図書館交差   作:蹴急

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十二冊目

原則か特例かで図書隊が揺れる中、教育委員会が武蔵野第一図書館を再訪した。

良化特務機関と暗黙に検閲を示し合わせたことは記憶に新しく、図書館は俄かに浮き足立った。容疑者少年の蔵書と教育委員会の『望ましくない図書』、そしてメディア良化委員会の検閲対象図書が一部一致していたことは既に図書隊では周知されている。

先日の今日で同じ手口を仕掛けてくるとは思われなかったが、それでも防衛部の警戒レベルは跳ね上がり、館内装備と市街哨戒が大増員された。

 

 

「結城さん、これ館長室に持って行ってもらっていいかな?」

 

和人と同じ班である小牧からお盆を渡される。見たところ上には四つ湯呑みが載っている。館長室にいる人数分だろう。

 

「わかりました」

 

お盆を持ち館長室へと向かうとコソコソと扉に耳を傾けている男女三人がいた。よく見ればその扉は明日奈の向かっていた館長室の扉だ。

 

「三人して何やってるの、盗み聞きなんてよくないよ。和人君も一緒になって……」

「あ、明日奈!?ち、ちがっ、これには山より低く、海より浅い訳があってだな……」

 

恋人に浮気の現場で会ったかのような動揺を見せる和人。その後ろには浮気相手などではなく盗み聞きの共犯者である郁、柴崎がいる。

 

「大した言い訳じゃないんでしょ、もう。中の話が聞きたいならお茶でも出したら?ほら」

「はい!私がいく。いいよね、いいわよね?」

 

お盆を見せると柴崎が食いついた。郁と和人は何も言わずどうぞ、どうぞと示す。二人には柴崎がどうせ譲らないことなど分かりきっている。

柴崎はしゃがんで出来たタイトスカートの皺をサッと伸ばし、お盆を受け取るとタイミングを計り、本題が始まってから扉を小さくノックした。

 

柴崎の楚々とした立ち居振る舞いは室内の人々をまったく刺激しなかったらしく、

 

「通り魔殺人の容疑者少年についてなんですが」

 

という口上で始まっていた本題は柴崎が入っても話が途切れなかった。柴崎が何気なくドアを閉め切らずに入ってくれたので、外で伺っている和人たちにも話がよく聞こえる。

 

「いや、そのことについては……!」

 

館長代理はみっともないほど狼狽した調子で答えた。副館長が発言を牽制するが止められず、「こちらでも色々と対応を検討しておりまして」などと勝手に口走る。

 

「図書館の対応を教育委員会は高く評価しております」

 

その発言が予想外だったのか、館長代理は「は?」と頓狂な声を上げた。

 

「いくら重大な犯罪を犯したといえども、容疑者は未成年です。人道的見地から言っても少年のプライバシーが無秩序に警察に流出されるべきではありません。少年の更生のためにも図書館は一時の安易な感情論に流されるべきではない」

 

はぁ、と館長代理は気の抜けたような返事をした。どうやら図書館が警察に協力しないことについて抗議されるものと思っていたらしい。

その辺りで柴崎が部屋を出てきた。「だめ、限界」と顔をしかめる。

 

「十分粘ったと思うぞ」

 

和人が労うと明日奈も笑顔で迎えた。

後は閉め切っていないドアから漏れ聞こえる声を窺うしかない。

 

「今後も図書館には少年の人権を尊重した対応を期待します」

 

激励とも申し入れもとつかない微妙な物言いに、耳をそばだてていた郁は眉をひそめた。

 

「どうして教育委員会が急に図書館の肩を持つのよ」

 

つい先日は図書館に敵対する行動をとったのに今度は図書館を擁護するような発言をするなど、郁には急に手のひらを返されたかのような感じで訝しい。しかし和人と明日奈、柴崎はあまり意外そうでもやく頷き合う。

 

「まぁ、予想され得る範囲ではあったよな」

「うん」

「そうね」

 

三人で勝手に納得され、郁がむくれていると柴崎が答えた。

 

