図書館交差   作:蹴急

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十六冊目

自惚れていたわけじゃない。

それでも、自分なら何事も卒なくこなせるものだと思い込んでいた。

「くそッ」

悪態をつきながら必死に銃口を良化隊側に向けているのは手塚だ。この小田原での戦いで手塚は和人や堂上とは違い、資料館の屋上に配置された。狙撃の適性があると判断された手塚は度々ライフル射撃の訓練を受け、今回は屋上に配置された四人のベテラン達に混じりここに一人配置されたのだ。

現在、第一便のヘリが到着し屋上に置いてあるコンテナを積むところである。ヘリが屋上との距離を少しでも詰めるために降下し、すぐそばにいる手塚はヘリのダウンウォシュにわ晒されている。どれほど狙いを付けようとしても弾が正確に飛ばない。その為に手塚は無機物を狙いながら、ただ撃ちまくっている。

先程、ヘリが良化隊の妨害で近寄れないでいた時に下にいる堂上と和人が必死に援護していたのを手塚は上から見ていた。憧れの堂上に尊敬の念や賞賛を送ると共に、それに付いて行き見事に自分の仕事をこなしている和人を見て嫉妬を覚えた。けれど同時に、ある言葉が頭に響く。

(いい加減にしなさいよ、全部あんたが一番じゃないと気が済まないの!? 適材適所は貧乏軍隊の基本なのよ!)

思い出してかぶりを振る。適材適所、俺とあいつは出来る事もやるべき事も違う。今、俺のやるべき事はここでコンテナが無事に搬送されるようにする事だ。

……それをすることが俺には出来るはずだろ!

ダウンウォッシュで定まらない銃弾を、必死に良化隊に当たらないよう威嚇射撃をした。

……顔を出すなよ!これだけ撃っているんだ、撃たれたらそれは撃たれたやつの責任だ!ーー桐ヶ谷だけにいい格好させてたまるかッ!

第一便が飛び立ってから約十分経った所で、良化隊が遂に前進を開始した。

それと同時に後退の指示が入る。

「第二防衛ラインまで退避!負傷者を援護しろ!」

第二防衛ラインは資料館の入り口。短い階段により少し高い位置取りを確保できる場所だ。負傷者を抱えた者が先行して後退し、残りが殿を務める。

流石の良化隊も負傷者を運ぶ者に追撃を行わないが、殿を務める図書隊員はその分、激しく狙われた。被弾者を増やすことで確実にこちらの戦力を削ぎに来ている。対して専守防衛を徹底することが旨の図書隊は敵の後退を妨害しないことが原則となっている。

しかし、その制約は戦いの場においてあまりに不条理で、流石の和人もその制約が恨めしく思える。

負傷者を抱え後退する図書隊員を援護しながら、和人は堂上、小牧と連携して第二防衛ラインを目指す。

基本、和人が先行して後退し、それを追うように小牧、堂上と順に下がる。なんとか、被弾することなく第二防衛ラインに着くと防衛している図書隊員の少なさに目を疑った。

……なんでだ!?

そこまで考えて理解した。ここから離れた図書隊員は医療班のいる救護室に向かったのだ。勿論、被弾していない者もいるだろうが負傷者を連れて行ったのは動ける隊員のはず。見たところ始めの人数から半分近く減っており、一人運ぶのに一人が必要と単純に計算しただけでも四分の一は負傷していることになる。まだヘリは第一便が飛び立ったばかりだ。

……後、二つもコンテナが残っている中、この人数で持ち堪えられるのか?不安が頭に過ぎる。

パァン、パァン

「ぐぁっ!」

「ッ!?」

こちらに向かって撃たれた銃声と悲鳴に、思わず塹壕から顔を出して声の方を確認する。まだ、防衛ラインまで下がりきれていなかった隊員が丁度目の前の階段でうずくまっている。意識はあるようだが、動けないとこを見る限り足を撃たれたらしい。

どうするか悩み、上司の意見を聞こうと堂上と小牧を見ると既に二人は役割を決めたとこだった。アイコンタクトだけでやり取りするのは二人が長い付き合い故に出来ることだ。

「堂上二正が回収する!援護射撃用意!」

小牧の合図と共に和人も機関銃を構えた。すぐに号令の代わりに小牧が撃ち始め、和人も後に続く。図書隊の銃声の密度が上がり始めたのを聞いて、堂上が飛び出した。

臆することなく走る足はすぐに倒れた隊員の元へとついた。そこからもまた、手際がいい。倒れた隊員の体の下に肘を突っ込み浮かせると、一気に肩へと担ぎ上げこちらに向かって動き出した。しかし、流石の堂上も人を抱えた状態では動きが鈍った。

堂上がこちらに来る時間がとても長く感じられる。それでも仲間を信じて姿勢を低く保ちながら走る堂上の為に和人は引き金を引き続けた。

弾の入れ替えが必要になりそうなタイミングで堂上が背中の隊員を塹壕に放り投げるようにしてこちらに送った。それを小牧と二人で受け止め容態を確認していると、堂上も転がり込むような形で戻った。

