図書館交差   作:蹴急

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半年近く空いてしまいましたが、のろのろと更新していくのでこれからもよろしくお願いします。


二十一冊目

役割の失った棚と紙の束があちらこちらに散らかっているフロアを和人は掻き分けていく。弾けるような金属音が耳を過ぎると同時に前の紙束が宙を舞った。

 

反射的に撃たれた方とは反対側へと、走る方向を変える。目の前にはいくつもの棚と本が積まれた机が散乱していた。それらで影になるよう体を屈め、時には飛び越え、左手の拳銃を追っ手に向かって放つ。追っ手を自分に集めるため、和人はできる限り暴れながら逃げていた。

 

自分の放った拳銃に対して、向こうから放たれてくる銃声から推測して、追っ手の数は多くて五人。この状況で把握できたのはそれだけだ。

 

……もっと引きつけないと陽動として足りないか。

 

出来れば十人くらいは引きつけたかった。多分、他の追っ手は堂上達の方へと向かっているのだろう。このままでは堂上に啖呵を切った意味がない。

 

……やるしかない。

 

グッと右手の警棒と左手の拳銃を強く握り締め、振り返った。目に見える範囲に追っ手は三人。右から順に近いのを確認すると、最も近い敵へと銃を二発。

 

ぐぁッ、という呻き声と共に崩れ落ちる。後ろ側に立っていた追っ手が焦るように和人に照準を合わせた。

和人は倒れた敵へ素早く向かい、敵の体を盾に追っ手二人の隙を誘う。

盾にした男の体がデカイため、小柄な和人の身はほとんど隠れていた。

 

「くそっ……」

 

その躊躇いがこの場では決定的な勝敗を分ける。手前の一人を、盾代わりにした男の隙間から撃ち抜く。三発、身体に命中し手前の男は倒れた。

和人は手前の男が倒れると同時に盾にしていた男をその場に置いて、奥の追っ手に向かった。

距離は五メートルほど、追っ手は和人に向かって引き金を引く。しかし、焦って放たれた弾丸は和人に命中することなく空を駆ける。

次弾を放つため照準を合わせようとするが、和人の方が速かった。

右手の警棒を斜めに構え、敵の手首に向かって振り下ろす。

 

「らあぁぁッ!!」

 

手首に来た強打に相手が銃を落とした。和人は警棒を振り下ろした反動でその場で回転し始め、銃を持つ左手に力を込める。自分の左手と最後に見た相手の顔の位置を合わせるようイメージする。回転が丁度一周する瞬間、相手の顔面めがけて、力の込めた左手の甲を叩き込んだ。

 

「んぐぁっ!」

 

相手の悲痛の声と共に血飛沫が舞った。先程の裏拳が鼻に決まったのだろう、鼻から血がポタポタと滴り、手で抑えている。

相手の集中が切れている時を見逃さず、和人は警棒を大上段に構えた。

 

「うぉぉおッ!」

 

脳天に重たい一撃が振るわれ、三人目の追っ手は気を失った。倒れたのを確認しようと目を向けると背後から大きな物音が聞こえ、反射的に振り向く。残り二人の追っ手がいた。

 

二人同時に銃を構えたのを見ると、数瞬遅れて和人も左手で引き金を引く。銃弾が飛び交い、和人の弾丸は運良く片割れに命中して倒れたのが確認できた。

 

「うっ……!?」

 

しかし、男が倒れたのとほぼ同時に左腕を鋭い痛みが襲う。痛みの反動で和人も手に持っていた拳銃を落としてしまった。

拾う間も無く、銃弾が和人に向かって飛んでくる。右手で左腕を抑え、急いで近くの柱に身を隠した。

 

「……ハァ、ハァハァ……ッ!」

 

痛みで呼吸が乱れる中、銃声が止んだ瞬間に和人はすぐに飛び出した。

痛みで怯んでいると思っていたのだろう、悠長に弾丸の再装填をしていた追っ手は目を見開いた。

 

「ハァァァア!!」

 

気合いを迸らせ、追っ手までの距離を一気に詰める。

 

追っ手は気迫に圧倒されたのか、再装填が上手くいかず、一回、二回と上手く嵌め込めずにいた。三回目でようやく嵌ったが、既に和人は目前に迫っている。

 

銃を構え、引き金を引くと同時に銃を持っていた手が上へと弾けた。懐から見えた和人の顔は鬼気迫るもので、それだけで敗北を悟る。

 

「ハァァァッ!!」

 

脇に一撃、続けて肩、最後に首筋を打たれて男は意識を失った。

 

和人は男が倒れたのを見て、警棒を背中へ持っていく。そこまでして、あっ、と気がついた。誰もいないと思いつつも、つい頬を掻いて紛らわしてしまう。

 

……抜けないなぁ、この感覚。訓練中は無いんだけど。

 

そんなことを考えつつ落とした銃を探し、戦闘で本の紙が散らばったフロアの中を歩き回る。

 

