「結城さん、こんなところでどうしたの?」
柴崎はエレベーター前で本を運んでいる明日奈と出くわしていた。
「あ、うん。副館長に『望ましくない図書』を館長室に届けるよう言われて。今から届けるところだよ」
「何かあるの?」
副館長には蔵書隠蔽の一件は伝わっていないはずなので、何かあると柴崎は考えていた。
「館長代理に教育委員会から来客があったらしくて、『望ましくない図書』の貸出制限がないことについて現物を見ながら話し合いたいんだって」
「へぇ、こんな時間に来るなんて珍しいわね」
普段ならそういったことは夕方前には来るのだが、今回は閉館間際の時間帯であるので、かなり珍しい。
「それって複本までいるの?」
「それ私も聞いてみたんだけど、複本まで見たいって要望があったみたい」
「そっか……私ももう業務は終わってるからよかったら手伝おうか?」
エレベーターが使えると言ってもこの量だ、それに二人でやれば早く片付く。
「いいの?」
「もちろんよ」
「ふぁぁ」
「桐ヶ谷、何ボサッとしてるのよ」
閉館時刻か近づくにつれ書庫で業務をしていた和人達は暇になってきていた。
「いや、もうリクエストもないし。それに配架も電算処理も終わったしさ」
「それなら私の手伝ってよ」
「それ笠原が堂上教官に頼まれたやつだろ?手伝って怒られるなんて俺は嫌だ」
郁は堂上に本のチェックを頼まれていた。
堂上曰く、これが閉館前に出来れば一人前、らしい。
そういうことで和人は郁の申し出を渋った。
「それより早く終わらせないと、あと三十分で閉館時刻だぞ」
「わっ、ヤバい!」
ドタドタと郁は返却された本のチェックに向かった。
なんとか閉館時刻前には終わった郁は最後まで書庫にいた和人に礼を言った。
「待っててくれてたんだ。ありがとう」
「別に俺も仕事を放っていく訳にはいかなかっただけだよ。それじゃあ、もう閉館するし帰るか」
と書庫から出ようとした時、館内に非常ベルが鳴り響いた。次いで、切迫した館内放送が響く。
『哨戒中の警備より入電、良化特務機関が当館周辺に展開中! 総員至急警戒態勢に着け! 館内に残っている利用者は至急館外へ退去してください!」
「笠原!」
「桐ヶ谷!」
二人は同時に顔を見合わせると急いで持ち場へ向かった。
明日奈と柴崎が実務に携わるようになってから初めて遭遇する良化特務機関の襲撃である。
柴崎は一瞬思考が停止していたが明日奈の「柴崎さん!端末のロックをしないと!」という声で我に返る。
端末のロックを終えると明日奈が、指示を出すはずの副館長がいないことに気づいた。
「館長室で教育委員会が会談をしています!」
「副館長が避難誘導する! 退避!」
指示されて走り出すも柴崎が立ち止まっている。
「柴崎さん⁉︎ 早く避難しないと!」
「ごめんなさい!」
一足遅れて柴崎と明日奈も二階の防護室へと向かった。もう玄関と裏口では小競り合いが始まっていた。
渡り廊下の走る時、柴崎の目に非常階段を上っていく良化隊員達が映った。
「もしかして⁉︎」
「柴崎さん、どこ行くの⁉︎」
「すぐ戻るから!結城さんは先に向かってて」
明日奈の制止を振り切った柴崎の向かった先は非常ベルだ。
閉館時刻前に教育委員会が『望ましくない図書』を全部集めて話すのはこの為だとしたら。
あの本達の中に検閲対象の図書があるとして、教育委員会と良化委員会の間で取り決めがあったとしたら?