「要するに利害関係の一致よ。少年の親が高校の校長だったでしょ、教育委員会としては関係者の不祥事を庇いたいんじゃないの」

「読書履歴なんかは心証の参考程度にしかならないけど、それが裁判では響いちゃうかもせらないからね」

 

と明日奈も口を添える。

図書館の非協力が叩かれ、館長代理を始めとする行政派が特例措置を画策している現状、教育委員会の原則支持の表明はいい牽制になる。しかし郁はますます顔をしかめた。

 

「何か……感じ悪ぅ……」

 

明らかに図書館を出し抜く目的の検閲を仕組んでおいて、しかもその検閲は教育現場の不祥事を取り繕うためで、そのくせ警察が図書館に少年の利用者情報を要求しているとなったら少年の利益を守れと暗黙に迫る。あまりにも節操がない。

 

「そうだね」

 

明日奈も苦笑いだ。

 

「それにあたしたちは少年の利益を守るために叩かれているわけじゃない、あんな言われ方不本意よ」

 

図書館は図書館の節を守るために闘っているのであって、少なくとも郁は容疑者の少年を擁護しているつもりなど更々ない。勿論和人や明日奈達もだ。隊員達の本音を要約すれば「原則を守らねばならないのは仕方がないが、いくら未成年とはいえ無差別殺人犯のために原則を守っているかと思うと腹が立つ」ということになる。

教育委員会の言う「いくら犯罪を犯したとはいえ未成年なのだから」という理屈とは真逆で、むしろ少年への憤りは謂れのない逆境に置かれている分だけ根が深いくらいだ。

 

「まぁ、未成年への配慮ってのは理屈として聞こえがいいからな。うまく教育委員会が援護してくれたなら図書隊としては助かるわけだ」

「それは、そうだけど……」

 

和人の実利優先な発言は正しいと分かっていたが、それでも感情が飲み込むのを拒否する。

和人の言葉を裏付けるように、室内では副館長が口を開いた。

 

「支持して頂けるのは光栄ですが、今は、図書隊内部でも原則を守るべきかどうかの意見が割れておりまして。未成年に配慮したいのは山々ですが世論も厳しいですし、このまま節を曲げずにいることはなかなか難しいですね」

 

副館長は原則派のはずなのに、俄に館長代理ら行政派の肩を持つような発言だ。それを受けて来客といえば、

 

「もちろん状況はお察しします。教育委員会からも何らかの形で図書隊の判断を支持する表明を出せればと思っておりますよ」

 

うわぁ何だろうこのおためごかしの応酬。郁の眉間のシワはますます深くなる。「やるわね、副館長」と感心している柴崎や和人達のように大人になれない。

 

「あたし先に戻る」

 

すっと扉から離れ、郁は閲覧室へ歩いた。

突然離れた郁を見て和人が柴崎に聞いた。

 

「笠原にはキツかったか?」

「そうね。あの子にはまだ早いとは言わないけど飲み込みきれないんでしょうね」

 

普段の郁を見ていてたら誰でもわかる。郁は図書隊が正義の味方だと思っていて、周りから違うと言われても自分はそうであろうとしていることに。

 

「っとそろそろ出て来るは、ここから離れましょ」

 

バレないようにドアを閉め、三人は持ち場へと戻った。

 

それから数日、教育委員会は約束通り、図書館の原則論を支持する表明を各種媒体で表明し、それは過熱した世論や報道に一石を投じた。問題は青少年保護の是非に移り変わった。

またそれは、館長代理ら行政派に対する牽制にもなった。警察と教育委員会では組織的関わりは教育委員会の方が多く、原則論を支持する表明を公式に出した教育委員会と完全に対立することになる特例措置採択はさすがに躊躇されたらしい。

やがて少年が自供を開始したというニュースとともに、図書館の原則論を非難する風潮はそれ自体がなかったことのように終息した。

 

 

 

東京都某病院に稲嶺は玄田を引き連れやって来ていた。ここに入院している野辺山の様子を伺いに来たのだ。

 

「玄田くん!」

 

廊下を歩いていると声がかかった。

玄田は車椅子を押す足を止め、振り返った。そこには腐れ縁とも言える付き合いの長い折口マキがおり、その後ろには初めて見る顔が一人いる。

 