……早く、堂上教官達の方に向かわないと。稲嶺司令が怪我をしているから、多分まだ建物内にいるはず。

 

作戦は想定内で進行している。堂上達が稲嶺と郁が拉致されている部屋に入る直前、銃声と共に稲嶺の悲鳴が聞こえ、建物内で稲嶺の治療をすることになった。部屋から離れた所で和人は銃声を響かせ、近くの敵をおびき寄せた。

そこからは堂上達が通るであろうルートから離れ、出来る限り追っ手を集めていた。

救出してからそれほど時間も経っていないはずなので、まだ稲嶺の治療をしていると思われる。

 

和人は銃を見つけると、拾おうとして左手を下げた。

 

「ッ……」

 

自分が被弾したことを痛みと共に思い出した。腰に巻いているポーチから包帯を取り出して、腕の撃たれた箇所をきつめに縛って止血する。

 

「……これで良し!」

 

片手で巻いたわりにはキレイに出来た方だろうと自賛し、銃を拾いなおす。軽く握り、感触を確かめると、追っ手を引きつけるために辿った道を走って引き返し始めた。

 

散らばった本や棚の障害物を避けながら、建物内をしばらく走る。他の追っ手と出会すことなく、すぐに堂上達と別れた地点までは戻ってこられた。

 

「……やっぱり誰もいないよな」

 

部屋はもぬけの殻で、人が居たことはわかるがこの場に留まっている者は居なかった。

作戦で決めた逃走ルートを頭の中で思い出しつつ、あたりを警戒しながら堂上たちの後を追う。

 

階段を降り、中央ホールに着くと散らばっている棚や本から戦闘があったことがわかった。見渡すと何人か倒れている人がいる。綺麗に意識を刈り取られており、起きる気配が全くない。やったのは堂上だろう、流石だ。

 

「……って呆けている場合じゃない!」

 

堂上が戦闘しているということは自分の囮としての役割が不十分だということだ。こんな所で油を売っている暇はない。

 

パァンッ!

 

急いで堂上達の元へ向かおうと駆け出した瞬間、和人のいた場所に銃弾が飛んだ。

 

「なっ……!?」

 

銃声に思わず振り向き、近くにある柱に身を隠す。すぐに身を隠したからか追撃はこない。小さな音も逃さないように、耳をすますと一人分の足音が聞こえてきた。散らばった紙を踏み、確実にこちらに向かってきている。

 

「……Hey」

 

発音が日本人のものではないのが、それだけでわかった。耳に残るような低い声で、ゆっくりと近付いてくる。

 

「下に車が停まっていたから戻ってきてみたが、これは随分と派手にやってるなぁ。こいつは全部あんたがやったのか?図書隊も案外やるじゃねぇか」

 

こちらを完全に甘くみている余裕ある口調は外国人だからなのか、それとも本当に見下しているのかわからない。それでも身を隠してしまった和人は靴音と話し声から相手の位置を予測する。

 

……ギリギリまで引きつけて、一気に片をつけてやる!

 

「隠れてないで出てきたらどうだ?日本に戻って来たのはいいが、どうも退屈でな。久しぶりに楽しみたいんが、お前はどうだ?」

 

……まだだ、まだ遠い。

 

「照れ屋さんなのか?ハハッ、日本は恥ずかしがりの性格が多いみたいだが見たところあんたもそうなのか」

 

……あと少し、あと少しでいい。

 

息を潜め、敵が来るギリギリまで待っている和人に対して、男は話しを止める気配はない。一歩一歩、和人のいる柱まで一直線に進む男の声がかなり近くに聞こえ始めてきた。

 

「いい加減返事をしてくれてもいいんじゃないか?流石に俺だけ喋るのは不公平だ。あんたも最後になにか言ってみたらどうだ?」

 

言い終わると同時に男の足が止まった、その瞬間に柱から身を出して、痛む左腕で引き金を引いた。

 

「なっ……!?」

 

男はフードを被っていた。そのフードが和人の放った銃弾によって一瞬、後ろへ引かれるとほぼ同時に男は後ろへ飛んだ。

 

「WAO……いい一発を撃つじゃねぇか。俺じゃなきゃ、一発で終わってただろうな」

 

男はずれたフードを戻し、肩を竦める。

当てた。と思ったのが、いとも簡単に避けられた事実に和人は銃を構えたまま、その場で硬直した。

 

「…………」

「おいおい、姿を見せてからもダンマリかよ。これじゃあまったく楽しめ…………ぁん?」

 

フードの中から目があったと思った時、男の声が止まった。和人の顔をよく見ると、そこから手や足に目線が合うように顔を動かす。

 

「……オマエ、その顔にその構え……ハ、ハハッ、ハハハハハッ。これは偶然か!? 運命か!?いや、どちらでも構わねぇ。こうしてまたオマエと出会えるなんてな!神に感謝しなきゃならねぇ!」

 

……俺のことを知っている!?

 

和人を見て、高らかに笑う男は口を大きく歪ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

では、また次回。
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