図書館交差   作:蹴急

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十八冊目

稲嶺誘拐対策本部から勢いよく抜け出した堂上は武器を取り、駐車場へと向かっていた。

本部から抜け出す時とは違い、歩く速さは段々と早くなっている。

あの場では努めて冷静を装い比較的落ち着いて進言できたはずだ。そう自分に言い聞かせ運転席のドアに手をかける。

 

「堂上!」

 

小牧が車に乗り込もうとする堂上を呼びかけた。しかし、堂上はそれを無視してドアを開く。止まらない堂上を見兼ね、小牧が落ち着かせようと肩に手をかけた。

 

「待てよ、堂上!」

「止めるな!」

 

肩に乗った手を払い、車に小牧を押し付ける。焦りから完全に頭に血が上っているのがわかった。

 

……全く、昔から変わってないんだから。

 

そう思わずにはいられなかった。焦りの隠せていない堂上に小牧は笑って返す。

 

「単独行動は禁止だろ?」

「……ッ!?」

 

不意の発言に思わず身構えてしまうが小牧の皮肉っぽい笑みに登っていた血が下がっていく。

 

「少しは頭が冷えた?」

 

バッ、と乱暴に小牧から手を離した。ようやく自覚したのか後ろに振り向き、ボソリと呟く。

 

「……悪かったな」

「結構長い付き合いだし、これくらいはね」

 

小牧の言葉に思わず小さな笑いが溢れる。今の自分の心境を読み取られていたわけだ。気恥ずかしさと共にこいつでよかったと感謝する。

 

「堂上教官!」

 

逃げるように黙って車に乗り込もうとすると、別の声が堂上を呼び止めた。振り返るとそこには黒髪の青年が息を切らして立っている。

 

「桐ヶ谷!?お前……」

 

和人が二人の後を追ってきたようだ。どうしたのか尋ねる前に和人が恥ずかしそうに頬をかいた。

 

「……その堂上教官が心配になって」

 

部下にまで心配をかけたことに自分がどれほど周りを見れていなかったのか痛感させられた。部下一人を失いそうになってここまで周囲が見てなくなるとは上官失格だなと肩を落とす。

そんな堂上を見兼ね、小牧がフォローした。

 

「桐ヶ谷くん乗って!行くよ、堂上」

「はい!」

 

小牧が運転席に座り、気を落としている堂上を助手席に促す。和人が後部座席に座るのを確認すると、車は立川に向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小綺麗だが使用されている様子のない五階建てビルの一室に稲嶺と郁は連れてこられていた。ここも良化法が成立してから閉店に追い込まれた書店の一つなのだろう。

 

部屋にはいくつものダンボールが散乱と積み立っている。ダンボールと一緒に大量の本も散らばっていた。窓はあるが全て閉じられていて外の様子は今が夜であるということしかわからない。

 

今、この場で郁達を監視しているのがリーダーらしい人物も合わせて六人いる。郁もはじめは隙をついて銃を奪い、逃げることを考えたが稲嶺の誘拐を試みた麦秋会と名乗る連中は郁が見たところで十人以上いることはわかったので諦めた。その中を車椅子に乗る稲嶺を守りながら逃げるのはどう頑張っても無理だろう。どうせ彼らは図書隊に対して何らかの交渉をするし、交渉が始まれば図書隊は必ずなんとかする。それまで状況を悪化させず稲嶺に付き添うことが郁の役割だ。

 

 

 

図書隊への電話で郁は通話時間を引き延ばすことに失敗したものの、伝言が残せたことで肩の荷が下りた。もっと引き延ばせればよかったのだろうが、玄田達ならあの伝言で柴崎を呼ぶだろう。それに柴崎なら絶対に気付く。

 

……立川っていうのは残せたけど、この後どうしよう。

 

手がかりを残せただけで、この後をどうすればいいのか郁には思いつかない。視線を動かすとダンボールを椅子がわりにしている稲嶺が不意に足元に屈み、ズボンの裾に手をかけていた。

 

どうしたんですか、と郁が声をかけるより先に犯人の一人から恫喝が飛んだ。

 

「何をしている!」

 

屈んだ稲嶺の後頭部に拳銃のグリップをこじった男に、危うく郁は自制を飛ばして飛びかかるとこだった。

だが稲嶺は激する様子もなく、屈んだ姿勢から男を見上げる。

 

「義足を外したいのですが。車の振動で装着部がずれたようで非常に痛い」

 

男が舌打ちをして郁を顎でしゃくった。

 

「その女にやらせろ」

「お願いできますかな」

 

稲嶺に訊かれて郁は頷いた。元々そうした手助けのためについてきている建前だ。

 

「義足は外したことがないので指示してください」

 

稲嶺の指示のもと、郁はゆっくりと義足を外した。

 

 

 

 

「稲嶺司令の足が外れました!」

 

持ち込んだ端末を監視していた明日奈の声が室内に響いた。

 

「何ッ!」

 

玄田以下、全隊員が色めき立つ。

ついて行けずに戸惑っている刑事たちに柴崎が説明した。

 

「司令の義足はある手順で外すと発信機が作動する仕組みになってるんです」

 

刑事たちが唖然とする合間にも図書隊側では状況が次々と明らかになる。

 

「立川市郊外の番地。三ヶ月ほど前に閉鎖された大型書店ビルです。現在は新たな集合ビルの建設予定地となっています」

「堂上に通信を繋げ」

 

呆気にとられる警察陣のなか、警官の一人が通信を繋げるよう指示した玄田に駆け寄る。

 

「待て!場所がわかったんなら警察が出動する!」

「ここから先はうちの流儀でやらせてもらう」

 

玄田が交渉の余地のない口調で宣言するが、警官は引き下がらない。

 

「捜査中に勝手に動かれるわけにはいかん!」

「捜査はあんたたちが引き続いてやればいい、我々は司令を救出するだけだ」

「救出ならうちにも六機がいる!警察に任せろ!」

「悪いが」

 

玄田は声を荒げず、ただ明確に事実を述べた。

 

「あんたたちがどこかで日和らんと信じられるほど我々の間の歴史は幸福ではなかったはずだ。違うか」

 

警官は頬を打たれたような顔をした。やがて苦しげに目を伏せる。まだ取り返させてはもらえないのか、と玄田に届くかどうかはどうでもよさそうな低さの呟き。

 

「図書隊は今回あんた方が尽力してくれたことを覚えておく。取り敢えずはそんなところで手を打ってもらえんだろうか」

「しかし、図書隊の発砲権は図書館内のみの筈だ」

 

発泡権の施設外延長申請は手続きが複雑で、事前準備が必要だ。

それに対し、我々の流儀でやると言ったはずだ、と玄田は不敵に笑う。

 

「図書館にすれば問題あるまい。本屋丸ごと買い取れ、なんなら向こうの言い値で構わない。急げ!」

 

無茶な指示に警官は口を開くしかなかった。だが図書隊員たちは一向に戸惑う様子もなく、一斉に手配に動き出す。

 

「無茶苦茶だ!」

「無法は無茶で叩き潰すのが図書隊の流儀だ」

 

唖然とする警官に向かって、玄田は厳つくニヤリと笑う。それとほぼ同時に明日奈が凛とした声でマイクに向かって声をかけた。

 

「堂上さん、こちら本部です」

 

堂上との通信が繋がった。

 




読んで頂きありがとうございます。

短い上に話が進まなかったですが、警官とのやりとりはどうしても入れたかったのです。

次回は突入します。
では、また次回。
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