司波達也 vs 十文字克人 (1,2年生 vs 3年生) 作:夏ノ雪
2094年。9月上旬。
第一高校、生徒会室。
そこには学園の三巨頭と呼ばれる、3人の3年生が集まっていた。
生徒会長の七草真由美。
彼女は日本の魔法社会の頂点に位置する家系、十師族、「万能」の七草家の長女であり、第一高校の生徒会長。
小柄ながら長くふわふわと伸びた黒髪が背中で煌めき、小悪魔的美少女オーラを放っている。射撃系魔法が得意であり、「エルフィン・スナイパー」「妖精姫」と呼ばれている。
風紀委員長の渡辺摩利。
十氏族、二十八家に続く、百家支流の渡辺家の娘。
スレンダーな身体、ストレートのショートボブの黒髪、凛々しい顔立ちに切れ長の目をした美形で、圧倒的な女子人気を誇る、男装の麗人を思わせる美少女。
サバサバした性格で男気があり、風紀員の後輩には姉貴と呼ばれることもある。
「剣の魔法師」という二つ名を持つ千葉家の門下生であるが、剣術だけでなく、魔法や銃火器、化学兵器と幅広い戦闘技術を有している。そのため、集団戦、個人戦を問わない、対人戦闘のエキスパートである。
部活連会頭の十文字克人。
七草と同じ十師族であり、「鉄壁」の十文字家次期当主。
長身、分厚い胸板と広い肩幅、制服越しでも分かるくっきりと隆起した筋肉の付いた体をしており、巌のような人である。
三人は椅子に座りながら、先月優勝した九校戦のトロフィーを眺めている。
「これで、私達の代も終わりね。よかったわ、色々あったけど、何とか優勝できて」
「真由美。何黄昏てるんだ。まだだろ、今は2学期の始めだ。卒業までは「まだ」半年もある」
「でも、生徒会長としての仕事は今月末までだから、実質終わりみたいなものよ。ねぇ、十文字君」
「まぁ、七草のいう事が間違っているとは思わない」
「ほら、摩利」
「ふふん」っと鼻で笑う真由美に対して、「むっ」とした表情を向ける摩利。
彼女の表情には、負けず嫌いの性格が出ているのかもしれない。
「だが、渡辺のいう事も尤もだ」
「もう、どっちの味方なのよ、十文字君は」
「俺はどちらでもない。それより、恒例の「アレ」についてだ」
克人は顔を上げ、生徒会室の画面に表示されているスクリーンを見る。
そこには、ピックアップされた何人かの生徒が映っており、「生徒会」「風紀委員」「部活連」と区分けされている。
「来季の風紀委員は問題ない。千代田の説得も完了している」
「部活連もだ。服部は了承済だ」
「で、真由美はどうなんだ?」っと、からかうように摩利。
克人は変わらず腕組みをしたままだ。
第一高校では、10月になると多くの部活や組織で3年生が引退し、後輩に引き継がれる。生徒会、風紀委員、部活連という主要三団体もそれは同じだ。
「も~う。十文字君が生徒会から服部君を横取りするから。部活連なら、沢木君でも良かったじゃない。部活でも活躍してるし、実力的には2年生は沢木君と服部君のツートップなんだから」
「七草、部活連会頭に求められるのは、息の荒い部活組織を纏める能力だ。そこでは幅広い交友関係と交渉能力、何より胆力が必要になる。その資質が一番高い者を選んだまでだ」
「そうだ真由美。十文字は悪くないぞ。達也君ばっかりに構ってるから、はんぞーに逃げられた真由美が悪い」
「もう、ちゃかさないでよ」
「もう~」っと口走る真由美を茶化す摩利。
その見慣れた光景に克人はピクリとも反応せず、まるで年長者の様に温かく見守る。
「それで七草。実の所、どうするんだ?生徒会長には、生徒会経験者から選ぶのが通例だが、2年には中条しかいない」
「う~ん、あーちゃんには頼んではいるんだけど・・・」
「思わしくないようだな」
「まぁ、なるようになるさ」
「そうだ、七草」
「も~う、二人共人事だと思って、なんで私だけこんな目に」
真由美は、頭を抱えて落ち込んでいた。
その頭の中では、あーちゅんがだめだったら、深雪さん、それか達也君しか・・・と考えが回っていた。
「それより、今日の本題だ。魔法科高校の先輩として、俺達が受け継いできたものを後輩に伝えなければならない。それは単に役職だけでなく、魔法師としての心構え、能力と技能。これらが一体となったもの、先輩たちから受け継いだもの、伝統を次の世代に伝える」
「そうね」
「だな」
克人は二人を見つめると、
「俺の方はリストアップ済だ」
デバイスを操作し、スクリーンに数名の顔写真が表示される。
そこに映るのは、数名の男子生徒。
「ほ~う、十文字は1年生も選んでいるのか、それに2科生か」
「本当だ、達也君はともかく、他の子まで・・・」
「まぁあな、この機会でもなければ戦う事はないだろう。それに、司波以外にも有望な者はいる。なるべく多くの者を選出した。今後の魔法師育成のために」
「さっすが十文字、生徒会長の後任すら決められない真由美とは違うな」
「むむ、それなら、摩利はどうなのよ~」
「私か、私はこれだ」
摩利がデバイスを操作すると、複数の女子生徒の顔写真が表示される。
「ほ~う。渡辺も1年生を選んでいるのか。意外だな」
感心する十文字とは別に、真由美は訝しげな表情をする。
画面には、1年生の千葉エリカの名前。
千葉さんと摩利の仲が良くない事を真由美は知っていた。
それが、摩利が千葉さんのお兄さんと付き合っているからだという事も。
「摩利、いいの?」
「なんだ真由美。心配するな。エリカは私にとっては妹みたいな奴だ。この辺りで一度勝負しておかないとな。彼女のためにも、私のためにも。エリカはちょっと歪んでるからな」
「そうだね」
「で、真由美は誰を選んだんだ?まだ選んでないってわけでもないだろ」
「私?私はねー」
真由美がデバイスを操作すると、一人の少女の顔写真が表示される。
何度見ても息を奪われる絶世の美少女。
その名は司波深雪。
「お、おい、真由美。本当に彼女と勝負するのか」
「勿論。あーちゃんは戦闘向きじゃないから」
なんてことのないように頷く真由美。
摩利は驚き、克人は顔を真由美に向ける。
「七草、分かってると思うが、十師族は魔法社会の頂点に位置する。それ以外の者への負けは許されない。敗北は十師族の信頼を揺らぐものになる」
「そうだ真由美。唯でさえ、九校戦で一条が達也に負けているのに」
「分かってるわよ。でも、それをいうなら十文字君の相手の方が私より大変だと思うわ。なんたって、相手が達也君なんだから」
「ふっ、まぁ、そうだな。お互い苦労するかもしれないな。だが、それが十師族の務めだ」
「そうよ。そうこなくっちゃ」
真由美と克也を見比べる摩利。
今程、十師族でなくてよかったと思ったことはないと、心の中で思う彼女であった。
「それじゃ、十文字君、摩利。後輩をしっかり可愛がってあげるわよ」
「そうだな」
「あぁ」
こうして、国立魔法大学付属第一高校、通称、第一高校における、先輩と後輩の引継ぎと言う名の、戦闘が始まるのであった。