんて書こうか迷いながらみんなに支持を求める。こういったのは話し合って書くものではないがどうしても周りと合わせようとする大山がそういうのも仕方ないだろう。気を使ってか裕司がペンを途中まで走らせて答える。

 

「まぁ、最初の三問なんて決まってるからね」

「だよなぁ。けどよぉ、それ以降の特に図書館法のやつとか俺たちにはまだ良くわかんねぇよな実際」

 

日向も最初の三問はすんなりと書いたようだが、その後の三問に頭を悩ませている。

実際このアンケートは上手いこと書かれていて、最初の三問と後の三問で矛盾した解答になってしまう。匿名なのも余計に特例を支持させようとしている風に見える。

 

「桐ヶ谷ならなんかわかるんじゃねぇの?」

「どうなの、桐ヶ谷くん」

 

二人が意見を求めて和人を見つめる。裕司も和人の意見を参考にしたいのか話を聞く態勢になっている。

 

「えっと、じゃあお前らは情報提供についてどう思うんだ?」

「そりゃあしたほうがいいんじゃねぇの?その方が事件も早く解決するかもしれないんだしよ」

 

何を当たり前のことを、と言いそうな感じではあるが、その返事は想定内だ。

 

「そうだな。一般人の目線で見たらそうなるけど、そうすると俺たちは図書隊員だから図書館法の『図書館は利用者の秘密を守る』っていう原則を破ることになる。これはその問五に繋がるわけだ」

 

何故自分がこんな説明をしているのだろうかと言わずにはいられないが自分は特殊部隊故に原則派にだいぶ足を突っ込んでいるので飲み込むしかない。それに、特殊部隊でなくても目的の為を思うと原則派よりにならざる終えない。

 

「でもそれは『守る』であって『守らなければならない』じゃないから図書館の采配次第で特例を持つこともできる。だからそれをしない図書隊の現状はどうかってのが問五だな」

 

これでわかるかな?と三人の顔を伺うと、なるほどなぁ。と日向が大きく頷き、大山と裕司も小さく小刻みに頷いている。

 

「まぁぶっちゃけ。令状を貰えなかったんで融通を利かせてくださいって警察に言われて、素直にそれをしたら図書館の信用はガタ落ちだけどな」

「ちょっ!?おまえ!」

「ええー!!」

「和人、それは……」

 

最後に自分の意見もといぶっちゃけた話を交えさせても良いだろうと独り言のように呟きながらペンを走らせた。解答は(許せない・はい・思う・情報提供すべきでない・賛成・いいえ)と書いた。

三人とも少し頭を悩ませてはいたがどうやら書ききったようだ。

 

 




読んで頂きありがとうございます。

キリトとアスナをイチャラブさせたり、もっと絡ませたいけど難しい。

ではまた次回。
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