図書館交差   作:蹴急

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二十冊目

「焼却の準備はできましたか?」

 

麦秋会のリーダーが携帯越しに話しかける。向こうの声は聞こえないが、相手はきっと玄田だろう。

 

図書隊が本を燃やすなんてことはあり得ない。決して稲嶺が人質だろうと燃やせば、稲嶺の想いも何もかも一緒に燃やす事になる。それにあの人のことだ、何かしら皮肉めいた事を言って時間を稼ぐ筈だ。

 

「そうですか。……よく聞いててください」

 

リーダーは携帯を稲嶺の方へと向けた。そこから流れるように銃を取り出し、稲嶺の足を撃ち抜いた。

 

「ぐぅぁぁあああ」

「司令!」

 

撃ち抜かれた左足を抑え、稲嶺が絶叫した。

郁は撃たれた箇所の止血をしようと稲嶺の手の上から足を抑える。

リーダーが携帯を口元にやって、再度通告する。

 

「今すぐに焼却を始めろ。次は右手だ」

 

再び銃を構えたリーダーを見て、郁が稲嶺の前に立つ。

 

「退け、それとも撃たれたいのか」

「撃ちたければ撃てばいい。私たちはそんな暴力には絶対に屈しない」

 

稲嶺を自分の目の前でもう一度撃たせる訳にはいかない。私に託された仕事は稲嶺の介助と護衛だ。それだけは真っ当しなければ、後で堂上に会ったとき合わせる顔もない。

 

強い意思を持って、リーダーの前へと歩く。リーダーは表情一つ変えることなく郁を狙う。

 

「もう介助の必要はない」

 

銃で撃ち抜こうとした瞬間、郁が銃を持つ手を下から抑え、相手の腕ごと背後へと回る。周囲の人間が郁を撃とうと銃を構えるが、リーダーを盾にして牽制する。

 

「動くな!」

 

……これでもう少しは時間が稼げるはず。

少しでもこの状況を維持しつつ、みんなが救出に来るのを待てばいい。

 

周囲が撃つのを躊躇い、少しの沈黙が訪れる。しかし、それはすぐに破られた。

 

「……うッ」

 

リーダーが抑えられた手とは逆の手で郁の顔面を殴り、怯んだ隙に郁を床に落とした。

抵抗する間も与えず、お腹を蹴り、腕を足で抑えつけると銃を郁に向ける。それを見て思わず稲嶺が叫ぶ。

 

「やめないかッ!」

「公序良俗を乱す図書館は罪深い存在である」

 

……あぁ、ここまでか。

 

出来る限りのことはやった。だけど力不足だった。今になって堂上からの言葉が思い出される。

 

戦力外。少しでも見返してやろうと思ったけどもう無理だ。

 

流石にこの状況では抜け出せないと、半ば諦め半分で銃から目を逸らした。

その時、

 

ダダダッダダダダダッ

 

部屋の外から銃声が聞こえてきた。周囲の目線が郁から扉へと移る。しかし、そこから再び銃声が聞こえてくる気配がない。

痺れを切らした一人が扉へと向かい、手をかけた。

 

「待て、開けるな!」

 

何かを感じたリーダーが、郁の腕を踏んでいた足を離した。しかし、リーダーの指示は間に合わず、男が扉を開けるとそこからコロコロと何かが転がってきた。

 

……スタングレネードだ!

 

「笠原!」

 

転がってきた物の正体に気付いたと同時に自分の名前が呼ばれ、その場から動き出して稲嶺の元へと走る。目をスタングレネードから逸らし、耳を塞ぐことも忘れない。

 

麦秋会の人達の中央付近でスタングレネードは爆音と閃光を放った。煙が上がり部屋を一瞬で白く染める。後ろから銃声が鳴り、何人かの呻き声が聞こえてくる。

 

そんな中、稲嶺を支えていると後ろから肩を叩かれた。振り向くと先ほどの声の主が敵に顔を向けて立っていた。

 

……堂上教官、来てくれたんだ。

 

堂上とは別の人が稲嶺の背後にやってきた。マスクで顔が隠れているが、それが小牧であることはすぐにわかった。小牧からの視線を受けて、郁は稲嶺の肩から手を離し告げる。

 

「司令、行きましょう」

 

スタングレネードの爆音から耳を守れなかったのか、耳を抑えている稲嶺を小牧が前に立って背中に乗るように促す。

 

……絶対にここを乗り越えて、堂上教官に伝えてやる。私の今の気持ち!

 

決意を胸に秘め、小牧の背中に稲嶺が乗ったのを確認すると四人は部屋から抜け出した。

 

 

 

 

 

遡ること数十分前……

和人達は車内で稲嶺救出作戦の大まかな流れについて話し合っていた。

 

「三人で動くとなると、一人は別で動いた方がいいな」

「なんでですか?」

「想定だが身柄を確保するまでならそれほど難しくはない。問題は司令と笠原を助けてからだ」

 

堂上は認識を共有する為に和人に説明を始めた。和人も頭の中でシュミレーションしながら理解していく。

 

「まず、二人共が大きな怪我もなく普通に助ける事が出来た時だ。これが一番理想だが、この状態でも問題はある。司令が単独では動く事が難しい点だ」

 

