「いらっしゃいませー」
扉を潜ると電子音と共に従業員の挨拶が出迎えた。
時刻はもうすぐで夜の十時を回るといったところである。
良化特務機関襲撃の事後処理を終え、夕食を取ろうにもこの時間では食堂は閉まっているのでコンビニにご飯を調達しに来た和人達である。
「日向はどうする?」
ペペロンチーノとお茶を持ちながら和人は近くにいた日向を見る。
「俺は……こいつでいいか」
インスタント焼きそばを手に持って、和人とレジに向かう日向。大山と祐司は先にレジを済ませていたようだ。
二人が選んだのは弁当とインスタント味噌汁だ。
四人が寮に着く頃には夜の十時を過ぎていた。
「たくっ、戦闘後の飯がこれってなんだよ!」
「給湯室に行ってくるからぼくの分の味噌汁開けといてー」
ボヤく日向を尻目に電気ポットを持って大山が部屋を出ていく。祐司が自分の分と一緒に大山のインスタント味噌汁を開けると携帯が鳴った。和人の携帯だ、着信は堂上からである。
「もしもし桐ヶ谷です」
『桐ヶ谷寮には戻ったか?』
「ええ、今帰ったところです」
『なら丁度いい、テレビをつけろ。どこでもいいから民放のニュース観とけ』
唐突な命令に首を傾げつつ、目線で祐司にテレビを点けるよう合図する。
「民放ですか?」
『野次馬性の高い局がいいからな』
と、言い残し電話を切った。相変わらず愛想が無いというか素っ気ないというか。それが堂上教官らしいといえばらしい。
局を切り替えていると報道番組で同じ事件を扱っている。
連続通り魔殺人事件の容疑者逮捕。
容疑者は杉並区在住の高校生。
垣間見える少年の異常性。
「これだね」
リモコンから手を離し弁当の蓋を開ける祐司が呟く。
春先から話題になっていた事件だ。主に若い女性を狙った連続通り魔事件で、手口が猟奇的なことから犯人の異常性が取り沙汰されていたが、春先の隊員は錬成教育でボロボロにされていたので各局がプロファイリング合戦を行なっていた頃の話はよく知らない。
「戻ったよー」
大山が戻ってくるなり電気ポットのコンセントを差し込んで保温設定にする。
「テレビを点けてるなんて珍しいね?」
「堂上教官から電話があってな」
「多分これを観とけってことだと思うよ」
和人が電子レンジで温められたペペロンチーノを食べて指を差す。
テレビでは丁度、容疑者の部屋の中が映され本棚に見覚えのあるタイトルがあった。
高校生向けの『望ましくない図書』だ。しかしこれについて知っているのはこの中では和人だけで和人もこれについては他言無用を言い渡されているため特に反応を示さない。
「もしかしてこれと今日の検閲が関係あったりするのかな?」
「ゴホッゴホッ……」
祐司の的確な指摘に思わず咽せる和人。祐司は問い詰めることもなく和人にお茶を渡すもその反応を見て日向がじーっと見つめる。
「桐ヶ谷、何か隠してることあるだろ?」
「いや、そんなのないけどなー」
作り笑顔でペペロンチーノを食べる和人。そこに大山も加わった。
「何々?何かあるの?」
「…………」
この状況を切り抜けるべく和人は違う話題を考えた。
「そ、そういえば今日、笠原が手塚に告白されてたぞ…………あっ」
と、言ってから話題を間違えたことに気づく和人。
「えーー!?どういうことそれ!?」
「マジかよ!?何があったらそーなるんだ?」
ごめん笠原。多分明日にはほとんど広まっているだろう。
「手塚君って笠原さんのこと嫌いじゃなかったっけ?」
祐司の見解は当たっている。和人自身、あの二人の関係が少しでも良好になるよう考えてはいたのだから。しかし、それが急に付き合う付き合わないといった関係になるとは思いもしなかった。
「それでそれで、笠原さんはなんて返事をしたの?」
大山が異様な食いつきを見せる。大山は本人にそう言ったことがないからか身近な色恋に妙に関心が高い。
「しばらく考えさせてって……言ってたと思う」
「うはー、どうするのかな?付き合っちゃうのかな?」
「そんなの俺が分かるわけないだろ?」
大山の反応は理解できる。和人自身、郁と手塚が付き合うとどんなカップルになるのか興味があった。しかし、そのお陰で隊内の雰囲気が悪くなったりするのは嫌だなと思考の片隅で考えていた。
翌日、和人は書庫で作業をしているとつい二人を目で追っていた。
「……あいつは乙女か!」
和人は心から突っ込んだ。郁が見るからに手塚の事を意識しているのが見て取れる。
朝礼で見る限り、手塚は特に顔色に変化などなかったが郁はかなりぎこちなかった。顔を合わせにくいのか視線も泳ぎまくり、同室の柴崎には伝えていたのかニヤニヤと郁を窺っている。更には、最近は減っていた業務でのミスと今日は多い。
「しまったぁ……」
またミスをしたのか郁の指が止まっていた。キョロキョロと顔を振り、和人と目が合うとホッと安心した様な顔付きになった。席を立ち和人の近くに寄ってくる
「ごめん。桐ヶ谷端末見てもらいたんだけど」
「わかったけどどうした?」
和人は蔵書を配下していた手を止め郁の使っていた端末までついて行く。和人の中では郁がミスをしたことは分かってはいるが一応どうしたのかと問うた。
「これ、間違って他館にリクエストかけちゃって」
「ああ、これなら……これをこうして」
和人は分かりやすく郁に説明していく。郁もキチンと頷きメモを取っている様子に、集中出来てはいないみたいだけど真面目には頑張ってるんだな、と和人は思った。
「と、こんな感じかな」
「ありがと、助かった」
それは端末の説明についてか、それとも手塚に顔を合わせなくて良かったことか。和人には知る由もなかった。
「じゃあ俺、作業に戻るから」
「うん」
席を立つと周りから視線を感じた和人は顔を動かさず視線だけを動かす。視界の端に堂上がおり、反対側には手塚が郁に向かって歩いているのが見えた。少し離れ書庫を盾にチラッと郁と手塚の様子を伺う。
手塚が何やら語り掛けている様だ、対する郁は体が石の様に固まっている。
「笠原ファイト!」
小さく拳を作り郁にエールを送る。勿論これは郁が苦悩しているのを知っているからであって付き合えという意味合いのエールではない。少しして手塚が郁の元から立ち去った。取り残された郁はキーボードの上に項垂れている。
「はぁ、あの二人一体どうなるのかねぇ」
再び作業に戻り、和人は呟いた。
読んで頂きありがとうございます。
感想をいただくと嬉しくて筆も進みますね。笑
少しでも早くあげられるよう頑張っていきます。
ではまた次回。