図書館交差   作:蹴急

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四冊目

図書特殊部隊に配属され約二ヶ月、奥多摩での実地訓練を終えた和人は二日の休暇で久し振りに実家へと帰っていた。

 

「お兄ちゃん、そんなとこでボサッとしてないで少しは家の手伝いしてよ」

「スグ、俺は一ヶ月半近くも森で過ごしたんだ。だから、それの代償に今は休みを貪る必要があるんだ」

「久しぶりに帰って来たと思ったらこれだもん、……私と遊んでくれたっていいのに」

「? スグ何か言ったか?」

「何でもない!」

 

ぷいっと顔を逸らす直葉に和人は首を傾げる。直葉は台所に立つと和人に話しかける。

 

「それで図書隊の訓練ってどんなのだったの?」

「それがさ、かなり厳しくって。ヘリから降下する訓練があってさ……」

「へぇ〜」

 

和人は暫くぶりの帰省を満喫していた。

 

 

 

奥多摩での訓練が終わってからの初出勤日に和人は予習を兼ねて書庫に来ていた。

中に入ると勤務時間前だというのに小牧と手塚が出勤していた。

 

「おはようございます、小牧教官」

「ああ、おはよう。早いね」

「今日が初の図書館勤務ですから寝付けなくて……」

 

隠れて予習をしようと思っていた和人は見つかったことに少し羞恥して言葉を濁す。

 

「そうか、じゃあ先に教えておこうかな。手塚も最初から教えるけどいいよね」

「はい」

 

書庫の配置を教えると小牧は書庫を出ていき、この場に手塚と和人の二人となった。

 

「…………」

「…………」

 

無言で書庫の配置を再確認する二人の間には気まずい空気がやんわりと流れていた。

何か話しかけなくてはと思い、和人はここにはいないもう一人の新人、笠原について手塚に聞いた。

 

「手塚ってさ笠原さんのこと、どう……思………う……?」

 

と言ってから和人は自分が話題選びを間違えたことに気付く。

奥多摩での訓練から見ても二人の仲は最悪。それを知っていたのにこの話題をチョイスした自分を恨んだ。

恐る恐る手塚の顔を伺うと案の定しかめ面であった。

 

「別にあいつのことはどうでもいいよ」

 

手塚は以前にも上官から似たような事を聞かれていたのでスッと答える。

しかし、和人はそんな訳はないと思いつい言葉に出す。

「いやいや、嘘だろ?あんだけ罵詈雑言が言えるんだ、興味が無いなんてあり得ないだろ?」

「さぁな。お前から見たらそう見えるだけかもしれないな」

「そうかよ……それにしてもここの書庫にある本の量多すぎないか?」

 

いくつもある棚を見て唸る和人。

 

「ここら辺の図書館で一番大きいんだこれくらい普通だ」

「そうだろうけど、この本の中からリクエストの本探すんだろ?五人で回るのか、新人が三人もいるってのに」

「実際、上官達は回してる。それに書架の番号とか覚えていたら五分で見つかる。堂上二正達ならそれでも遅いくらいだろうな」

 

それを聞いて和人はとりあえず足手まといにはならないようにと心掛けた。

 

しかしそんな心構えだけでは足りなかったかもしれない。

閲覧室のカウンターから発信されるリクエストはアラームと共に書庫の端末から帳票印刷されて吐き出される。

それを一枚取っては本を探す。一件の出納に五分で見つかると思っていたが始めはそれを超えてしまった。

夏休み終盤ということもあり、児童や学生の利用が集中してリクエストが倍増している。

堂上以下五人しかいない状況の中、郁が完全に足手まといとなっていた。

 

「ごめん手塚、756って何番書架?」

「工芸三十番台! お前いい加減にしろよ、工芸さっきも訊いただろう⁉︎」

書庫内に飛び交うのは郁の質問の声と手塚の苛立って怒鳴る声だけだ。

和人も出来ることなら郁のフォローをしてあげたいが、なんせ自分の所だけで手一杯だ。

リクエストが切れたタイミングで小牧から集合の声がかかった。

クーラーが効いてきる書庫内にも関わらず、堂上、小牧、さらに和人は汗をかいていた。

郁が戦力にならない分、さらに手塚はその郁の相手で能率が下がっている分、堂上と小牧がカバーしているのだ。和人も出来るだけ二人を助けようと奮闘しており時間が経つにつれ同じ分野の本ならばかなりの速さで出納していた。

しかし、それでも書庫に帰ってくる本のチェックや配架、電算処理は止まっていた。

 

三冊の本が差し戻されていて、それに対し手塚が郁の責任だと言及した。口論になるが完全に郁が縮こまり、手塚の罵声だけが残っていた。

「とにかくこのメンツで書庫をどう回すか、ですね」

 

和人が場の雰囲気を変える為現状の問題点をあげる。

 

「ちょっと早いが他館取り寄せリクエストを回してもらう、笠原はそれを担当しろ。夜便に乗せる分だから時間は気にしなくていい、その代わりに書庫の配置をきちんと覚えろ」

 

はい、と答えた郁の声は僅かに潤んでいた。

堂上が閲覧室へのインターフォンに向かいやり取りを終えてしばらくすると、書庫の扉がノックされた。

 

「ちわーっす、伝票お届けにあがりましたぁ」

 

言いつつ帳票の束を軽く振って現れたのは柴崎であった。

柴崎麻子は郁の寮での同室相手である。

身長は一五七㎝と郁とはかなりの差があるが、和人の同期の仲でも郁、明日奈に次ぐ、かなり有名な女子である。

 

「いやーん堂上教官お久しぶりですー! 訓練終わったのに一回も会いに来てくれないんだもん、寂しかったぁ!」

 

どこから声を出しているのかと疑うような猫被り声に和人に郁、さらに手塚も度肝を抜かれた。

しかし、当の堂上は微妙に表情が渋く、苦手なようである。

 

「何か書庫大変見たいですね、良かったら手伝いますけど」

「いい。 カウンターも戦場だろう、今日は」

「堂上教官の為なら向こうなんて打ち捨ててきますよ!」

「いい……本気でいらん!用が済んだらさっさと戻れ!」

 

はぁい、と悪びれず肩をすくめた柴崎は郁の方に駆け寄り腕を組んだ。

 

「ついでだからコイツちょっと借りますね!」

「え、ちょっと柴崎!」

「昼ごはんまだでしょ? 付き合いなさいよ」

「あたしまだ仕事がっ……」

助けを求めるように堂上を見るも、堂上は追い払うように手を振った。

 

「ついでに俺と堂上の分の昼飯何か買ってきて」

 

小牧の声を背に、郁は柴崎と書庫を出た。

 

「桐ヶ谷と手塚も昼飯を食ってこい、一時間だけ俺と小牧で回しておく」

「わかりました」

「え……は、はい」

 

堂上の計らいで和人と手塚も昼休みを取ることになり、書庫を後にした。




読んで頂きありがとうございます。

次くらいでやっと和人の戦闘シーンをかけるかもしれません。
さて和人の戦闘スタイルはどうしましょうか。

では、また次回。
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