「おう」

 

ぶっきらぼうに返す。側から見れば愛想の無い返事だが彼と彼女の関係でいえば特にそんなことはない。

 

「来てたんだ」

 

いつもと同じように素っ気ない返事に思わず笑みがこぼれる折口。前へと歩き稲嶺の顔が見えると挨拶した。

 

「お久し振りです。週刊新世相の……」

「折口さん、ですよね」

 

覚えてもらっていたことに驚いた。そんな顔をしている折口に稲嶺は温和な表情で続けた。

 

「以前、取材に来られましたよね」

「はい」

「いつも読ませてもらっています。新世相には失われたジャーナリズム精神が生きている」

 

図書隊の設立者からのお褒めの言葉だ。

 

「お陰で赤字スレスレです」

 

折口がジョークで返すと稲嶺は笑った。それに釣られ折口と玄田もクスッと顔を見合わせ笑う。

 

「そういえば、彼女は?」

 

後ろで完全に置いてけぼりを食らっている、女性を気遣って玄田が折口に聞いた。紹介される事を察した彼女は玄田と稲嶺の正面に向かい、折口の紹介と共に頭を下げた。

 

「うちの新人よ、名前は……」

「あ、綾野珪子です。四月から世相社で働かさせてもらい、今は折口さんの下で学ばさせて頂いています」

 

珪子が顔を上げると稲嶺は優しく告げた。

 

「大変だとは思いますが、頑張ってください」

 

稲嶺とは対照的に玄田の目はこんなか弱そうな子で大丈夫なのか。と言いたげだが、それは長年連んでいる折口にはお見通しだ。

 

「うちの期待の新人よ。見た目以上に度胸あるわよ、この子」

「そうか、そりゃあ楽しみだ」

 

 

ピッ、ピッ、ピッと電子音が一定間隔で鳴り響く部屋の前に稲嶺達四人は止まった。

部屋では高齢の男性が延命措置を取られて横になっている。彼の事をよく知らない珪子と折口に玄田が語る。

 

「もう意識が戻ることはないそうだ。本人は出来る限りの延命を希望していた。小田原の『情報歴史資料館』を守る為に」

 

『情報歴史資料館』とは野辺山宗八が会長として運営していた私立図書館だ。故に性質が公立図書館とは大幅に異なり、メディア良化委員会が警戒する資料が大量に所蔵されながら、設立以来の三十年を作為的な無風状態となっている。

 

「良化法成立の際に行われた不正を野辺山氏はあそこで守り続けて来たんだ」

「もし亡くなったら……」

 

折口の問いに玄田は静かに、けれど明確に答えた。

 

「……小田原で大きな戦いが起こる」

 

珪子は後に起こるであろう戦いに息を呑んだ。二十年前に起きた『日野の悪夢』の再来にもなるであろうことは予想できる。

 

稲嶺は厳しい目つきで野辺山氏を見続けた。横になる野辺山の姿にあの日のことが脳裏をよぎる。

 

 

 

襲撃は迅速かつ圧倒的だった。

前年に規模を拡大した新館に移転し、館員がまだ館内の配置に不慣れだったことも不幸だった。

 

閉館まで後一時間といった頃に襲撃者は突然現れた。ゾロゾロと入ってくるスーツ姿にアタッシュケースを抱えた人間に、館員だけでなく一般の利用者も怪しんだ。

襲撃者は床にアタッシュケースを置くと慣れた動作で防護マスクを取り出し着用、銃を手に持った。

 

そこからはただただ一方的な蹂躙だった。襲撃者は館員、利用者関係なく撃ち抜いていく。館内は一気に混乱した。利用者は避難し、誘導と応戦に館員は動くが応戦しようとした館員はすぐに撃ち殺された。蔵書が整理された本棚を盾に逃げ惑う人達を追う銃撃に次々と本が散っていく。

 

『我々はァ、反社会的な図書と優劣図書を同列に扱いィ、公序良俗を乱す図書館を憂いィ、鉄槌を下さんとするものであるゥー!』

 