非常ベルにたどり着いた柴崎はインターフォンを上げた。館内放送へ回線を繋ぎ、
「業務部より、敵の本命は館長室です!」
それだけ怒鳴るやインターフォンを切り、柴崎は今度こそ防護室へ避難した。
「堂上教官!」
「桐ヶ谷か、笠原と手塚は⁉︎」
「今、持ち場に向かっているはずです!」
正門で良化隊員達の猛攻を防いでいる場に和人は配置された。
特殊防衛員といっても新人の為、最も防御の固い地点に采配されたのだ。
「よう桐ヶ谷、遅そいじゃねえか」
「日向か、それに裕司と大山も」
防衛員である彼等は和人よりも先に持ち場で交戦していた。
四人の手にはそれぞれ、9㎜機関けん銃がある。
簡易防壁を背に四人が集まった。
向こうの嵐のような銃撃を堪え隙があれば和人達も威嚇射撃を繰り出す。しかし、この状況を訝しんだ和人が呟いた。
「相手の動き何か可笑しくないか?」
「やっぱり和人もそう思う?」
裕司が横で弾を装填しながら同意した。
「どういうことだ?」
首を傾げる日向に和人が答えた。
「妙に自分達に意識を集中させようとしているんだよ」
そういって正門から離れた方を指差す。
「ほら、相手の銃弾が向こう側まで行ってる。普通なら一点集中して狙うのが定石だろ? その方が戦力を分散させなくていいし、一度に前に出る人数も少なくて済む」
さらに裕司が補足する。
「うん、それに木に登っている特務機関の人達、ここから離れて行く人をねらっているみたいだしね」
指差され、特務機関が木から狙っているのが和人達の目に映る。
これでもまだこれらの行動の意味を掴めていない日向が疑問を漏らす。
「あいつらなんでそんなことしてるんだ?」
「そりゃ勿論。俺たちをここから動かさず、注意を他に向けさせないためだ」
一拍おいて和人は鋭い目つきで語った。
「あいつらの本命はここじゃない別のとこにあるはずだ」
と言い切った直後に無線から手塚の焦りの混じった声が響いた。
「手塚一士より堂上ニ正、館内職員の警告を入れ持ち場を変更! 館長室へ向かいます!」
ビンゴだ!とばかりに和人の口角が上がる。
「桐ヶ谷!手塚と笠原の援護に向かう、着いてこい!」
「了解です!」
無線の連絡を聞いた堂上が声を荒げて呼ぶ。
「行ってくる!」
「ああ、ここは任せとけ!」
「和人、無茶したらダメだよ」
日向と裕司のエールを背に和人は良化隊員の銃撃が止んだ隙をつき堂上と小牧と合流した。
そこからスムーズに館長室近くの階段まで辿り着くと良化隊員が交戦していた。
下から小牧が撃ち牽制する。和人もそれに加わり、良化隊員と撃ち合いになる。
通路を挟んだ反対側にいる堂上が無線に向かい叫んだ。
「手塚、笠原! そこにいるのか!」
普段は厳しい上官だが、独断で持ち場を替えた部下へのフォローは抜かりがない。
「逃げた奴を追え、図書を持ち去るつもりだ!」
言い終わると同時に手塚と郁が駆け出したのが感じられた。
いつもは突付き合っている二人だが図書を守りたいという気持ちは同じなのだろう。
少しして再び手塚から無線が入り、急いで裏庭へと駆け出す。
「桐ヶ谷!特殊棒は持ってるな!」
堂上からの突拍子の無い発言に反応が遅れるも左腰に付けてある特殊棒に触れると勢いよく返事をする。
「あります!」
「裏庭だと銃より殴った方が早い、手加減するなよ!」
今の一言で前の試合で本気を出しきっていなかったことを見抜かれていたことに気付く。
「はい!」
両手に持っていた機関銃を投げ捨て右手に特殊棒を左手に拳銃を持ち直す。
館内から裏庭が見えてくると郁が屋上から降下している最中であった。
手塚が上から援護射撃をしているようだが残弾は多く無いはずだ。
案の定、郁が地上に着き図書の入ってあるだろう背囊を掴み木の陰に身を隠すと、手塚の銃撃も止んだ。
「急ぐぞ!」
切迫極まる声音で堂上が言った。直後その堂上が目を見開いた。
郁が援護も無い中駆け出すつもりか背囊を背負い腰を上げた。
「アホか貴様! そこにいろ!」
聞き慣れた怒鳴り声を聞き、郁の体が一瞬ビクッとなり、動きを止めた。
和人は裏庭に着くと展開し、銃で牽制しながら一番に良化隊員の懐に飛び込んだ。
「桐ヶ谷無茶はするなよ!」
「了解です」
持ち前の機敏さをフルに発揮して撹乱する。
木の陰を巧みに使い、堂上と小牧の援護射撃を得て良化隊員の銃を払い無力化していく。
防衛員側の人数が少ないからか、良化隊員も必死に抵抗をする。
三人無力化したとこで良化隊員の一人が郁に目掛けて走り出しているのが視界の端で捉えられた。
「笠原!後ろだ!」
堂上の叫ぶ声が聞こえるも郁は身を屈めていた為動き出しが僅かに遅れた。
和人は走りながら右手の特殊棒を大きく肩の上に引き絞る。同時に左手を前にかざす。
捕まえることは出来ないと悟った良化隊員が銃を構え郁に照準をむかわせる。
「おおぉぉおお!」
銃を向けられ目を塞ぐ郁の前で、和人は絶叫しながら鋭い突きを良化隊員の銃を持つ手にヒットさせた。
間一髪で銃弾は郁から逸れ、良化隊員は銃を手放した。
和人がその良化隊員を手錠で無力化したとこで図書隊の増援が来て、迎撃が始まった。
元々堂上達が数人無力化していたお陰か激しい銃撃は短時間で終息し、良化特務機関は目標達成を放棄し撤退した。
読んで頂きありがとうございます。
しばらく忙しかった為に投稿がだいぶ遅くなってしまいすいませんでした。
次はなるべく早く出来るよう頑張ります。
では、また次回。