放課後、運動部の声とセミの音が開いた窓から聞こえる。
教室に残るのは私と彼の二人。彼が課題を進め、私がひとつ前の机で椅子を返して本を読む。
読み進めるのは「ライ麦畑でつかまえて」サリンジャー氏の作品だ。幼稚な主人公が思考を巡らせていて面白い。
果てのない問に思考を巡らせる彼のようだ。
彼は彼で課題のレポートをまとめる。筆が進まないのか机をシャープペンの頭でかつかつと叩くのがかわいい。
本の端から様子を見ると真剣な目をしていて見惚れてしまいそうになる。
目を離すのが遅れると目があってしまいそうになるから、いそいそと目をそらす。
しばらくすると彼がペンをおいてこっちを見つめてきた。ドキドキする。
悟られないように、なに?と返す。
「※※※は何書いたんだっけ?」またその問か…
私は、「ナイショ、※※※さんが書き終わったら教えたげるよ。」意地悪そう返す。いつもの仕返しだ。
「そっかそっか、教えてくれたらご褒美にしようかとも思ったんだけど」むかつく。本気でご褒美はほしいが、彼のためにならないので飲み込む。
「馬鹿なこと言ってないで早く書きなさい。読み終わっちゃうよ?」読み終わるわけがない。
本を見てる時間より、彼を見てる時間のほうが長いから。
本を置いて、じっと彼を見つめる。かっこいい。今すぐにでも抱きつきたい。
彼が照れくさそうになに?と聞く。
何でもないよ。そう答えて再び本を手に取る。
こっちを見る、彼の視線がくすぐったい。
照れ隠しに、彼の足を蹴り飛ばす。彼が顔をしかめて前屈みに倒れこむ。その仕草が可愛らしくて笑いそうになるのを我慢する。
彼は体を起こすと私の頬を掴んで引っ張ってきた。仕返しに蹴らないのが彼の優しいところだ。
彼に触れてもらえる頬が熱く、熱を持つのがわかる。早く、彼と触れ合いたい。
彼と手をつないで帰り、私のベッドに二人で倒れこみたい。
彼を全身で感じたい。
頬をつねられてスイッチが入ったように全身が熱くなる。
頬に触れる彼の手に擦り寄る。彼の手の温度が心地よく、そのまま抱きついてしまいそうになる。
「ばーか。」照れ隠しのように、自身の熱をはらうように、彼に告げる。
彼は素っ頓狂な声を上げ、「なんで!?」と問う。
「いいから早く終わらせてよ、それで早く帰って、私の家行こう?今日はそういう気分。」
そう伝えて、彼の手にシャープペンを握らせる。
私は、身体の疼きにこらえながら、本を手に取る。
本の情報など頭に入らず、ただ、彼との情緒を思いながら彼の課題が終わるのを待つ。
同じ学校なら、こんなこともできたのかな?