銃声が雨音のように無造作に響く中、拡声器で割れた調子っぱずれの声が屋外でがなっている。

稲嶺は図書館長として職員を指揮する立場だったが、地下に立て籠もった状況で出来ることは少なかった。

 

「警察はまだ来ないのか!」

 

書庫の外に築いたバリケードで応戦する警備員の問いは悲鳴に近い。警察への通報は襲撃初期段階でなされていたが、鎮圧のための機動隊は未だ到着していなかった。

 

「もう一度通報してみます!」

 

書庫の電話で外線を繋いだ女性職員を稲嶺は押しとどめた。催促なら再三しているが今出る今出ると蕎麦屋の出前で、要するに警察には介入する気がない。現場に駆けつけた分館職員からの報告によると、警邏は到着して図書館近辺の封鎖措置をしたが、それ以上は対処はないという。

 

「以降、図書館回線は警察通報に使用しない!各自の携帯から通報、図書館とは名乗らず近隣住人を装い抗争鎮圧を要請しろ!受話器にはできるだけ銃声を入れるな!」

 

音を避けて携帯持ちの職員達が書庫の奥へ走る。間近に銃声が聞こえる環境では、逆探知をされなくても図書館から通報していることが悟られてしまう。

 

警察が図書館の味方でないことは毎度のことであるが、それにしても今回は酷すぎた。良化特務機関との抗争については不介入が慣例化しているが、今回の襲撃は明らかに無関係の団体によるものだ。分館の職員たちも到着した警邏にそれを訴えているらしいが、確認が遅れているだの何だの言を左右にされるばかりらしい。

 

「あなた」

 

稲嶺に声をかけたのは同じ図書館員の妻で、稲嶺は何も訊かず自分の携帯を渡した。手に割れた携帯があり、避難しているときに運悪く落としたのだろう。受け取った妻が三桁の番号を押しながら奥へ向かう。

 

「立川はまだか!」

 

日野市周辺の図書館では立川市立図書館が大口径火器を装備に導入しており、襲撃者の武装に対抗可能と思われた。しかし、襲撃の混乱で応援の要請に手間取り、どこの図書館も初動が遅れている。日野市内の分館は装備が貧弱で、他地域の大規模図書館かはの応援と合流せねば現場への突入もできない有り様だった。

 

「立川の応援部隊と連絡取れました、到着まで推定二十分!」

「八王子も同様です!」

 

何とか保つか。閲覧室の被害は免れまいがそれはやむを得まい。

と、奥で通報していた職員たちが咳き込みながら戻ってきた。

 

「空調ダクトから煙が……!」

 

外線を取っていた職員が前後して叫んだ。

 

「閲覧室に火をつけられたようです!遠方からも炎上確認できるとのこと!」

 

報告きてきたのは外部で応援を待って待機している分館の部隊らしい。

 

「何で火災報知機が作動しないんだ!消火装置も!」

 

誰かが責めるように叫ぶが、ダクトから煙が逆流したことから考えても排煙装置も含めた保安設備が丸ごとダウンしているのだろう。だとすれば敵は占拠した警備室でそれらの設備の制御を破壊してから火炎放射器か何かで火を点けたということである。

あまりのことに全員が言葉を失った。稲嶺も同様である。

相当数の蔵書の破損、もしくは強奪を覚悟してはいたものの、まさか保安設備を破壊したうえで館に火を放つなどという暴挙に及ぶとは。正義を語って本を焼くという転倒した価値観に目眩がする。

 

本を焼く国ではいずれ人を焼く、言い古されたその言葉は反射のように脳裏に浮かんだ。

 

「……分館に消防通報と脱出の援護を指示!本館はこれより非常口から脱出する!」

 

まだ応援が到着していない状態でどこまで援護が可能か甚だ不安だが、応援の到着を待っていたら煙に巻かれる。

 

「図書は!」

「諦めろ!」

 

訴えるような部下の叫びは稲嶺にとっても同じ気持ちだ。

書庫から出ると銃撃は止んでいた。煙は上へ上っているのか、地下にはまだ充満していない。ダクトから逆流する煙で書庫内の方が息苦しいくらいだ。

 