「ハァハァ……員、は、」

息が上がり、潰れるように倒れた堂上の掠れたような声の問いかけは頭が聞き取れなかったが理解できた。

「無事です。新しい被弾もなく、応急処置に今から回します」

「ハァハァ……よし」

他の隊員が救護室へと送るのを確認し、再び前線へと戻る。見ると良化隊の黒い盾の列がさっきまで和人らのいた第一防衛ラインを越えていた。

まだ、救護室へと送った隊員達が戻ってくる気配も無く、歩みを進ませる良化隊の勢いから、ここで戦う時間もそう長くは持ちそうにない。

仲間が一人、一人、また一人と撃たれていく。

倒れる仲間を救護室へと連れて行くことも出来ず、流れ弾に当たらないよう塹壕に引き寄せることしか出来ない。

気付けば、良化隊の銃弾が建物の柱にめり込む程の威力になっている。距離も走れば数秒で縮める事が出来るくらいしか開いていなかった。

「第三防衛ラインへ移動!」

堂上が第二防衛ラインの放棄を宣言する。

「第三防衛ラインまで移動する!負傷者を援護しろ!」

続けて、小牧が移動の合図を出して発泡した。和人は先に下がり、資料館入り口のエスカレーター前へと陣取った。銃を構えて、待っているとすぐに堂上達が来た。その後ろには良化隊員が迫っている。それを見て、思わず叫んだ。

「教官!」

同時に引き金を絞り、堂上の後ろにいる良化隊を足止めする。急な攻撃に良化隊員も思わず足を止め、盾を前に反撃して来た。

エスカレーターという細い道に二人も三人も横に並べない為に和人達は一人ずつ縦に並んで応戦する。

和人が一番低い位置で撃ち、図書隊員が全員通り過ぎるのを待つ。

最後に来た堂上が上がりきったとこで声がかかった。

「下がれ、桐ヶ谷!」

声が聞こえたのとほぼ同時に撃つ手を止め、振り向きエスカレーターを一気に駆け上る。三人ほど抜いたところで足を止めて、また良化隊の牽制を行い、次の隊員が上がるための時間を稼ぐ。早く上に上がりたい気持ちを抑えて、自分の番が来るのを必死に待つ。

しかしーー

「……ガッ!」

再び、和人が一番下になるというタイミングで上がってくる隊員が運悪く被弾した。

ゴロゴロとエスカレーターを回転しながら滑り落ちて行く。近付こうにも目の前の良化隊との距離が近過ぎて助けにも行けない。

……一瞬の膠着状態。

 

それを破ったのは和人の後ろにいた堂上だった。

「佐久間ァ!」

その声を聞いた小牧が機関銃を良化隊に向け発砲する。勢いにやられた良化隊が後ずさり、隊員を助けるための余裕が出来た。そこにすかさず、堂上はエスカレーターの手すりを滑るように降りていく。

「佐久間、来い!」

佐久間を回収すると、一気にエスカレーターを登りきる。エスカレーターでは部が悪いと判断したのか良化隊が攻撃する様子もない。

図書隊が二階のホールに辿りつき、設置してある塹壕や柱を盾にして身を隠す。ここが第三防衛ラインだ。ここのすぐ奥では負傷した者が治療されているはずで実質ここが最終防衛ラインとも言える。

和人は小牧と対になるように柱の後ろに立つ。堂上は負傷した隊員を奥へと運んでいるはずだ。息を整えようと手を胸に当てているとすぐに良化隊がやってきた。

「くそッ!」

悪態をつきながら銃撃する。しかし、良化隊はゾロゾロと増えていき、ホールの入り口が完全に封鎖された。

そこからは一方的な銃弾の嵐だ。図書隊側が撃つ暇もなく、良化隊からの銃撃が続く。塹壕に身を隠している隊員は必死に頭を下げるしか術がなく、柱を盾に立っている和人と小牧もそこから動けずにいた。

「……ッ」

何かないかと必死に考えるがこの動けない状態では手がなさ過ぎた。ふと、小牧をみると耳を抑えている。どうやら通信が入ったらしい。和人の方を見てV字を指で作る。第二便が到着したようだ。


「退がれー!」

 

後ろから堂上が現れた。救護室まで負傷者を運んだ隊員たちと共に、銃を放ち和人達が退がる時間を作る。

気圧され良化隊の手が止まった隙を突き、和人と小牧が床を滑るようにして後方へと向かった。

 

「堂上教官も退がってください!」

 

フロアの奥へと着き

二人を退げる為に前に出た堂上を呼ぶが、堂上は中央の塹壕を盾に引き金を引き続ける。

 

良化隊の攻撃が再開した。

堂上は塹壕から銃だけを出し必死に応戦する。しかし、鳴り止まない銃声が図書隊を追い詰め、このフロアから逃げ出すことさえ許さない。撃ち返すことも出来ない図書隊に向かって、良化隊が歩を進め始めた。

 

銃弾が建物の床や柱を削り、用意した塹壕からは土が弾ける。

徐々に堂上と良化隊の距離があと二メートルといったところで部屋に聞き慣れた声が響いた。

 

「戦闘中止!戦闘は中止!」

 

それは長く苛烈な戦いの終了を報せ、新たな脅威の幕が開くことを告げた。




読んでいただきありがとうございます。

社会人になり研修で執筆できる状況でなかったため、書くのが遅くなりました。
これからまた、再開したいと思います。

では、また次回。
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