言われて納得した。基本的な生活を車椅子で過ごしている稲嶺が走って逃げる事など出来るわけもない。自力で動けても車椅子での移動が限界だ。しかし、一刻を争う状況では車椅子での移動など敵にすぐ追いつかれてしまう。

 

「だから、一人が司令を背負う。それで司令の移動を賄う」

 

それならば稲嶺の移動という点は解決できる。けれど稲嶺を背負うということは、運ぶ人は言わば無防備な状態になり、戦闘など出来るわけがない。いくら痩せ体型の稲嶺でも片手で背負うなど不可能だ。両手が塞がった状態では拳銃を持つ事も難しい。

 

「でも、そうなると敵を牽制出来るのが一人だけにならないですか?」

 

そんな和人の発言に堂上は呆れた口調で返す。

 

「何を言ってる?助けた状況なら笠原もいるだろうが。そうなったらあいつも戦闘員だ、決まっているだろう?」

 

……あっ、笠原のこと完全に忘れてた。

 

「ったく、あれだけ俺に抗議していながらお前が笠原を頭数に入れてなくてどうする?」

 

フッと小牧が小さく吹いた。自虐染みた堂上のセリフが僅かにツボに入ったらしい。

 

しかし、言われてみれば当たり前だ。怪我もない状況なら郁を戦闘員側に数えるに決まっている。稲嶺と郁を助けに行くという事から郁も戦える事が頭から抜けていた。

 

そうなれば稲嶺を中心に前後に戦闘員を配置して逃げることができる。室内なら前後を基本的に注意していれば何とかなるはずだ。急にポップするモンスターはいないのだ、壁をすり抜けるとかはないだろう。

 

「それなら残りの一人はどうするんですか?目的は稲嶺司令と笠原の救出ですし、それこそ人数をかけた方がいいんじゃないですか?」

「そこなんだがな。もしどちらかが大きな怪我をしていた時に動きを変えたい。どちらも怪我が無く、すぐに治療が必要というわけでも無ければそのまま書店を出ればいい。だが銃などで撃たれていた場合だ。その時はどこかで治療する時間がほしい」

 

戦闘が発生するのだ簡単に書店から抜けれるならいいが敵もそう簡単に逃げ出させてくれるはずがない。少なくとも図書隊の仲間が駆けつけてくるまでは、逃げ回らなければならない。

 

そんな状況で治療もせずに動けば助け出せたとしても命の危険性は高くなるはずだ。

 

「救出直前で判断するが、笠原が負傷しているようなら三人で救出に向かう。治療出来そうな箇所を見つけ次第、一人が囮になって治療のための時間を稼ぐ。笠原に怪我がないなら笠原ともう一人を残して二人で陽動する。単独行動する奴は基本的に陽動だ」

 

突発的な作戦だ。細かい所までは決められないが大まかな役割を決定することくらいしかできない。

 

「それで誰がどの役割をするかだが、小牧に司令を運ぶ役を任せる。俺と桐ヶ谷じゃ背が足りないからな。小牧なら背負いながらでも周りを見渡す余裕くらいはあるだろう」

「わかった。任せてくれ」

 

小牧が二つ返事で了承した。人を背負うとなると高さがあった方が良いだろう。和人もそれに賛同する。決して運ぶ自身がないとかでは無い。断じて無い。

 

次に陽動をする役を決める訳だが、これが一番危険だ。陽動という事は敵の注意を自分に向けなくてはならない。生半可な逃腰では務まらないだろう。しかし、敵の注目を集めるといことはそれだけ狙われることになる。

 

……きっと堂上教官なら。と考えていると堂上が口を開いた。その言葉は和人の予想通りのもので。

 

「……それで陽動だが、俺がしようと思う。敵の前に出ることになるから危険度が一番高いし、それに」

「待ってください!」

 

和人が割り込むと堂上が口を止め、和人の方へと振り向いた。

 

「陽動は俺がやります」

「ダメだ、危険すぎる。俺ならまだ上手く立ち回れる。桐ヶ谷には荷が重い」

 

言うと思っていたのだろう。すぐに反論が来る。けれどここでは引けない。

 

「危険ならどの役割も一緒です。それに救出する方はチーム行動ですよね?それなら俺よりも堂上教官が救出に向かった方がいいです。チームに指示を出すなんて俺にはまだ出来ないですし、笠原が暴走したら俺には止められません」

「っ……だけどな」

 

郁の暴走という発言で堂上が言葉に詰まった。郁がそうならないと言えないのだろう。けれど、陽動の役を譲ろうとしない。唸る堂上に運転中の小牧が声をかける。

 

「堂上」

「なんだ?」

「信じてあげればいいんじゃない?さっき笠原さんの時にも言ってただろう。もう少し自分について来てくれる部下を信じなよ。それに笠原さんの救出に向かいたいんだろ?」

「…………」

 

少し押し黙るとすぐに和人の方へと向き直った。決意が固まったようだ。

 

「……無理はしなくていい。自分のできることだけをやれ。それとヤバイと感じたらすぐに逃げろ。それが条件だ」

 

告げるとまた前へと体を向けた。後ろからでも堂上がしかめっ面をしているのがわかる。

 

「はい!」

 

和人はそれに威勢良く応える。

そして前を見ると、稲嶺と郁が捕らえられている大型書店があった。

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

小田原線編、もう少しお付き合いください。
これが終われば少しずつ原作と変わっていく部分が多くなっていきます。

では、また次回。
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