「あれだけ」

 

稲嶺の妻が言うなり書庫に戻った。

 

「よさないか!」

 

止める稲嶺にちょっとだけちょっとだけと話を聞かないのは家ではいつものことだが、さすがにこの状況でいつものように悠長に待っているわけにもいかない。

 

「急ぎなさい!」

 

庫内に怒鳴ると妻は咳き込みながら一冊の本を抱えて出てきた。銃を持っている警備員が先に立ち、姿勢を低くしながら全員で階上を目指す。

一階に上がると煙の密度が一気に増した。

 

「高い位置で呼吸するな!膝で進め!」

 

雨雲のような濃い煙が床上一メートルほどまで垂れ込め、この中で一呼吸すればすぐさま昏倒するだろう。火に追い立てられつつ立っては走れない状況で、気持ちだけは切実な徒競走だ。熱風に煽られ火に炙られ、立って歩けばとっくにたどり着いている非常口は絶望的に遠かった。

 

ようやく非常口に辿り着き、先頭の職員が非常口を開け放つと煙が凄まじい勢いで外へと流れ出た。転げるように職員たちが表へ飛び出す。

 

ーーすると、その走っていた職員たちが次々と転倒した。

 

最後まで中にいた稲嶺には何が起こったのか理解できず、扉の前に呆然と立ち尽くした。

 

倒れなかった職員たちが一度逃げ出した非常口にまた逃げ込んでくる。転倒した者は動かないかあるいは這って戻ろうとし、這おうとした者は動ける職員たちに助けられ担ぎ込まれる。

 

「館長伏せて!」

 

若い職員に引き倒されたとき、火が爆ぜ唸る音に紛れてようやく雨あられの銃声が聞き取れた。

何と言うことを。もはや言葉にさえならない。

火に追われ逃げ出してくる者を狙い撃ちしたのか。

我に返ると屋内に妻がいなかった。外で倒れたまま動かない人影の一つが本を抱えている。

 

「館長ッ!」

 

制止の声も実際に止めようとした腕も振り払った。身を伏せることさえせずに、そのまま表へ歩み出る。

 

「今すぐ攻撃を停止しろ!」

 

怒鳴った声は火の騒ぐ音さえ圧した。

 

「君たちは___公序良俗を謳って人を殺すのか!」

 

それが正義だとすれば正義とはこの世で最も醜悪な観念だ。そしてこんな醜悪を根拠にされるメディア良化法とは一体何だ。

 

気迫が弾を逸らしたかのように稲嶺は撃たれないままかつかつと十数歩歩き、しかし妻の元へたどり着く直前に右足が掻き消えたようにバランスを失って転倒した。

稲嶺が被さるように倒れたその下で急いたような浅い呼吸音が聞こえた。数年前に亡くした愛猫の末期のような息だった。

 

すまない、重いだろう、すぐどこう。そんなことを言おうとして、声の代わりに血を吐いた。

撃ち抜かれた事を自覚していた右足だけでなく胴体も食らっているようだった。

倒れた妻に声をかけようとして血を吐きかけながら、稲嶺の意識はそこで途切れた。

 

 

以来、稲嶺は侵害される自由を守る方法を戦う以外知らない。

『日野の悪夢』による私怨を晴らしているだけではないのか、という批判はことあるごとに噴出するし、死んだ妻が武装化を望んでいると思うかと諭されることもある。

 

前者に関しては私怨がないわけがない。しかし私怨とは別の問題で武装化はやむを得ぬ選択だという判断があることも確かである。

 

後者に関しては死んだ妻の感想など稲嶺にさえ分からないのだから諭す者にも当然わかるわけがなく、その架空の前提の問いに対する答えを稲嶺は持たない。

 




読んで頂きありがとうございます。

綾乃珪子の容姿はツインテールではなく肩くらいにかかるミディアムです。流石に社会人でツインテはキツイかな、と思って。

次回からは小田原戦編です。
キリトくんバリバリ活躍!……するのかなぁ。

ではまた次回。
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